諦めの悪い人たち 5
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(退屈ですわ……)
クラリアーナは二階の窓辺に座ってぼんやりと空を眺めていた。
エルシーが王宮から出て行ってもうじき一週間。ほかの妃候補たちも次々に里帰りに出かけて、王宮には今、クラリアーナと彼女の侍女のリリナとサリカしかいない。
妃候補がいない以上、クラリアーナはすることがない。
そして、エルシーとイレイズの二人がいないから、侍女以外に話し相手もいないのだ。
(イレイズ様は戻って来るでしょうけど、エルシー様は……。もう! みすみすエルシー様を帰してしまうなんて、フランシス様はなんて唐変木なのかしら!)
クラリアーナはエルシーの事情を知っている。彼女が里帰りのあとには戻ってこないことも。
エルシーの双子の妹であるセアラがどういう女性なのかは知らないが、エルシーのように仲良くできる自信がない。
(何とかならないものかしら。フランシス様だってエルシー様が大好きなくせに、女嫌いは女の扱いがわかっていなくてダメダメですわ)
世の中の何よりも礼拝堂とグランダシル神を愛しているようなエルシーでも、女なのだ。雰囲気たっぷりに口説けば多少なりとも心は揺れるものである。それなのにあの朴念仁と来たら、まったくなってない。
(ワルシャールのお城で一緒の部屋で寝ておきながら、まったくなにもないなんてどういうことですの? エルシー様はともかくフランシス様はもっと頑張りなさいよ!)
このままエルシーが戻ってこないという不安と苛立ちは、自然と怒りに変わってフランシスへと矛先を向ける。
(こうなったらセアラ・ケイフォードのあら捜しをして……って、エルシー様はセアラ様のふりをしているから無意味ですわ。だったら……)
父親の方のヘクターを今回のエルシーとセアラの交換の件で揺すったらどうだろうか。……いや、それをするとエルシーにも迷惑がかかる。
(ままならないわ。なんとかできないものかしら……)
せっかく仲良くなったお友達と会えなくなるのは何としても避けたいところだ。
クラリアーナはフランシスとは「はとこ」の関係で、公爵令嬢。この身分と立場が邪魔をして、心を開ける友人はいなかった。王宮に来てからもフランシスのために嫌われ役を演じていたから、当然友達なんてできるはずがないと覚悟していたのだが、エルシーがいた。そして、エルシーのおかげでイレイズとも友達になれた。あの二人は絶対に手放したくない。
「ねえリリナ、サリカ。ケイフォード伯爵領のあたりで何か面白い話題はないかしら」
些細でもいい。何かとっかかりがあれば、エルシーを再び王宮に戻す方法が思いつくかもしれない。
リリナとサリカは少し考えて、それから思い出したように言った。
「そう言えば、陛下がゴルドア牢獄へ向かわれたとジョハナ様から聞きましたわ。何でも、囚人が逃げ出したとか」
クラリアーナは勢いよく立ち上がった。
「それだわ!」
フランシスめ、どうしてそんな面白そうな話題を秘密にしておいたのだ。
「至急、ジョハナにフランシス様を追ってゴルドア牢獄へ行くと伝えて頂戴!」
本来妃候補は自由に外へ出られないものだが、今ここには誰もいない。フランシスの協力者であるクラリアーナがフランシスを追って何が悪い。
(わたくし、ほしいものは何が何でも手に入れないと気がすまないタイプですの!)
ゴルドア牢獄はケイフォード伯爵領の隣のウェントール公爵領内にある。
エルシーを連れ戻す計画はまだ何も浮かばないが、近くまで行けば何か思いつくかもしれない。
「リリナ、サリカ! 急いで支度しますわよ!」
クラリアーナは鼻歌交じりに、旅行鞄を取り出した。





