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身代わりの妃候補 5

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「お妃様、悔しくないんですか?」


 ジョハナが去ったのち、二階のエルシーの部屋で、用意されているドレスなどを確認しつつダーナが言った。憤懣やるかたなし、と言わんばかりの機嫌の悪さである。

 ドロレスも、服と一緒に用意されていたいくつかの布地と裁縫道具一式を確かめて、「自分で服を作れなんて……」と茫然としている。

 しかし、親切にも部屋の中にはトルソーまで用意してくれているから、服を作れる環境は整っている。ドレスなんて難しいものは作れないだろうが、簡単なワンピースくらいなら問題ないだろう。服造りや繕い物なら、シスターと一緒にやっていた日課の一つだ。


「自慢じゃありませんが、わたくし、針仕事はどうも苦手で……」


 ドロレスが心の底から嫌そうな顔でそう言った。


「大丈夫、わたくし、そういうの得意だから! 二人の分もわたくしが作るわよ?」


 自信満々に言えば、二人そろって「ああ……」と頭を抱えられる。


「お妃様、これは充分怒っていい状況ですよ?」

「そう? でも、用意されている布はどれもすっごく高いやつだと思うんだけど……」

「そう言う問題ではありません」


 ダーナがぴしゃりと言ったけれど、結局どれだけ文句を言っても状況が覆らないとわかっているのか、何度目かのため息を吐いたまま沈黙してしまう。

 二人そろってむっつりした表情で布地を睨んだまま動かないから、エルシーはこの部屋のことは二人に任せて、ほかを確認しに行くことにした。


 一階はダイニングとキッチンと風呂場がある。

 二階にはエルシーの部屋とダーナたちの部屋。

 裏と表にはそれぞれ小さな庭があって、腰ほどの高さの柵でぐるりと囲まれているから、柵の内側がエルシーが自由にしていい範囲なのだろう。井戸は裏庭にあった。


 一階の玄関の横には物置があって、掃除道具が詰まっている。

 庭には何も植えられていない。エルシーは一度部屋に戻って、持ってきたトランクを開けた。川辺タンポポとヨモギを採取する際に、タンポポの種も取って来ていたのだ。

 庭にはタンポポが生えていなかったから、この種を使って栽培しよう。ばらまいて水をやっておけば勝手に生えてくるだろう。


(便秘症ってほどじゃないんだけど、たまになるとひどいからタンポポ茶は常備しておかないとね)


 まだ川辺で回収したものが残っているけれど、大量にあるわけではない。

 庭の裏手にばらばらとタンポポの種をばらまいて、エルシーは今度はキッチンへ向かった。

 今日の分の食材はすでにキッチンに置かれているが、三人分だとは思えないほどたくさんある。


(なんだ、とっても親切じゃないの)


 ダーナたちは悲観しているが、生活するのに困らないだけのものが用意されているのだ。どこに悲観するところがあるだろう。

 食事を作って、洗濯をして、掃除をして、裁縫をする。修道院での生活と何ら変わらない。いや、食材も布も掃除道具も何もかも用意されているだけ、こちらの暮らしの方が何倍も楽だ。

 お妃候補なんてとんでもないものの身代わりにさせられたと思ったけれど、これならば楽しく暮らしていけそうである。

 エルシーは食材の中で発見したカボチャを抱えて、二階に駆け上がった。


「ねえ、ダーナ、ドロレス、夕食はカボチャのポタージュなんてどうかしら?」


 まだ布を見つめて沈痛な面持ちをしていた二人は能天気なエルシーの声に顔をあげ、揃って大きなため息を吐きだした。


「……前から思っていましたけれど、お妃様、本当に変わっていらっしゃいますわね」


 エルシーは、きょとんと首を傾げた。




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