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消えた兜 6

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「巻き込んですまないな、エルシー」


 夜になって、エルシーの部屋にやってきたフランシスがそう言った。

 巻き込んだと彼は言うが、巻き込まれたというほどエルシーはこの作戦で役には立っていない。


 スチュワートの言う通り、国王であるフランシスをおとりに使うわけにはいかないから、フランシスは今夜、エルシーの部屋で休むことになっている。

 と言っても、ここのところ当たり前のようにフランシスは夜にはエルシーの部屋にやって来ていたから、エルシーにとってはいつも通りだ。


 フランシスの部屋には、忍び込んできたベリンダを捕えるため、フランシスに扮したコンラッドがいることになっている。クライブもフランシスの部屋に身を潜めて待機しているはずだ。それに対してベリンダは女性。だから心配するほど危険はないはずだとわかっているのだが、どうしても不安がぬぐえない。


 ダーナとドロレスには事情を伏せているけれど、フランシスが最近夜になると部屋に訪ねてきていたから彼女たちはすっかり慣れっこで、気を利かせているのか、早々に続き部屋に引っ込んだ。

 いつも通りベッドをクッションで区切ると、エルシーはソファでハーブティーを飲んでいたフランシスを振り返った。


「どうしますか? 起きていますか?」

「いや、明かりがついていたら警戒されるだろう。俺たちも休もう」


 フランシスはそう言って、ハーブティーを飲み干すと立ち上がった。

 当り前のようにエルシーの隣にもぐりこみ、腕を伸ばしてベッドサイドの灯りと落とす。


「おやすみ、エルシー」

「おやすみなさい、陛下」


 フランシスに挨拶をしてエルシーは瞼を閉じたけれど、緊張からか、不安からか、全然眠れそうになかった。


(クラリアーナ様は、陛下の部屋に侵入したのはベリンダ様だって言っていたけど、でも、やっぱりわからないことだらけだわ)


 フランシスの部屋にベリンダが侵入したのが本当だったとして、どうして彼女は失踪したように見せかける必要があったのだろうか。

 ほかの妃候補たちのように、フランシスの気を引きたいためにした行動ならば、失踪したように見せかける必要はどこにもなかったのである。


 そこまで考えて、エルシーの心がざわりと波打った。

 つまり、ベリンダには、失踪したように見せかけないといけない何らかの理由があったということだ。


(どうしてかしら、なんだか嫌な予感がするわ)


 クラリアーナのように、エルシーは勘が冴えている方ではない。だからエルシーの勘なんて何の役にも立たないだろうが、なんだかもやもやするのだ。


 エルシーはごろんと寝返りを打って、フランシスの方を向いた。

 クッションの区切りの隙間からフランシスの顔を窺えば、彼は仰向けで両目を閉じている。

 もう寝てしまったのだろうか。


(陛下はここにいるから……たとえベリンダ様が陛下の部屋に押しかけても、危険はないはずだけど……)


 不安に駆られたエルシーは、そーっとベッドを抜け出した。

 カーテンの隙間から漏れ入る月明かりを頼りに部屋の中を歩いて行くと、暖炉の側に立てかけられている火かき棒を持って戻ってくる。

 火かき棒をベッドの縁に立てかけて、エルシーは再びベッドにもぐりこんだ。


(これで、もし何かあっても大丈夫ね)


 エルシーは満足して、今度こそ目を閉じると、幸せな眠りについたのだった。


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