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戦女神の呪い 2

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 フランシスが帰ったあと、エルシーは暇つぶしに庭に降りることにした。

 ここでは掃除も洗濯も料理も裁縫もすることがないので、何かしていないと落ち着かない性分のエルシーには、暇でしょうがないのである。

 ためしに自分のものは自分で洗濯をするとララに申し出てみたところ、お妃様候補にそのようなことはさせられないと青い顔をされたのだ。


 朝のひんやりした空気が嘘のように、午後の庭はぽかぽかと温かい。

 整然と整えられた庭を進んで行くと、一人の老人が薔薇を切っていた。近づいて行くと、彼は顔をあげて、この城の庭師のポムだと名乗った。咲ききった薔薇を切り取っているらしい。咲ききった花をいつまでも残していると、薔薇の木のためにはならないらしい。


「素敵なお庭ですね。すごくたくさんの種類の植物が植えられています」

「スチュワート様のご趣味でしてね。あの方は植物が好きで、ほら、あそこのハーブ園はあの方が自分で管理なさっとるくらいなんですよ。ほかにも薬草園なんかがありましてね」

「まあ、薬草園も?」


 それはぜひとも見てみたい。エルシーが瞳を輝かせると、ポムはしわくちゃの手で庭の奥の当たりを指さした。


「ほら……ちょうど、あの背の高い騎士様がいらっしゃるあたりですよ」


 エルシーが首を巡らせると、肩をいくらかすぎたくらいの灰色の髪の背の高い男性の姿がある。よく見ると彼は一人ではなく、黒髪の女性と一緒だった。


(あれは……コンラッド騎士団長様とイレイズ様だわ)


 不思議な取り合わせだったが、二人は何やら楽しそうに談笑している。薬草見たさに会話の邪魔をすべきではないだろう。


「どんな薬草が植えてあるんですか?」

「いろいろですよ。ただ、薬草は薬にも毒にもなるものが多いですからな、無闇に触らんことをおすすめします」

「毒にも、ですか?」

「ええ、例えば有名なもので言えばトリカブトでしょうかね。小さいうちはヨモギとよく似ておるんで、毎年のように自生しているトリカブトをヨモギと間違えて食べるもんが出たりしてねえ。お妃様は山菜取りなどせんでしょうが、わからんものには触らん方がええですよ」

「……そ、そうですね」


 危なかった。ヨモギと似ているのなら、エルシーも間違えて取りかねなかった。今度からヨモギを採取するときはしっかり確認して行うようにしよう。


「最近騎士の方々が、タンポポを取るとか言って裏手の山へ向かったりなさってますがね、タンポポを取るのはええですけど、裏の山にはいろいろな毒草が生えておりますから、注意してくださいねとお伝えしておるところなんです」


 なんと、騎士はタンポポの根を採取するために裏山にまで足を運んでくれているらしい。どおりでエルシーのもとに届けられるタンポポの根が多いはずだ。この庭にはそれほど生えていなかったので気になっていたのだ。


「裏山には毒草が多いんですか?」

「ええ。昔の戦時中にね、裏山で毒草を育てていたそうなんですよ。その時の根やら種やらが残っているのか、今では少し歩けば毒草を見つけることができるくらいです。裏山の川のそばに山わさびが自生していてね、休みの日によく取りに行くんですけど、その周りにも毒草が蔓延っていて嫌になりますよ」

「山わさび……。もしかして、ワラビとかゼンマイとかウワバミソウとかフキなんかも生えていたりしますか?」

「フキはどうでしたかな……ワラビやゼンマイ、ウワバミソウなら見たことがありますけども」

(すてき!)


 どうしよう、行きたくなってきた。

 山菜取りは、毎年シスターたちと行っている通年行事で、エルシーの楽しみの一つでもある。王宮の周りにはもちろん山菜など自生していないから、帰るまで我慢しなくてはならないと思っていたけれど、目と鼻の先にあるのならばぜひ行きたい。

 毒草が自生していると聞いたばかりなのに、そんな危険などすっかり頭から抜け落ちて、エルシーはさっそく明日にでも山へ行けないかと考えた。


(勝手に行ったらダーナもドロレスも怒るわよね。陛下にも許可を取った方がいいはずだし)


 エルシーは善は急げと、フランシスに許可を取りに行くことに決めた。


「ポムさん、お仕事の邪魔をしてすみませんでした。よかったらまたいろいろ教えてくださいね」


 エルシーはポムに手を振って、意気揚々と城へ戻った。






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