2、ミラー家の朝食
ミサの帰り道、チェルシーは第二王子クラークの視線を感じた。
栗毛色の髪に淡いグレーの瞳をしたクラークの笑顔はまぶしかった。
「私としたことが、見とれてしまいましたわ」
チェルシーは一呟いて馬車に乗った。
馬車が走り始めた。
「チェルシーはクラーク様とお知り合いなのかい?」
「いいえ、お父様。初めてお会いしました」
チェルシーは無邪気そうな笑みを浮かべて首を振った。
「そうなのですか? 目が合っただけでお辞儀をして下さるなんて、紳士的な方ね」
「そうですわね、お母様」
母親の言葉に、チェルシーは頷く。
「偶然ではないですか?」
「お姉様は黙っていて下さいませ」
一家は、屋敷に戻った。
ミサから帰ってくると、ミラー家はそろって朝食をとった。
「今日のオムレツも美味しいですね」
「ええ、お姉様」
チェルシーは、フォークとナイフで器用にとろとろのオムレツを一口食べた。
「それにしても、今日は珍しくミサに行きたいだなんて何かあったのかい?」
「いいえ、お父様。一人で本を読んでいるばかりでは民の事が分からないと思いまして」
チェルシーは普段、ミサには行かない。
神など信じては居なかったし、神父様のありがたい言葉などにも興味がわかなかったからだ。しかし、いつまでも自分の世界に留まっていては、男爵家の次女として問題になると思い面倒な気持ちを押し切って、ミサに出かけたのだった。
「珍しいと言えば、今日はスミス王様とご子息がいらっしゃってましたわね」
姉のルイーズがそう言うと、チェルシーは顔が赤くなるのを感じた。
「そうですわね」
「チェルシーと同じお年だと伺っておりますわ。もしかして、ご友人になれるかもしれませんわね」
「お姉様、恐れ多いことを」
チェルシーは食事を終えると、自分の部屋に戻り、物思いにふけった。
「クラーク様、どんな方なのかしら」