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1、ミサでの出会い
いつも通り、朝のミサが終わった。
ミサの後、クラーク・スミスは町の人の訴えを、父の後ろで兄と聞いていた。
「ですので、隣の家がうるさくて参っているのです」
「そうか、分かった。兵に見回りをさせるとしよう」
父であるバリー・スミスは温厚で忍耐強かった。
クラークは父を尊敬していた。
「おや、珍しい。深窓の佳人と呼ばれるお嬢様が、ミサに出ていらっしゃったようだ」
「そうなのですか?」
クラークは父の目線の先を追った。
そこには、ミラー男爵の娘、チェルシー嬢が馬車に乗り込むところが見えた。
チェルシー嬢は、可憐で、背中まで伸びたサラサラの金髪が風に舞っていた。
おもわず、クラークは瞳を奪われた。
「あ、目が合いました」
クラークがチェルシーに黙礼をすると、チェルシーは微笑んでお辞儀をした。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「いいえ、父上。なんでもありません」
クラークはごまかすように俯いた。
(なんだろう、この胸のドキドキは? 風邪でも引いたのか?)
クラークは初めてのときめきに、これが恋のはじまりだとは思っても居なかった。