第1章 絶海孤島編 第3話 神力と魔力
部屋から出ると、
目の前に一部屋あるのか、
もう1枚、扉がある。
扉の先が気になったが、
アダインについていく。
階段を降りると、
もう日が落ち始めたのか少しくらい。
すると
アダインは手をかざす。
すると手の先より小石程度の火が
どこからともなく現れ、浮いている。
アダインがろうそくの方に手を向けると、
浮いている火の玉がゆっくりと、動き出し、
ろうそくに火を灯す。
それから幾つもの火の玉が現れ、
四方のろうそくに明かりを灯し始めた。
眼前にて夢のような光景を見ていたソウタは、
声を出すことを忘れ、ただ見ている。
そして小声で一言
「この光景は一生涯、忘れないかも」とつぶやく。
アダインはそんな声を気にせず、
先にあるキッチンを目指す。
そこには、大きな木のカゴが置いてある。
アダインがカゴのフタを開けると
白い煙の冷気が漏れ出る。
その中には、
食材が入っていた。
ソウタものぞき込むと、
卵10個にパンが1斤入っている。
なるほど、神力の冷蔵庫かなと思う。
「ソウタよ。おぬしが教本の課題をこなせば
食材が増えていくと聞いている。
ワシも同じ食材を食べていくことになるので、
明日より、ビシビシと鍛えるので、期待するのじゃ」と
にやり顔のアダイン。
「頑張りますが、期待しすぎないでくださいね。」
と引きった顔で答えるソウタであった。
「さて、食事の用意をしようかね。
ワシも手伝うので、卵を4個ほど持っておいで」
そういうと、アダインは石窯の横に置いてある
薪を広い、窯に並べていく。
そして先ほどより大きい火の玉で
薪に火をつける。
「ソウタ、ワシは目玉焼きで頼む」
ソウタは意外に料理がうまい。
女子にモテるかもと思い
料理男子を目指し練習していた時期がある。
上手く焼けた目玉焼きとスクランブルエッグを
皿に盛り、テーブルに並べる。
そしてコップを準備した時に気づく。
「あ、水がないです。どうしましょ」
するとアダインは、コップに手をかざし
水を生成し、コップに水を満たす。
「なんか、アダインさんの汁みたいですね。あはは」
乾いた笑いでごまかすが、本音である。
「ぜいたくいうでない。ほら食べるぞ」
食事は豪勢ではないが、
会話が弾む温かい食卓であった。
食事も終わり、会話もひと段落すると
ソウタは周りを見渡す。
扉が二つと地下への階段が見える。
一つは、トイレであり、先程使用した。
ぼっとん便所であるため、掃除は欠かせなさそうである。
もう一つは、トイレの横にあり、
ふと扉まで移動し開けてみた。
「あ、ここは脱衣場なのですね。
じゃ、この先は風呂場?」
奥にある引き戸を開けてみると、
なんと、屋根はついているが、屋外であり
五右衛門風呂が置かれていた。
ここまでファンタジーな世界なら
システムバスとか置いていて欲しかったと思うソウタであった。
「おお、風呂が完備されておる。
ティア様にお願いした買いがあったわい」
「え、どういうことですか?」
「いや、ワシは大の風呂好きでのう。
こたびの依頼に対して、一つ条件をつけたのだ。
それこそ、目の前にある風呂付の家にしてくれとな」
アダインは自慢げである。
凄いことを依頼して叶ったのだから、褒めろと
顔に書かれている。
そんな顔にイラっとしたのか
「いや、オレの生まれた地球では、
ボタンを押せば勝手に適温のお湯が出てきて、
湯舟にお湯が満たされたら、自動で止まる風呂場がありますよ」
と口撃する。
言った後に、言わなくていいことを言ったので
アダインが怒っているかなと顔を見てみると、
まるで少年のように目を輝かせている。
「そんな風呂があるのか~~~!
是非どんな仕組みで動いているか教えてくれ」
めちゃくちゃ食いついている。
システムバスの説明もほどほどにして
「そろそろ風呂は入りませんか。
アダインさん、お湯が出せますし」と話しを変える。
「おお、そうじゃな。てかソウタ。
ワシは師匠じゃ。師匠と呼べ。」と軽く叱られる。
そんなこんなで先にアダイン、後にソウタが
それぞれ風呂に入り、
やることもないので、早めにベッドに入るのであった。
翌朝、
ソウタは、突然の痛みで目が覚める。
すると、
「起きろ、ソウタ。何時まで寝ているのじゃ」
アダインの右手には杖が握られている。
目をこすりながら起きるソウタに
「ほれ、行くぞ。まずは早朝の走り込みじゃ」
そういうと、アダインはソウタをたたき起こして
玄関に向かう。
そして、玄関を開けると、
一切の障害物がない視界が広がる。
何処までも緑と花が咲き誇り、
その先には浜辺、そして海が見える。
まだ日も完全に明けきっていない。
草花の匂いが心地よい。
そんな朝の清々しさを壊すように
アダインが言う。
「この家と浜辺までの往復を100回じゃ。
それが終われば朝ごはんじゃ。ほれ行くぞ。」
そういうと、アダインは走り出す。
あっけにとられながらもソウタも走り出す。
アダインは見る見るうちに離れていく。
負けじと全力を出すソウタであったが、全く追い付けない。
「てか早すぎる、あの人、本当に人間か」
ソウタがそう思うのも仕方ない。
何しろ、ソウタは足が速い方で100m11秒台で走れる。
ティアより身体強化された影響で体感でもその時より圧倒的に早い。
そして浜辺までは100mの5倍ほどの距離がありそうである。
そんな距離にも関わらず、
ソウタが1/4くらい走った辺りですでに折り返し地点だ。
そうして早朝のラジオ体操のように
毎日の日課となっていく。
太陽が45度位に上り始めたころ、
「ソウタ、まだ終わらんのかい。
ワシは腹が減ったぞ。」
アダインは1時間もせずに100往復していた。
ソウタも身体強化のおかげもあり、
速度、持久力共に人間離れした走りを見せていたが、
流石に徐々に速度が落ちてきて、今では、バテバテである。
既に4時間ほど経過しただろうか、
やっと99週目に入ったところである。
今にも倒れそうになりながらも、とにかくゴールを目指す。
本来であれば、途中リタイアしてもおかしくない状況であるが、
精神強化のおかげでめげずに走り続けている。
フラフラとよろけながらも100回目の家にたどり着く。
崩れるように倒れたソウタは、
意識もうろうだ。
喉がカラカラであるが、声も出ない。
そうすると、アダインは、
コップを呼び寄せ、水を入れる。
「ほれ、よく頑張ったのう。
時間はかかったが、あきらめない努力は褒めてやる」
そう言うと、ソウタの体を起こしながら、
水を飲ませる。
やっと、意識がはっきりしてきた。
息は切れ切れであるが、座れるまでには回復した。
「師匠、み、水ありがとうございます。」
お礼を伝える。
「なぁに、かまわんよ。
それより腹が減った。飯を作ってくれい」
じじぃ、ぶっ飛ばす と心で悪態をつきながらも
重い腰を上げてキッチンに向かい朝食を作り始めるのであった。
冷蔵庫(仮)のフタを開けると
不思議な光景が見える。
昨日使った卵やらが、補充されていた。
それを見て不思議な顔をしていると、
「あぁ、それはな、自動補充機能がついとるんじゃ。
毎日0時に定められた品が定められた数、補充される。
非常に高度な神力であるから、ティア様がつけてくれたんじゃろうな」
なんて便利な冷蔵庫。
コンビニ不要じゃんなどと思い朝食作りを行うのであった。
そして朝食ならぬ、ブランチを食べていると
「ソウタ、飯を食い終わったら、
教本をあけるのじゃ、そして課題の確認を行う必要がる」
「あ。そうですね。まだ、1ページ目しか開けていません。
どんな課題があるのですかね?」
「わからんが、なぁんとなくじゃが、想像はできる。
まぁ、ソウタ早期育成計画じゃろうから、いきなり物凄い課題じゃろうて」
不敵な笑いでソウタをみる。
ブランチが終わり、ソウタの部屋に移動する。
そして、教本を手に取り、2ページ目を開く。
すると、真っ白な紙に文字が徐々に表れる。
【神素を生成すること】
【火・水・土・雷・風の生成を成功すること】
【家から森までの往復を15秒で達成すること】
※初回課題のため、何か一つの課題又は、生成を成功するごとに
食材一つを追加致します
3つの課題が現れた。
備考には鼻先ニンジンがぶら下げられているのがなぜか気に食わないが。
そして、課題をみたアダインは
少し考えを巡らせ、ソウタに伝えた。
「今後のスケジュールが決まったわい、ソウタ。」
「早朝のランニングを行い、朝食を食べる。
そして昼までは神素の生成。
午後からは、火神力などの生成練習でいくとしよう」
あ~、これが、俗にいうブラック家庭教師なのですね、
オレ、耐えれるかな。
とにかく、やると決めた以上は、とことんやりたい。
決意を新たにするソウタ。
「神素とは、体の内に秘めたる生命力の根源である。」
アダインは説明する。
今、二人は、家の外に出て
芝生に座っている。
「すべての人間には、神素がある。
ただ、その神素を認識することが非常に難しい。
いや、才能がなければ認識出来ないと言った方が正しいかもしれん。」
「この世界で神素を認識できる人間は100人に1人程度である。
そして、神素を捉えてもまだ、大きな問題がある」
「その問題とはなんなんでしょうか?」
「うむ。それは、神素は誰もが持っておるが、
量は人によって違うのじゃ。
勿論、多ければ多いほど、神力を使いこなせる。
逆に少なければ、ほとんど役にたたん。」
「そしてここからが最も重要じゃが、
戦いで神力を使えるほどに神素をもっておる人間は、
1,000人に1人くらいなのじゃ。だから、神力を使える人間は
重宝もされるが、人間の汚さも人一倍見てしまう」
そういうと、アダインは一息つく。
1,000人に1人はそんなに少ないのか、ふと考える。
東京が1,000万人だから、1万人しかいない。
成程、選ばれたエリート中のエリートだなと納得する。
「師匠、ここまでは理解できました。
ただ、戦いで神力を使える人間が少ないのがなぜ問題なのですか?」
ソウタは質問した。
「うむ。それこそが問題なのじゃ。
1,000人1人しか使えないということは、
その人間に慢心が生まれる。選民意識ともいうかの。
そして、その能力に群がるバカ共がいる。
そうして本人が気づかぬうちに心が汚れていくのじゃ」
「そうして心が汚れていき、ある一定を超えると、
神力ではなく、魔力に体内で変換するのじゃ。そして魔力を使うことを
魔法と呼ぶ」
神力と魔力、そして魔法。昨日、アダインが烈火のごとく怒った原因の言葉。
そういうことだったのか。神力と魔力は結局、
心の状態で変化する。だから、生成するものが同じで基になるものが違うのか。
でも、不思議に思うことがある。
「師匠、もう一つ質問いいでしょうか。
確かに悪い心で生み出すのはどうかと思いますが、
結局、魔力と神力は同じ効果を生み出すのですよね?
であれば、魔力でも問題ないような気がするのですが」
「ソウタ、本当にそう思うのか。
よく考えてみろ。悪意の感情や思いで生命力の根源を使い生成するのじゃ。
使用すればするほど、悪意にまみれ、行きつく先は魔物化である」
衝撃であった。
なぜなら、その話通りとすろと、
魔物は元人間の可能性が高い。
恐る恐る聞いてみる。
「つ、つまり、魔物は元人間なのでしょうか?」
するとアダインは、
「全てが元人間ではない。そもそも人間から魔物に変化するわけじゃから、
変化の過程で力が落ちる。じゃが、知恵はそのままであるので、
オリジナルの魔物達の参謀や意見役をやることが多いみたいじゃ。」
「まぁ、人間は心が弱い。正しきことよりも悪しきことの方が
物事が進みやすいこともままある。だが、一度、悪しき心を許してしまうと
際限なく、落ちていく。そして、本人は落ちていっていることに気づかぬのが
残念である」
そういうと、一息つきながら、
自らのコップに神力で生成した水を注ぎ、口を潤す。
「ソウタ、今、はなした事は決して忘れるでない。
でなければ、おぬしも気づかぬうちに落ちていき、気づいた時には手遅れじゃ。」
ソウタは体を震わせながらも真剣に頷く。
「さぁて、話ばかりで体が冷えてもうたわい。
そろそろ、神素生成の練習でも始めようかの」
そういうとアダインはソウタを優しい目で
見つめるのであった。