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3.Intermission

僕の日常にアオイが戻ってきた。


冷え切っていた家は温かみを取り戻し,モノクロだった世界は彩りを取り戻した。


今日は休日。僕はアオイとふたりで出かけることにした。


「どこ行きたい?」

「うーん。家具とか見てみたいかも」

「家具?」

「うん……。ほら,私たち,一緒に暮らし始めてそろそろ2年ちょっとじゃない?」

「そうだね」

「で,いま家にあるのは暮らし始めた頃のものが多いじゃない?あの頃はお金も全然なくて近くのド◯キとニト◯で一番安い家具をいっぱい揃えたよね」

「……そうだね」


いまいち,アオイの言いたいことがわからない。


「だから……うん,ちょっと『先のこと』を考えて,家具を色々と買い替えてもいい頃かなって。まぁあれだよ,ちょうどおたがいのボーナスも出てちょっと余裕もあるし!」

「……あ……」

「ね?」


アオイが悪戯っぽく微笑む。鈍い僕でもアオイの意図することはよくわかった。


「じゃあ家具を見に行こうか」

「私,北欧家具を揃えたい!」

「IK◯A?」

「北欧家具って言われてすぐIKE◯って言っちゃうの,ちょっとセンス微妙じゃない?」

「そうなの?」

「そうだよ。きっとそう」


アオイがいる日常。僕はもう決して,それを失くしたくない……。


……という会話をしていたのが1時間ほど前。僕らはいま,中央線に揺られて立川駅に向かっている。車内は割と空いていて,僕らはロングシートの端っこに座っている。


「……とかなんとか言って,結局◯KEAじゃないか」

「でも,私行ったことないんだ」

「あ,そういえば僕もないや。そもそも立川駅って初めてかも」

「確かサメが有名なんじゃなかったっけ?」

「サメ?北欧家具のお店でしょ?」

「北欧風のサメなんだよ,きっと」

「なにそれ」

「フィヨルドで泳げるんだよ,きっと」

「寒冷地仕様ってこと?」

「そゆこと♪」


アオイはしっかりしているようで,時々よくわからないことを言う。そうこうするうちに「うーん」とか言いながら頭を僕の肩に乗せて甘えてきた。僕は時折その頭を撫でてやる。以前の僕だったら,電車の中では恥ずかしくてそんなこと出来なかった。しかしいまは,隣にアオイがいるという奇跡を感じていたいのだ。


立川駅に着き,手をつなぎながらI◯EAに向かって歩く。頭上を多摩モノレールが通過していく。しばらくすると,目の前に巨大な箱みたいな形をしたそれが見えてきた。


「でっかいねー」とありきたりなことを言いながら,中に入る。日本じゃないみたいだ。ショッピングカートもなんだかデカイ。


オシャレな木製テーブルがあった。いま使っている2人掛けのテーブルはあれはあれでいいのだが,やや狭いので買い換えることにする。


お皿やカトラリーも色々なデザインのものがあり,見ていて飽きない。サメは大人気らしく,品切れでアオイは残念がっていた。


寝具のコーナーを見て回っているとアオイが「タクミー!ちょっとこれ見てよー」と声をかけてくる。見に行くと,これまたオシャレでシックなダブルベッドがある。いま僕らは2人でセミダブルベッドで寝ているのだが,たまに狭いと感じることもある。これも一緒に暮らし始めたときに予算をケチって買ったものだから,そろそろダブルベッドに買い替えてもいいと思っていたところだった。


僕らは並んでそのベッドに腰掛ける。適度なスプリングもいい感じだ。


「いいじゃんこれ。買っちゃおうか!」と言ったのだが,アオイは何も答えずに僕の目を見つめている。こころなしか顔が赤い。


「どうしたの?疲れた?」と聞くと,

「ううん。あのね……」と僕の耳元で囁く。すぅ,と息を吸い込み,


「『先のこと』も考えて,ちょっと大きいベッドにしたいねって」

「……まぁ,そりゃそうだね」


なんだかどんどん外堀を埋められている気がするけど,本望だった。実のところ,来月のアオイの誕生日にプロポーズする予定なのだ。


ベッドとテーブルの配送手続きを終わらせ,外に出るともう暗くなっていた。結局4時間くらいいたようだ。結構疲れた。そして明日は会社だ。


「あーあ,もう休みも終わりかー」

「でも今日買ったものが届くの楽しみだし,それを心待ちにして乗り切ろうよ!」と微笑むアオイ。


ネガティブなことを言ってしまいがちな僕と,それでもポジティブに返してくれるアオイ。僕はアオイに出会えて本当に良かった。


そしてまた手をつなぎながら立川駅に向い,中央線に乗り込む。車内は空いていた。僕たちは行きと同様,ロングシートの両端に並んで座った。


しばらくすると,アオイがもたれかかってきた。その顔に横目をやると,すうすうと小さい寝息を立てている。アオイもかなり疲れていたのだ。


「うーん……◯◇✕△……」


なにか寝言が聞こえた気がしたけど,起こしちゃ悪い。そのまま僕らは揺られながら家に帰った。


この穏やかな日常が,ずっとずっと続きますように。

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