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リスポーン・キリング  作者: 業務微動
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インターミッション2

 チョコレートやキャンディなどのお菓子で構成されたダンジョンの通路は、一歩踏み出すごとに足下から甘い匂いが立ち上ってくるような錯覚に囚われそうだ。

 本物なのかどうか確かめようとチョコレートの壁に触れてみた。

 ひやりと冷たい。爪を立ててみたが、削り取ることは出来なかった。硬いということは本物ではないのかもしれない。


「なんですかね、この妙なデザインの通路は」


 思わず呟いた僕に、ちょっとむっとしたような加野田さんの視線が飛んでくる。


「えー? かわいいじゃん。三隅っちは好きでしょー?」

「ふぇっ!?」


 いきなり水を向けられた十子がしどろもどろになりながら、上目遣いで口を開いた。


「あ、あの……しんちゃんが言いたいのは、何を目的としてこんな造りになっているのか、ということではないかと思います……」

「んー? そうだなー」


 加野田さんは少し首を傾げ、


「人が造り出したダンジョンは、その人物の深層心理の影響を受けてその姿を変える。――ってツバサは言ってたよー。多分あたしが甘党だからかなー?」

「ちょ、ちょっと待ってください。このダンジョンは加野田さんが?」


 聞き捨てならない言葉に反応。彼女はめんどくさそうに僕の顔を見て、


「そだよー。あたしが黒い玉出したの見たでしょ?」


 と言った。

 用意された場所に行けるのではなく、自らのイメージでダンジョンを作成することができるとは思わなかった。

 というか、この人は自分の内面を表したような世界に僕達を呼んで平気なのだろうか。


「最初の頃はよくツバサと来て練習したんだー。お陰でこんなことも出来るよー」


 そういうと加野田さんはチョコレートの壁に手のひらを触れさせた。すると、

 ずががががん! と壁から巨大な針が飛び出してきた。

 針の周囲はえぐれたようにへこんでいる。壁面の形状を変化させ、スパイクのように飛び出させたのだ。

 す、すごい。


「すげえ! 今の何ですか!? なんて技ですか!?」

「な、なんて技ー? 別に名前なんかないけど……」

「錬金術じゃん! これ錬金術じゃん! これからツインテの錬金術師って呼んでいいですか!?」

「良いわけないでしょー!?」


 はしゃぐ僕をよそに、加野田さんは十子の方を見た。


「三隅っちもやってみー。何ができるか知っておきたいしー」

「え、あ、あの……?」


 助けを求める視線を伏し目がちに送ってくる十子に、笑って親指を立てた。

 僕に頼るのを諦めたのか、声を出さずにため息を一つ吐くと十子は壁に向かって手のひらを向けた。


「――は!?」


 思わず驚きの声を上げてしまった。

 鼻くそほどの小さな黒い球体が十子の手から放たれ、それが壁へと着弾。すると――。

 着弾地点を中心として壁の表面に渦が発生し、周囲を巻き込んでいく。まるで風呂の排水口の蓋を開け、水が吸い込まれていくようだ。

 ずぎゅううう、と直径2メートル程の壁が渦に飲み込まれ、消滅。後には巨大なスプーンで抉ったかのような破壊痕が残された。


「おい……ブラックホール? 物質の圧縮? 凶悪な能力持ってんな、お前」

「す、ごー。三隅っちスゲー。一気にチームの攻撃力上昇? スーパールーキーはっくつー。ツバサに報告しないとー」


 好き勝手に評論する僕達にどう反応したものか悩み、あっちこっちに目線を動かしながらオドオドとこちらに歩いてきた十子は、


「ぐぼあっ!?」

「……凶悪ってなに? もっと女の子らしいチカラが良かった?」


 僕のみぞおちにエルボーを突き刺した。おまけにグリグリと押し込んでくる。


「ちょ、痛い! サーセン! サーセンした!」


 チャラく謝って逃げる。

 加野田さんはそんなダサい姿をさらしている僕と、氷の女王と化した十子を交互に見て、


「あんまイチャイチャしないでくれるー? 胸焼けするっちゅーのー」


 と呆れ顔だ。十子がわたわたと弁解を始める。


「い、いちゃいちゃとかしてません!」

「それがイチャイチャじゃなきゃなんだってーのー? ベタベタ? ラブラブ?」

「ら、らぶらぶでもべちゃべちゃでもなんでもないです!」


 小柄な少女二人がじゃれあっているのは、まるで姉妹のようでほほえましい。

 この調子で十子が加野田さんに打ち解けてくれるといいな。


「……しんちゃん、気持ち悪い」

「なにニヤニヤしてんのー? ヘンタイっぽいよー」

「なっ!? 穏やかかつ爽やかさをたたえた僕の笑顔になんて言い草! ひどい!」


 二人を見守る大人のスマイルを不気味と表現され、僕は憮然とした顔で促す。


「ほら。先に行きましょうよ」


 二人の肩をぽんっ、と軽く叩いた。……と思ったが手を避けられ、勢い余ってつんのめる。


「あ、あの?」


 まるでゴキブリを見るような視線が僕の顔に突き刺さってきた。


「気安く触んないでー。撃つよー?」

「あんまり近寄らないで。蹴るよ?」

「二人ともマジでひどくない!?」


 ドン引きしている顔の加野田さんと十子は僕を置いて歩いていってしまった。慌てて後を追う。


「ちょ! 仲良くなるのはいいけど、僕を敵にして一致団結するのはやめて!」


 と、いきなり加野田さんが立ち止まった。「おわあ!」と叫んで急ブレーキをかける僕に振り向き、柔らかそうな唇に指を当てる。


「静かにー。そのドアの向こうに『敵』がいるからー」

「は、え!? 敵!? 何が!?」


 彼女の言っていることが上手く飲み込めない僕とは対照的に、十子は表情を引き締めて言葉を発した。


「ここにも、参加者が居るんですか?」


 敵。そう、敵だ。

 加野田さんが作り出したダンジョンの中にも、ゲームの参加者が居る? だとすればどうやって――?


「人じゃないよー。でも、油断すると死ぬから気をつけてー」


 そういって加野田さんは眼前のドアに歩み寄り、ノブに手をかけ一気に押し開いた。

 その向こうには広大な部屋があり、中央に『何か』がいた。


「な、なんだ……あれ」


 明滅する灰色や黒の四角に全身を覆われた、2メートルほどの体長を持った『何か』が立っている。

 緩やかに上下する体は、息遣いをしているようにもみえた。


「あれー。上手くイメージできてなかったかー。あのモザイクみたいなモンスターだと緊張感湧かないよねー」

「ど、どういうことですか?」


 謎の生物を目の当たりにした十子は白い顔を更に青白くさせ、おずおずと加野田さんに問いかけた。

 彼女は首を傾げると、


「練習してもらうって言ったでしょー? だから『敵』をイメージしてみたんだけど、どーも上手くいかなかったなー。

 あ、アレはゲームでいうとNPCってところだからー、気兼ねせず倒しちゃってー」


 んじゃ、頑張んなー。

 ひらひらと手を振って加野田さんは壁に寄りかかり、傍観の姿勢だ。


「頑張るったって……なあ?」

「え、う、うん……どうすれば……?」


 顔を見合わせる僕達。銃を撃つべきかどうか悩んでいると、


「グボォォォオアッ!!」


 モザイクの化け物が突然腕を振り上げ、汽笛のようにえ《・》た《・》。

 質量を感じさせない見た目とは裏腹に、地鳴りのような足音を立ててこちらに走ってくる。


「うおわぁっ! く、来るぞっ! 構えろ!」


 僕は慌てて銃口を化け物に向けた。

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