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リスポーン・キリング  作者: 業務微動
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1章 第2話 瞬間移動

「お二人もアイツにやられた、とおっしゃってましたよね? スナイパーライフルを使っている、とも」

「うん。部屋に入ってすぐ周りを警戒したんだけど、壁の上の平たい部分に伏せてライフルを構えているヤツに気づいた瞬間、胸を撃たれた。ちーちゃんもそのあとすぐに」

「部屋に入る前にサーチ能力使ってれば良かったんだけどー、あれ1秒ごとに50ポイントも減るんだよねー。けちったのが裏目に出たなー」


 ふむふむ、なるほど。いくら身体能力を強化したとしても、ライフル弾を回避するのはやはり難しい。足を止めて狙いを定めさせたら終わりだ。


「それって普通の銃ですか? 加野田さんの持っているようなダンジョン内で入手できる変わったヤツじゃなくて?」

「あんまりよく見てなかったけどー。映画でみたよーな普通のライフルだったよー。もしかしたらダンジョンで拾ったんじゃなくて本当にお店で買ったのかもねー」


 そんな場合ではないのに、銃砲店のことを「お店」と表現する加野田さんがおかしく、笑いかけそうになった。

 本当にただのスナイパーライフルなら、例え避けても弾丸が人を追尾してくるといった特殊機能はない。それなら、アイツと同じくこっちも囮を使う。


「僕がまず部屋に入って待ち伏せ野郎の気を引き、撃たせます。その隙に加野田さんが十子を担いで部屋から脱出、亜佐間さんは壁の上にジャンプして待ち伏せ野郎を倒す――という作戦でいくのはどうでしょう?」

「死ぬ気ー?」


 意気揚々と話した作戦の内容に、加野田さんの間延びした否定が返ってくる。


「いえ、もちろん死ぬ気はありませんよ。ライフルのスコープで狙いをつけているのならば、素早く動く標的に狙いを定めるのは難しいはずだ。だから僕が大声を上げながら走り回れば致命傷は避けられると思います。加野田さんはその拳銃で待ち伏せ野郎の周囲を撃ってください。当たらなくても牽制になりますし」


 自分で提案しながら、この計画の穴が浮き彫りになってくるのを自ら感じている。

 待ち伏せ野郎が銃を必中させる能力を持っていて、それを使われたらまちがいなく僕は死ぬし、そもそも走り回っていれば即死は避けられるというのも希望的観測だ。

 でも、これしかない。壁に素早く登って待ち伏せ野郎を攻撃出来るのは身体能力に優れた亜佐間さんしかいないし、僕の心情的に加野田さんへ囮をお願いするわけにはいかない。

 僕には何も能力がない。だからこれくらいしかすることがないんだ。


「無理に自分でやろうとしないで。あたし達二人で――」

「出来るだけ十子が狙われるリスクを下げたいんです。それに、800ポイントしかない僕は敵にとっても美味しくない獲物のハズだ。その僕に能力を使ってまで攻撃してくるとは思えない」


 僕の無鉄砲さで十子を危険にさらしてしまった。だから、もう一度だけ無鉄砲をやって十子を取り戻す。


「んー、まあ狙撃してくるって事は身体能力強化は無さそうだし、一瞬だけ意識を引き付けてくれれば、あたしがすぐ殺るよ。出来るだけ待ち伏せてるヤツは生け捕りにするね。君のポイントか十子ちゃんのポイントも増やした方がいいし」

「あ、ありがとうございます……」


 亜佐間さんが言っているのは、敵のトドメを僕か十子が差せということだ。

 十子にはまず無理だろう。僕が殺るしかない。


「それでは、10秒後に僕が部屋に飛び込んで大声を上げます。更に10秒経ったら二人も入ってきてください」


 頷く二人に、カウントする。

 ――10。

 ――9。

 ――8。

 ――7。

 ――6。

 ――5。

 ――4。

 ――3。

 ――2。

 ――1。


「ゼロ!」


 部屋の入口に向かって突進する。本当はもっと心の準備をしたかったが、待ち伏せ野郎(と呼称しているが姿を見ていないので女かもしれない)も加野田さんと同じくこちらの位置を把握する能力を持っている可能性がある。ここで立ち止まって作戦会議しているのがバレれば十子の命の保証はない。一分一秒でも早く行動を開始すべきだ。


「おい、待ち伏せ野郎! よくも僕を殺してくれたな! 仕返しに来てやったぞ!」


 部屋に飛び込み様、大声で叫ぶ。

 十子の方に顔を向けたくなるのをこらえ、待ち伏せ野郎が潜んでいると思われる場所に目を凝らすと、壁の上に寝そべってこちらにライフルの銃口を向けている人物の姿が目に映り、背筋に恐怖が走る。

 10秒だ。10秒だけ、あいつの銃撃を避け切れれば――!


「しんちゃん!? ダメ! こっちに来ちゃダメー!」


 十子の声。頬が緩みそうになるがそれに耐え、足を止めずに走り続ける。

 僕が駆け抜けた床に、何かが破裂したような音と共に銃創がいくつも刻まれていった。

 よし。アイツの銃口は僕を捉えきれていない。残りは何秒だ!? 5秒はたったはず――。

 すると突然、必死に祈る僕をあざ笑うような地響きがした。息を切らしながら振り返ると、床からいびつな壁が立ち上がって入り口を塞ぎかけているのが見えた。

 亜佐間さん達と、分断された。


「――!? ウソだろ!?」


 恐らく、待ち伏せ野郎が使っているのは物質の形状変化能力だ。まさか、自分から距離のある場所にも変化を起こせるなんて――。


「芯太くん!? 逃げて!」


 壁の向こうからこもった声。亜佐間さんが僕へと呼びかけてくれている。

 破砕音も聞こえた。刀で壁を破壊しようとしているのだ。

 だが、待ち伏せ野郎は壁を壊すのを悠長に待ってはくれないだろう。

 僕は、十子に向かって全力で走り出した。


「しんちゃ――」


 泣きはらした目で僕を見る十子は、壁に打ち込まれた楔から伸びるワイヤーで体を拘束されている。

 食いしばった歯がガリガリと音を立てるのを聞きながら、僕は自分の浅はかさを三度呪っていた。

 やはり待ち伏せ野郎は加野田さんと同じく、人間の位置とそのポイントを感知する能力も持っていたらしい。亜佐間さんと加野田さんのポイントを見て、かなり強い敵だと判断したのだろう。

 だから囮を使ってポイントを稼ぐのをやめ、入口を塞いで二人の侵入を阻んだ。

 後は別の通路から逃げるだけ。その前に、自分に恨みを持っているであろう僕と十子を殺してから。


「十子!」


 せめて、あのワイヤーを外すことができれば――。

 そう考えて走る僕の足が突然もつれ、転倒した。


「ぐっ、な……!?」


 転倒した原因の右足を見る。

 足がもつれたどころではなかった。足首を撃たれ、そこから先はちぎれて床に転がっていた。

 遅れてやってきた激痛に絶叫しながら、待ち伏せ野郎の方を見る。

 あいつは――十子に銃を向けていた。

 無様に倒れた僕の目の前で十子を殺すつもりなんだ。


「とっ、十子……!」


 両腕に全力を込めて上体を起こすが、足からの激しい出血で力が入らない。

 十子に目をやる。彼女はちぎれんばかりに首を振ってもがき、ワイヤーから逃れようとしているが拘束をほどくことはできそうにない。

 心が、絶望に飲み込まれていく。


 ――また、死ぬのか。十子も助けられず、亜佐間さん達にも迷惑かけっぱなしで、待ち伏せ野郎に一矢報いることもできず――。


 死ぬ。あの、緑の光に包まれて消えるのか? それともポイントが足りない僕は死体が残るのか――?

 と、益体もない思考をしたところで脳裏に小さな考えが浮かんだ。

 死ぬと光に包まれ、スポーンポイントに運ばれる。じゃあその現象を自分で再現することはできないのだろうか。


『ポイントが足りません。実行した場合、30秒後にアナタは消滅しますが、よろしいですか?』


 いきなり頭に響いた謎の声。深く考えることもせず、僕は叫んだ。


「よろしいに……決まってんだろ!!」


 声に答えた瞬間、体が破裂した。

 緑色の光の粒に分解され、飛び散り、そして収束する。

 気がつくと、僕は待ち伏せ野郎の背後に倒れていた。


「な!? あのガキ、どこいった!?」


 そういって身を乗り出し部屋の中を伺う待ち伏せ野郎。

 その足元に、拳銃が置いてあった。狙撃体勢の邪魔になるので身に着けずに外したのだろう。

 息を殺してそっと這いずる。『残り20秒です』と頭の中でアナウンスが響いた。

 奇跡的に、気づかれず拳銃まで辿り着けた。待ち伏せ野郎は背後に僕がいるなどとは夢にも思っていないようだ。

 そっと持ち上げた拳銃は、なんとも嬉しいことに加野田さんが持っていたような変なやつではなく普通のオートマティックだ。セイフティを解除し、両手でしっかりとグリップを握ると、待ち伏せ野郎に向けて引金を引いた。

 全弾撃ちつくす。背中に15発食らった待ち伏せ野郎は呻きながら緑色の光となって消え去っていった。

 人を殺したというのに、あろうことか達成感を覚えながら僕はそこで意識を失った。

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