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リスポーン・キリング  作者: 業務微動
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1章 第1話 殺しの理由

 三人で歩きながら、十子のことを考える。

 あいつの言うことを聞いておけばよかった。慎重に進んだほうがいい、と忠告されていたのにも関わらず僕は緊張感を持たないで――いや、この状況に実は怯えていたから意識的に死の可能性を頭から締め出したのかもしれない――のんきに歩いていたから僕は死に、そして十子も危険にさらしている。

 絶対に十子を助ける。そして謝ろう。僕がいかにバカで無鉄砲だったのかを――。


「ねー。芯太くんはどうして死んだの?」

「おっふ!?」


 十子の心配で頭がいっぱいだったところに亜佐間さんに声をかけられ、びっくりして変な声がでた。咳払いをしてから問いに答える。


「ひ、開けた部屋の中を歩いてたらいきなり……胸に穴が開いて」

「あー、待ち伏せタイプのやつかー。あたしたちもそれにやられたよ。同じヤツっぽいね」

「ま、待ち伏せタイプ?」


 待ち伏せタイプとは、見晴らしのいいところで人が通りかかるのを待ち、不意討ちで攻撃してくるゲームの参加者だという。

 亜佐間さんは淡々と話しているが、僕はこのゲーム、そしてその参加者達におぞましさを感じていた。


「な、なんで人を殺すんですか? いくら生き返れるっていっても……」


 僕の問いに、加野田さんが答えた。


「そりゃーポイントが欲しいからだよー。ポイントがあれば生き返れるし、能力もいっぱい使えるからねー」


 ――それだけ? それだけで?

 それだけのことで僕は殺され、十子も狙われているっていうのか?

 怒りと悔しさや悲しみ。それが顔に出ていたらしい。加野田さんが複雑そうな顔をして僕を見つめている。


「気持ちはわかるし、あたし達も最初は怖かったよー。でも、ここでは怯えてるだけじゃ死んじゃう。このダンジョンをクリアして、外に出てからゆっくり悩みなー」

「――クリア?」

 そういえば、あのガイダンス。ハイテンションな女の声が『クリア条件はゴール地点への到達』と言っていたはずだ。それを満たせば外に出れる?


「ゴールに着けば、外に出れる……?」

「このダンジョンはそうみたいだねー。ダンジョンによっては一人しかクリアできない条件のところもあるから、そういうところは誰か一人クリアすれば皆まとめて出れるんだけど、ツイてないねー」


 ツイてない。それを言うならこんなところに突然放り込まれた事自体が最高の不運といっていい。なんで僕と十子がこんなところに来てしまったのだろう。


「ダンジョンに入れられる理由はよく分からない。あたし達も気づいたらここにいて、クリアしてもまた何週間後かに新しいダンジョンに再び呼ばれる。その繰り返し。……生き残ってダンジョンをクリアすればポイントもたまって死ににくくなるよ。だから頑張ろう?」


 なにか言いたげな僕の顔を伺い、亜佐間さんが僕を励ますように言葉を発した。

 亜佐間さんの無理矢理作ったような笑顔を見て、はっとする。ふて腐れてる場合じゃない。別に義理も無いのに僕を助けてくれている先輩もいるんだ。

 すぱん! と頬を両手で叩き、僕は笑顔を作った。


「すいません、ありがとうございます! 足手まといにならないようにするんで、宜しくお願いしま――」

「伏せてっ!」


 いきなり首根っこを掴んで地面に叩き付けられた。何事かと思って顔を上げると――。

 黒い服の男が一人、手のひらをこっちに向けて立っていた。そいつはつばを床に吐くと、小バカにした口調で話しだした。


「くそ、外しちまったな。ポイントが無駄に――オイ。何だよお前死にかけじゃん。ふざけんなよ殺しても赤字じゃねーか」


 勝手なことを言いながら、男が両手をこっちに向けた。

 何かしてくる――そう亜佐間さんに言おうとしたとき、彼女はもう僕のそばにはいなかった。

 背負っていた歪な形の刀を振りぬいた体勢で男の背後に立っている。


「あ、が……?」


 ずるり、と男の胴体が斜めにズレ(・・)、地に落ちた。

 どくどくと鼓動に合わせて体の断面から血液が噴き出す。

 数秒後、男の体が緑色の光に包まれ、消え去っていく。

 呆けた顔で亜佐間さんを見ると、彼女は刀を再び背負いながら僕のほうへ歩いてくる。


「危なかったね。ここ(ダンジョン)では油断しちゃダメだよ? 死ぬから」

「あ、はは……あり、ありが、ありがとうございます?」


 目の前の美少女が人を切り殺したという事実。また殺されかけたという事実。

 僕はもうどのような感情で彼女たちに接すればいいのかわからなくなっていた。


「まー、ツバサがいきなり目の前で人を殺したらフツー驚くよねー。お礼も疑問系になるってもんだよー」

「アイツが突然撃ってきたからしょうがないの! てかアイツ、人のポイントも見ずに攻撃してきたよ! 死んでもいいと思ってるのかな!」

「思ってるでしょー多分ー。生き返れそうなポイントがあるかどうか確認してから攻撃するのなんてツバサくらいだよー」


 そうか、ポイントがある限りここでは死んでも生き返れる。

 だから彼女たちはその恐怖をあまり感じていないし、殺すことにも躊躇が無いんだ。

 試しに亜佐間さんの数字を覗いてみた。42325。

 正確には覚えていないが、さっき彼女の数値は3万台後半だった気がする。つまり、5千ポイントくらい上昇しているわけだ。

 彼女たちの説明によると、生物の殺害によって増加するポイントはその生物が持つ数値の半分。つまりあの男はおおよそ1万ポイントくらい持っていたわけだ。

 僕が死んだとき失ったポイントは2000。多少の増減があったとしても、あの黒い服の男は3~4回は生き返れる計算になる。


「あたし達は人を殺したいわけじゃない。……まあ実際殺してはいるんだけど――絶対にその人が生き返れるのを確認してから殺ってる。それは分かって欲しいな」


 僕の表情から思考を読まれたらしい。亜佐間さんが顔色を伺うような視線を送ってくる。

 僕は大きく深呼吸し、


「はい。先輩たちが“いい人”達だっていうのはよくわかりました。……疑って申し訳ありませんでした、どうか十子を助けてください」


 深々と頭を下げた。こんなことで先輩たちを疑ったことが許されるとは思わないが、精一杯の誠意を込めて謝罪する。

 途端、慌てたような声が頭上から降ってきた。


「ちょ、いーからそういうの! 頭を上げて!」

「ていうかー。先輩“たち”ってなにー? あたしも君と同学年なんだけどー」


 加野田さんの呆れたような質問に、頭を下げたまま答える。


「いえ、ダンジョンにおける先輩という意味です。これからもご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます」

「何この子! キャラがつかめない!」

「ちょっと面白いかもー。ツバサ、もっとからかってあげなー」

「ちーちゃん! 悪ノリしないの!」


 僕は気が済むまで頭を下げていた。



  ◆◆◆



「ひ、広くないですか、このダンジョン……!」


 僕らはひたすら通路を進み、分かれ道を曲がり、歩き続けていた。

 ポケットのスマホを見ると、16時32分。僕と十子がここに来たときの時間のまま止まっている。どうやらここでは時間が流れないようだ。

 体感では1時間ほど歩き続けているが、一向にゴールにもたどり着かなければ僕が撃たれたような部屋にも出ない。


「道間違ってるのかなぁ……。それにしても何もなさ過ぎだよ」


 亜佐間さんの呟きを聞き、加野田さんが溜息を吐いた。


「しょーがないなー。探ってあげるよ」

「ずっと期待してたのに一向に言い出さないから意地悪だなーって思ってたよあたしは!」

「ポイント消費が激しいからしょーがないでしょー!? あたしはツバサと違って戦闘向きの能力じゃないからポイント稼ぐの大変なのー!」


 そういって舌を出しながら、加野田さんが手のひらを上に向けて両手を突き出した。

 すると、その手の上に光が走り、図形のようなものを宙に描き出す。

 これは……地図だ。

 その光の地図とにらめっこしながら加野田さんが唸り始めた。


「んー、んんー。……180ポイントの人がいる部屋の近くで25121ポイントの人が待機してるねー。これが待ち伏せ野郎かなー?」


 ぞっとした。ダンジョンに来たばっかりの時、十子のポイントは2200ポイントほどあったはず。つまり、十子は……。


「ひ、人質に取られて……?」

「というより、囮だね。多分三隅さんを助けに来た人を殺してポイントを稼ぐ気だよ。コイツ」


 血液が沸騰するような怒りに襲われた。

 僕を殺した奴は十子を一度殺し、あまつさえ再び捕らえて罠にしている。

 憎悪でとんでもない形相になっていたのだろう。僕の顔を見た加野田さんがひっ、と息をのんだ。


「ま、まー落ち着きなよー。待ち伏せするってことは直接戦闘に自信が無い奴だってことだしー。居場所が割れてればこっちのものだよー。それに、囮にしてる三隅っちもそうそう殺されないよー」


 宥めるような加野田さんの言葉に我に帰る。


「すっ、すいません! そんな凄い顔してました、僕?」

「殺されるかと思ったよー。彼女が心配なのは好印象だけどー、冷静さも大事だよー?」

「ほんとすいま……十子は彼女とかじゃないですから!」


 ぱん、と手を叩いて亜佐間さんが空気を変えた。


「はいはいわろすわろす。そんな必死な顔で言っても説得力ないから」

「いや本当に違うんですって!」

「いーなー三隅っち。あたしもこんなに必死になってくれる彼氏欲しいなー」


 先輩たちの笑い声で心がほぐれていく。

 こんないい人たちをどうして疑ったんだろう。僕は本当に大バカだ。

 このくそったれな場所を出たら謝る相手が増えたな、などと考えながら、僕らは十子のところへ向かって進み始めた。


 ◆◆◆


「止まって! ……待ち伏せ野郎はその部屋にいるねー」


 加野田さんの言葉に、通路の途中で足を止めた。

 彼女は首を揺らしてツインテールをぱたぱたさせながら、手の上に現れている光の地図をじっと見つめている。


「どーやら壁の上に登って銃を構えてるみたいー。三隅っちに近づいたところをずどん! ってゆーふーに考えてるんじゃないかなー」

「なんで銃なんて持ってるんですかね? 僕もそれで撃たれたみたいだし」


 狙撃銃なんて一般人がおいそれと手に入れられるものじゃないはずだ。その疑問を口に出すと、


「ダンジョンの中には武器が置いてあることがあるんだよ。あたしの刀とちーちゃんの銃もそこで見つけたの。能力でポイントを使いすぎても危ないし、参加者の中では銃を使う人が多いかなー」


 亜佐間さんはそういって妙な形の刀の柄をなでた。

 気にしてなかったけど、あの刀の刀身はなんだか禍々しい。あちこち歪み、切りにくそうだ。

 まるで、某右手に寄生する生物の変化したような刀だ。


「それ、ちゃんと切れるんですか?」

「すっごい切れるよ。ほら」


 亜佐間さんが刀の刃を壁に立てかけるように触れさせた。

 すると、全く力を入れていなさそうなのに刃先が自重だけで壁の中に潜り込んでいく。


「す、すげえ……魔剣だ……」

「悪役の持つ剣っぽいからちょっと嫌なんだけどね。セニハラは変えられない? って言うし」


 ずぼ。彼女が壁から刃を引き抜いた。

 加野田さんが咎めるような口調で僕に、


「ほーらー。気を抜かないのー。三隅っちはすぐそこなんだよー? 作戦立てないとー」

「あっ、すいません!」


 作戦。

 もしこのままノコノコと部屋に入っていったら、まず間違いなく待ち伏せ野郎の銃撃を受ける。

 待ち伏せ野郎は十子のすぐそばにいるわけではなく、むしろ対角線で待機しているようだ。

 自分の視界に入ってきた獲物を撃つ為に潜伏しているのだろう。


「身体能力強化で防御力とか上げられないんですか?」

「結構ゲーム脳だね君。――皮膚を硬質化してみようと思ったこともあるんだけど、無理だった。固くなった皮膚が剥がれて大ケガしたよ」

「い、たそうですねそれ……」


 つまり、銃撃を掻い潜りながら十子を救出し、更に素早く壁の上に登って待ち伏せ野郎を攻撃しなくてはならない。

 僕はこの頼れる先輩二人に対するお詫びも兼ね、ある作戦を提示することにした。

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