シャッカルの日
前回の続き。
日本の沼で起きた事件は、ローカルニュースでも報道されなかった。
理由は2つ。
まず、もともと人口が少ない地域で、沼で釣りをする人は若干名。
近くの人たちだけ。
釣れるのはフナくらい。
地域に与える影響は皆無に近かった。
次に、検出された毒物が未知の物質であること。
マスコミが大きく報道すると、かなりの影響が懸念される。
警察の記者クラブではいっさい公表されず、
事件の捜査に関係する警察官や技師には、厳重な箝口令が敷かれた。
さて、第2次大戦の当時国の1つだった、ある国。
毎年、終戦の日に恒例の行事が。
戦没者追悼式。
国家元首である大統領が戦没者墓地を訪れて、
墓の1つに献花して祈る。
今年も例年通りに行われた。
その国では、近年に複数回のテロが起きているため、
警備は厳重だった。
大統領が献花して祈っているときに、
小枝をくわえたスズメが飛んで来て、
大統領の頭にその小枝を落とした。
祈りが済んだ元首は手で頭の小枝を払い落とし、
表情を変えずに帰路についた。
その日の深夜。
大統領官邸から衝撃的なニュースが。
その国の全土と、海外の領土に臨時ニュースが流された。
「大統領が病院に搬送された」
結局、官邸の主は・・
棺に納められて「帰宅」
政治家になる前は陸軍の将校で、
体力があり、きわめて健康。
死因は「急性心不全」と発表されたが、
さまざまな憶測が流れた。
戦没者追悼式は、国営のテレビとラジオで中継されており、
多くの国民が放送に接した。
大統領が搬送された病院の院長室では、
副大統領も加わった極秘の会議が開かれた。
「何かの毒物や病原体が検出されたのですか?」
医師たちはしばらく沈黙したが、
死因を「特定」した医師が静かに語った。
「毒物が見つかりましたが、これまでにない物質です」
「解毒はできなかった?」
「残念ながら、現時点では不可能です」
「大統領はいつも通りに公務を執行していたので、
毒物が体内に入ったことは考えられない」
「食事やお酒などは?」
「ほとんど官邸で取っている。酒は外国の要人が来たときに、晩餐会で少し飲む程度です」
国営テレビのビデオ編集室では、
戦没者追悼式で撮影していたカメラマンと、上司のディレクターが影像を繰り返し見ていた。
「スズメと小枝は関係ないよな」
その国の警察本部では、「念のため小枝を探して確保せよ」
ところが、式の後でかなりの強風が続き、
スズメが落とした小枝の特定はできなかった。