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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王道B L学園の主人公に双子の弟がいた場合

作者: 夏風邪

初投稿です。設定等拙いところがありますがご容赦下さい。

BL界隈での王道学園物語の主人公に双子の弟がいた場合、きっと苦労するんだろうなと思ったところから想像したのですが予想外に捻くれてしまいました。

キャラに名前を付けてないので読みにくいかもしれません。

頭を空っぽにして、お楽しみください。

忌々しい。


自分がどれほどのコトを犯しているのかも知らぬまま、無邪気なまま純粋なまま笑っているその姿。


天真爛漫?


それはあくまでも良い意味でしかアレを見てない奴ら信奉者どもの世迷言だ。


実際は無邪気に人を貶めて純粋な興味から人を糾弾する。

何の気なしに。

何の疑問も持たず、ただ己の知りたいという欲求を満たすために。


そうしてその後に何が残り、それを去れた者の心にどれほどの傷を残したのかも理解しないまま。

何度繰り返しても理解出来ないから、社会に適合出来ずに爪弾きにされてしまうのだ。けれどそれを自分のせいではなく、恵まれていることに対しての苛めだと判断して一部の信奉者たちが手厚く保護してしまうことも、アレの勘違いを加速させてしまったのだ。


そんなアレと二卵性とはいえ双子であり、何よりも血縁者であることが忌々しくてしょうがない。

同じ親から生まれたことすら消し去りたい事実だ。


「大丈夫か?」


そっと手を握られる。

声の主はアレのせいで傷付けられ、そしてハンデを負わされてしまったのだ。アレにさえ関わらなければ、ハンデを背負うこともなくただただ普通の日常を過ごせる筈だったのに。


「大丈夫だ。キミこそ大丈夫か?」

「リハビリも順調だし、そこまで心配してくれなくてもいいんだけど?」

「……本当に、すまない」

「…なんでお前が謝るんだよ。いくらお前がアイツと兄弟だからって、この怪我も傷痕もお前のせいじゃないってのに」

「…」


申し訳ない。

そう思う心に間違いはなく、彼の人生を歪めてしまったことは事実だ。


「んで?本当に行くのか?」

「勿論。今までそのために準備してきたんだからね」


彼とはしばらくの間、離れ離れだ。

これから彼とは違う学校へと進まなければならない。それは己のためにも必要なことであるから仕方ない。


「そっか…」

「長期休暇の時は帰ってくるから」

「ん、待ってる」


彼の笑顔に見送られて、俺はアレとも違う学校へと進む。


全ては俺の望む道を歩むために。



そうして入学した学校生活は未だかつてないほどの充実感に満ち溢れていた。


アレがいない。


たったそれだけでここまでの解放感に満ち溢れるとは流石に予想出来なかった。

どうせなら彼が側にいてくれればいいのに、と思うがこれ以上彼を振り回したくはないしこの学校は彼には合わない。


「風紀委員長、理事長がお呼びです」

「何?……わかった」


この学校に入学して早二年と少し。

品行方正に過ごし、友人も増えた。学業も疎かにしたことはないし、それを評価されてのことか風紀委員長に指名された。慎んでそれを受け、今は学校の治安維持に細やかながらも貢献している。

進学先も既に決まり、勿論彼と同じ大学だ、これから次代へと伝統を引き継いでいかなければならない。


その矢先である。


血縁にあるとはいえこの学校の理事長はアレの信奉者の一人だ。

そんな学校に何故俺が入学したのかと言えば、単純なこと。理事長の監査を含むこの学校の調査と改革だ。


アレに関わった人間は悉く頭がおかしくなる。最初は極普通の両親だったその人たちは、アレが成長する度に狂っていった。

トンビが鷹を産んだとそう揶揄され続けた両親も、ある意味では被害者なのかもしれない。けれどアレを諌めずに助長させたのもまたあの両親だ。


そんな狂った者たちの中で強い力を持っているのはこの学校の理事長なのだが。


「さて、入学してから一度たりとも呼ばれたことはないんだが…何用だ?」


何か嫌な予感がする。


そしてその勘は当たった。


「何でも今いる学校で盛大なイジメにあったらしい」

「は?またですか?」

「可哀想に…転校する度にイジメられて…」

「…」


頭がおかしいにもほどがある。


理事長は目元を隠しながら深く項垂れて悲愴な感じだが、側からみれば滑稽でしかない。

だいたいイジメと言っても大元はアレが好き勝手にやった結果アレのしたこと全てを返されただけだろうに。

何を抜け抜けとイジメだと声高に訴えているのだ。


アホか。

だいたいこれで何校目だ。

何度も何度も同じことを繰り返して、何度も何度も転校して土地を引っ越して。

バカでしかない。


「そこでこの学校に受け入れることにした」

「は?」


この理事長もアホだった。

この学校にどれだけ長い歴史と伝統があるのかも理解していないのだろうか。

アレが転入してきた途端に、それが壊されることは想像するに容易い。


いや、待て。


いっそのことならば、アレを利用して壊させてしまえばいいのではないだろうか。

そしてその後、この学校を再建してしまえばいい。


今の現状では改革するにも限度がある。


膿を取り除くにも腐り切ったモノが多すぎてどうしようもないことがあったが、この案ならばそれも問題にならない。


何より、アレと理事長、そしてアレに関わる全てを葬りされるチャンスだ。



あぁ、楽しみだ。



「本来ならばお前ではなくあの子に入学して欲しかったんだ。それを五月蝿いジジイ共が…」

「…あぁ、今回のこと、独断ですか?」

「…っ‼︎煩い、黙っていろっ‼︎」


癪だが言われた通りに黙っていてやろう。

黙っていたが故に起きる顛末が楽しみで仕方ない。




この会話の一週間後、理事長が望んだ通りにアレが入学してきた。




両親がトンビが鷹を産んだと揶揄された通りに、アレの容姿は無駄に整っている。

幼い頃から天使やら何やらとちやほやされて蝶よ花よと大切に大切に育てられた。そのせいであんな歪んだ性格になったのだ。


つくづく二卵性で良かったと思う。


あんなのと一卵性だったりしたら世を儚んで今この場に立ってなどいないだろうから。悍ましいの一言に尽きる。


やる事なす事全てが肯定されてきた結果、アレはこの世の中心にいるのが自分であり自分を否定するものは全て敵であると言う。


アホか。


アホだったな。


敵だったなら何をしてもいいという思考は、アレの尻拭いを喜んでやっていた信奉者共のせいである。


アホだな本当に。


さてそんなアホは入学して早々、恵まれた容姿を使って生徒会役員たちをタラし込んだという。

独自の無茶苦茶な理論を振りかざし、相手を肯定しているように見せかけて己を肯定させて己の元に引き止める。そして己以外のモノに目を向けようなどとした時は全力で阻止する。

それなりの教養があり、マナーを身に付けている筈の良家の子息たちがこれまた見事にタラし込まれるとは。


予想外に速いペースだったが。


1日で生徒会役員全員が信奉者に成り下がったのは見事としか言い様がない手際だった。

まぁ何度も何度も同じことを繰り返してきたのだ、慣れていて当然か。

だがそれにホイホイ釣られるアイツラはチョロすぎるだろう。

あれでこの学校を代表する生徒会役員だとは。


生徒会役員がタラし込まれて最初に反発するのは当然、役員たちについていた私設ファンクラブ基親衛隊の面々である。

常日頃から過激派が活発に活動していたというのに、アレが転入してきたからはアレを何よりも最重要の敵であると認識した親衛隊はアレの排除のためにありとあらゆる手を使う。

当然、アレについて盛大に騒ぐ。それはもう金切声と言っても過言ではないくらい盛大に騒ぐ。


はっきり言って耳障りだ。


あの声を信奉者共がいったいどう感じているのが気になるが、碌な解答が返ってくることはないだろうしそこまでの労力をかける程ではない。

そもそも、アレが親衛隊と騒ぎを起こす度に風紀委員がその場を治めているせいで仕事量が一気に跳ね上がっているのだ。日に何度も代わり映えのしない騒ぎを起こしては騒ぐだけ騒いで生徒会役員共に連れられて彼らの自室に引き篭もる。

生徒会役員共は授業にも出ず、アレをただ愛でて食事の時と気分転換と称して気紛れに出歩くのみになった。

当然、親衛隊ではない生徒たちからも不満の声が上がるようになる。


それを止める者は誰もなく、不満は石が坂を転がるように加速して誰も止める術を持たない。


そして不満は次第に生徒から親へと広がり、親から学校の理事たちへと伝わる。俺の予想以上に早く伝わったそれは満場一致で理事長退任という結果を齎した。

良家の子息たちが集まるこの学校には親からの寄付金が寄せられており、複数の、いや大多数の親からの抗議があってはこれ以上の理事長の横暴を許すことは出来ない。

そもそも、アレを転入させたのはこのバカな理事長殿だ。

責任は、きっちりととって貰わなければならない。


次の理事長は、俺とアレ、そして理事長にとっても血縁であり本家筋の者が継ぐことが既に決まっている。


暴れる“前”理事長を警備員が押さえ込んで連行していくのを、俺は高みの見物させて貰った。


とても無様で、滑稽で、面白い光景だった。


「あぁ、なんて素敵な喜劇だろう」

「感慨深い、だろう?」


新しい理事長が、静かに声をかけてきた。

この人はあの“前”理事長がデカイ顔をしてこの学校の理事長として席に座しているのが気に食わなかった人だ。

“前”理事長はあくまでも分家筋の者でしかないのに、本家筋のこの人を目の敵にしては難癖をつけてきていた。“前”理事長に実力があれば周りは仕方ないという目で見たかもしれない。だが現実は全く違っていた。

お飾りでしかない“前”理事長が親戚一同からとても疎ましく思われていたと知らぬは本人ばかりなり。


「それで、これからどうするのか決まっているのかい?」

「はい勿論。やっと、アレに引導を渡せます」

「思う存分やりなさい。期待しているよ」

「はい。アレが無様に踊る様をご覧にいれて差し上げます」


アレは親族の中でも有名だった。

勿論、悪い意味で。

アレを産み育てた両親も同じであり、アレに心酔した“前”理事長も同様だ。

そんなどうしようもない一家の中にあってアレらとは一線を画す俺のことをこの人も含めた本家筋の人たちは気に入り、こっそりと援助してくれた。

バレればアレが五月蝿いのであくまでもこっそりとではあったが、あの人たちの手助けがあったからこそ俺は今こうしていられるのだ。


そうでなければ、とうの昔にアレのせいで殺されていたかもしれない。


生まれ落ちてから約17年。


アレのせいで抑圧されるのはもうお仕舞いだ。


俺は俺の、俺だけの道を歩く実感を知ってしまったのだからもう小さい頃のようには戻れない。



生徒会役員共にも知らされずに理事長は交代した。この時点でアレが転入してきてから既に数ヶ月が経過していた。

理事長の交代が実行されたと同時に俺は次の手を打つ。

役目を果たさなくなった生徒会の代わりとなる新たなる組織、執行部を設立した。

風紀委員会は学校内の乱れた治安を回復するのに手一杯で生徒会の溜めた仕事を片付ける余裕はない。だが誰かがやらなければ溜まったままなのだ。

そこで生徒会役員共の親衛隊隊長たちを集めて執行部を設立し、仕事を代行させた。

元は学校内限定ではあるがアイドルのような扱いをされていた生徒会役員共を守るために設立された組織だ。彼らの個人的な能力値は高い。

これを利用しない手はなかった。

反発する彼らをこの責任の一端はお前たちにもあるはずだと押さえ込んで、半ば強制的に執行部として職務に就かせることができた。

だが当然、親衛隊隊長たちでは手が足りない。なんといっても溜め込んだ仕事の量はかなり多い。

元々、通常の学校と違って本来ならばやらないような仕事をも生徒主導にしている本校なのだ。

たった数ヶ月、されど数ヶ月。

溜められた仕事を片付けるために、親衛隊隊長たちはかつての部下たちに声をかけて招集し手伝わせた。


これが功を奏した。


それまでは失恋というか裏切られたと言えばいいのか、遣る瀬無くて行き場のない想いからほぼ暴徒と化していた元親衛隊のメンバーたちが一気に沈静化したのだ。

それ程までに仕事が忙しかったのだ。他に殆ど手がつかないくらいであり、ある意味で修羅場だっただろう。

彼らが落ち着けば、風紀委員会にも余裕が出来る。風紀委員会の監視の目が親衛隊から校内へと向けられれば、校内で好き勝手にやっていた連中も次第になりを潜めていく。これで校内の治安は守られ、今まで息を潜めていた一般生徒たちの警戒も徐々に緩み以前のような学校の雰囲気が戻ってきた。

この頃になると、元親衛隊のメンバーたちは自分たちが心酔していた生徒会役員共に完全に愛想を尽かしていた。むしろ威張り散らしていた連中を見下す者が現れる程だった。


全ての中心に立っていた俺は更なる一手を打つ。


特別なことなど何もない。


ただ、問いかけただけだ。


「仕事も義務も何もかもを放り出して権利ばかりを貪る彼らが本校の誉れある生徒会役員で本当に良いのでしょうか?恋か愛か、それとも別の何かかも区別出来ずに自分でも理解していない想いを成就させようとする彼らの今の姿の愚かしさは皆さんも理解しているはずです。

礼儀を知らず、マナーすら身についていないそこらにいる子供より幼いだけのあの生徒をこれ以上この学校に在籍させていて良いと思いますか?自己中心で他者を強制的に振り回しては傷つける、そんな生徒がこの学校に本当に必要ですか?

彼らの醜聞がどれほどこの学校の名に泥を塗ったのか、貴方たちはご存知の筈です。


そんな彼らを、このままにしていていい筈がないですよね?」


俺の言葉に否を示す者など、ありはしなかった。


「では執行部部長及び風紀委員の皆さん、宜しくお願いします」


呼ばれた彼らは俺の目を見てしっかりと力強く頷いた。

そんな彼らに俺も微笑んでやることで返事をした。


執行部部長は、俺こと風紀委員長と現理事長のサイン、一般生徒及び教員の9割強の署名をもって生徒会役員共をリコールした。次の生徒会役員には執行部のメンバーがそのまま就任した。

騒ぎはかなり大きくなってきていたが、完全に引きこもってしまった“元”生徒会役員共は引きこもったままだった。



そしてようやく、幕引きの日が訪れる。



とても良く晴れた日だった。


いつまでも引きこもっている連中を、マスターキーで部屋の鍵を開けてそのまま無理矢理引き摺り出して連れてきた講堂には生徒及び教職員が全員集まっていた。

いつもとは違う雰囲気に訝しげな表情をする奴らとそんな奴らの中心で不満を露わにしたアレ。


なんて愚かな奴らなんだろう。


「では、“元”生徒会役員の皆さんと転入生の君。今回呼び出した理由をお教えしましょう」

「風紀委員長…っ」

「ぇ、オマエ、は…っ⁉︎」

「生徒規約第30条の三項に記載されている通り、在籍している生徒の9割の署名と理事長のサインがあれば生徒会役員をリコールできます。ここに置かれた書類は全て、貴方たちをリコールするために集められた貴方たち以外の全ての生徒とおまけに教職員の署名が書かれた書類です。

どうぞ、ご確認下さい?」


告げられた言葉の意味がじわじわと理解出来たのだろう、“元”生徒会役員共は驚愕の表情を浮かべた。そんな彼らに“元”親衛隊隊長兼執行部部長、“現”生徒会役会長が集められた膨大な署名の書類のコピーを叩きつけてやった。

会長の顔に見覚えがある奴らはさらに顔を歪め、そして受け取り損ねて床に散らばった書類を呆然と眺めている。


まあ、仕方のないことだろう。

全生徒及び教職員の9割強という数字は学校の歴史の中でも初めてのことだからだ。彼らの信頼の無さが形となって目の前に突き付けられている。


そして、それ程までに生徒や教職員から負の感情を向けられているのだとようやく理解したのだろう。

彼ら個人の家の力は確かに強い。

けれど万能の力ではなく、今やその権力をちらつかされても屈しない程に彼ら以外の家の繋がりが強固になっている。

現に彼らの家の業績は軒並み総崩れになってきているらしい。


「ああそれと、貴方たちが行ってきた暴言、暴力行為、器物損壊その他諸々の報告は既に理事会及び貴方たちのお家にも報告してあります。どなたのお家のご両親も大層ご立腹でいらっしゃいましたよ?

勿論、私たちもですが。

潔く荷物を纏めて自らの足で学校から出て行かれることをお勧め致します。承諾して頂けない場合は、大変残念ですが実力行使させて頂きますので。

理事長のサインが入った書類はこちらです。では、さっさとこの学校から退学して頂きましょうか?」


呆然としたままの彼らに封筒に入れられた退学届けを投げつけてやる。俺の横で親衛隊隊長はその愛らしい顔に満面の笑みを浮かべながら彼らを見下す。

周りの生徒たちは口々に今までの不満やら鬱憤やらを彼らへと叩きつけていた。



そんな現状が認められないアレが、馬鹿デカい声を張り上げた。



「こんなの嘘だ‼︎おじさんがそんなの認めるわけないっ‼︎お前らが好き勝手やってたからだろ‼︎コイツラが何したっていうんだよっ‼︎コイツラに罪を押し付けようったってそうはいかないんだからな‼︎この最低野郎共っ‼︎」


ああ、なんて滑稽な存在だろうか。


こんなと血が繋がっていることをどれほど忌々しく思ったことだろうか。


「だいたい、なんでオマエがここにいるんだよっ‼︎‼︎‼︎」


この忌々しい双子の片割れは俺を目の敵にしていた。


二卵性故の容姿の違い。


アレは蝶よ花よと育てられるのがとても良く似合う愛らしい容姿をしていた。小さな頃から可愛い可愛いと言われ、アレの中で自分は可愛いのだと確固たるものとなりそれは歪んだ自信に繋がる。

可愛い自分は何をしても許されるのだ、と。

事実、両親と“前”理事長や幼い頃の友人たちは殆どがそれを認め許した。


対して俺は決して可愛いとは言えない容姿であり、アレのように媚を売ることが嫌いな性格だった。

上部の性格と見た目は可愛い子と、可愛さには欠ける無愛想な子。


どちらを可愛がるかは一目瞭然だろう。


その差が、現状である。


俺はこの性格であることを後悔したことはない。アレと違ってそれなりに友人には恵まれていると思うし親兄弟以外の殆どの親戚からは目を掛けて貰った。


それに何より、大切な人と想いを通わせることが出来た。


アレと血が繋がっている、同じ胎から生まれたことだけが唯一の汚点であり己ではどうしようもない事実だった。


「俺の入学した学校に後から来たのはお前だが?」

「五月蝿い‼︎オマエなんかが口答えすんなっ‼︎オマエさえいなければ、オレは…っ‼︎」

「黙るのはお前だ。そしてここから消え去るのもお前だ」

「な…っ⁉︎おじさんに言ったらオマエなんかスグにでも退学にしてくれるんだからなっ‼︎」

「馬鹿だなお前は。お前のだーいすきなおじさんはとっくの昔に理事長を退職させられてる。無能だから」

「…っ⁉︎」


怒りで顔を真っ赤にして叫ぶアレはとても醜く、滑稽で、無様だった。


ずっと、ずっと、見返してやりたいと思っていた。


だから勉強も運動も努力に努力を重ねたし社交性も疎かになどしなかった。


恋人はある意味でアレのおかげでこの腕に抱くことが出来たのでそこは感謝しているが、でもアレのおかげで恋人はとても深い傷を負ったのでやはり許せない。


「あの人を、友人だと振り回していたあの人を階段から突き落としたこと。あの人に深刻な怪我を負わせたこと。

何よりあの人を、“自分”だけの友人だと身の程知らずに主張したこと。

俺は何一つとして許しちゃいない」

「な、アイツは、俺の…」

「あの人は俺の友人で優しい人だからお前を突き放せずにいた、それだけだ。それを勘違いしたお前はあの人を…っ‼︎」


恋人であり、元は俺の友人だったあの人はアレを邪険に出来ずにそれなりの距離を取っていたのだが、アレはその距離を気付こうともせずに唯一のまともな友人だとして振り回した。

あの人が拒否を示しても無理矢理に掴んで引き連れて、最後はいらないなどとふざけたことを言って階段の一番上から突き落としたのだ。


「オレを見てくれないオマエなんかいらない?あの人はお前なんか最初から見ていない」

「ぇ…?」

「勘違いも大概にしろ。そろそろ親もお前を庇いきれないだろうしな?」

「どういう、意味だ…?」

「俺もお前もあくまでも分家の一つでしかないのに何を勘違いしている?本家の跡取りになれるとでも?傷害事件ばかり起こすお前には可能性のカケラもありはしない。

今回の件で本家及び分家筋全員の総意でお前たちの追放が決まった。

『今後、我らが家名を使うことを禁ずる。もしこれを破った場合、どうなるかは分かっているだろうな?覚悟していろ、愚か者共』だそうですよ?」


呆然と目を見開いているアレに深くため息をつく。


愚かなことだ。


何の確証もなく、本気で自分こそが後継者であると思っていたのだろう。候補ではなく、後継者であると。


だが本家の血筋でなく、分家である者が後継者になんて簡単になれるわけがない。

まして実力主義を掲げて成長してきた一族だ。アレのように無能で無知でいつまでも餓鬼のままなヤツを後継者にするわけがない。候補として名前が挙げられたことすらないのに何故そんな勘違いをしたのか。

どうせあの両親がアレが本家を継ぐのに相応しいなどと夢見ていたのを都合良く変換したのだろうが。


おまけに何度も何度も家名に泥を塗られたのだ。

ここまで猶予してやったことを感謝して欲しいくらいだというのに。


俺は今後、本家により近い血筋の家へと養子に入ることが決まっているがそれを今ここで言うつもりはない。

どうせ今頃、親には伝えられていることだろうからそう遠くないうちにアレにも伝えられることだろう。



やっと、長年の望みに手が届いた。



「お前もさっさと荷物を纏めて出て行くんだな。そうでなければどうなるか、分かるだろ?」

「ひ…っ⁉︎」

「まあ、全ては自業自得だがな」


呆然としていたアレは自分に集まる視線に気付き、そしてその視線の意味にようやく気付いて顔を真っ青にする。


憎しみ。


怒り。


嫌悪。


負の感情が全て集まったその視線。


それに恐怖したアレは助けを求めるように近くにいた“元”生徒会役員たちを見るが、彼らにも等しく視線は向けられており彼らはそれを諦めたように受け入れていたので助けは見込めない。

強烈な悪意に、今まで気付きもしなかったその悪意にアレは慄いた。


「なんで、なんで…っ」

「なんで?それくらい、自分で考えたらどうだ?」

「オ、レは…」

「あぁそうだ、“元”生徒会役員の皆さん。貴方たちが責任を持って連れていって下さい」

「え?」

「“俺たちがお前のことを守るから”と声高に主張していたでしょう?有言実行出来ないのであれば、更に貴方たちの評価を下げることになりますよ?」


底辺をも突き抜けて下がった彼らの評価がこれ以上下がってたところでどうということもないのだが。

彼らは視線を彷徨わせ、そしてアレから視線を逸らした。


後は好きにすれば良い。

目的は達され、アレの絶望に満ちた顔を見ることが出来たのだから。


目線を彼らから上げて、俺はこの場に集まった全員に宣言する。


「さぁ、皆さん。邪魔なものはなくなりました。

かつての名声を、信頼を取り戻すのは非常に難しいでしょう。ですが、この荒廃した学園を立て直したその時、以前よりも素晴らしい学園になっているはずです。他の追随を許さない学園に…私たちはその礎となれるのです。

頑張りましょう。

私たちにはその力があるのだからっ‼︎」


歓声が起こる。

腕を高らかに上げ声を上げる生徒たちの姿を、“元”生徒会役員たちは呆然と眺めるだけだった。



こうして俺はアレと親と縁を切ることが出来た。



これから更に数ヶ月後、学校の再生を後輩たちへと引き継いだ俺は大学へと進学しあの人と再会する。


「また、同じ学校に通えるな?」

「あぁ、何も邪魔するものはない。ここまで気持ちは清々しいのは初めてだ」


アレがどれほど望んでも何をしても、アレですら手に出来なかった人。


それがこの手の中にある。


なんという優越感だろう。


「お前さ、ホントに性格悪くなったよな。小さい頃はもう少し素直だったのに」

「心外だな…だがまあ、否定出来ない。こんな俺は嫌いか?」

「残念ながら、俺も良い性格はしてなくてな。…お前にお似合い、だろ?」


俺が何を考えてもけして見放しはしないひとがいる。


俺もこの腕の中にある恋人も、アレによって狂わされた一人かもしれない。


それでも構わない。


狂わされていたとしても、一番大切なことは間違えたりしない。


それで充分だ。














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