表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7【完結】

翌日。


洸一に理解できるかどうか心配だったけど、隠し事はしないで、全てをできるだけきちんと伝えることにした。


パパの中には、神さまの気まぐれのせいで、産まれたときから「オンナノコ」が住んでいる。

手術すれば本当の「オンナノコ」になれたけど、パパは、どうしても君のパパでいたかったんだと正直に話した。

パパはママが大好きで、ママもパパを愛していて、だから洸一が産まれたんだよというと、洸一は分かってると肯いた。


「それで、パパは今も女の子になりたいの?」


本当は、きっとそのほうが楽に生きられるような気がするけど。

むしろ、そのほうが自然なんだろうとも思えるけど。


「ううん。ぼくは、オンナノコじゃなくて、洸一のパパになりたかったんだ」


洸一が生まれてきてくれて、本当に嬉しかった。

これまでの悲しいことも、悔しいことも全て清浄にしてしまう聖なる存在だと思った。


きみが産まれた朝の感動を、きっと一生忘れないと伝えた。

黎明の空、薄い桃色とオレンジの、北に向かって流れた雲の色まで、きっとずっと覚えている。


いつか、ぼくの命に終わりが来て目を閉じたとき、最期に瞼に浮かぶのはあの感動的な朝の風景だと思う。


「全てを失っても、ぼくは君を守りたかったんだ。君が大切だった」


どこかすっきりとした面差しで、洸一は「わかった」と答えた。

まだ小学三年生で、どこまで分かっているのだろうかとは思うけど、きっと子どもは大人が思っているよりも遥かに大人に近いのだ。

小さいだけで語彙と表現方法は少ないけれど、まぎれもなくれっきとした人格を持っている。




洸一は、診察室の丸い椅子をくるくる回しながら待っていた。


「又、派手にやったね。今度の相手は誰?」


そう言うと、口を尖らせて言い訳をした。


「言っておくけど、手を出したのは向こうが先だからね!」

「パパは外科のお医者様じゃないから、これ以上ひどい怪我になったら、外科に行ってもらうからね」

「わかってるよ」


わかってるけど、ぼくはパパが一番好きだからパパに診てもらう、と平気な顔で洸一は言う。


見た目は、ぼくとすべて同じようでいながら、この屈託のない真っ直ぐな所はきっと沙耶さんに似たのだ。

凛々しい少年らしい眼差しを持っていた。

ぼくには、とても眩しい。


喧嘩をしたり、サッカーの試合に負けて悔しかったりすると、必ず黙ってぼくの前に立った。

不思議だけど、パパがぎゅっとしてくれると、悲しいときは悲しい気持を、痛いときは痛みを吸い取ってくれる気がする、と洸一は言う。


「痛そうだなぁ。ほっぺた、大丈夫?」

「平気だよ」


そう言いながら、手当てが終わっても涙ぐんでじっと顔を見つめていたりするから、ぼくは困ってしまう。


「洸ちゃん、おいで」


ぎゅっと抱きしめて、薄い汗のにおいをかいだ。


いつか巣立ちの日が来るまで、うんと甘やかしてあげる。

忘れないで。

どんなことがあっても、何があっても、ぼくはぼくの全てをかけてきみを守るから。

ぼくがこれまで貰った、たくさんの優しい気持ちを、全て君にあげる。


『きみを守るためなら、ぼくは何だってする』


それは、君が生まれて父親になった朝、ぼくが最初に決めたこと。


腕の中で見上げた君が、ぼくに向かって天使の顔で微笑んだ。


「じゃ、塾に行ってくる」

「うん。気を付けて。車に気を付けるんだよ」

「わかった」


今はない洸兄ちゃんが、幼いぼくを見つめて、何を思っていたか今ならわかる。


静かな微笑と沈黙で、何も求めず見守ってくれた、優しい従兄弟。


見つめた視線の先にあるそれを……


人は、<愛しいもの>と呼ぶ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ