7【完結】
翌日。
洸一に理解できるかどうか心配だったけど、隠し事はしないで、全てをできるだけきちんと伝えることにした。
パパの中には、神さまの気まぐれのせいで、産まれたときから「オンナノコ」が住んでいる。
手術すれば本当の「オンナノコ」になれたけど、パパは、どうしても君のパパでいたかったんだと正直に話した。
パパはママが大好きで、ママもパパを愛していて、だから洸一が産まれたんだよというと、洸一は分かってると肯いた。
「それで、パパは今も女の子になりたいの?」
本当は、きっとそのほうが楽に生きられるような気がするけど。
むしろ、そのほうが自然なんだろうとも思えるけど。
「ううん。ぼくは、オンナノコじゃなくて、洸一のパパになりたかったんだ」
洸一が生まれてきてくれて、本当に嬉しかった。
これまでの悲しいことも、悔しいことも全て清浄にしてしまう聖なる存在だと思った。
きみが産まれた朝の感動を、きっと一生忘れないと伝えた。
黎明の空、薄い桃色とオレンジの、北に向かって流れた雲の色まで、きっとずっと覚えている。
いつか、ぼくの命に終わりが来て目を閉じたとき、最期に瞼に浮かぶのはあの感動的な朝の風景だと思う。
「全てを失っても、ぼくは君を守りたかったんだ。君が大切だった」
どこかすっきりとした面差しで、洸一は「わかった」と答えた。
まだ小学三年生で、どこまで分かっているのだろうかとは思うけど、きっと子どもは大人が思っているよりも遥かに大人に近いのだ。
小さいだけで語彙と表現方法は少ないけれど、まぎれもなくれっきとした人格を持っている。
洸一は、診察室の丸い椅子をくるくる回しながら待っていた。
「又、派手にやったね。今度の相手は誰?」
そう言うと、口を尖らせて言い訳をした。
「言っておくけど、手を出したのは向こうが先だからね!」
「パパは外科のお医者様じゃないから、これ以上ひどい怪我になったら、外科に行ってもらうからね」
「わかってるよ」
わかってるけど、ぼくはパパが一番好きだからパパに診てもらう、と平気な顔で洸一は言う。
見た目は、ぼくとすべて同じようでいながら、この屈託のない真っ直ぐな所はきっと沙耶さんに似たのだ。
凛々しい少年らしい眼差しを持っていた。
ぼくには、とても眩しい。
喧嘩をしたり、サッカーの試合に負けて悔しかったりすると、必ず黙ってぼくの前に立った。
不思議だけど、パパがぎゅっとしてくれると、悲しいときは悲しい気持を、痛いときは痛みを吸い取ってくれる気がする、と洸一は言う。
「痛そうだなぁ。ほっぺた、大丈夫?」
「平気だよ」
そう言いながら、手当てが終わっても涙ぐんでじっと顔を見つめていたりするから、ぼくは困ってしまう。
「洸ちゃん、おいで」
ぎゅっと抱きしめて、薄い汗のにおいをかいだ。
いつか巣立ちの日が来るまで、うんと甘やかしてあげる。
忘れないで。
どんなことがあっても、何があっても、ぼくはぼくの全てをかけてきみを守るから。
ぼくがこれまで貰った、たくさんの優しい気持ちを、全て君にあげる。
『きみを守るためなら、ぼくは何だってする』
それは、君が生まれて父親になった朝、ぼくが最初に決めたこと。
腕の中で見上げた君が、ぼくに向かって天使の顔で微笑んだ。
「じゃ、塾に行ってくる」
「うん。気を付けて。車に気を付けるんだよ」
「わかった」
今はない洸兄ちゃんが、幼いぼくを見つめて、何を思っていたか今ならわかる。
静かな微笑と沈黙で、何も求めず見守ってくれた、優しい従兄弟。
見つめた視線の先にあるそれを……
人は、<愛しいもの>と呼ぶ。




