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日常はいつもドラマの続き  作者: てんもん
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いつものこと

リハビリのつもりで書いた短編集です。

お暇潰しになれたなら、幸いです。



「おぅい、手伝ってくれぇ!」

父が隣の田んぼの真ん中にいた。残暑の色濃く残る九月の半ば。前日から朝までの仕事を終えて帰宅した昼頃だ。陽射しは薄いが港町の海沿いなので、湿気が汗の蒸発を邪魔している。

(そんな中で、手伝えと?)

 胡乱げに車を降りて庭を横切り、敷地を囲むコンクリートの天場に立った。1.5m下の泥の中で、70になる父親が米藁を束ねていた。

隣田は家の物ではないが、持ち主と契約し、こちらで全てやるなら藁を持ち帰って良いということになっている。

父は定年し日雇いになってから、庭の一部を畑に変えて耕しだした。どんどんとのめり込み、牛糞や海藻を貰ってきては土作りから始める凝り様。この藁も、冬野菜を作る際に畑に撒くつもりだろう。

「だからといって、多すぎねぇか?」

 呆れて声が漏れていた。なにせこの人ときたら、半反を超える広さの藁を一人で束ねて回っているのだ。やりすぎだろう。

「だって、持って行って良いって言われてるから」

「だから、年考えろ」

 70超えた人のやることじゃない。

(仕方ない)と、ため息交じりに家に入り、作業着に着替えて長靴を履き、麦わら帽子に手袋に、マスクをつけていざ出陣。

 0m地帯だからと無理をして、親が頑張って1m嵩上げした敷地から、梯子を伝って降りてゆく。稲刈りが済んですぐの田は、ぬかるんで踝近くまで足が沈む。ぐちょぐちょの足を引き抜き近くへ寄った。

「悪ぃな。作った束を、かたっぱしから庭へ放り投げちゃくれねぇか」

 その言葉に目を瞠り、半笑いで見回す。あちこちに散らばる置かれた束は、既に25以上。しかも更に増やすつもりかせっせと次を纏めている。

 半反の沈む大地を往復しながら一つ一つ持ち帰り、1.5m上に運べというか。

 横目で睨むと、「頼むぜぇ」としか言わない親父はこちらを見もせず束ねに戻る。睨み甲斐がない。

(こうなったらさっさと直ぐに終わらせてやる!)

 全力で足を抜きながら、可能な限り速足で。100m×200mに広がった散らばる束を一つ一つ担いで戻る。梯子なんぞ面倒臭いと、理不尽のカタキとばかりに無言で下から投げてゆく。

「やるねぇ、流石は俺の息子」

「煩っせぇよこんちくしょう!」(仕事帰りの息子をこき使いやがってクソ親父。疲れてるんだよ休ませろ!)

 そうして何往復かしていると、父親がマスクをしてない事に気が付いた。その上束ねながらゲホゲホ言ってる。

「マスクつけなよ」 無視された。

「マスクつけろよ」 ツと向こうを向かれた。

「さっきからゲホゲホ言ってんじゃん! 藁のダニは体に良い訳ないんだから、今からでもマスクして来いこの頑固!」

「煩ぇ! お前の部屋の本よりマシだ、積んだ積んだしやがって! 床が抜けたらどうしてくれる! あの埃のダニも凄いんだろうなぁ片付けろ」

「今そっちの話はいいんだよ、逸らすんじゃねぇよ話の筋を!」(駄々っ子かこの爺は!? たまに心配してやりゃ図に乗りやがって! もう知らん無視だ無視)

 お互い無言で相手に負けじと動いてゆく。束ね爺と運ぶオッサンが汗だくになって競争する。

 一時間ほど経ち、束ねる藁がなくなった頃、マスクをしてなかった方の咳き込みが酷い音量で急に響いた。

 最後の束を残し、後は運び終えて側に寄る。

「だから言ったろマスクしろって! 頑張り過ぎだ若くねぇのに!」

「煩っガホゲホッ……、よゴホガハッ! こちとら、慣れてるブホ、ゴホ!」

「慣れてたら何だってんだよ咳しとるだろが! 心配してやってんのにこの、少しは心配してる奴の言うこと聞けよ!」

「煩ぇっつってんだ! 大丈夫ったら大丈夫なんだよ!」

 カっと頭に血が上った。

「ならもう良いわ、二度と心配してやらん!」

 最後の束を引っ掴みノシノシと大股歩き。梯子を上って溜まった束山の上に放り投げる。

「フン!」っと鼻息をついて振り返らずに家に入った。長靴を脱ぎ、汚れた服を洗濯機に放り入れてシャワーを浴びる。

 父親は戻ってこない。玄関の開く音もしない。ムカムカしながら服を着て、カーテンの隙間からチラと見る。まだ咳をしながら藁束を畑の小屋に入れていた。

 音量を絞った唸り声が喉から上がる。出て行こうとしたがシャワーを浴びた後だった。変な声がまた漏れる。さすがに今からまた汚れる気にはなれない。

 仕方なく見つからないようチラチラ見守り、小手先でうがい薬をコップで作る。最後に塩を一摘み。

 父親が玄関に近づいてくる。あと少し。急いで三和土の腰掛の上にコップを置いて、足音を殺して二階へ上がった。

 ドアの隙間から耳だけ澄ます。

 何かと葛藤しているかのような沈黙がしばらく続き、そして、根負けしたかのような小さなうがいの音が聞こえた。

 安心し、二度頷いて扉を閉める。

 そんな静かないつもの日常。


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