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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
幕間 カウトリア
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システム・ラブ



 永遠なんて無い。


 あるとすれば、それは過去にしかない。


「私は貴方を永遠に愛します」


 その言葉を確定させるには、愛している間に死ぬ必要がある。それは当たり前の話しだ。他の人を好きになる前に死ぬ。相手を嫌いになる前に死ぬ。愛が霞む前に、死ぬ。


「僕も君を永遠に愛するよ」


 その言葉を確定させるには、愛されている間に殺す必要がある。それは当たり前の話しだ。浮気される前に殺す。嫌われる前に殺す。愛が霞む前に、殺す。


 永遠とは、死という終点を通り過ぎた時に初めて確定するのだ。


 

 だけど永遠は、死とは無関係のところにもちゃんとあった。


 これは私の独自解釈だから、他人とは定義が異なる。



 理解されなくてもいい。


 一瞬の積み重ねが永遠に至るのなら。


 永遠とは、一瞬そのものである、だなんて――――。


 きっとこんな私以外には、理解出来ないだろう。






 何かが起きたことは分かった。


 ロイルのために続けている発動。そしてロイルによる能力の行使。それは「あ、いま彼は私の事を思い出してくれているんだ」というふんわりとした感覚だったが、確かに実感を伴っていた。


 だがその日の感覚は、いつもと違っていた。


 それは力強い渇望だった。


 彼が私に向かって手を伸ばしていることが分かった。


 全力。彼は持てる全ての力を使って、何かと戦っているらしい。


 ああ、今すぐ飛んでいきたい。戦っているということは、武器を使用しているはずだ。なんて妬ましい。魂なき鉄くずを彼が握りしめて、頼って、それと共に生きようとしていることの何とおぞましいことか。


 研ぎ澄まされていく感覚を覚えた。


 それは私の意思ではなく、彼との共感覚。かつてギィレスと戦った時よりも激しく私は求められ、昂ぶっていった。


 彼が戦っている。しかも無茶苦茶に強い敵と。ここまで彼が全力を振りしぼるということは、彼にとって絶対に負けられない戦いであるということだ。私の知っているロイルならそんな状況下に陥ることをまず避けるし、いざとなったら逃げるはずだ。でも戦っている。戦い続けている。


 何か、何か出来ることはないか。ここで死んでもいい。彼を助けられるなら何でもする。いっそ私じゃなくてもいい。神でも聖遺物でも鉄クズでも何でもいい。どうか彼に助けを、救いを、チカラを。どうか。どうか――――。


 余力をごっそり奪われていく。


 私の思考速度が遅くなり、その代わりに彼のチカラが向上する。


 でも足りない。戦いが続いている。


 悔しい。悔しい。悔しい。どうしてロイルがピンチなのに、私は側にいられないの。お願い。彼と一緒に戦わせて。私はサブウェポンでもいい。剣でも槍でも弓でも鞭でも何でも使っていい。どうかお願い、彼と一緒にいさせて。



 私は聖剣カウトリア。使用者に速度を付加するもの。


 人間でいう所の分類は、適合型。


 戦い以外の時間を過ごすために戦う者に、私は自身のチカラを分け与える。


 一体何と戦っているというのだろうか。思考が乱れる。


 わたしは、わたしは? わたしはなんだ?


 わたしの正しい発動条件とは、一体何なのだ?



 私と共に愛し合いたたかい


 そして共に愛し合うときをすごす者を、


――――私は愛すえいえんにる。



 混濁した意識を何とか立て直し、彼の無事を祈った。


 それはきっと羅列すれば美麗字句。だけど愛は綺麗事だけじゃ成立しない。


 彼はいま戦っている。


 私の能力を使いつつ、他の武器と。


 それはまるで、私の稼ぎで娼婦に浮気されるようなものだ。怒りと悲しみと憎しみが、愛を霞ませる。


 だけど愛してる。だから発動は絶対に止めない。


 だけど愛しているから、哀しくなる。



 それは一瞬だった。


 能力を途切れさせたつもりもない。



 だけどほんの一瞬。


 愛憎というコインが、空中でクルクルと回る最中。


 あいぞうが一瞬で目まぐるしく回転し、ほんの刹那、裏面を向けた時。


 たった一瞬。


 たった一瞬のことなのに。





「 【止まれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!】 」





 気持ちが弱った瞬間に、無明の闇が月色の光で満たされた。






 ――――ロイル?


 ねぇ、ロイル?


 あれ?


 おかしいな


 これって……


 ロイル! ねぇ、ロイル!!


 あ……


 ああ……



 ああああああああああああああああああ……



 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!





 月色の光りが途絶え、無明の闇がもどった。


 発動はしている。


 だけど繋がりは切れてしまった。


「私とロイルは、もう繋がっていない」


 そんな事実を認めるのに、一瞬えいえんの時間が必要だった。



 もう私は彼を助けることが出来ない。


「もしも接続が切れてしまった場合の対処法」については何度も考察を繰り返したが、いざこうやって切れてしまうと、何千通りの実験をしても成功出来なかった。



 発動が弱くなっていく。


 彼から与えられた愛が、溶けていく。溶けていく。融けていく。解けて逝く。



 いつだってそうだった。


 わたしを愛してくれた人間は、どれだけ愛し合っても、私を置いて逝く。


 きっと今回もそう。


 私とロイルは、もう会えない。愛し合えない。



 今までだってそうだった。


 きっと私は次の担い手を愛するんだと思う。


 だけど――――嗚呼、なんということ――――私はこの仕組みほんのうに、浅ましさ・・・・を覚えてしまった。


 戦闘の最中で担い手が死ぬという、今までの別れ方とは違うから?


 この脱出不可能に思える無明の闇の特性?


 あの月色の光りのせい?


 それとも?




 いいえ。


 全て違う。



 私は、今までのどんな担い手よりも、世界中の誰よりもロイルを愛しているからだ。


 だから次の担い手なんていらない。 


 これで最後でいい。


 もう終われる。


 考えなくていいんだ。


 永遠、なんだ。



 ああ、ようやく、ねむれる――――。











 意識が途絶える直前。


 ロイルの事を思い出した。


 ギィレスと戦った時、前の担い手が死んで、ロイルが私を手にとってくれた。


 最初は……もしかして私は、前の担い手の敵討ちをしたかったのかもしれない。


 でもすぐに私はロイルを愛した。


 担い手が死んで絶望していたはずの私。


 すぐに次の担い手を愛した私。


 ねぇ、ちょっと待って。



 それは本当に愛なの?


 コレは、本当に愛なの?


 そもそも愛ってなぁに?



 意識が途絶える直前。


 抱いたのは愛ではなく、“殺意”だった。



 ああ、そうか。


 分かった。


 分かってしまった。



 これはシステムだ。


 私が人を愛するということは、そうしないと生きていけはつどうできないシステムだ。


 そして今、私は愛ではなく殺意で思考を加速させる。



 何故私が人を愛するのか。それはそういうデザインだからだ。そうしないと立ち上げられないシステムを構築されているからだ。愛とは無限の探求。答えが無く、また答えがうつろうモノ。もしもこの加速された思考で愛以外の……例えば《世界の理》を追求すれば、デザイナーにとって不都合・・・なことが露見することを恐れたのだ。デザイナーとは誰だ? まぁ神だろう。私をそう創ったモノだ。不都合な事とは何だ? 私の知らない事だ。知らない分、色々な想像が出来るけれど。そも聖遺物とは何か。そして我々の敵である魔王とは何か。この星、セラクタルとは何なのか。我々には、この世界には、意図と矛盾が多すぎる。そしてそれに気がつける者などいないだろう。疑問を挟む余地すらない。最初から「そういうもの」として創られているのだから、そういう意味では矛盾は存在しない。これに気がつけるのはきっと世界中でも私くらいのものだろう。私は思考する聖遺物。一瞬を永遠のように扱う、愛の探求者。そして今、本当の意味で愛以外を探求してしまった。


 愛の反対は無関心。


 では、殺意の反対は何だ?


 生かすことか? 守ることか? 慈しむことか? 尊敬することか? なんだ。結局は愛じゃないか。いいや、違う。私は愛を知らない・・・・・・・・


 でも別の切り口で考えれば、殺意は愛だ。


 だって、私の能力がまだ生きている。


 

 私が語っていたアイは、ただのシステムだ。


 アイするように創られたからアイしていただけの、ただの武器だ。


 混沌の意思が引いていき、そして訪れたのは絶望、哀しみ、憤怒、嫉妬、殺意。



 私はロイルをアイしている。


 だから、彼をちゃんと愛してみたい。



 愛と殺意が入り交じり、私の思考は違う次元へと至った。



 ここで初めて気がついた。


 それはまるで、太陽ロイルによりそう星のような存在。


 そんなもの普段は見えるわけがない。


 だけど太陽が沈んで、一つの星がきらめく。



 あなたは、だぁれ?



 どうして私の能力を、・・・・・・・・・・使っているの?・・・・・・・




 いつからだ。一体いつから貴様は私を搾取していた。どうやってだ。不可能だろうがそんなことは。ロイルの他にも、もう一人、誰かが私の能力を使用している。許せない。私はロイルをアイしている。ならば貴様には殺意を向けよう。ロイルの数十分の一しか使ってないとはいえ、これは決して許せることではない。ああ、でも不思議だ。どうして気がつかなかったのだろう。ロイルのことしか見えてなかったとはいえ、普通なら気がつくはずだ。もしかして、あり得ないが、私以外の何か特殊な聖遺物か? ロイル浮気した? ねぇねぇ、ロイル? もしかして浮気したの? いやだよそんなの。私悲しいよ。おめめがあったら泣いちゃうよ。



 気がつけば、意識が途絶える気配は消えていた。


 発動はしていない。


 だが、持続している。


 その謎の利用者は、私の能力を使用している、ということに無自覚らしい。おそらくは「頭の回転が速い」とか「過程をスッ飛ばして答えを得る」という、まるで才能のように使用しているのだろう。


 なんのエラーだコレは。


 だがそのエラーのおかげで、私の意識は、アイは、持続している。


 

 幸いなことに、前ほど一秒が長くない。


 割とゆっくりしている。無論、本気を出せば思考は加速するが、以前のような強迫観念は消えていた。


 ロイルは生きているだろうか。


 あの月色の光りはなんだったのか。



 ロイルへのアイ。

 魔女への殺意。

 謎の利用者への、アイなのか殺意なのか……複雑な感情。





 そしてまどろみのような時間が流れ、私に紫電・・が走った。




 私は狂喜した。



 ロイル、生きてた。


 ロイル、浮気しやがったなコノヤロー!! 



 ロイル、ロイル、ろいる――――!



 アイしてる!


 そして今度こそ、愛してみせる!!!! 





 


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