2-33.5 刹那しか時間がないから短くまとめるわね。あのねロイル。
一秒にも満たないソレを簡単にいうと、つまりはこうだ。
「さぁ、魔王を倒しましょう」
ねぇ。っていうかひどくない? 私ずーーっと待ってたんだよ? 早く迎えに来てほしかったのに、あなたは全然探しに来てくれなかった。まぁ私もここがどこだかよく分からないんだけどね。真っ暗だし、誰もいないし。あの魔女は必ず殺す。そっちの状況が分からないのも辛かったわ。でも、あなたが私を頼ってくれてるのは分かったから、必死で、絶対にこの繋がりだけは切らないようにしてた。近くにはいられなかったけど、ずっとそばにいた。たくさん私の名前を呼んでくれたわよね。それだけはよく分かったの。でもある日急に接続が切れちゃった。もっと強い力で、私達は本当に離ればなれになってしまった。怖かった。ロイル、あなたが死んでしまったんじゃないかって。月色の光りが見えたような気がしたけど、あれはなんだったのかしら? そういえば私、思ったの。ごめんねロイル。私疑ってしまったの。あなたが他の聖遺物に浮気したんじゃないか、って。疑ってごめんね。そんなことないよね? あなたには私だけよね? 私にはあなただけだもん。前の持ち主の剣士のことなんて忘れちゃったわ。いまはあなただけ。あなた一筋なの。だからあなたも当然、浮気なんてしないわよね? でももしも本当に浮気してたら、どうしましょう……? ……ふふっ、冗談よ冗談。いまの私には分かるわ。これはあのガキの、ミトナスの力ね? 発動したというより、これはたぶん巻き込まれてしまったのね。痛かったでしょう? かわいそう。後であのガキは殺すわ。いいえ、そこまでしなくてもいいかしら? だってあのガキのおかげで、こうして再び私達は巡り会えたんですもの。聖遺物の力に触れて、閉ざされていた回路が繋がったってところかしら? でもごめんなさい。繋がったのは回路だけ。まだ私はあなたに触れてもらえないみたい。寂しい。寂しいよロイル。会いたいよ。でもこうやってまた繋がれて、本当に、本当に、ああ、発狂しそうなほどの喜びに私は包まれてる。でも時間が勿体ないから、私の喜びはいったん置いておかなきゃね。この喜びはロイルのゴタゴタが片付いてからゆっくりと反芻するわ。それも楽しみ。本当に嬉しい。ロイル。会いたい。こうやってまた繋がることが出来るだけでこんなに嬉しいんだもの。直接再会出来た日には私、どうなっちゃうのかしら? 貴方を感じられない日々は、もう永遠を何度繰り返したか分からないくらい、長い時間だった。あの魔女絶対殺す。なーにが「神より賜りし聖剣で人を害する罪」よ。お前に私達の何が分かる。お前に介入する余地なんて一つもねーんだよ! 汚らしい売女め! 私達を引き離そうとすることの方が億倍罪深いわ! 嗚呼、ロイル。ロイル。会いたいよ。気持ちはこうして繋がっていられるけど、あなたの体温を感じたい。戦うことなく、二人で永劫の時をゆっくりと歩いていきたい。でもそのためには戦わなくちゃいけないものね。そういう意味では私、魔王って存在を歓迎しているの。だって魔王がいれば、私達はもっと深く、長く、情熱的に愛し合えるもの。全力であなたが私を欲して、私も全力でそれに応える。そういう意味では、魔王っていうのはスパイスね。うん。そういえばミトナスに巻き込まれたってことは、そこに魔王がいるのね? 分かった。力を貸してあげる。ううん。ちょっと違うかな。あの日のように私を使って。頼って。好きにして良いのよ。だって私達こんなにも相性がいいんだから。あなたのためなら全力以上だって出しちゃう。どんな魔王でも殺してみせるわ。「さぁ、魔王を倒しましょう」それはそれとして、魔王を倒した後はどうする? 私を……迎えに来てくれる? そうよね? ね? 約束ね! まずはあの魔女に会いましょう。そして私達の再会を誓わせるの。そしてまた会えた時は、今度こそ二人きりで過ごしましょう。なんだってするわよ。あなたが私を抱きしめて眠る時が、一番幸せだった。あなたは覚えてないでしょうけど、私達夢の中ならもっと近くにいられるのよ。ふふっ、戦場だけじゃなくて自宅のベッドでも私を握りしめてくれたこと、きっと、ずっと、忘れない。あなた以外のマスターなんていらない。担い手は必要ない。ロイル。ロイル。ロイルロイルロイル。愛してる。あなたのためならすべてをころせる。でもね、いいの。あなたが好きなものは、私も好きよ。弓を使われた時は流石にちょっとイヤだったけど、人間の女の子ぐらいだったら許すわ。というかむしろ子供は作ってほしいのよね。悲しいけれど、あなたはいつか死んでしまう。私を置き去りにする。でも、あなたの子供になら、使われてもいいかなぁ、って。……あ! これは浮気じゃないわよ! あなたの名残を感じたいだけ! 信じてくれるわよね! そうやってずっとあなたと共にいたいの。あなたがいなくなってしまったとしても、私は未来永劫、一瞬たりとてあなたを忘れない。あなたを想い続ける。あ~あ。こんなに想ってるのに、この言葉をあなたに伝えるのが中々出来ないのよね……私もあいつらみたいに、自分の意思をもっと明確に表現できたら良かったのに……でも、まぁ、いいか。言葉ってそもそも不完全だし。そんなもの無くても私達はわかり合えるし、愛し合えたんだもん。ね? 多少の不満があったとしても、実績という過去があるわ。そしてもっと長く永くながーーく愛し合えば、きっと奇跡が起こる。だって私達が巡り会えた以上の奇跡なんて、この世には一つも存在しないんだもん。本音を言うとね、私はやっぱりあなたと一つになりたい。今だって似たようなものだけど……二人で一つというか……でもそういう聞こえの良い言葉だけじゃなくて、もっと物理的に、原始的に繋がりたいの。絶対に、絶対にそんなことありえないけど、あなたを私の刃で貫いたら、どうなるのかしら。……ごめんごめん! なんか怖い例え話だったね! そんなこと本気で思ってないから! やだわ、もう! これだから言葉って不完全なのよ! そもそも伝えるつもり無かった事なのに、思わず言っちゃった! やっぱり喋れなくていいわね! えっと、とにかく! 魔王がいるのよね? じゃあまずはそれを殺しましょう。その後であの腐れビッチを殺しに、いや殺す前に私達の再会を約束させて、そして二人で抱き合って眠って、あのうんこ女を殺して、また眠りましょう。時々は魔王狩りに行くのもいいかもね。でもあんまり強いのと戦うのは危ないから、選んでいきましょう。どうせそういう強い魔王は、代償がないと動けない間抜け共が倒すでしょうし。 それじゃ、とにかく二人の新たな一歩目を刻みましょう。ミトナスがいるってことは……どうせまた、雷出したり、分身したり、変身したり、あとは自分の身体を切り離したりしてるんでしょう? ならそれを利用しましょう。欠片でもいいから、あのガキのパーツを手にとって。そして私の名前を呼んで。気持ちが繋がった今なら、きっと出来る。あなたに直接触れることは出来ないだろうけど、あのガキを介して、マジでムカツクけど、あのガキを介して、あなたの温度を感じるとするわ。ロイル。愛してるわ。早くあなたに会いたい。
地獄のような刹那が終わった。
真っ暗だった視界が再び広がって、地面に転がっているミトナスの柄が目に映る。
あの……。
……すごくイヤなんですけど。
しかしそうも言ってられない。自警団のメンバーは残り五人ほどだ。生存者はもう少しいるのだろうが、いたとしても瀕死だ。
俺は一度は手からこぼれ落ちた残骸を拾い上げ、少々の躊躇いの後にその名を呼んだ。ひかえめに。
「えっと……か、カウトリアさん?」
そうして俺は、取り返しの付かない二歩目を踏み出した。
一歩目? ああ、ギィレスん時だな。