2-26 ガッドル団長はよく喋る
大柄な肉体。自信に満ちあふれた風貌。
年の頃は、三十代後半か。
ユシラ領自警団・総括団長ガッドル・アースレイ。
そのアースレイという家名に俺は聞き覚えがあった。
ある筋では有名な、武闘派一族だ。武闘派すぎるきらいがあるので、そういう性質を持たない(優しかったり勉強が好きな)人々はアースレイの家名を名乗らないぐらいだ。
しかしこの人はアースレイを名乗った。つまりはそういうことだ。
「失礼ですが、ガッドルさんの出身は……」
「おう? 俺の家名を知ってるのか? ううむ、そりゃ照れるな。どうせろくでもない二つ名とか、噂話とか、尾ひれだらけで本体が見えないくらいの滑稽無糖な伝説を酒場か戦場で聞いた口か。がはは」
「滑舌めっちゃいいですね」
「うむ! お褒めにあずかり恐縮だ! ところで客人、俺の身の上話と魔王討伐、どちらの話題が好きかね?」
「……失敬。では作戦会議に移りましょう」
俺はシリックにちょいちょいと手招きをして彼女をテーブルに着かせた。
この取り調べ室には椅子が四つ。テーブルは一つ。全員が着席すると手狭さが格段にアップした。
「えっと、とりあえず何から話せばいいのか……」
〈要点だけを先に話しましょう。団長。この聖遺物は私に適合しています。よって私が魔王テレザムを討ちますのであしからず〉
「うむ! 却下だ! 何故ならお前はまだまだひよっこ! 聖遺物の力を得て、さも己がパワーアップしたかのように感じるのはやむを得ないが、たかが適合したぐらいで突進されては聖遺物も泣くかもしれん。よって、時間は惜しいが選定をきちんと行う! 以上!」
妙に滑舌のいいガッドルはリズミカルにそう言い放ち、腕をがっしりと組んで鼻息を大げさに吐き出した。しかしまぁ、言ってることが完璧に正論である。
彼は「かもしれない」と言った。つまり「お前のようなひよっこに使われてはせっかくの聖遺物も真価を発揮出来ぬわ!」という決めつけではないのだ。
言動は元気というか荒い感じがするのだが、思慮が深い。慎重であり、リスクと勝率をきちんと見分けている。これを説得するのは骨が折れそうだ。
〈しかしながら団長、この魔槍ミトナスが適合するのは私だけなんです。他の人間には使えません〉
「ほほう! 何故そう断言出来る?」
〈それはこちらのロイル氏が説明します〉
丸投げかよ!!
いきなりすぎるわ!
「おお! 魔王退治のスペシャリスト等という、胡散臭い肩書きを堂々と名乗るこの者か!」
ずい、と彼はこちらに乗り出して俺を査定した。
「ふむ! 改めて観察させてもらうが、強そう……いや……うむ! 戦場で生き延びるタイプだな! 身体よりも先に頭が動くと見た! しかし不思議だ。もし君と俺が戦ったらどうなると思う?」
「えっ……たぶん俺が負けると思いますね」
「ふむふむ! なるほど。戦力を見極めるのが上手いのか、あるいは慎重なのか臆病なのか。しかし言わせてもらおう。君は俺と戦ったら負けると思ってはいるが、同時に『どうにかなる』と確信もしているな」
やばい、と思った。
なので俺は迅速に行動した。
「ええと興味深いお話しではありますが、その前にいいですか?」
「なにかね」
「娘がトイレに行きたがっているので、ちょっと失礼します。ほら、行くぞフェトラス」
俺はフェトラスが何か言う前に彼女の手を引き、取り調べ室を出た。
「あ、危ねぇ……」
「お、お父さん? わたし別にトイレ行かなくてもいいんだけど」
「ああ、違う違う。そうじゃなくてだな。あの人はヤバイ」
「ヤバイって、何が?」
「あれはドラガ船長とは別の意味で、お前の正体に迫れる人間だ」
「……どういうこと?」
へ? という感じでフェトラスは首を傾げる。
ああ、もう。とにかくここは危険だ。人もいるし。
「詳しくは後で話すが、お前は先に宿屋に戻ってろ。あとでちゃんと説明してやる」
「むむ! お父さん、そんな感じで誤魔化して、わたしを作戦会議からハブこうとしてるでしょ!」
「違う。いいかよく聞け。滅多に口にしないから、本当によく聞け」
「……なに」
「俺はお前に誓う。必ず、きちんと全てを話す」
「――――――――」
「俺が誓うって言うときはアレだ、すげー覚悟決めて言ってるから、信じろ」
「分かった。信じる」
フェトラスは真面目な表情で即答した。
こいつのこういう所、ほんと好き。
「じゃあ、先に宿屋に戻ってた方がいい?」
「そうだな。退屈かもしれないが、大人しく待っててくれるか?」
「うーん……そしたら、一個だけお願いしてもいい?」
「なんだ」
「ちゃんと大人しく待ってたら、わたしのお願いを一個聞いてほしいの」
「だから、ソレは何だ、と聞いてるんだが」
「ないしょ!」
「エゲつねぇなお前。……俺がそれを叶えるという保証はないぞ」
「ううん。大丈夫。きっとお父さんなら叶えてくれる」
「――――分かった。可能なら、叶える。無理なら無理って言うからその時は諦めろよ?」
「大丈夫。それじゃあ、って、どうしよう。そういえばわたし達ってシリックさんのお家に泊まるつもりだったから宿屋の鍵って借りてないよね?」
「あ。そういえばそうだったな。うーん……よし、フォート辺りに頼むか。あいつなら俺たちの特徴も分かるだろうし、何だかんだ顔見知りだしな」
というわけで俺はフェトラスを連れて受け付けに戻り、フォートを呼び出してもらった。そして彼に「機会があれば騎士剣を抜かせてやるから、俺の娘を宿屋にエスコートしてついでに宿泊予約もしてほしい」と紳士的に頼んだ。
ちなみに「自分の獲物を他人に抜かせる」という行為は、よほどの信頼関係が無い限りは行われない。自分の力量をはかられるし、そのまま斬りつけられたら人は死ぬからだ。そういった伝統的なアレで、俺の提案は彼にとって割と破格であった。
「いいの!? じゃねぇ、えっと、分かった。べ、別に騎士剣どうこうじゃなく、ガキを宿屋に案内するぐらいは業務の範疇内だ」
「すまんな。じゃあ頼む」
「それじゃお父さん、あとでね!」
「おう!」
なんてやりとりをしつつ、俺は取り調べ室に戻った。
扉を開けた瞬間、剣戟が響いた。
「ふはははは! 良い、実に良いぞ! コレが聖遺物か!」
〈クッ……!〉
「何を遠慮しておる! 殺す気で来い!!」
シリックがミトナスでガッドルに襲いかかっており、それをガッドルが剣でいなしている最中だった。
ぽかん、と見つめている数秒の間に三合は打ち合った二人。シリックは獣化こそしてないが、割と本気でガッドルに打ち込んでいるように見える。それに室内であるため、長モノは扱いづらかろう。更にはミトナスの本領は高速戦闘にあるようだし、って、見てる場合じゃねぇ。
「はっ、いかん。あんたら何やってんだ!?」
慌てて止めに入ると、なんとガッドルは視線を俺にやった上で、ミトナスの突きを払った。
「や。いかんいかん。客人の前で無礼を。こりゃシリック! いったん止めだ!」
〈…………チッ!〉
めっちゃ悔しそうなシリック。青筋まで浮いている。
〈この人間風情が……煽りよる……!〉
そんなコメントが見えそうなオーラ。まぁこわい。
ガッドルは剣を無造作に下ろし、お茶をすすった。
「うむ。ぬるいを通り越して最早冷たいわ。遅かったな客人。おや? 娘さんはどうした」
「あ、ああ。具合が悪そうだからフォートに頼んで宿に送ってもらったよ」
「そりゃいかん。旅の疲れが出たのかもしれぬ。あとで医者をよこそう」
「それには及ばない。ありがとう――――と、ところで、いま何を?」
おう、とガッドルは微笑んで
「とりあえず俺も選定してみるかとこの聖遺物をシリックから受け取ろうとしたら拒否したので、少々ジャレてみたのだ。がははは! しかし流石は聖遺物だな! 固いわ! 俺の剣が欠けそうだったぞ! 何よりはシリックの腕前だ! 槍など訓練以外では扱わんかったはずなのに、見事な槍さばきであった! これも聖遺物の恩恵とやらか?」
とよく喋った。
「え、えっと……」
「そして更に分かったこともあるぞ!
――――貴様、シリックではないな?」
〈ツッ!〉
「あちゃぁ……」
「ふむ! 恐らくは聖遺物の影響か! 詳しいことは分からぬが、混じっておる! 改めて問うが、貴様はどの程度シリックなのだ?」
フェトラスを先に返して正解だった。
ガッドルは、そのたくましい肉体と言動で「野性的」とも呼べそうな印象ではあるが、彼の本質は違う所にある。直感ありきではあるようだが、それを冷静さと想像力で補完し、現実と折り合いを付け、答えを出す。
つまり簡単に言うならば野性的とは真逆。
「天才」に近いソレなのだ。
答えを出して、補完する。
そんな風に思考の順番が常人とは異なるのだろう。恐らく学者の方が向いている。
まぁ。
だからこそ。
攻略は簡単だ。
「その件に関しては俺から説明していいか?」
「ふむ?」
「シリック。とりあえずお前は静かにしてろ。何故ならお前が説明しても何の証明にもならないからだ。第三者である俺から説明する方が、まだなんぼか信憑性が増すだろ」
〈…………了解です〉
「ふふん」
意味深に笑ったガッドルはカップのお茶を飲み干し、再び椅子にどっしりと座った。
「さて、客人よ。俺には悪いクセがある。会話の途中で口を挟みまくることだ」
「既に気がついてた」
「だろうな。俺の嫁もたびたび『たまには黙って私の話しを聞け。最後までな』と愚痴をこぼす。全然見当違いのことも言うし、少しでも『おや?』と思えば先に口が開く。そんな俺を黙らそうとしたら何が必要と思うかね?」
「ドラマチックさと、リアリティだ」
それがこの天才を攻略する糸口だ。
似たような人間は今までに何人か見てきた。
「ぶはははは! 素晴らしいなお前!」
なんか呼び方が変わった。どうやら気に入られたらしい。
「よろしい。ではその瀟洒な表現に免じてしばらく俺は黙ろう。だが気を付けろよ? 何かしらの狙いがお前にはあるのだろうが、俺が優先すべきは魔王テレザムの討伐。しかもこちらの損害を極めて低くすることだ。それを踏まえた上で、俺が踊りたくなるような曲を頼むぞ?」
「ははっ。めんどくせーなアンタ」
というわけで俺も素で喋ることにする。
「まずは確認だが、ソレが聖遺物であるということに疑いは無いな?」
「無い!」
「気持ちの良い返事をありがとうよ」
テンポを崩さないために、俺は出来る限り要点をしぼって話すことにした。
「それは魔槍ミトナス。分類は代償型だ」
「ほう……ではその代償とはなんだ? シリックの人格か?」
「近い。が、正確にはそうじゃない。シリックは〈シリック〉のままさ。あんたの言ってた通り、少し混じってしまっているが」
「ふむ……代償型と言ったな。それはどのぐらい重い代償なのだ?」
「それは大丈夫だ。上手く事が運べば、大した問題じゃない。契約が解除された時、契約中のことが記憶に残っているかは不明だが」
「ふーむ?」
そうして俺はまず魔槍ミトナスのスペックについて説明した。
・持ち手の形態変化を起こす槍であること。
・戦闘技術を継承すること。
・歴戦の槍であり、数多くの魔王を討ってきたこと。
そして重要なのが、発動条件であり契約条件。
「魔槍ミトナスは、魔王を倒すまで契約の解除が出来ないんだ」
スッ、と冷徹な目でガッドルはシリックを観察した。
「では、俺は今のこいつを何と呼べばいいのだ?」
「それは彼女自身に聞いてくれ」
俺がそう促すと、シリックははっきりと答えた。
〈私はシリック・ヴォールです。けれども、領主の五女ではありません〉
俺はその解答に対して、綺麗だな、と思えた。
シリック・ヴォール。それは偽名。
領主の娘が「こうなりたい」と願い、自ら名乗った人生の指針。
そんな娘の願いをミトナスが汲み、一人と一本で描いた理想。
今ここにいる彼女は、まさしくシリック・ヴォールだった。
その解答はガッドルを正しく沈黙させた。
ドラマティックであり、リアリティのある答えだった。俺がどうこうするまでもなく、会話は終わる。
彼は黙ってお茶のおかわりをすすり、あっという間にカップを空に。というかポットの中身でさえ既に空になっていた。
「ふむ……。よし分かった。俺はお前を変わらずシリック本人として扱おう。どうやらその槍に乗っ取られているわけでもなさそうだし、彼女は自ら望んで、そうなっているのだと認識しよう」
「その解釈で正解だ。だがそれでもやはり、あんたの知っているシリックとは少し違う。だから、今から言うことはちょっと驚くことかもしれないが……」
「単騎狩りだろう? 想像がつく。契約の解除条件が魔王討伐であり、その自信がある、と。しかし分からんことがある。お前の目的は契約を解除することか? あるいは魔王を討伐することか? きっと両方なのだろうが、お前にとってはどちらの方に重きを置いておるのだ?」
〈――――はるか昔なら、魔王を討伐することだけが〉
「ほう」
〈そして昨日までは、どちらも等しかった〉
「ふむ」
〈今はどちらでもない。契約の解除も魔王討伐も等しく私の願いですが、もっと強い気持ちを私は知りました。私は、ユシラ領のみんなを守りたいんです。この手で〉
「なぜかね?」
〈――――私にしか出来ない、なんて思い上がったことは言うつもりもありません。ですが、今の私にはそれが出来るだけの力がある。ならばそれを行使しない理由はありません。私は、恥知らずになりたくないのです〉
「気に入った」
ガッドルは満面の笑みを浮かべた。
「シリック・ヴォールよ。今のお前は、いつかお前が至るであろう、お前自身が描いた理想に近い。故に俺はユシラ領・自警団・総括団長ガッドル・アースレイとして答えよう」
彼は朗らかな笑みを浮かべ、こう言った。
「単騎狩りは、不許可とする」
〈なっ〉
「俺も同行する」
「えっ」
「まぁ、な? 俺も流石に魔王とやりあうのは怖いんだが、部下にそうまで言われちゃ引き下がれぬよ」
〈――――危険です。守りきれる自信もありませんし、何が起きるかも分からない〉
「では問うが、シリック。お前は単騎狩りと言いつつ、このロイルには同行してもらうつもりだったのだろう? それは何故だ?」
〈それは――――〉
「万が一、お主が負けた時に、ロイルに戦ってもらうつもりだったのか?」
〈――――――――そう、です〉
マジか。
素直にそう思った。
「お、お前、負けること想定してたのか?」
〈負けることはあり得ません。私は必ず魔王を討ちます。ですが――――相打ちは、避けたいと〉
「…………ああ、なるほど」
絶死の覚悟なら、どんな魔王でも屠れる。屠ってきた。
しかしそれはかつてのミトナスの戦い方だ。
今ミトナスは、経験したことのない状況に置かれている。
契約者の人生を代償にする聖遺物。でも今は、契約者の人生の「半分」しか代償に出来ていないのだ。
ミトナスは「戦闘形態を維持したまま、どこまでも魔王を追い詰め、魔王を殺す」聖遺物だ。しかし今のシリックは宿にも泊まるし、船にも乗るし、飯だって食うし、散歩だってするし、魔王を殺す本能を持ちながら、戦う理由も知った。
そしてミトナスは思った。護りたいと。シリックを。ユシラ領を。みんなを。
〈ロイルさんに何かあったら、その、大変なことになるのは重々承知しているんですが、彼は魔王退治のスペシャリストです。いざというときは私も覚悟を決めますし、彼もまた、生き残る理由を持つ者だ〉
以下、俺的翻訳。
〈ロイルが怪我したり死んだりしたらフェトラスがヤバいことになるけど、ロイルは元英雄だ。カウトリアは怖いけど、いざとなったらロイルを受け入れる。聖遺物を経験した者なら、他の者よりも上手く自分を使えるだろう。あとフェトラスのために絶対生き残るんだ、という意思が強いから、色々な意味で適任かな、と〉
まぁ妥当だ。
適任かどうかは知らんが、妥当である。
契約の解除は出来ないから、俺は〈ミトナス〉になることは出来ないが、魔槍ミトナスと協力することは、恐らく可能だ。獣化せずにミトナスを振るうことになるだろう。多少の実験は必要だろうが、成功率は高い。
正直、やっぱり魔王とやりあうのは怖いしリスキーだけど。
負ける気もしない、というのが根拠こそないが俺の結論である。
そんな考えに浸っていると、ガッドルはこう続けた。
「つまるところ、やはりシリックも不安なのであろう。だがお前は、こう言っているんだぞ? 『私は恥知らずになりたくないから、お前等一般人は大人しく私の凱旋を待っていろ』と。つまり、
俺たちに恥知らずになれと言っているわけだ」
〈む……〉
「故に俺は同行するぞ。――――だが俺はお前の意見も尊重する。というわけで、この三人で魔王を倒しに行こうではないか」
「三人? この三人だけで?」
「なんだ。お前は隊列を組みたいか?」
「そりゃ、まぁ。俺はこの辺についてあんまり詳しくないから、不安がある」
「二人で行くよりかはマシであろう」
「そもそも俺は単騎狩りってのに基本的に反対だったんだがな」
ああ言われてしまっては、うっかり納得しそうにもなったが。
「だいたい、アンタに何かあったらこの自警団はどうなるんだよ。トップだろ?」
「トップだからこそ、死地に赴くのだ。アースレイの者を団長などに任命したアホ共はそれを既に理解している。故に、俺が死んでも指揮系統に問題はない。俺が死んだ後もこの自警団は上手く回っていくだろう。そもそも知っているか? この自警団は平民と貴族の二部構成になっているが、元々の指揮系統は完全に別々だった。だが俺は面倒が嫌いなので強引に統合させたのだ! 現在は結果を出しているが故に文句も封殺出来るが、やはり派閥争いの残滓はそこかしこにある。主に貴族側の引退した自警団の者達の意思なのだが」
「……本当にスラスラとよく喋るな」
「この魔王降臨という有事に際し、俺たちが討伐に成功すればそんな派閥争いも無くなるはずだ。いや、既にほぼ無いのだが。とにかく俺の大切な団員達は、老人共のクソみたいなエゴやプライドに悩まされることなく、清々しい気持ちでこの地を護れるようになるだろう。よって、俺は必ず生還せねばならない」
「ならやっぱり、隊列を組んだ方がいいんじゃないか? 平民と貴族が協力して魔王を討った、って方がエピソードとしては綺麗にまとまってる」
「そのエピソードは結局のところ『どちらが狩ったか』についてのみ言及されるようになるだろう。そういう意味じゃ、シリックは最も適任だ。平民として扱われる貴族。ある意味では最高の人選だな」
「……むぅ」
「そして俺はこの地において、平民も貴族も関係ねぇ! という思想の先駆者だ。条件は満たしている。そしてロイル。お前は証人だな。部外者故にフェアであろう。というわけでこの三人が適任だ。総力戦としての連隊戦力は魅力的かもしれんが、結局のところ、魔王と人間が戦って勝てるはずもなし。無用な犠牲者を出すのは避けたい」
「…………むぅ」
俺がイメージしていたのは「リンチ」なんだが。
戦うのはシリックがするにしても、その魔王にたどり着くまでに色々と温存しておきたいというのが本音だ。
「むぅ……」
俺はうなり続けた。
でも、なんか急に力が抜けて「ま、いいか」と久しぶりに口癖が出た。
「じゃ、とりあえずこうしよう。道中までは大隊とまではいかなくても、何名かで隊列を組んでいく。そして魔王の根城に近づいたら野営。決戦は三人で行う。それでいいな?」
「む。ウチの馬鹿共だったらこっそり後から付いてくるぞ?」
「そこはアンタが何とかしてくれよ」
「うむ。よかろう」
潔い返事だった。
「シリックも異存はないな?」
〈……ありません。が、一つだけ〉
「なんだ」
〈今から出発しましょう〉
冗談キツいぜ。