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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
第一章 父と魔王
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エピローグ


 ある所に英雄と魔王がいました。


 両者は激しく戦い、全てを出し切りました。


 そして、その結果は引き分けでした。



「お父さん、体は大丈夫……?」


「まだ筋肉痛とかあるけど、三日も寝てたら治ったさ。でも……ああ、どうやらカウトリアの方は逝っちまったようだな。もう何も感じられない」


「そっか……カウトリアとの繋がってた線をわたしが切っちゃったのかなぁ」


「違うな。たぶん能力酷使のせいだ。元々失った聖剣だし、あった方が不思議なんだよ」


「……本当に体の調子は平気? 目とか見える?」


「問題ない。バッチリだ。お前こそどうだ?」


「ん……やっぱ今の方が調子がいい。あの時は……力ばっかり溢れてるから嫌い」


「ちなみにもう俺の心は読めないんだろ?」


「うん。もうさっぱり。そもそも月眼? だっけ? あれはたぶん、二度と使えない感じかなぁ」


「……そうなのか?」


「あの時のことよく覚えてないし、使い方もよく分かんないし、これが一番重要なんだけど使う必要性が全くないというか。あっ、でもお父さんの心は読みたいかな」


「頼むから止めてくれ。それと、これは推測だが、心が読めるのは月眼の時だけだろうな。繰り返すが、二度と月眼なんて抱かないでくれ。マジで二度と対処出来る気がしない」


「……そっか。うん。分かったよ」


「まぁ……銀眼も月眼も綺麗だったけどな」


「そうなんだ。どれが一番綺麗だった?」


「ん? やっぱ一番は今のフェトラスだな。黒い瞳の方が俺は好きだぞ」


「えっ、と……えへへ……好き?」


「……ZZZZZZZ」


「……お父さん?」


「ZZZ…………わ、わかった。わかったから銀眼は止めろ。クソ、何でそんなに簡単に力のコントロールが出来てるんだ。お前、成長速度で言ったら過去の魔王を軽く凌駕してるぞ」





 あるところに人間と精霊がいました。


 両者は協力しあい、快適に生活していました。



「はい、果物とってきたよ」


「おおサンキュー。いやぁ、フェトラスのおかげで食料採集の手間が省けて助かる。やっぱりモンスターはいないか?」


「いるけど、近寄ってこない。というか凄い勢いで逃げてくんだよね……。なんか申し訳ない気持ちになってくるよ。これどうにかならないかなぁ……」


「いや、いいことだろ。楽でいい」


「……カルンさんは、今頃どうしてるかな」


「死体が無かったからなぁ。きっと自分の国に帰ったんじゃないか? しぶとそうだし。でも、これは予感だが、あいつの不幸はまだまだ続くぞ。うわぁ、可哀相……んで、カルンがどうかしたか?」


「う、ん…………今思えば、お父さん以外に話した事があるのってカルンさんだけだから……。お父さんがいればそれでいいけど、少し寂しい気もするかなぁって」


「どんなに後悔しても昔にゃ戻れない。だからもし今度会ったら……一緒に謝って、カルンにも謝らせて、三人で飯でも食おうぜ」


「……うん」




 あるところに父と娘がいました。


「お父さーん」


「ん? どうした」


「あのさ、ちょっと気になったんだけど……いつになったらわたしは牛肉が食べられるの?」


「あーうん。そうだな。いつか食わせてやる」


「その“いつか”って、いつ?」


「……さぁ? 正直なんとも言えん。迎えは来ないし。俺がいた国は遠いし。まぁ何はともあれ、ここにいる限り牛肉は食えないだろうな」


「がーん。ショック」


「まぁ、時期が来たら旅でもしてみようぜ。どうせモンスターは寄ってこない。気楽に歩いてればいつかは牛とも遭遇するだろ」


「……旅先で牛と遭遇する可能性って高い?」


「ぶっちゃけ低い」


「な、なんでっ!?」


「この地域じゃ牛みたいな生き物は生き残れないだろうしな」


「希望を持たせるだけ持たせて絶望させるなんて……お父さんは極悪人だ!」


「……いや、そんな力一杯悔しがらんでも」


「お父さんのいた国には牛がいるの?」


「いるよ? 柵の中にいっぱい」


「――――じゃあ、お父さんの国に行こう」


「は?」


「わたし、もっと美味しい物を食べたい。綺麗なモノも見たい。他の人ともお話してみたい」


「んんん。それは……」


「わたし、世界が見たい」


「……そっか」




 二人の親子は、血の繋がっていない親子。それどころか種族が違います。


 でも二人は親と子でした。



「そうは言ってもな、この大陸に迎えの船は……」


「ううん。こっちから行くの」


「………………」


「絶対にステーキを食べるの」


「……なんでそんなショボイ動機で銀眼が出るんだ」


「え。出てる?」


「一応それ、伝説級なんだぞ? お前もテキストに載るか? つーか銀眼って敵意の表れじゃないのかよ……違うのかよ……もうそのネタだけで学者になれるわ俺……」


「もうこのまま、今から行っちゃおう。ね、お父さん?」


「今からぁ!? ど、どうやってだよ」


「い・く・の♪」


「わっ、なにする! 離せ!」


「 【ステーキとりあえず百人前】~♪ 」


「おおおおっ!? と、飛んだー!?」



 二人の親子が空を飛びます。


 目的地はもっと楽しい所。



「お、おい! 大陸までは相当距離があるぞ!! 保つのか!? というか本気かお前!?」


「めちゃめちゃ本気だよ! あと、なめないでほしいな。こんな魔法、宮廷料理に比べたら前菜だよ!」


「両方とも食ったこと無いくせに!」


「だから食べに行くの!」



 どんどん彼等がいた無人大陸が遠くなります。でもあそこには彼等の家があるから、いつかは帰ってくるのでしょう。小さな家で、しかも布団は一つしかない家でも、あれが彼等の家なのですから。


 かなり速度を出してるから当然ですが、風切り音がすごいです。彼はその音に負けないように大きな声を出しました。


「なぁ! 大陸に行くのはいいけど、まず何をするんだ!?」


「さぁ!? まだ考えてない!」


 行き当たりばったりにもほどがある。成長しても相変わらずの無鉄砲ぶりだ、と彼は思いました。そんな彼に彼女はこう言います。



「とりあえず、寿命が来るまで楽しく生きるの!!」


 それはいつか彼が言った言葉でした。


「もちろん、お父さんと一緒に!」



 それに彼女の言葉が加わって、彼はなんとも不思議な気持ちを覚えました。


「…………当たり前だ! だってお前は」


「魔王フェトラス! お父さんの娘だもんね!」


 彼は「うむ」と頷いて、ニッカリと笑いました。


 彼女は彼の心こそ読めませんでしたが、気持ちは通じています。きっと似たようなことを考えているんだろうなぁ、なんて。


 何を食べさせよう。ドコに行こう。どんな事をしよう。ずっと一緒に、いつまでも。


 こうして親子は旅人になり、美味しい物や綺麗なモノ、素敵な人々を求める……楽しい人生を歩み始めたのです。



「目指せ世界! あと美味しいもの!」


「つーかお前、大陸の方向は分かってるのか!?」





              了





第一部・完


次からは時間が少し戻って、補足的なエピソードを入れていきます。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっべ、まじのまじで第一部・完だった。恥ずかしッ。
2022/03/12 22:31 サットゥー
[良い点] 1部めっちゃ泣きました…感覚も失わなくてほんとに良かった…
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