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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
第一章 父と魔王
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29 「魔法の気持ち」



 いま、何って言った?


 え。もしかして、え?



『まぁなぁ……これはなぁ……うん。ま、いいか!』


 聞こえてきたのは、いつもの口癖。


 至ったのはとても冷静な思考―――普段通りの、お父さんだった。


『しょうがないわコレ! 元々俺の手には余る案件だったわ! はっはっは! 寂しさのあまり魔王を育てました、とか! 我ながら追い詰められすぎだろ!』


 笑ってる。頭がおかしくなったのだろうか。


『でもしゃーないな。だってフェトラス、可愛いもんな』


 聞き捨てならない。


 可愛いって言われた。




『やれること、やりたいこと、全部やった。だから、良い。これでいい』


 嘆き疲れたのか、絶望しきったのか。お父さんは全てを受け入れた。


 その精神は先ほどまでの漆黒ではなく、命の輪廻を繰り返して浄化された魂のように澄んでいた。



(いつもこうやって……こんな事を繰り返して……受け入れてきたのだろうか……)


 なんて無茶。時間は哀しみを癒す。だけど、だからって、能力を使ってその哀しみや絶望を消化しきるなんて酷すぎる。死の恐怖を癒やす時なんて、想像も出来ない。


 混乱するわたしを差し置いて、お父さんの思考からどんどん恐怖が引いていくのが分かった。


『謝っても遅いし、これが結果だ。もう変わらない。ああ、そうさ。この命でフェトラスに教えてやるんだ。命に値段はつけられないけど、命には価値があるってことを』


 どこまでも怖がりで、臆病なくせに。神速で永遠を駆け抜けたお父さんは己の運命を受け入れた。



『フェトラス。俺はお前が後悔してくれると嬉しい。俺が死んで泣いてくれたらそれでいい。それだけで俺は救われる。でも、そしてだからこそ。俺は……絶対に命乞いなんてしない』


 ……ダメだよ…………だって、もう後悔しはじめてるんだもん……。もう泣きそうなんだもん……。ダメだよ……そんな救い、ダメだよ……。



『せいぜい思い悩むがいい。俺がどうして最後にお前をこうして抱きしめたと思う?』


 ……どうして? どうしてお父さんはわたしを抱きしめているの?



『クックック……死者は何も答えない。お前は絶対に解けないクイズと共に生きるのだ』


 ねぇ、教えてよ……。どうしてお父さんは……。




『まぁ、正解は俺がお前の近くにいたかったから、という極シンプルな俺のワガママなんだけどな。故にお前には絶対分かるまい。ふぅーはははー』




 ……ずるい。お父さんはずるい。



『こうやって……最後には近くにいられるんだ。俺は幸せモンじゃねーか』


 わたしの方が幸せ者だよ……。



『思えば長いような、短いような、濃い開拓生活だったな』


 うん……そうだね。私の人生の長さだね。毎日お父さんと生きてきた時間……。



『っていうか、開拓なんてほとんどしてねーよ』


 あー……そういえばそうだったね。



『もう途中から完全に子育て生活じゃねぇか』


 …………うん。本当にそうだよね。







『愛してるぜフェトラス』


 唐突に響いたその言葉は、私の頭の中を真っ白にした。




 瞬間、わたしは、全てを識った。


 愛してる。


 その言葉の意味を、理解した。



 そしてお父さんのではなく、わたしの思考が、想いが、あふれた。



 この甘い会話には制限時間がある。


 もう、数秒しか残っていない。それはカウトリアの世界ではとても長いけれど、“たった数秒の”永遠だ。



 足りない。



 全然。



 これっぽっちも。



 足りるわけない。



 全然……。




 全ッッッ然! 足りない!!!!!!!





 わたしは……わたしは魔王フェトラス!


 誰よりも強いのだから!


 誰よりも強欲であっていい――――!







 お父さんの背後から竜巻が迫ってくる。


(だめ。止まって)


 魔法が止まらない。お父さんの肩に顔をうずめる。


(お願い、止まって)


 どうすればいい。どうすれば止められる。どうすれば、あの言葉をちゃんとこの耳で聞く事が出来る。


 完璧に組まれた呪文が憎い。これを吹き飛ばすのは不可能だ。


「……と」


 でも、止めるしかない。わたしは答えを得た。そしてそれを守りたい。



 だから殺す。


 盾の気持ちで、剣をふるう。


 

「止まれ……止まれ! 止まれ!!」



 

 わたしは魔力以外の何かも消費して、全力で叫んだ。





「 【止まれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!】 」







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