勇者さま
「…………ふー」
虹色の天井を眺める。
氷河上に創り出し領域内。
わたしは虹色の床に寝っ転がって、ぼんやりとしていた。
「…………あー」
口から零れるのは意味の無い音ばかり。
だけどそれは、つい最近までの嘆きとは音色が違っていた。
「ふとした時に泣いちゃうのはいつもの事だけど……泣かされたのは久しぶりだなぁ」
わたしはスッキリしていた。
思考がクリアだ。視界もクリアだ。心が重たくない。
そもそも心とはカタチが無くて、力場に左右されないもの。だけどここ最近のわたしはずっと心に圧力を感じていた。
それが、なんだかすっきりしていた。
五感が鋭くなったといういうよりも、シンプルに元に戻ったような。全能感というよりも、解放感の方が強い。
悲しさと虚しさで器からあふれ出た涙と違って、嬉しさが注ぎ込まれて溢れた出た涙は成分が異なるのかもしれない。
「くそう……なんか自分がめちゃくちゃ単純な子みたいで、ちょっと悔しいぞ……」
言ってしまえば現実は何も変わっていない。
お父さんは死んでしまったし。まだ産まれてきてくれない。
そして世界の平和を保つため、今は旅にも出れないシーズンでもある。
言ってしまえば、わたしは『やりたい事が何もない状態』をずっと続けていた。
それで心が……なんというか、淀んでしまったり、停滞したり、動かなくなったりして、息苦しさに包まれて生きていた。
しかしどうだろう。現実は何も変わっていないくせに、わたしの心身はとても身軽になった。ただ手紙を読んだだけで、だ。
そして冷静になって考えてみると、月眼の楽園を巡るとか本気で頭がイカれてるとしか思えない所業だった。
……最初は単純にヴァウエッドさんの手料理が食べたい、という世間話から始まったんだっけ。
月眼/暴食の魔王ヴァウエッド。お料理が大好きで、何でも食べちゃう『最強のコック』
男でもあり女でもあり、元々は混成の魔王を名乗っていたとか何とか。その楽園に入ったらまず『自分が食材として不適切であることを訴える』という行動を取らないと、楽園の主であるヴァウエッドさんに食べられちゃうらしい。
すごい。どう考えても絶対に行きたくない。
――――でも、それでもやっぱり、同じ料理人としては、とても興味深い。
十三代目の月眼として、先達の月眼を求めたわけじゃない。
わたしの生き様が、偉大なる料理人に会ってみたいと思っただけ。
そうだよ。そもそもヴァウエッドさん以外には用事なんて無いんだよ。なのにアホなわたしはロキアス(呼び捨て)に踊らされて、なんだか妙な事になってしまったわけで。
……まぁ、エクイアさんと友達になれたことは本当に良かったと思うし、パーティル様と遊べたのは楽しくて、いい経験だった。それにポーテンスフさんをちょっぴり幸せの方向に導けた自分が誇らしくも思う。
ロキアスは知らん。
知らん。知らん。
ヤツにしおらしい態度でごちゃごちゃ言ってしまった時もあるけど、もう知らん。
勝手に大魔王テグアに突撃して、それで死…………。
「……………………」
…………いや、まぁ、流石に死ねとまでは……思うだけで、本気願ったりは……いやでもさっきはマジで殺してやろうと思ったんだけど…………。
「あーあ」
せっかくスッキリしていたのに、わざわざモヤってどうする。
わたしは短いため息をついて、気持ちを切り替えた。
「まぁいいや」
ロキアスのことは考えるだけ無駄だ。
そんな事よりも大切な事がある。どう考えてもわたしが今、お父さんの次に考えなくちゃいけないのは、弟分であるディアのことだ。
怖がらせてしまった。
それは間違い無い。
遠慮も配慮もなく威圧してしまった。
たぶん心が折れるぐらいには怖かったはずだ。だけど、それでも彼はわたしを止めようとしてくれた。わたしを傷つける覚悟で、私に殺される覚悟で、わたしを諫めようとしてくれた。
彼が行ったのは勇敢な偉業だ。成果こそ出せなかったけど、彼には勇者という称号が相応しいかもしれない。
「……まずはディアに謝ろう」
きっともう、許すとか許さないってステージじゃないだろうし、彼は二度とわたしに気安い態度を取ってはくれないだろうけど――それはとっても寂しいけれど。すごく悲しいけれど――それが私という化け物が示した態度の結果だ。
というかきっと、この結界を解いたらディアはそこにはいないだろう。
見つけるのは簡単だけど、探すのは、追うのは、可哀相だ。
わたしはもうディアに合わせる顔が無いのだ。
――――なんてことだ。謝ることすら難しいだなんて。
「……うう、すごくヘコむ」
だけど涙は出ない。きちんと受け入れる。
わたしは月眼という名の、なんでも出来る化け物かもしれないけど。
だからと言って、なんでもしていいわけじゃない。
ようやく立ち上がったわたしは、そのままお父さんの手紙を三回読み返して[ふぅ]と心地よいため息をついた。
『気長に待っててくれたら、嬉しいな』
うん。分かったよお父さん。良い子で待ってるね。
たくさんお話しのネタを集めておくね。
もう危ない事はしないよ。楽園巡りも中止するよ。どうせ他の月眼は会話不能らしいし。
帰ってきたら結婚してね。
わたしは魔法を解除して、再び凍風に身をらした。鋭敏さを取り戻した感覚はその強烈さにブルリと身体を震わせる。
「わぁ。すっごく寒い」
思わずそう呟くと「ノンキかよ」というツッコミが右の方から入った。
「えっ」
「……なんだよ」
「ディア……」
「……おう」
氷河の上に、ディアが立っていた。
ほんの一瞬だけ『幻覚かな?』と思ったけど、彼は真っ直ぐにわたしを見つめている。
こんなに寒いのに。いつ戻るかも分からないのに。わたしはこんなに化け物なのに。
逃げなかったの? 怖くないの? メンタルは大丈夫?
色んな言葉が浮かんだけど、わたしは一番大事なことを口にした。
「ディア。ありがとう」
「………………」
「……ごめんね」
「…………ん」
彼は短い返事のあとに、わたしから視線を外して長いため息をついた。
「――生まれて始めて、本当の意味での『怖い』って感情を知った気がする」
当然だろう。さっきのわたしは、認めたくないけど、ディアに対して殺意を抱いていた。
源泉を殺すことは、結果として全てを殺すことに繋がる可能性がかなり高い。
そして何より、わたしを差し置いてお父さんに会うかのような発言をしたディアに、わたしは。
私は。
わたしは。
「……化け物でごめん」
真摯に謝る。許されたいからじゃない。ただわたしが謝らないといけないからだ。
だけどそんな謝罪を受けて、ディアは眉間にシワをよせた。
「いや、別に責めてるわけじゃない。ビビった俺が弱くて雑魚いだけだ。そこは姉貴が謝ることじゃないし、気にすることでもない」
「……そう、かな。じゃあ…………」
弱い者イジメみたいな事してごめん、って? でもそれは絶対に口にしちゃいけない気がするぞ。デリカシーってやつだ。ロキアスには無いヤツ。
わたしは改めて姿勢を正し、頭を下げた。
「…………自分をコントロール出来なくて、ごめんなさい」
今度はそう謝ってみる。
だけどディアは再びため息をついた。
「普通に『心配かけてごめん』だけでいいだろ。……まぁ言っちゃえば、そこも別に謝る必要なんてないんだけどさ」
一瞬、ディアが何を言ってるのか理解出来なかった。
人間で例えるならば――――帰宅したら家族が刃物を握っていて、それを自分に向けてきた直後だというのに、彼は『大した問題じゃない』という態度を示したのだ。
これはとても重大な問題で、シリアスなシチュエーションであるはずなのに。
ディアはか細く息を吐いて「もういいや。……さみぃから帰ろうぜ」と片手を差し出してくれた。
「………………」
「ンだよ」
「…………ごめん。ちょっとだけ、待って」
なんてことだ。
月眼の殺意にさらされてなお、ディアはわたしに手を差し伸べてくれる。
――――そんなことが出来たのはお父さんだけだ。
ディア。
ディアウルフ。
その生まれ持った属性からは考えられない程、彼は温かい。
……可愛い弟分だなんて、もう言ってられないのかもしれない。
わたしは一つの覚悟を決めた。
「魔王ディアウルフ」
硬い口調で呼びかけて、わたしは彼に跪く。
ディアは驚いたように「なっ」と短い声を発したけど構っちゃいられない。
「極虹の魔王フェトラスの名において、貴方の願いを一つ、何でも叶える事をここに誓う」
お父さんに教えてもらった事の一つ。
わたしにとっても「誓う」という言葉は、特別な意味を持つ。
「……制止するヒマも与えてくれねーのかよ」
「うん。あげない。それに遠慮もいらないよ。ついでに言うと拒否しても無駄」
「そもそも、なんでそうなるんだよ。マジで押しつけがましいんだけど……」
よよよ、と顔をおおう彼の様子がおかしくて、わたしは笑いながら立ち上がる。
「そりゃそうだよ。だってわたしがそうしたいと願ったんだから」
「……ハン。そーですか。そーですか。急すぎて実感もクソもねぇわ。……願い、願いねぇ」
「ちなみに『じゃあ願う。早く帰ろうぜ』みたいなヌルイこと言ったら、音速を超える速度を体験してもらうことになるからね」
「…………はぁ…………ん? えっ、いま? いま願いを言わないといけない流れなの?」
「出来れば今すぐ」
「む、無理だよ。……ちゃんと考えさせろ。こんな機会滅多にないんだから」
百点だ。
その返事を聞いてわたしはニッコリと笑顔を浮かべた。
――――そのタイミングで、ぬるんとロキアスが空間の隙間から這い出てきた。
[やぁフェトラス。ご機嫌いかが?]
強い意志を持って、ソレを無視する。
「ディア、とりあえず寒いし帰ろっか」
「……えぇ……? アレ、いいの……?」
戸惑った様子のディアに、わたしは再びニッコリと笑ってみせる。
「いいの」
言葉に感情を乗せる。
愛憎と表現しても差し支えない、とても複雑な感情を。
[アッ、ハイ]
それを聞き遂げたロキアスは、素晴らしい危機察知をして消えた。
……憎たらしい程に、空気が読めるなぁ。
ロキアスがグダグダ抜かしていたら自分でも何をしたか分からない。
そして同時に、そうしたいという願望もあった。
だけどヤツは綺麗に消えやがった。本当に憎たらしい。
「ったく……ズルいというか何というか……」
まぁいいや。
わたしは冷静に、そして素直に「お見事」と口にして、ロキアスの手腕を褒めた。
「姉貴……アレ、ほ、本当に放っておいていいの?」
「いいんだよ」
「でもあれ月眼……」
「わたしの大先輩だね。でも、いいの」
たった三文字の『いいの』
込められた意味は『お前が知る事じゃない』
……だけどそうは言いつつも(ここまで来たら全部話すかぁ)という覚悟をわたしは持っていた。
ディアには全てを知る権利がある。
いや、正確には権利というよりも『魔王ディアウルフには全てを知る価値がある』と言った方が正しいかもしれない。
まぁ表現のアレコレはどーでもいいや。
世界にはびこる神理を教えることによって彼は発狂するかもしれないけど、大丈夫。月眼の間に行けばその辺の問題はかなりクリア出来る。
そのためにはロキアスの協力が必須だけど、ヤツは絶対に受け入れる。だってその方が愉しいからね。
それにどう足掻いてもディアは月眼に至る。
だって何でも出来る化け物が、そう願っているんだから。
だから正しく言い換えると、わたしはディアを月眼にする。してみせる。
ただの魔王で終わらせるには惜しい逸材だ。
否、惜しいどころじゃない。ディアの器の大きさを知った今となっては『彼はただの魔王では終われない』という強い確信がわたしにはあった。
わたしが関与するまでもなく、彼はそうなって当然なのだ。
ディアにはこの世の全部を知ってもらいたい。殺戮の資質なんて与えられたモノで満足するんじゃなくて、本当に自分が欲しいものを探してほしい。――――他ならぬわたしにそう思わせたんだ。だったらもう、逃れることは出来ない。
わたしは、ただ彼の背中をちょっと押すだけ。
「ディア、ごめんね」
「いやもう謝らなくていいよ」
「違うんだ。コレは別件の謝罪」
「えぇ……まだなんかあるのぉ……?」
「良かれと思ってやることだから、許してね」
「…………もういいや」
「……その『もういいや』って口癖なんだけどさ」
「な、なんだよ」
「実はわたし、結構好きなんだよね。かわいくて」
お父さんの口癖で、わたしの口癖でもある『まぁいいや』
そしてそれをただマネをする事がイヤだっていうキュートな動機の口癖であるそれが、大好き。
わたしが幸せそうに微笑むと、ディアは片手で額を押さえてうつむいた。
「はー。二度と口にしねぇ」
可愛すぎかよこの弟分改め勇者様は。
あんなに怖がらせたはずなのに。酷い事をしてしまったはずなのに。
謝ることすら出来そうになかったのに。この子は、本当に、もう。
「ねぇディア」
「なんだよ」
「これは、本当にささやかな冗談の一種なんだけど」
「……なにさ」
「わたしのこと、姉貴じゃなくて『ママ』って呼んでみる気ない?」
ニコニコしながらそう聞いてみたら、彼は。
「コイツは本当に……」
とすごく小さな声で嘆いた。
なぜだろう。哀しんでる?
「あははは、いや、ごめん。本当に冗談だから気にしないで」
「……二度と口にするな」
「ごめんごめん。でも本当にからかったわけじゃないんだよ」
心から、そう想っただけだよ。
「ディア、■してるよ」
「……?」
いまは伝わらなくていい。
だけどいつか彼がソレを知った時。つまり誰かを、あるいは何かを愛した時。
いつかの未来で、わたしの気持ちがついでに伝わると嬉しいな。
わたしの告白が聴き取れなかったであろうディアはちょっと首をかしげて、だけど追求はせずに「マジで寒いから帰ろう」と提案してきたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[ふ、ぅ……]
やぁ、ロキアスだよ。
あの場では大人しく姿を消しておいたけど、もちろん観察は続けていた、いつも通りの僕だよ。フェトラスの威圧はちょっぴり迫力があったけど、その程度で僕が尻尾巻いて逃げると思ってもらっちゃぁ困る。
あれは逃げたんじゃなくて、空気を読んだだけだ。決して逃げたわけじゃないぞ。怖くなんてないぞ。
確かにここ最近のフェトラスは順調に自己領域を拡大していっていて、容易に勝つことが難しくなってはきていたけどさ。
でもさっきのフェトラスは違う。本当に、全然怖くなかった。
勝てるとか負けるとかじゃなくて、ただこちらの戦う気が失せる。
そう思わせてしまう、いわば無敵の魔王。
――――ロイルがいた頃のフェトラスの在り方に近かった。
彼女は他者を害さないし、同じように誰も彼女との敵対を望まない。
それはロイルの願いに通じる所がある。
『世界中のみんなからフェトラスが愛されますように』
……面白い生態だ。
そんな君臨の仕方があってたまるか、という感じは正直するんだけど、この僕でさえその影響下におけるというのなら大したもんだ。
事実、フェトラスが手紙を読み終えたであろう直後に僕は彼女の防壁を突破したけど、すぐに退散した。
正直に言えば手紙を読んだ彼女がどんな反応をするのか観察したかったけど、あの時のフェトラスは自分自身の感情を観察している最中だった。
だから身を引いた。
同じ観察者として敬意を表した。
後に自己欺瞞として[どうやらフェトラスは混乱中みたいだね。手紙という刺激のインプットが完全に終わって、それがどうアウトプットされるか観察する方が愉しそうだ。お愉しみは後にとっておく大作戦だね]なんてことを口にしたけど。
本音は単純。
邪魔したくないな、という気持ちを優先させた。
それだけの話し。
一応僕にもデリカシーはあるのだ。少しだけ。ほんのちょっぴりね。
まぁフェトラスの再起、あるいは再帰に関しては観察を続行するとして。
ここに来て更に愉しそうな人材が出てきた。
魔王ディアウルフ。
元々ユニークな存在ではあったけど。ここに来て僕は彼の出自や性能ではなく、思考ロジックの方にも興味がわいてきた。
思っていた以上に、愉しいことになりそうだ。
姉と弟。
魔王と魔王。
十三代目の月眼/極虹の魔王フェトラスと、その庇護下にある魔王。
その魔王、ディアウルフはまだ殺戮の資質に囚われている。愛という言葉を聴き取れないのも当然だ。
そして……問題解決に暴力的な手段を用いるのも当然のはずなんだけれども。
魔王ディアウルフは殺戮行為をしない。
フェトラスとロイルに矯正されたってのが一番の理由だけど、それにしたって彼の殺戮制御は完璧すぎる。――――そしてそれは、とても酷い話しなのだ。
中身があって。
ボトルがあって。
ラベルがある。
そんなロイルとフェトラスの持論に従って表現するならば、魔王ディアウルフは、
殺戮の資質が混入した本能で。
何もかもを殺したいと思いながら生きて。
だというのに「殺戮の精霊・魔王」というラベルはまだ未使用ときた。
彼は殺戮行為に身を沈めない。手を血で汚さない。足も洗う必要がないくらい清潔だ。
普通の魔王だったら、命を賭けてでも何かを、あるいは全てを殺そうとするだろうに。
そうじゃないにしても、破裂寸前の月眼による殺意を目の当たりにしておきながら逃げもせず、戦う意志も示さず、大人しく待ち続けるだなんて。
矯正なんてものじゃ絶対にあのスタイルは確立できない。
今までは『フェトラスの近くにいるヒトには、彼女のノンキさがうつる(笑)』なんてフワッとした気持ちで見てきたけど、それだけでは説明出来そうにない。
何か特別な理由があるはずだ。
……安直に考えるなら『愛』なんだけど、ディア君は別にフェトラスを愛してるわけじゃないしなぁ。
ディア君に近しいモノを挙げるなら、遊戯の魔王パーティルに多大な影響を及ぼした『ミレーナ』という女性ギャンブラーだろう。彼女はパーティルじゃなくて、パーティルと過ごす日々を愛した。あんな感じ。
そしてあんな感じ程度では、フェトラスの殺意に耐えられるはずがない。
なにか、もっと別の理由が絶対にある。
理由が無いとあの場で待機なんて出来ない。
[本人を直接尋問したら答えなんてすぐに分かるんだろうけど、ちょっと介入度合いが高すぎるもんなぁ]
僕は喋るネズミを解剖する趣味は無いんだ。そんなコトしたら死んじゃうだろう? ソレはもったいないぜ。
――――だからこうやって推察を重ねるしかないんだけども。
どうして化け物を待つことが出来たのか。
フェトラスが化け物に見えなかったのだしたら、何故か。
そもそも、どうして待機という選択を行ったのか。
なぜ。どうして。どうやって。どこから彼は始まったのか。
……もしかして【一番最初に口にしたもの】というのは、僕達が考えている以上に強い影響を及ぼすものなのだろうか。
ちょうどフェトラスが、カウトリアの能力を発動中のロイルを食ったみたいに。
そして奇しくも、赤ん坊だった頃の魔王ディアウルフがこの世で最初に口にしたものは、フェトラスの指先だ。
[……一番最初に口にしたもの。一番最初の判断基準]
もし僕の予想が真実に近いとするのならば。
そして、それがこんな愉しい事になるというのなら。
セラクタルは月眼を産み出す牧場ではなく、むしろ養殖場にするべきなの
ではないだろうか。
最初に食べさせるものを、こちらで選定し、実験し、その結果を観察する。
なんなら僕の指先を囓らせたっていい。
……いや待て。ちょっと待って。
カルンを食わせたら相当すごい事になるかもしれないぞ……!?
[うーん]
悩む。
すごく悩む。
天然モノが最高だと、従来のやり方を続けるか。
それとも養殖しまくって、ただ利益率を追求するべきか。
どっちだ。どっちの方が愉しい?
――――まぁ悩むぐらいなら両方やるだけなんだけどさ。
特にカルンを食わせるのは、なんかもうたまらん。鳥肌立った。
ああ、カルン・アミナス・シュトラーグス。僕の親友よ。お前は最高だ。
[愉しくなってきた……また一つ、死ねない理由が増えたぞ……]
やはり外に出るのは良い。
安寧の部屋から飛び出せば、世界はこんなに刺激的だ。
何はともあれ、フェトラスのメンタルも安定したようだ。
もしかしたら月眼巡りなんてやめる、とか言い出すかもしれないけど。
どうせ何もかもは時間の問題だ。だったら多少ジラされるのも一興だろう。
僕はそんな事を考えながら、愉しい気分でルンルンとスキップをした。
これからフェトラスとディア君はどんなお喋りをするのかなぁ。愉しみだなぁ。
よっしゃ。のぞき見したろ!!
ああ、愉しいなぁ!!!!!!!
スペシャルゲスト・遊戯の魔王パーティル様
[なんだロキアスのあのはしゃぎっぷり。死亡フラグの一種か?]
スペシャルゲスト・カルンくん
「ぜひしんでほしい」