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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
我が愛しき楽園の在り方
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ガッドル・アースレイ 近未来編



 我が名はガッドル・アースレイ。


 貴族の勤めとしてではなく、自警団として近隣を守護しながら見回りを続けている者だ。


 しかしながら昨今では魔族の数も減っており、魔王の存在も激減しているのが現状だ。いるかどうかも分からない敵を警戒するのは、はっきり言って徒労ではないかと思っている。


 だがしかしやむを得まい。これがアースレイなのだ。

 執務室に籠もって書類を眺めているだけでは、感覚も腐るというもの。


『ザザッ――――こちらパウニャ。異変無し。どーぞ』


 腕に装着した精霊具トランシーバーから同僚の声が聞こえてくる。応答のボタンを押して、こちらからも「ガッドルだ。異常なし」と返答を送る。


『なら良かった。ぼちぼち切り上げてダンスフロアーにでも繰り出さないか?』


「相変わらず好きだな、あそこが」


『あったりめぇよ。爆音と閃光。煌びやかなおねーちゃん達。あそこでヘトヘトになるまで踊って飲むから、こんな退屈な任務にも集中出来るってもんさ』


「どうだか。ダンスフロアーが気になってばかりで、こちらの任務の方は気もそぞろになっているのではないか?」


『そう言うなって。だいたい俺の聖遺物の能力は知ってるだろ? 何かあったらすぐに分かるさ』


「聖弓……裂敵弓ヘイナだったか。それが活躍してないようで何よりだ」



 裂敵弓ヘイナ。


 敵を自動感知して、弓が勝手に照準を合わせる聖遺物だ。代償系よりの消費系。


 矢は普通なので攻撃力が高いわけではないが、この聖遺物ははっきり言って強い。オートエイムの能力だが、その真髄は「担い手が認識していない敵も裂敵弓ヘイナは感知する」という点であろう。つまり射程内に敵が入り込んだだけで臨戦態勢が取れるのだ。


 しかし――――かなり強い聖遺物ではあるが、聖弓である。


 魔族と魔王がほとんどいない現在のセラクタルでは、あまり必要とされなくなった武器とも言えるだろう。


 故にこそ、我々のような哨戒任務に就くような貴族が所持しているわけだが。



「まぁいい。そろそろ時間だし、戻るとしよう。ダンスフロアーには行かないが」


『ほんっと真面目だよなお前は。まぁいいさ。気が向いたら来いよ?』


「ああ。通信終わり」


 精霊具のスイッチを切って、あたりに静けさが戻る。


 空は澄み渡り、なんとなく平和であることを実感した。





 大型のトラックがゆっくりと走っている。馬の代わりに精霊を動力にしている車だ。その速度は馬車よりも遅いが、多くの荷物が運べるので最近流行っている。


 道を走るそれをひょいと避けて、私は夕食は何にしようかと思案し続けた。


 街灯に灯りがつき始める。あれもまたランプの精霊具だ。その明るさのおかげで、夜になっても人通りは絶えない。


 馴染みの食料品店にでも寄って自炊するかと考えていると、裏通りからちょっとした賑わいの声が聞こえてきた。


「……なにかトラブルか?」


 自警団としては見過ごせない。腰にブラ下げた武器の感触を確かめて、私は裏通りに侵入した。


 この街の治安は良いのだが、薄暗い裏通りにはそれに相応しい人間が集まりがちだ。


 ケンカや違法薬物の取引、マフィアによるリンチもあれば、時々は殺人事件も起こる。


 だが今日の喧噪はどうやら違うタイプのものらしかった。


「クソッ、早速負けた! どうなってやがんだ!」

「ははは。毎度あり」


 集まっている人間は十人前後。どうやら一人の女性を取り囲んでいるようだが、その声色は明るかった。


「次はオレだ! 今夜こそ絶対に勝つ!」


「おいおい。まだ夕方だよ? 夜まで持つのかい?」


「舐めやがって! いいから勝負だ!」


 何やら楽しそうな雰囲気ですらある。そう察知した私は、手早く自警団の証である帽子を外した。そして念のため上着を脱いで、それで腰に付けている武器を隠す。これで私は一般人と同様だ。


 準備が完了した私は、一人の男に声をかけた。


「なぁ、ここで何をやっておるのだ?」


「なんだアンタ?」


「ただの通りすがりだよ。して、この賑わいは何だ?」


「あー、ここ最近現れたねーちゃんが面白いヤツでな。……まぁ説明するよりも見た方が早ぇ」


 そう言って男は少しだけ身体をズラしてくれる。


 人々の隙間から見えたのは、裏路地に設置されたテーブルと椅子だった。


 座っているのはハゲた男と、真っ赤な髪をした女だった。


「へっへっへ。ミレーナ。今夜こそお前をいただくぜ」


「はいはい。楽しませてくれよ?」


「へへへ! もちろんさぁ!」


「……ちなみにベッドの話しじゃなくて、この勝負の話しだよ?」


「ヒーヒー言わせたんぜぇ! おらっ、10のスリーカードだ!」


「おや奇遇。わたしもスリーカードさ。クイーンだけど」


「はぁぁぁぁ!?」


「しかしながら引き分けとはいかないねぇ。数字の差でわたしの勝ちってことで。――――毎度あり」


「ぬぐああああああ!」


 ハゲがテーブルに突っ伏す。女は楽しそうに笑った。


「さて、次は誰がわたしと遊んでくれるんだい?」


「オレだ! 今日は業物の剣を持ってきたぜ!」


 手を上げた男はいそいそとテーブルに近づいて、ハゲを乱暴に引き剥がす。


「おら、代われ代われ。さっさと明日の勝負の種銭でも稼いでこい」


「うう、ミレーナ……また明日な……」


 ばいばーい、と赤髪の女は手を振って、次の挑戦者に視線を定めた。


「さて。業物の剣ってのは?」


「これだ」


 布に包まれたソレ。どうやら上等な剣らしいが、そんな物を出して何をするつもりなのだろうか。


 赤髪の女……ミレーナは剣を受け取り、それをじっくりと検分した。


「ふぅん……まぁ確かに良い剣みたいだ。それで何が欲しいんだい?」


「じいさんの形見……まぁ家宝だな。かなりの価値がつくはずだ。それに見合うだけの金が欲しい」


「あの世でじいさん泣いてるよ?」


 そう答えながらミレーナは家宝と呼ばれた剣を抜剣した。


(ほう)


 その抜剣の仕草から、私は彼女が『戦える者』であることを悟った。


「…………うん、綺麗な剣だ。誰を斬ったこともない、新品同様の剣」


「だろう? それで、いくら出す?」


「気が早いね。出すのは敗者だけだよ。……ちなみにわたしは嘘が嫌いだ」


 にっこりと、ミレーナは笑う。


「あんたこれ、サディトラの街のお土産屋で買った剣だろ」


「………………えっ」


「なーにが家宝だ。たしかに高級品ではあるけど、しょせんはお土産だ。これを賭けるってんなら、金貨一枚ってとこだね」


「えっ……えっ……?」


「…………なに。まさかコレが本当に家宝だと思ってたわけ?」


「だって……じいさんが……死に際にオレに託してくれて……」


「……それ、ただお土産やろうとしたら死期が来ちゃっただけなんじゃ……」


「そ、そんな……」


「…………可哀相だから金貨二枚のレートで勝負してあげるよ」


「よし乗ったぁッ! 見てろじいさん! あんたのお土産はオレが守るッ!」



 どうやらこの裏路地ではギャンブルが行われているらしい。


 別に違法ではないし、珍しくもない。ただ女一人が拠点を構えて嬉々として勝負を行っている様は、あまり見かけない光景だった。


 どうやらここでは何を賭けてもいいらしい。


 相手が持ってきたナニカに対し、それに相応しい景品を提示する、というがミレーナのやり口のようだった。


 見れば彼女の周辺には謎のズダ袋がいくつか転がっていた。中には様々な物が入っているのだろう。


 賭け事において物品も受け付ける、というのは珍しい事だ。――――まるで戦場のようながむしゃらさを感じる。


 私は近くにいた男に再度質問をした。


「なぁ。あの……ミレーナという女は一人なのか?」


「そうだよ。気合い入ってるよな」


「……これだけ男に囲まれて怖くはないのだろうか。もっと夜が更けてしまえば、身ぐるみはがされてもおかしくはないぞ」


「そうでもない。あのねーちゃんメチャクチャ強いらしいからな」


 それは確かに。先程の抜刀を見ただけだが、強さは感じ取れた。


「この賭け市が始まって二週間ぐらいかなぁ。ウワサがウワサを呼んで、今じゃ大繁盛だぜ。だいたい六時から九時ぐらいまでの間だが、人が途切れることはない」


「ふぅむ」



 お土産を賭けていた男は瞬殺され、すごすごと引き下がっていった。


 次はオレだ! いいや俺だ! と男達は笑顔で手を上げる。


「はいはい。順番ね。じゃあ次は……そこのチェック柄のオッサンだ」


「おう! かーちゃんの目を盗んで、金貨二枚持ってきた! これであんたを一晩買いたい!」


「ハッ。わたしを抱きたきゃ、勝負に勝ってみな」


(むぅ)


 別にこれも違法ではないが……ないのだが……なんとも言えない気持ちになった。


 赤髪の女。ミレーナは美しい人だった。着ている物や、言葉遣いなんかを改めれば貴族へ嫁ぐことも楽勝だと思わせるぐらいには。


 そんな女性が路地裏で、男達を相手にギャンブルをしている。


 戦う心得があるにせよ、ここにいる全員に襲われたら絶対に勝てないとは思うのだが……。


 美しい女。

 男達から巻き上げた金品。

 周囲のズダ袋にも、それなりに貴重な品が入っているのではないだろうか。


 襲われたら大変だ。


(むぅ)


 このまま帰って忘れる、というのが正しい判断なのかもしれない。何故なら現状では誰も違法行為を行っておらず、皆が笑顔だからだ。


 だが気がつけば、私はミレーナが楽しそうに勝負を行う姿に見惚れていた。




 やがて五人目を倒した彼女は、上機嫌に微笑んだ。

 

「さてさて。あっという間に五連勝だ。悪いねみんな。また明日。……さて、残ったのは見物客だけかな? 一勝負してみようってヤツはいない?」


「昨日身ぐるみ剥がされたから、賭けるもんなんてねーよ。あるとすればこの身体ぐらいだが……」


「いらないねぇ。価値が無いものは、賭けても増えないのが世の理さ」


 価値が無いとは何だ、と男が笑う。

 いやねーだろ、と隣りにいる若い男が笑う。


 薄暗い場所だというのに、ここの雰囲気はなぜか明るかった。


 たぶんミレーナがずっと笑っているからだろう。嫌味の無い、本当に楽しそうな顔で。


「……んー、本当に勝負する人はいない? だとしたら、ちょっとヒマになっちゃうねぇ。また誰かが来るのを待つか……」


 きょろきょろと、ミレーナが人々を見渡す。


 そして私と目が合った。


「……そこの武人さん。そう、そこの目つきが鋭いあんただ。初めて見る顔だね」


「……まぁそうだな。初めまして、こんばんわ」


「ご丁寧どうもありがとう。こんばんわ武人さん。一勝負どうだい?」


 ご指名である。


 周囲の男達はサッと身体を動かして、彼女に至るまでの道を示す。


 ここで「いや結構」なんて言った日にはブーイングが飛んでくるだろう。


 逃げ切れるわけがない。苦笑いを浮かべながら「……では軽く遊んでもらうとしようか」と応じると、ミレーナは花が咲いたように大きく笑った。


「いいね。じゃ、やろう」


 椅子に座り、改めてミレーナを観察してみる。


 テーブルに置かれたランプは明るくて、今まで以上に彼女をよく見せてくれた。


「ところでお名前は?」


 名を問われた。だがしかし、アースレイの家名を名乗るのは躊躇われる。何故ならここは路地裏で、彼女が見つめているのは私の肩書きではない。


 あの瞳が見つめているのは、私自身だ。


「……ガッドルだ」


「オーケー。わたしはミレーナ・インエだよ。さてガッドルさん。何を賭けてくれる?」


「なにぶん初めての事だらけでな。何を賭けていいものやら」


「何でもいいよ。それなりに価値のある物を出してくれるのなら、それに相応しい物をこっちが提示する。お互いが納得したら勝負だ」


「ふむ。なんでもいいのか?」


「価値があるのなら。しかしまぁ命とか片腕なんかを賭けられても困るけどね」


「ふむ……そうだな。では普通に金貨でも賭けるとするか」


「何枚?」


「何枚でも。……と言っても、百枚賭けろと言われると困るが」


 そう答えるとミレーナの目つきが少し鋭くなった。


「へぇ……どうやら武人さんは高給取りらしい」


 彼女の口元がゆっくりと上がっていく。


「ところでわたしは一晩に、同じヤツからの勝負は二回しか受けない。順番の問題もあるし、小さな勝負を重ねても燃えない・・・・からね」


「一度きりではないのだな」


「そりゃ流石にね。例えばわたしがイカサマをして、初見殺しをしたとしよう。だとしたら仕返しのチャンスぐらいくれてやらないと不公平だろう?」


「なるほど」


 私は愉快な気持ちになり、笑い声をもらした。


「くっくっく……なるほど、なるほど。おぬしは律儀なのだな」


「そうだね。あたしは誠実じゃない・・・・・・・・・・


 捻くれてはいるが、面白い返答だ。素直にそう思った。


「了解した。あまり言葉を重ねるのも不粋であろう。まずは金貨一枚を賭ける。が勝ったらそれに相応しい物品をもらうとしよう」


「いいだろう。まぁ金貨一枚ってんなら……そうだな……この辺のアイテムなんてどうだい?」


 そう言いながらミレーナが提示したのは精霊具だった。


「超強力なライト。光源を絞れば、山の頂上から麓まで照らせるぐらいだ。こっちは小ぶりだが強力な金づち。攻撃力が増加される仕組みがあるから、釘とかが簡単に打てる。あとは……保冷機能が強い水筒とか」


 意外なほどに実用的なアイテムが提示された。


 相場に詳しいわけではないが、それが正しく機能する精霊具ならば購入もやぶさかではない。


 ので、率直にそれを口にしてみた。


「全て買い取りたいのだが」


「ダメだねぇ。ここは賭けをする場所さ。オール・オア・ナッシング。わたしはギャンブラーであって、商人じゃないのさ」


「把握した。では水筒を頂くとしよう」


「勝ってから言いな」


 フッと笑ったミレーナは、カードをシャッフルし始めた。


「じゃあ勝負だ。得意なゲームは何だい?」


「ポーカーだな」


「よろしい。じゃあ三戦限定で、チップは互いに十枚。短期決戦だが、楽しもう」




 勝負自体はあっさりと決着がついた。


 俺の負けだ。



「……ふむ」


「毎度あり」


 短い言葉と共にカードと金貨が回収される。


「どうだい? なにか分かったかい・・・・・・・・・?」


「イカサマの気配は無い。だがしかし、絶妙な勝ち方すぎるというのが正直な印象だな」


「…………ふっふっふ」


「…………はっはっは」


 周囲の人間は静まり返っている。


 先程までの朗らかな喧噪はもうない。誰もが静かに勝負を見守っていた。



 勝負の途中から、ミレーナがその笑顔を消していたからだ。



「お、おい……なんだよこの雰囲気……」

「分からん……分からんが、遊びの気配じゃねぇよな」


 呟きを拾う。


 おっと、いつの間にかこちらも真剣になってしまっていたようだ。


 だがそれも仕方の無い事であろう。



 ミレーナは何かイカサマをしている。会話、勝負の流れから見てそれは明白。むしろ自白に等しい。



 だが俺はその一切が見抜けなかった――――だからこそ、面白い。


 こやつとの勝負が面白いのだ。


 晩飯のメニューなぞもうどうでもよいわ。


 ダンスホールにも興味は無い。ただ目の前のギャンブラーには興味津々だ。



 そんな俺の視線は、彼女の魂の炎にまきをくべたのだろう。


 彼女の笑みは消失し、残ったのは殺気を思わせるほど真剣な表情。



「賭けるものが決まった」


 この者の底か、あるいは天井か、もしくは全てか。


 俺は己の好奇心を満たすために覚悟を決めた。


 そんな真剣な表情を受けてミレーヌは嗤う。


「対策も無しに二連戦かい? いいとも。大歓迎さ」


「賭けるものは金貨十枚。求めるものは、お主との真剣勝負・・・・だ」


「確認する。……それは、あたしにも金貨十枚賭けろってことかい?」


「違うな」


「いいだろう」


 ギャラリーの全員が驚きつつも首をかしげた。


 金貨を十枚も賭けるってマジかよ。

 しかし、こいつらは今なんの会話をしているんだ? と。


「ああ、いいね……いいね。ようやくわたしを見つけてもらえた気分さ」


 意味深なセリフを吐いたミレーナは、表情を真剣なモノへと変化させた。


「それじゃ勝負だ。金貨十枚で、真剣勝負。おまけにアンタが勝ったら、今夜わたしを抱いていい」


「そうか。では金貨二十枚に増やすとしよう」


 ギャラリーが目を丸くする。俺が賭けたのが一般労働者の数ヶ月分の稼ぎに近いからだ。


「きっとこの勝負にはそれだけの価値がある」


「嬉しいねぇ……!」


 最早言葉は不要。


 一世一代の大勝負と表現するには大げさだが、少なくとも今夜の記憶は勝っても負けてもこの胸に思い出として刻まれる事だろう。




 カードが配られる音がする。/ダイスが転がる音がする。


 ミレーナは不敵に笑う。/ダイスが転がる音がする。


 私は、俺は、勝利を求める。/ダイスの転がる音がした。





「まぁ金貨二十枚なんて持ち歩くはずがないのだがな。……明日持ってくるとする」


「そりゃそうだ。はっはっは」


 結果を語ろう。俺の敗北だった。


 だがストレート負けではない。一戦目は負け、二戦目では勝利し、三戦目で負けたのだ。


「ああ。楽しかった。シビれたよ。ありがとう武人さん……いや、ガッドルさん」


「こちらもだ。久々に白熱した」


 互いの健闘を讃えて握手をすると、ギャラリーから歓声があがった。


「スゲェ! なんかよく分からんけど熱かったな!」

「おう! 金貨二十枚もってかれたアンタにゃ同情するが、見てて面白かったぜ!」


「ははは。そうはしゃぐな」


 パチパチと拍手までもらったので、照れくさくなった俺は椅子から立ち上がった。


「ではまた明日。負け分を持ってくる。担保として……そうだな。コレでも渡しておくか」


 俺は隠し持っていた自警団の帽子を取り出した。貴族の証でもある紋章が刻まれているそれを手にしたミレーナは「へぇ」と声をもらした。


「なんだ。お貴族様だったのかい」


「なんだと思っていたのだ?」


「マフィアか何かかと。……いやだって、凄みあったし」


「フッ。強面であることは自覚しておる。だがその実、たまに子供に泣かれて傷ついてる小心者に過ぎぬさ」


「スマートな返しだこと」


 そう言って苦笑いを浮かべたミレーナは机の上に広げられていたマットを片付け始めた。


「今夜は店じまいだ。どうせ今以上に熱い勝負は無理だろ。また明日ここに来るから、勝負がしたいヤツはおいで」


「おう。じゃあまたなミレーナ」

「明日は絶対勝ってやる……」


 ギャラリーはそんな言葉を口にしつつ、誰も立ち去らない。


「ああ、今夜は見送りは大丈夫だよ。いつものように机と椅子だけはお願いしたいけど」


 ミレーナがそう言うと、ギャラリーの一人が声をあげる。


「一人で大丈夫か? まだ夜がふけたわけじゃないけど、貴重品をたくさん持ち歩いてるだろ?」


「今夜はガッドルさんに送ってもらうとするよ。なにせ金貨二十枚の負債者だ。こんな帽子じゃ担保にならない」


「む……ならば今から取りに来るか?」


「そうさせてもらう」


 担保である帽子を逆さに被ったミレーナは、よいしょっと、なんて言いながらズダ袋を手に取った。重そうだ。


「貸せ。運んでやろう」

「あらお優しい。金貨十九枚にまけてあげるよ」

「いらぬ」


 そんな軽口を叩きながら、我々は路地裏から去ったのであった。





「ほー。お貴族様の家だからもっとデカいのを想像してたけど……」


「俺は自警団だぞ。豪邸なぞ必要ではない」


 案内した先にあるのは普通のアパートメント。流石に家賃は高めの部類だが、一軒家を保持する金額とは比較にならない。


 玄関先まで招き入れ、俺はそこでミレーナを制した。


「待っておれ。すぐに取ってくる」


「中には入れてくれないのかい?」


「……? ああ、トイレでも借りたいのか?」


「ぶはっ。デリカシーゼロかよ」


 粗雑な物言いをしながらミレーナは足下のマットで靴の汚れを落とし、ずかずかと中に入っていった。


 ランプの精霊具を起動させ、室内を照らす。


 俺一人であるのならばロウソクで事足りるが、来客があるので一応。


「そこで座って待て」


「あいよ」


 ソファーを指さすのと彼女が座り込むのはほぼ同時。いささか無礼な振る舞いと言えるが、なんだか彼女らしい動作のような気もするのでイヤな気持ちにはならない。


 俺は私室に入り込み、金庫の中から金貨を取り出した。平気な顔をして賭けたが、流石に大金だ。ほんのりとショックはある。


「やれやれ。今年いっぱいは贅沢できんな」


 まぁ大して金の使い道があるわけではない。自分にそう言い聞かせて気分を改める。


 じゃらりと小袋の中で金貨の音を立てつつリビングに戻ると、ミーレヌが上着を脱いで立ち尽くしていた。


 上着一枚、なんてレベルじゃない。下着すら身につけていなかった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「えっ、なんで?」


[それを今から描写するんだけど]


「……えっ、もしかして、その、あれですか? ちょっとエッチな展開ですか?」


[ちょっとどころか、どストレートにエッチな展開だけど]


「その描写必要かな!?」


[ミレーナの行動理論からすると必要だね。なぜならガッドル君の接し方は、ミレーナにとって完璧に近い対応だった]


「う、うん」


[本来ならミレーナはただの案内役だけど、ガッドル君はちょっと彼女のハートに迫りすぎたね。こういう展開になるのは珍しいケースだけど、基本的に彼女は強欲だ。欲しいものは必ず手に入れる……つまり自分の願いを叶えるために生きてるから、仕方ない。――――ではシーン再開だ。GMダイスロール。なるほど。ミレーナはガッドル君の姿を確認すると、ゆっくりとベルトを外して]


「スキップ! そこのシーンスキップ!」





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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回、なんだかんだ掛け合いがすっげー気持ちいい(小気味いい?)のがこの作品のいいとこだよなー、って再認識した話だった [気になる点] トラックと馬車が一緒にあってイメージが掴みにくいってい…
2022/07/26 22:40 サットゥー
[一言] リアリティにこだわりすぎてナチュラル18禁ルートに突入する遊戯ガチ勢GMパーティル君
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