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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
我が愛しき楽園の在り方
236/286

テーブルトーク・演劇遊戯

 TRPGとはなんぞやのコーナー。


 超ざっくり言うと「自分が考えたキャラクター」を用意して、ステータスを割り振って、そのキャラクターになりきって【お芝居ロールプレイ】をする遊びです。


 時代設定は超古代から未来まで自由自在。

 世界を滅亡から救うシナリオもあれば、近所のおねぇさんに告白するだけのシナリオもある事でしょう。


 紙とペン、あとはダイス。そして「情熱と真剣さ」さえあればいつでもどこでも楽しめる遊戯です。



[って感じのゲームなんだよ]


 パーティル様からTRPGとやらの説明を聞き終えたわたしは首を傾げた。


「自由度が高いゲームってのは何となく理解したけど、なんていうのかな、自由度が高すぎて破綻するケースも多そうなゲームだね」


[おや鋭い。その通りさ。たとえばすごくシリアスなシナリオに対して、ふざけたロールプレイを行うことも可能だよ。大事な恋人が死にかけているシーンで、急に謎のダンスを踊ってみせるとか……世界を護るのが目的のシナリオなのに、ラスボスの味方をしちゃう事も出来る]


 言われた通りの光景を想像してみる。


 ――――なるほど。悲劇がいきなり喜劇に転じたり、真面目な展開をあざ笑ったりすることも出来るわけだ。

 

 自由度が高すぎる。だからゲームはいつでも破綻する。なんなら主人公が突然舌をかみ切る事だって出来るはずだ。もちろんそんな事をすれば瞬時にゲームオーバーなんだろうけど。


「……その場ノリが大事ってこと?」


[ちょっと違うな。もちろんそれも大切な要素の一つだけど、もっとシンプルな極意がある。とにかく愉しむこと・・・・・だ。真剣であればあるほど、TRPGは面白い]


「ふぅん……演劇に近い?」


[そうだね。その中でも特にインプロヴァイゼーションやエチュード……つまり即興劇っていう表現が僕は一番近いと思う]


 何やら難しい単語が出てきたが、即興劇は聞いたことがある。


 役柄だけ与えられて、台本無しで舞台に上がることだ。お話しの流れは全部アドリブだとか。


[まぁとにかくやってみた方が早い。最初の方にチュートリアルも入れ込んであげるから、お試しでやってみようよ]


「……うん。分かった」


 ゲームが始まる。


 ついさっき気がついたのだが、パーティル様はこの瞬間が一番楽しそうに笑う。次に楽しそうなのは勝利を確信した時だ。



[ではでは。まずキャラクターを作るために必要な世界観を提示しよう]


 何も無い空間に、真っ白な板が浮かび上がる。




 場所・セラクタル


 時代・フェトラスが産まれた頃よりもずっと未来


 戦況・人類優勢。魔族劣勢。魔王激減。通称「飽和した世界」


 目的――――『優越の魔王』の打破。



「優越の魔王?」


[うん。今回のシナリオの目的は、優越の魔王を倒すことだよ。そしてフェトラスには主人公である英雄を創ってもらう]


「ふーん……まぁ、とりあえず言われたとおりにやってみるよ」


[どんな人物像でもいいよ。実際に知っている人の設定を持ち寄ってもいいし、ゼロから想像で創り上げても良い。とにかくきみは自由だ。ああ、ただし聖遺物を使うから人間であることは必須だけど]


(……カルンさんとかの設定借りたらダメかな)


 なんてことを考える。


 カルンさんはわたしが知る限り最強の存在の一つだ。


 ありとあらゆる聖遺物を使いこなし、なおかつ意思疎通も行える奇跡の具現者。


 相性が良ければ月眼の魔王ですら倒しかねないそうだ。


(まぁ強すぎてゲームには向かないか。それに選べる種族は人間だけみたいだし)


 気持ちを切り替えて、質問をしてみることに。


「聖遺物の設定とかもこっちで考えていいの?」


[もちろんだよ。ただし制限がある。あまりにも強力すぎる聖遺物は『凶悪な代償系』になるし、複数の能力を有する聖遺物はあまり強くない……要するに、常識の範囲内の聖遺物しか使えないよ]


「なるほど。わたしが考えた最強の聖遺物、みたいなのは使えないんだね」


[そういうこと。オリジナルの聖遺物がパッと思い付かないようなら、きみの知ってる英雄や聖遺物を参考するといいよ]


「ふむふむ……じゃあ、誰にしようかなぁ……」


 まず第一候補に挙がったのは、もちろん「お父さん&演算剣カウトリア」だ。これならかなり正確に思考をトレース出来るし、どんな敵にも負けるはずがない。


 ただし、どうなんだろう。



 ――――お遊びの範疇とはいえ、わたしの脳内お父さんが優越の魔王とやらに殺されてしまったら、わたしはどれぐらい取り乱すだろう?



(うーん。真剣であればあるほど良い、みたいなこと言ってたけど、熱が入りすぎるのも良くないかなぁ……)


 まぁそもそもカウトリアの事を語るつもりは無いんだけど。


 コレはゲーム。お遊び。戯れなんだから。きっとわたしに必要なのは楽しむ気持ちだ。


 だとしたらわたしには聞かなくてはならないことがある。


 わたしが倒すべき敵の情報だ。


「優越の魔王っていうのは、どんなヒトなの?」


[ふむ。その情報を開示するには、ゲーム開始の時点で彼がどれぐらい有名であるか、という事につながる。つまり詳細に聞けば聞くほど、ラスボスが強くなるけど大丈夫?]


「えっ、なにそれ」


[もちろん名前以外の情報をゼロにすれば、彼は弱いままだよ。さてどっちがいい?]


「相性の良い聖遺物を用意したら、その分だけ強くなっちゃうのか……でもその優越の魔王ってキャラクターの設定は確定してるんだよね?」


[そうだね。ちゃんと完成している]


「だとしたら、相性が最悪の聖遺物とか用意しちゃったら、その時点で負けが確定しない?」


[だから愉しいんじゃないか。自由には代償がつきものさ]


「…………途中で聖遺物を乗り換えるとかアリ?」


[もちろん。きみは自由だ]


 ニヤニヤと、ニヤニヤと、パーティル様はずっと愉しそうに嗤っている。


 自由すぎて何をしたらいいのか分からない。


 そんな感想を抱いたわたしはひっそりとため息をついたのであった。




 結局、わたしは優越の魔王が「実力をつけはじめ、国家形成する前段階」ぐらいの強さの時期から始めることにした。


 パーティル様が[初心者だったらそのぐらいから始めるのが丁度良い]という言葉を信じた結果だ。


 そしてキャラクターは「ガッドル団長」を借りることに。わたしが知る限りで最高のアースレイだ。


 聖遺物はかなり悩んだけど「斬空剣」にした。わたしはガッドルさんの本当の相棒――――紅水斧ロストクォーツ――――の性格についてあまり詳しくないからだ。


 まぁわたしの知ってる最高峰の英雄と聖遺物の共演だ。これはこれで楽しそうだから良しとしよう。



[なるほど。アースレイの者に、代償系の聖遺物か……強キャラだね。でも本当に大丈夫? 後半になればなるほど難易度があがる上級者向けコースみたいになってるけど]


「ガッドルさんなら大丈夫。魂がすごく強い人だから」


[そんなに強いなら、わざわざ代償系の聖遺物でなくても良い気がするけどね]


「斬空剣さんにはお世話になったし……その名に恥じないよう頑張ってみるよ」


 そう言ってみると、パーティル様はすごく嬉しそうな表情を浮かべた。


[大変結構。キャラクター達に思い入れがあることは良い事だ。死なせないように頑張ってあげてね]


「もちろん」


[とはいえ、ルールだからステータスはダイスで決めてもらうんだけど……どうしようかなぁ……そのガッドルって人間は、フェトラスの知り合いなんだよね?]


「そうだよ。実在するヒト」


[だとしたら、あんまりその実像と乖離したステータスじゃ盛り上がらないか…………まぁいいや。どうせただの人間だろうし、忠実に再現してくれるならステータスを勝手に決めていいよ]


「いいの?」


[初心者向けのサービスさ]


「わーいやったー。ガッドルさんの全盛期をイメージしたステータスにしよっと」


[……常識の範囲内でお願いするよ?]



 こうしてわたしはステータスを紙に書き込むことになった。


 最低値は1。

 最大値は18らしい。


 数値の目安としては『1が最弱。9で平均。18で人類最高峰』らしい。


 人外ならその上限も突破するらしいけど、ガッドルさんは人間だからそこはちゃんと守るとしよう。


 わくわくしながら「わたしのガッドル団長」を再現していく。


 なんだか楽しい気持ちになってきた、という感情は隠す必要がないので、わたしは自分でも笑顔なのを自覚しながらペンを走らせる。




「できたー!」


 ガッドル・アースレイ 三十二歳。男性。


STR(筋力) 17 ガッドルさんはとっても強い。

CON(体力)17 ガッドルさんはとってもタフ。

SIZ(体格)15 ガッドルさんは大きい。

DEX(敏捷性)15 ガッドルさんは素早いのだ。

APP(外見)15 ガッドルさんは顔も良い。

INT(知性)18 ガッドルさんはすごく頭がキレる。

POW(精神力)18 ガッドルさんは心が強い。

EDU(教育)15 ガッドルさんは貴族だから教養がある。



[ダメ]


「なんでなんでー!?」


 わたしがせっかく再現したガッドルさんを、パーティル様は苦笑いで却下した。


[いや……流石にこんな人間いないよ……総ステータス130越えって……]


「いるもん! ガッドルさんいたもん!」


[いやいやいや。全ステータスマックスじゃないあたり、多少の謙虚さはうかがえるけどさ。それにしたってコレはひどいよ]


 ぺらりと紙を手に取って、今度は[んふっ]と吹き出すパーティル様。


[強く、タフで、大きく、素早く、顔が良くて賢くて、心が強い、教養ある貴族……理想的な人間の姿と言えるけど……これじゃ理想に寄りすぎている。だからダメだよ。ちゃんときみの知ってるアースレイを再現して?]


「でもこれほとんど完全再現だよ~。本当のこと言うならINT(知性)を20にしたかったぐらいだし」


[化け物かよ]


 そのものずばり化け物な月眼の魔王が呆れかえってみせる。


[もし本当にこんな人間がいたとしたら。まず間違い無く英雄に担ぎ上げられる。早々に最前線に送られて、銀眼の魔王クラスと戦うことになるよね]


「……そう、かもね」


[だけど銀眼の魔王との戦闘は、多数の英雄との共同戦線ないし戦争だ。これだけステータスが突出していると、他と足並みが揃えられずに戦線は崩壊するだろう。……きみの知っているアースレイはそんな末路を歩んだのかい?]


「む」


 それは違う。


 ガッドルさんは紆余曲折あって、英雄になった。魔王を殺してみせた。だけどその人生の終わりに末路なんて言葉は似合わない。彼はきちんと自分の人生を完遂させていた。


[――――きみは魔王なのに、どうやらその英雄と親しかったらしい。それはとても不思議なことだけど、まぁそういうこともあるだろうさ。だとしてもこのステータスはちょっと忖度そんたくが過ぎるよ。憧れで目が潰れている]


「ガッドルさんは本当に最高のアースレイなのに」


 ちょっぴり頬を膨らませてみせる。だけどパーティル様の言っていることも間違ってない。わたしはたくさんの友達を、ちゃんと・・・・色眼鏡で見ていた。


 きっとこの人なら、大丈夫。


 そんな先入観とも呼べるし、信頼とも呼べる物差しでわたしは友達と付き合ってきたし、その期待が裏切られたことなんて一度も無い。



 だけどパーティル様は違うんだな。



 そんな事実を確認したわたしは、ガッドルさんのデチューンをパーティル様に一任した。


「ガッドルさんの最大の武器は頭が切れるって所。物事の本質や流れを掴むのが上手だったよ。あと普通に肉体も強かった。……そんな彼を、このゲームに相応しいカタチにしてあげてくれますか?」


[ゲームマスターがキャラクター作りに深く関わると、思い入れが減ってあんまり良くないんだけどねぇ]


「まぁまぁ。その辺は怪我したとか、二日酔いで具合が悪い、みたいな理由をつけて勝手に納得するから大丈夫だよ」


「ああ、それは良い考えだね。きみの理想にデバフをかけるのか。……うん。いい手だ。それでいこう」



 こうして弱体化したガッドルさんは完成した。


 だけど実はあんまり心配していない。ガッドルさんならきっとどんな場面でもガッドルさんらしく振る舞ってくれるだろうから。



[さて次は聖遺物か。さっきは簡単な説明しか聞いてないけど、それも実在した聖遺物なのかい?]


「うん。斬空剣……あ、名前知らない……」


[名前を知らない?]


「本人が忘れちゃってたんだよね」


[その物言い……きみは聖遺物と意思疎通したのかい?]


「うん。ちょろっと会話したというか、繋がったというか……」


[…………本当にきみはユニークな魔王なんだなぁ]


 そうは言いつつ、興味はわたし自身ではなく斬空剣さんにあるようだ。パーティル様が説明を求めてきたので、わたしは彼について知っている情報を全部開示する。


 以前カミサマに斬空剣さんについて尋ねた時、教えてもらっていたのだ。



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 ロストナンバー47・斬空剣※※※※※


 魔剣。代償系----『命への執着心』を代償とする。


 敵の距離に関係なく、剣を振るえばその斬撃が届く剣。


 だが代償を捧げ続けることにより、徐々に戦闘においての距離感が狂い始める。安全地帯からの一方的な攻撃ではなく、どうしても近距離戦を仕掛けてしまうようになる。近づいた分だけ攻撃力は上がるが、死地でしか呼吸が出来なくなるようなもの。


 解放状態においては空間そのものを斬る。あるいは、存在しないモノを斬る。――――なおこの説明は使用者達の個人的な感想であるが故、詳細は不明。


 かつて廃棄された魔杖・枯渇杖※※※※と同じく【源泉】への干渉を可能とする恐れがあるため、廃棄処分とする。


-------------------------------------------------------------------



 わたしが覚えている範囲で斬空剣さんのことを説明すると、パーティル様は再び顔をしかめた。


[強い……確かに強い聖遺物だね。ただ本当に上級者向けだ。人間がこれを使いこなすのは無理だと思うんだけど……]


「あー……それはそうかも……でもガッドルさんなら上手く……いや、使えないかな……」


[性能がピーキーすぎる。遠距離攻撃に特化しているのに、その利点を潰すんだから。攻撃力が上がるメリットに対して、デメリットが大き過ぎなんだよなぁ……]


 パーティル様はコロコロとダイスを転がして、再びうなった。


[ゲーム的に採用するなら、ダメージボーナスが付くけど回避率が下がったり、装甲が下がってダメージを喰らいやすくなるって所だろうけど……流石は代償系だな。命を使い捨てるための聖遺物だ]


「ダメかなぁ」


[…………いや、まぁゲーム的だから逆にアリかも? 即死はどうしようもないけど、ダメージを回復させる技能がTRPGには用意されてるからね]


「怪我を治せるの?」


[うん。回復魔法だと思ってもいいし、包帯を巻いたりして止血をするイメージでもいい。気休め程度でしかないけど、ダメージは回復出来るよ]


「……だったら斬空剣さん最強なんじゃない?」


[さてどうかな。そこはやってみないと分からない。重要なのはダイスの目と、話しの展開と、きみの想像力だ]




 こうしてわたしの準備……ならぬ、ガッドルさんの準備は整った。


 今から彼が主人公だ。



[さて。改めてゲームのルールを説明しよう。きみの目的は優越の魔王の打破。それだけだ。それさえ出来ればきっとセラクタルは救われるだろう。この時点で何か質問はあるかな?]


「ダイスを転がして戦えばいいの?」


[ちょっと違う。優越の魔王は銀眼でこそないけど、相当な実力者だ。なので一体一ではなく、チーム戦になる。きみはまず一人の英雄として旅立ち、仲間を集めて、準備を整えて、決戦に挑むことになる。その準備が不十分だと、出会った瞬間に即死する可能性もあるから気を付けて]


「……もしかしてこのゲームって、時間かかる系?」


[破綻すれば一分で終わるけど、話しの展開によっては数日がかりだ]


「おおう……それはまた……」


[愉しい時間になるといいね?]


 パーティル様はニッコリと嗤って、ダイスを振った。かなり大きめのダイス。数字は「01」から百を表す「00」の百面体だ。


 そして出た目は00だった。


致命的失敗ファンブル


「なにその恐ろしい名称」


[ちなみに僕はダイスで狙った目を出せるから、極力触らないようにするよ。振る必要性がある時は壺に入れて振るから、イカサマは無いと信じてもらうしかない]


「疑わない。だってパーティル様は遊戯の王様なんだもの。三下じみた振る舞いなんてするはずがない」


[鮮烈な返しをどうもありがとう。やりがいがあるよ]


 では、と言葉を続けてパーティル様が宣言を開始する。



[それでは始めよう。シナリオ・『優越の魔王の憂鬱』はじまりはじまり……]




ステータスの概要は「クトゥルフ神話TRPGの6版」をお借りしております。


以下、慣れ親しんでいる方に向けてのガッドル(デバフ)のステータスです。

ですが本編には全く関与しないので、スルー推奨です。


STR(筋力)12

CON(体力)11 

SIZ(体格)11 

DEX(敏捷性)11 

APP(外見)12

INT(知性)18 

POW(精神力)15 

EDU(教育)10


Luc(幸運)はほぼ関与しないので省くのがパーティル様スタイル。



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