次の地獄へ
[ではまず、残っている楽園を列挙してみようか]
そう言ってロキアスは、真っ白なテーブルを指さした。
[神様。文字の投影を頼むよ]
〈了解した〉
その返事とほぼ同時、文字が瞬時に現れる。
「便利だねぇ」
フェトラスは朗らかに、そしてやや現実逃避気味の様子でつぶやく。
それもそのはず。浮かび上がった文字は地獄の名前の一覧表だからだ。
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大魔王テグア
楽園『???』
二代目 平穏の魔王サリス
楽園『丘の上の山小屋にて、雑音の無い世界』
四代目 快楽の魔王テュトール
楽園『むせ返るような香と、明けない夜』
五代目 鍛錬の魔王バンレイ
楽園『ありとあらゆるトレーニングが可能なジム』
六代目 暴食の魔王ヴァウエッド
楽園『厨房とリビングと、無限に広がる冷蔵庫』
七代目 戦争の魔王アークス
楽園『戦場』
八代目 永凍の魔王クティール
楽園『蒐集保存の博物館』
九代目 図書の魔王メメリア
楽園『図書館』
十一代目 遊戯の魔王パーティル
楽園『死ぬまで遊べる部屋』
十二代目 美醜の魔王ポーテンスフ
楽園『アトリエと展示会場』
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[行った所と、テグアの所を除外して残り九つだ。そして安全か危険はさておき、戦闘系と非戦闘系で別けてみよう]
文字が踊る。
テーブルに投影された文字はその配列を変えていく。
戦闘系
・平穏の魔王サリス・鍛錬の魔王バンレイ
・暴食の魔王ヴァウエッド・図書の魔王メメリア
・永凍の魔王クティール
非戦闘系
・快楽の魔王テュトール・戦争の魔王アークス
・遊戯の魔王パーティル・美醜の魔王ポーテンスフ
「……戦闘系と非戦闘系って何が違うの? どっちにせよ戦うとなるなら、みんな強いんでしょう?」
[問題の解決に暴力を選ぶかどうか、って所かな。好戦的と言い換えてもいい。割と問答無用で攻撃を仕掛けてくる部類だ]
「うわぁ……っていうか、図書の魔王メメリアさんって好戦的なんだ……読書家なんだから、物静かなタイプかと思ってたよ」
[メメリアの読書を邪魔する者がいたとしよう。その際に彼女は『お静かに』なんて言わないよ。魔法で殺しにかかってくるだけだ]
「サラクルさん、よくそんなのに付き合えたね……」
「あ、あはは……メメリア様は可愛らしい御方ですよ」
危険なのは間違い無いですけど、なんて管理精霊サラクルは付け足す。
[傾向的に、後半世代の月眼の魔王は非戦闘系が多いかな。天外の狂気の襲来が無くなった分、神様達や僕が戦力を重視しなくなった結果とも言えるが]
「ん……? あなた達が目をかけかたかどうかで、そういうのって変わるの?」
[以前は強そうな魔王で、なおかつ月眼に至れそうな者を注視してた。でも最近じゃ月眼に成れそうな者なら手当たり次第って感じかな]
ロキアスはそう言ったものの、本質はそこじゃない。
[まぁこの辺の分類別けは割とどうでもいい。フェトラスが言った通り、戦うとなると全員もれなく危険だ。なので今後は『月眼の魔王とは戦わない』という事が基本になる]
「つまり……安全と危険の違いは、戦う可能性があるか無いか、ってこと?」
[その通りさ。ただしそっちの分類別けは非常に難しい。相手が上機嫌か不機嫌かってだけで結果がブレるからね。逆に絶対にブレないヤツもいるけど]
「なら何となくでいいから、そっちの順番も聞いてみたいかな」
フェトラスがそう言うと、ロキアスは少しだけ沈黙して、指先を動かした。それに合わせて魔王の名前の位置がズレていく。
[そうだなぁ……暫定的に言うなら……こんな感じ?]
〈いや待てロキアス。バンレイの危険度はもう少し高いだろう〉
[そこは確かに悩んだ。実はテュトールもここで良いのか迷ってる]
〈ならば……〉
[あとは相性とか、攻略方法がはっきりしているとかも考慮すべきか]
〈そうだな。相性については未知数だが、機嫌を損ねない訪問方法があるのならば危険度は多少下がるだろう〉
ロキアスと神々はああだこうだと言い合いながら、やがて一応のリストが完成する。
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安全だと思われる
↓
・戦争の魔王アークス
・遊戯の魔王パーティル
・美醜の魔王ポーテンスフ
・快楽の魔王テュトール
・暴食の魔王ヴァウエッド 同順 図書の魔王メメリア
・鍛錬の魔王バンレイ
・平穏の魔王サリス
・永凍の魔王クティール
↑
危険である
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[こんな所かな……正直、絶対的な順番ではないけど、たぶんこんな感じ]
「あやふやだなぁ……ま、しょうがないか。わたし以外の魔王が楽園に入ったことって無いんだよね?」
[流石の僕も楽園に直接入ったことは無いね。天外の狂気と戦う時にコミュニケーションを取ったことがある者は数名いるけど]
「ああ、ヴァウエッドさんとは何度か一緒に戦ったって言ってたっけ」
[そうだね。まぁ、会話を重ねる内に僕のことも食材を見るような目で見てきたから、かなり距離をおかせてもらったけど]
「……え、ほんとにわたし大丈夫? 食べられない?」
[指の一本ぐらいは覚悟するべきなのかもしれない。いや、嘘うそ。冗談さ。ははは。面白いだろう]
フェトラスはため息をつきながら足を組み、片手を額に当ててのけぞった。
「やるきがどんどん、うせていく」
[でも良い楽園もあるんだよ。……というか人によっちゃ『ここは天国か?』と思えるような楽園ばかりさ]
「ん? どういうこと?」
[例えば本好きの者にとっては、メメリアの図書館はまさしく天国だろうね。芸術を好む者にとってはポーテンスフの楽園はかなり貴重だろう。脳筋の騎士はヴァンレイのトレーニングルームに永遠に滞在したいだろうし、退廃的な者がテュトールの香を一瞬でもかいでしまったら二度と手放さずにはいられない。――――まさに、誰かにとっては楽園なのさ]
「……そういうものなのかな」
キミで例えるなら、と言いかけてロキアスは口を閉ざした。
(フェトラス。キミが楽園を作ったとしたら、きっとそこにはロイルがいるだろう。そしてたくさんのご馳走があるだろう。空には虹がかかり、四季と彩りがあるはずだ)
だけどロキアスはそれを言えなかった。
彼女の楽園はもう無い。あるのは夢の残骸。そして『後悔しない』と決意した故に生まれた寂しさだけだ。
きっとそこには多少の喜びもあるんだろうけど。ロイルの代わりや類似品をフェトラスは未だに見いだしていない。つまりはそういうことだ。
だからロキアスは、開きかけた口で別の話題をひねり出した。
[――――完璧な意味で暴食の魔王ヴァウエッドと友達になれたら、キミはいつだって彼女の手料理をたくさん食べられるさ。そう考えたら、天国に近いだろう?]
「それはそうだけ……えっ、待って。ヴァウエッドさんって女性なの?」
[ん……思わず彼女って言ってしまったけど、難しいな……どっちでもない……使い分けてる? 男っぽい時もあるし、かと思えばとんでもない淑女だったりするよ]
「そうなんだー。暴食って言うぐらいだから、大っきい熊さんみたいな、髭もじゃのオジサンってイメージだったよ」
[そのイメージは誤りだ、とだけ言っておく。まぁその辺の情報は危険度に左右されないから、実際会ってみてからのお楽しみだ]
「ふぅん……」
ここでロキアスは気がついた。
フェトラスの月眼巡りへのモチベーションはかなり低い。ヴァウエッドの手料理と、僭越ながら僕への友情、そしていつかロイルと再会した時のための力を付ける、という程度でしかない。
――――ならば、そのモチベーションを上げるのも僕の仕事なんじゃないか?
その方が絶対に楽しいはずだ。うん。そうしよう。
[しかし困ったな。そうなると、アークスの所は逆に薦めづらい……悩ましいな……]
「ん? 何か言った?」
[いや、なんでもない]
ちらりと、天上にいるであろう神々を仰ぐ。
どうするよ? なんて視線をロキアスが送ると、かなり苦悩に満ちた声が響いた。
〈α・提案なのだが……パーティルの楽園はどうだろうか?〉
[……へぇ。そう来るかい]
遊戯の魔王パーティル。なるほど、アリと言えばアリだ。しかし絶対に無しだとも言える。非常に悩ましい。
[でもフェトラスは彼に勝てると思うか?]
〈α・下手したら永遠に勝てないだろうな。だからその際は……お前が助けに行く、というのはどうだ?〉
[は? お前って……僕? え? 僕が? 行って良いのか?]
思わず瞬きが増える。その分だけ月眼の輝きが増していく。
[マジで? そういうのアリ? よし決まった。パーティルだ。パーティルの楽園に行こう。今すぐ行こう。さぁ行こう。準備はいいな? よろしい。レッツゴー]
「待ってまって待って! 落ち着いてロキアスさん!」
僕が席を立つと、慌ててフェトラスが両手を上下に振って見せた。
「攻略法! なんの情報ももらってない! あぶない!」
[遊戯の魔王パーティル。楽園のテーマは『死ぬまで遊べる部屋』。彼はゲームが好きでね。カード、ボード、トーク系やクイズ。ゲームっぽい物なら何でも大好きだ。勝てば一瞬で帰れるよ。以上説明終わり]
「負けたら! ゲームで負けたらどうなるの!」
[次のゲームを提案するんじゃないかな。彼の望みはゲームで遊ぶ事だけだから]
「……命を取られたり、お金とか精霊服とか取られたりしない?」
[月眼の魔王が金なんて欲しがるかよ。どこで使うんだ、どこで。……命も精霊服も、賭けなきゃ取られないさ。説明はもういいな? 行くぞ?]
〈Ω・落ち着けロキアス。我々の提案はそうではない〉
[あぁん!? お前等が言ったんじゃねーか! 今更口にしたこと反故にするってなら、僕にも考えがあっぞ!? おおぅ!?]
〈D・……フェトラスの自己領域拡大が目的ではないか。お前が最初から付いていったら、それはほとんど叶わないぞ〉
[――――――――チィッ!]
大きな舌打ちをして、ロキアスは椅子に座りなおした。
片足を貧乏揺すりしながら、観察の魔王ロキアスは目を閉じた。自分の中の荒ぶりと昂ぶりを抑えるために。
〈α・……我々の提案は、緊急措置だ。フェトラスなら難しくとも、ロキアスならパーティルに勝てる可能性がある。そうだな?〉
[……まぁ、良い勝負は出来ると思うよ。同じゲームを三回ぐらい連続でさせてもらえるなら、流石に勝ち目も出てくるだろうさ]
〈α・他の楽園において、お前の介入は危険すぎる。だがパーティルの所だけは例外と言っていいだろう。そういう意味での提案だ〉
[なるほどね。……ところでフェトラスと関係無く、僕がパーティルの所に遊びに行くのはいいのか?]
〈F・それはかなり推奨しない。お前が単体で突入すれば、お前の性格はさておきゲームプレイヤーとしては絶対に気に入られるぞ〉
[む]
それは、困るな。
ロキアスの昂ぶりはシオシオと萎えていった。
[あー……じゃあ、フェトラスが帰って来られないようなら、僕が助けに行く、ということで]
〈E・だがそれは本当に緊急措置だ。お前とて、自分の観察をパーティルに邪魔されるのは嫌だろう?〉
[断固としてお断りだ。……そうか。そういう事態になるのか。なるほどな。クッソタレの月眼の魔王め。どいつもこいつも面白そうなのに、面倒極まりない]
今度はロキアスが額に手を当ててのけぞる番だった。
そしてフェトラスはずっと首をかしげていた。
「え、えっと……つまり何がどうなったの?」
[キミが自分で選ぶといい、とは言ったけど……一応こっちサイドの意見も聞いておけよ。僕たちは次の楽園に、遊戯の魔王パーティルの所をオススメする。理由は『死ぬことが無いから』だ]
「それは何よりで、なおかつ当たり前の話なんだけど……アークスさんの所じゃなくても大丈夫なの?」
[僕がアークスの所を薦めた理由は安全だから。そしてどの程度の時間がかかるか想定しやすかったからだ。……だけどパーティルの所では、攻略の所要時間が不明なんだよね]
「ふむふむ」
[早ければ五分で出られる。だけど下手すると、一生外に出られない。そんな楽園だ]
「一生? 強引に帰るとかも出来ないの?」
[おそらく無理だろうな。ゲームが始まってしまったら、パーティルから逃げるのは非常に難しい。延々と勝負を持ちかけられることだろう]
「……ならいっそゲームをしない、とか」
[この楽園に何をしに来たんだ、と怒るだろうね。彼はそういう子だ]
「はぁ、なんとも子供じみたことで……」
[実際子供だよ。見た目も、精神性も。だけど凶暴ではないかな。だいたいニコニコしてるよ]
「……戦うことにはならない?」
[逆だ。必ず戦うことになる。けれどそれは暴力や魔法で殺し合うってことじゃない。しょせんはゲームさ]
そこでロキアスはふと視線をフェトラスに合わせた。
[ただし警告する。彼の賭けには絶対に乗るな。彼はゲーマーだけど、その本質はギャンブラーだ。一線を越えてしまったら、破滅するまで勝負は続く]
真剣なアドバイス。それにフェトラスは苦悶の表情を浮かべた。
「わたし、ギャンブルって苦手なんだよね。負けたら悔しいけど、勝っても別に嬉しくない所が特に」
[そういうヤツが一番深い所にハマるんだよなぁ……]
「お父さんもそれ言ってた。だからあんまり賭け事には近づかないようにしてたよ。まぁそもそもお金とかに興味無いし……」
[……まぁキミの場合は、ギャンブル云々じゃなくて対価が問題なんだろうね。賭けなければ手に入らないモノというか……そう、必要性。キミにとって大切なモノや必要なモノが賭けられた場合、キミの判断基準や価値観は真っ直ぐに狂うと思う]
私感を伝えると、フェトラスは緊張してしまったのか背筋を伸ばした。
[……あり得ない話しだけど、お父さんを蘇らせるって言われたら、たぶんわたしは何でもするし、全てを賭けるだろうね]
月眼。それを瞳に宿したフェトラスは言外に『望めば手に入るのか?』と尋ねてきた。
月眼。超常の存在たる者。遊戯の魔王がソレを対価に提示する可能性はあるのかと。
[……死んだ者は、決して元のカタチでは戻らない。それは絶対の理だ。よしんば戻ったとしても、それがオリジナルであるという証拠はどこにも無い。非常に似通った存在なら造り出せるかもしれないけれど]
[……あり得ないのね?]
[あり得ないね。無理なんだよ。命は連続性が欠けてしまった時点で、別物にしか成り得ない]
「………………そう」
静かな失望。当たり前の絶望。分かりきった答え。
フェトラスのテンションは著しく下がり、ずるりと椅子の背もたれに全てを預けた。
[で、でもこう考えるといい。キミは賭けをしに行くんじゃなく、遊びに行くんだ。なにせ遊戯の魔王だ。キミが楽しめるゲームが山のようにあるぞ。フェトラスはどんなゲームが好きだい?]
「ん……別にゲームなら大体好きだよ。でも正直な所なにを遊ぶかじゃなくて、誰と遊ぶのかが重要かな?」
[ふぅん。そんなもんか]
「ティザリアとキトアが小さい頃は色んなゲームしたっけなぁ……バレないように手加減するのが大変でさ。特にキトアは負けず嫌いなくせに、手を抜かれることも大嫌いだったから」
懐かしさで目を細めるフェトラス。それはほんの少しだけ彼女から失望の気分を消していく。
[じゃあ得意なゲームとかある? どうせなら勝率の高いゲームがあった方がいい]
「得意……心理戦はむしろ不得意。顔に出ちゃうらしいから。でも攻撃と防御の役割がしっかりしてるゲームとかは結構上手だったかも」
[ふむ――――まぁいざとなったら運で勝敗が決まるゲームを繰り返せばいいよ。コイントスを十回やったとして、全部負ける可能性はたった千分の一だ]
「そういうのもアリなの? じゃあ必要以上に脅かさないでよ」
ようやく緊張も治まったのか、フェトラスが苦笑いを浮かべる。
[あとは初見で必勝に近いゲームを挑むとか、かな。相手が様子見をしてる間に打破出来るならそれが一番楽だと思う]
「うーーん。わたしが勝てそうなゲームかぁ……なんかあるかな……でも相手は遊戯の魔王でしょう? めちゃくちゃ強そう」
[そりゃ強いだろうね。色んなゲームを狂ったようにやり込んでると思う。かと言って彼が知らないゲームはこの世に存在しない。こっちでオリジナルのゲームを自作するっていうのも現実的じゃないだろうし]
ロキアスは淡々とアドバイスを重ねていく。
[むしろ複雑なゲームほどパーティルは強いと思う。ルールの隙をつくのは当然だし、盤外戦術だって駆使してくるだろうさ。極力シンプルなゲームを提案するといいよ]
「こっちが提案していいの? パーティルさんがずっと遊びたがるタイプの人なら、延々とわたしが負ける事を望んで、自分が得意なゲームを持ちかけてきそうだけど」
[そりゃそうだけど、その可能性は低いと思う。なにせ相手は王様だ。チャレンジャーにはいつだって優遇してくれるはずさ]
「……そっか。うん。なんとなく分かった。それで絶対にしちゃいけない事はなに?」
[まず賭けをすること。転じて彼を本気にさせないこと。あとはゲームのリタイアとか、ズルをすることかな。イカサマはバレた時点で凶悪なペナルティが施されると思う。程度によっちゃ即座に殺される]
「真っ当にゲームをしろと。うん。それは当たり前。他には?」
[……特に無いんじゃないかな?]
「えっ、それ本当?」
[パーティルの楽園は、彼の望みはとてもシンプルだよ。ただゲームをすること、だ]
ふぅん、と声をもらすフェトラス。そこで彼女は気がついた。
「……パーティルさんは普段、誰と遊んでいるの?」
[……というと?]
「いやだから、ゲーム大好き魔王さんなんでしょう? でもゲームって誰かと一緒に遊ぶもので……」
[独りでするゲームもたくさんあるよ。でもキミの質問はそうじゃないな。――――端的に言うと彼の対戦相手はいない]
「えっ。ずっと独りなの? エクイアさんの楽園みたいに、たくさんの人がいればいっぱいゲーム出来るのに」
[彼の楽園は『部屋』だ。つまり彼は基本的に対戦相手を求めなかった……というよりは、対戦相手を維持するコストを不要だと考えたんだと思う。誰かと遊ぶゲームは楽しいけど、それと同じぐらい誰かの相手をするのは面倒だという理由で]
「ね、根暗だなぁ……」
[それ絶対パーティルに言うなよ]
「う、うん。というかそうだったね。全ての楽園に共通する絶対ルール。相手を否定したり、馬鹿にしたりしない」
[よろしい。まぁ、孤独には間違いないけど、対戦相手の代わりならいる。神様の友達みたいなのが]
「……カミサマの友達?」
[高等精霊みたいなものだよ。自我はないけど、ゲームの相手ぐらいなら可能だ]
「お喋りは出来ない?」
[それがゲームをする上で必要であるのなら、受け答えはするだろうね。でも雑談は無理だろう]
「……寂しくないのかなぁ」
[愛する遊戯が出来りゃ、彼は幸せなんだよ。――――それで他に質問は?]
そうロキアスが尋ねると、フェトラスは少しだけ顔を輝かせた。
「……なんか、今までのロキアスさんと雰囲気違うね」
[へぇ、そうかい?]
「うん。なんというか……頼もしい? 誠実というか、ちゃんとしてる感じがする」
[まぁね。僕には大いなる目的がある。そのために自分の愉悦はいったん忘れる事にしたんだ。僕は出来る限り、キミの助けになろうと決めている]
「――――ふふっ。分かった。少しだけ信じてあげる」
[そこは全力で信じてくれよ……と言っても無理か]
ロキアスは苦笑いを浮かべつつ[まぁいいさ。信用はこれから勝ち取っていく]と告げた。
「それじゃあその一環で。ええと、質問するね。わたしがロキアスさんにするべき質問は他に何かある?」
フェトラスはその質問によって、ほら、わたしを助けてみなさいよ、とロキアスを挑発した。
それに対してロキアスは鷹揚にうなずく。
[いい質問だね。自分が足りてないことを自覚しているらしい。でも少し傲慢かな。わたしは考えることを放棄してます、と言っているに等しいよ?]
「だってわたしパーティルさんに会った事ないし」
[そうは言うが、三つの楽園に滞在したことある月眼なんてキミ以外に存在しないぞ]
「三つ? エクイアさんと、ロキアスさんと……」
[セラクタル。あれはキミにとって楽園だろう]
とても、とても静かにロキアスは言った。目を閉じて微笑みながら、まるで祈るように。
「…………そうだね。うん。間違いないや」
[大丈夫だよロイルの娘。今回だけだが、いざとなったら僕が助けに行くから。存分にゲームで遊んでくるといい]
「……ん! わかった!」
そう答えてフェトラスは微笑む。
こうして、フェトラスは再び楽園の扉を開く。
十一代目。遊戯の魔王パーティル
楽園『死ぬまで遊べる部屋』
対象は非戦闘系。
脱出条件。「ゲームでパーティルに勝利する」
備考・今回のみロキアスによる救済がある。
[あ、最後に一つ。ゲームに勝てないからって、直接戦闘をしかけるのは厳禁だ]
「勝てそうにない?」
[一撃で殺せるならいいけど、先手を取られた時点で必敗だね。キミは彼のルールに縛られて、溺れていく]
「……ロキアスさんに助けて欲しい時はどうすればいい?」
ロキアスは満面の笑みでこう言った。
[助けてください偉大なるロキアス様。あなたのことが大好きです、とでも叫んでもらおうかな]
それを聞いたフェトラスはげんなりとしながら、ロキアスに少しだけ暴言を吐いたのであった。
【本音】
[まぁね。僕には大いなる目的がある。そのために自分の愉悦はいったん【なおその期間に関しては不明とする。目的達成までか、あるいは十年か、もしかしたら五秒だけかもしれないけど】忘れる事にしたんだ。僕は【全力でとは言わないが】出来る限り、キミの助けになろうと決めている]
[ちなみにコレは嘘じゃないよ。色んな意味で]
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2022年5月
第十回ネット小説大賞の一次審査を通過出来ました。
ありがとうございます。