月眼の魔王達
再開します。
それは来週か、それとも十年後か、あるいは遙か未来の話。
ここは月眼の間。
そして僕は三代目、観察の魔王ロキアス。
目の前にいるのは十三代目の月眼。極虹の魔王フェトラス。
僕たちは二人きりで、他愛の無い談笑を繰り広げていた。
ただしその談笑には死の気配がプンプンと漂っている。
事の始まりは、フェトラスが口にしたとある話題から――――。
「いよいよ死にたくなったのかい?」
僕がそう問いかけると、フェトラスは苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、そういうのじゃ無くて……純粋に好奇心?」
「ふぅん。まぁ、いまさら君が死にたがるとは思わないけど……高確率で死ぬよ?」
「う。やっぱり?」
「そりゃそうでしょ。まぁ、危機感が薄いのは仕方が無いけどね。なにせ他でもない月眼の魔王である僕が、こんな感じで普通に接しちゃってるんだから」
そう言いつつも、両手を広げて呆れてみせる。それくらいフェトラスが口にしたことはトンチキな発言だった。
「どう考えたって正気じゃない。『他の月眼の魔王に会ってみたい』だなんて」
「やっぱりかぁ」
そう。こともあろうにフェトラスは他の月眼との面会を求めたのだ。
「君はとても自由な精神性だし、寛容でもある。一言でいえば優しい。でも他の月眼はどうだろう? 考えるまでもないと思うんだが」
「だよねぇ。ついでに言うと私が会ってみたいのは暴食の魔王・ヴァウエッドさんだけなんだけど」
「そうかい。――――まぁいずれにせよ、もう手遅れだ」
「……はい?」
僕の瞳が、まさしく眼の色を変えて、その話題に飛びつく。
[フェトラスが他の月眼の魔王の楽園に突撃したら、何が起こるのか――――だなんて]
「やべ」
[逃がさないよ? そんな愉しそうな提案をしておいて、ただで済むわけないじゃないか]
即座に離脱を計ったフェトラスを軽く拘束する。あくまで軽く、だ。
僕たちが本気になることはもう無い。どっちも損しかしないからだ。
[いつかこんな日が来てくれと渇望していたが、ついに訪れたか。ありがとうフェトラス。協力は惜しまないぞ。なぁに、君が本気を出せばきっとギリギリ助かるかもしれない]
「危険な香りしかしない!? ご、ごめんなさい! やっぱり帰らせてください!」
[ああ、嗚呼、偉大なる極虹の魔王よ。僕は君に敬意を表する。我が身を省みることなく、最高の提案をしてくれてありがとう。ロイルとの契約でアレやコレやを僕が誘導することは出来なかったが、君からの、他ならぬ君からの自発的な願いとあらば叶える事はやぶさかではない。というかむしろ大歓迎。さぁ早速行ってみよう。どこから行く? ヴァウエッド以外でもオススメの楽園があるんだけど]
「だからイヤだってば! ほ、ほら! 他の魔王さん達だって、ゆっくり過ごしてる所を邪魔されたらきっと不機嫌になっちゃう!」
[まずは……そうだな。戦争の魔王アークスなんてどうだい?]
「一番ヤバそうなとこじゃないそれ! っていうか話しを聞いて!」
爆発音。フェトラスの魔法によって僕が施した拘束が吹き飛ぶ。
とたんに僕たちの間にピリリとした緊張感が走った。
「………………」
[………………]
よくない傾向だ。お互いの意地がぶつかり合ってて、どちらかが、あるいは両方が譲らないと『大惨事』になってしまう。
だがそれは共通認識でもあった。
ロキアス相手に意地を張ってもしょうがない。
フェトラス相手に意地を突き通すことは難しい。
彼女とのやり取りに飽きることはないが、それでも愉しいことは他にもある。ならば争いに意味は無い。
そんなわけで僕と彼女はパッと両手を挙げて見せた。それと同時に僕の月眼も鎮まる。……これはコントロールじゃない。僕の月眼のオン・オフは任意のソレではなく自動的だ。
「オーケー。クールにいこう。僕たちは仲良くしておいた方がお得だ」
「……ふぅ。あーやだやだ。ロキアスさんは頭がおかしい」
こうして、ようやく話し合いは始まった。
「で、なんだっけ。ヴァウエッドに会いたいんだっけ」
「うん。だってお料理大好き魔王さんなんでしょ? 一回食べてみたいな、って」
「……お腹でも空いているのかい?」
「フッ……私がいつまでも顔真っ赤にしてソレを否定する子供だと思わないでよね」
残念。僕は期待していたセリフが飛んでこなかった事に対して苦笑いを浮かべた。
「そうかい」
「私も料理するし、やっぱり興味があるんだよね。だって楽園でもお料理しちゃうくらいの魔王さんなんでしょう? だったらすごく美味しい物が作れるはず。きっと勉強になると思うんだ」
「まぁヴァウエッドなら、ただジャガイモも焼くだけで神域の味を作り出せるだろうけど……対価がなぁ……」
「対価。なんだっけ。昔サラクルさんに教えてもらった。えーと、自分が食材としては不適切だって熱く語る、みたいな」
「それは対価じゃない。こんにちは、と同じレベルで必須なものだ」
「ふぇあぁ」
フェトラスが変な声を漏らす。実際に会うのは久々なんだが、相変わらずのようだ。
「……まず前提として、私は本気で楽園にお邪魔したいわけじゃない。その上で質問」
「僕としてはいつか必ずやってもらうつもりだ。だがそれがいつなのかは決めていない。その上で答えよう」
ちょっとした儀式みたいなやり取り。今からする会話は腹の探り合いじゃなくて、他意のない会話だ。
そんなわけでフェトラスの表情は少しだけリラックスしたように見えた。
「さてさて。私がヴァウエッドさんのお料理を食べるために必要なことはなーに?」
「……難しい質問だ。ヴァウエッドとは片手ほどの回数で共闘したことがあるが、なにせ【天外の狂気】との決戦中だ。僕は彼を観察して、幾度かのサポートを行ったけど、別に仲良く会話したわけじゃない。……ただ観察した上での感想を言うのならば、理解不能というのが正直な印象だね」
「りかいふのう」
「君は『ノイズを奏でる黒い水』を、凍らせてかじってみたいと思うかい? ちなみにノイズを聞けば血液が沸騰し、水の本体に触れたら全身が凍り付いて死ぬ」
「なにそれ気持ち悪い……生き物なの?」
「ギリギリ、たぶんね。ついでに言うならサイズは星の五倍ぐらいだった気がする」
「た、倒せるのそれ?」
「ちょっと難しかったかな。でもそんな難敵を前にして、ヴァウエッドはソイツをどうやって食べるか、って事しか考えて無かったよ。倒すとか殺すとかじゃなくて、ただ食べたがっていた。もしくは調味料として使えないか試行錯誤していた」
「うーん。エキセントリック」
「もちろん食べる事は出来なかった。存在の法則が違うからね」
そう言うと、フェトラスは首をかしげた。存在の法則という言葉の意味がよく分からなかったのだろう。だがそれでいい。あんなものを理解するのは困難を極めるし、そもそもフェトラスには無理だろう。ついでに言えば理解の必要性もない。
話しを戻そう。
「えっと、どうすればヴァウエッドの手料理を食べられるか、についての解答だが、現状では不明だ」
「え、そうなの?」
「ああ。実は、というか、当然の話しなんだけどさ。僕は観察のために何度か他の楽園に使者を送り込んだことがある」
「……それ、どうなったの?」
「九割九分の使者が死んだ。まぁ正確には生物じゃなくて、僕の魔法で作った幻影体だけど」
もちろん嘘だ。幻影体なんかじゃなく、きちんと意思疎通が出来るモノを送った。だがフェトラスにそれを非難されるのは時間の無駄なので華麗に誤魔化す。
「何体送ったのかは見当もつかない。とりあえず凄まじい量を、それぞれの楽園に送りつけた。そして奇跡の生還を果たした幻影体がほんのわずか。そいつはヴァウエッドの料理を食べることに成功したんだけど、それ以降の使者が成功したことはない」
「あぁ……そういう……成功例はあるけど、再現は出来なかったんだ……」
「そうだね。あと一歩まで行ったり、手料理を食べた使者はけっこういたけど、生還出来たのは一体だけだ」
「うう。やっぱり地獄じゃん」
「それが楽園というものさ」
そう言いながら肩をすくめてみる。
「そして多数の実験観察を行った結果、とある月眼の魔王がブチ切れてね。こんなメッセージを寄越してきた」
『次はない』
「とてもシンプルなメッセージ。そしてシンプルであるが故に恐ろしい。殺されるのか、破壊されるのか、殺戮されるのか、あるいはそれ以上か。――――というわけで僕は、楽園入りした月眼の魔王に接触することを禁じられた」
「禁じられた? カミサマに?」
「そうだね。そして月眼の魔王はとても興味深い観察対象ではあるけれど、その段階である程度の観察は済んでいたから僕も大人しく従った、ってわけさ」
何もかもを台無しにするわけにはいかない。僕はまだまだ愉しい事を探して、観察して、あわよくば誰かに発表したりして、その反応すらも観察したいのだ。
ここまで語ってみせて、僕は改めてフェトラスを観察した。
どうやら何かが気になっているようだ。表情が固くなっている。
「あのね」
それは好奇心と呼ぶにはあまりにも冷たい関心。畏れを伴う情報収集だった。
「…………テグアさんって、どうだったの?」
「……テグアか。彼の観察だけは不可能だったよ」
二人そろって、終焉の扉を見つめる。
「テグアの楽園は真っ暗でね。何も見えないんだ。そして何も見えないまま、使者は消滅した。たぶんあれは観察出来るような対象じゃないんだろう」
「そっか。カミサマ達が特に気にしてたし、私もオメガさんとの約束があるから……」
いつか大魔王テグアと戦ってほしい。
そんな願いを発したオメガは、現在沈黙している。あまりこちらとは関わりたくないようだ。まぁカミサマだしそんなもんだろう。
「再び話しを戻すとしよう。ヴァウエッドの手料理を食べて、なおかつ生還する方法は不明だ」
「はい! じゃあ諦めます! お話しおわり!」
「だが、ここにいるのもまた月眼の魔王だ。しかも二体。僕がかつて送っていた使者なんかとは次元が違う。協力すればきっと何とかなるはずだよ!」
「なりません! 先輩達はとっても強いし、怖いし、邪魔したくないので私はお家に帰ることにします! にっこり!」
輝かしい笑顔を見せつけるフェトラス。
だけど、ああ、極虹の魔王よ。
その輝きは素晴らしいが、たぶん曇るところも美しいと思うんだ。
「そもそもカミサマに禁止されてるんでしょう? ロキアスさんが自分で言ったじゃん」
「僕は禁止されたが、君は違うだろう?」
「詭弁だ! 戯れ言だ! 詐欺師の手口だ!」
「――――ヴァウエッドの手料理、食べてみたくないかい?」
「むがっ」
「生還した使者曰く。『食べ終わっての満足感ではなく、咀嚼中の喜びでもなく、一口目の感動でもない。テーブルに料理が並んだ時の期待でもない』」
「……な、なんの話し?」
「使者はね『ヴァウエッドが包丁を振るう姿を見た瞬間に、意識をもっていかれそうになった』と語っていたよ」
「うーん? どういうこと?」
「美しかったそうだ。食材に触れる指が、振りかけられる調味料が、料理に対する彼の真摯さが。『食う前から美味いと確信出来た』そうだよ」
そう言うとフェトラスの表情が消えた。
彼女もまたコックさんだ。料理を生業としている。それなりに苦労はあっただろう。感動もあっただろう。
だが、使者の感想はフェトラスにとって想像することも出来ない程に常軌を逸していた。
「食べる前から、既に......」
「どんな味なんだろうね。いいや、きっとそうじゃない。僕たちが口にすべき願いは――――」
暴食の魔王ヴァウエッドの楽園に、行ってみたい。
「どうだい? 一口食べるまでもない。彼がどんな風にフライパンを使うのかを見るだけでも、価値がありそうじゃないかな?」
「……食べずとも美味しい食事…………そんなことが可能なの……?」
「願いごとのハードルを下げるんだ。それこそ観察するだけでいい。だとしたら、生還の可能性は非常に高い」
「…………でも、やっぱりお邪魔じゃないかな」
「料理人としてのフェトラスに聞くよ。料理人の存在意義とはなんだ?」
なぜ君は料理人になろうと思った?
自分で美味い物を作って、食べたかったからか? 違うな。食べるだけなら作り手になる必要性なんてない。
そう、料理人とは。
「……誰かに食べて貰うこと、が存在意義だよ」
「だろう? だったらヴァウエッドの楽園は他者を拒絶しないはずなんだよ。ちょっとだけ、彼自身の食欲が旺盛すぎるかもしれないけど」
「う、うーん……」
フェトラスは気がつかない。この子は純朴だからだ。
僕はヴァウエッドが料理人だなんて一言もいってない。あいつはただの暴食の魔王・月眼ヴァウエッドでしかない。
しかし意識付けは済んだ。彼女にとってヴァウエッドは料理人だ。
ここが詰め所だろう。
「なぁフェトラス。僕はヴァウエッドの様子が知りたい。そして君はヴァウエッドの技術を、料理に対する在り方を見てみたい。……両者の願いは一致していると思わないかい?」
「それは、まぁ、そうなんだけど……」
「大丈夫さ。かなり勝算はある。なぜならば君は料理人で月眼の魔王で、そしてフェトラスだからだ」
だましてごめんね☆
「ロイルへの愛で紡がれた君の月色は、ヴァウエッドなんかには絶対負けないさ!」
「…………」
――――決まった。
完璧だ。
まずは危険だと説明し、そこからハードルを下げていき、最後には「ロイルへの愛」というキラーワードだ。
勝ったな。ふふふ。
では早速フェトラスに録画・録音・記録・送信を可能にする魔法を施して……。
「……ん?」
フェトラスが僕を見つめる瞳は、ドン引きしていた。
「うさんくさぁ」
「え」
「今までで一番うさんくさいよ、ロキアスさん……」
「何をバカなことを」
「あのねロキアスさん。怪我しない方法、つまり『最高の護身術』って知ってる?」
「………………チッ!」
答えるまでもない。賢者は嵐の日に出歩かない、との格言しかりだ。
つまり「危険な事はしないに限る」と。
僕は作り笑顔をやめて駄々をこねた。
「なんでだよー。いいじゃんかよー。僕たちが協力すれば、絶対愉しいことがたくさん出来るのにー」
「愉しいのは基本的にロキアスさんだけだよね」
「そんなことはない。君にとっても良い経験になることは間違い無いよ。それにメリットが多い。色んな月眼の魔王と仲良くなれたら【天外の狂気】と戦う時に凄まじいアドバンテージが生み出せる。他の月眼だと無理だろうけど、七色に輝くフェトラスだったら他の月眼とも仲良くなれる可能性があるんだ。これはおだててるわけじゃない。純然たる事実の提示だ」
「代償として死ぬかもしれないんでしょ? 絶対ヤだよ。それに【天外の狂気】はもういないって話しだし」
「……他の愛を見てみたいと、観察してみたいとは思わないのか?」
「ロキアスさんの頭のおかしさだけで、お腹いっぱい」
「チッ!」
再び舌打ちがこぼれる。
フェトラスは相変わらず頑固だ。
例えばロイルがどこかの楽園に迷い込んだら、何も考えずに奪還に行くくせに。自我というか、欲求が薄いんじゃないかこの娘?
「でもね」
「ん?」
「他の月眼がどんな魔王さんなのか、っていうのには、やっぱり興味があるかな」
「ほう」
「だから観察に協力することは出来ないけど、発表してくれないかな。あなたの観察結果を」
「……………………」
「……………………」
「……まぁ、いいか。うん。いいよ。嘘偽りなく、他の月眼を紹介してあげようじゃないか。あわよくば君が楽園に突撃したくなるような盛り上げ方で」
僕は基本的に正直だ。
フェトラスもそれを知っている。
だから彼女は微笑んだ。
「絶対に行かないけど、まぁせいぜい頑張って」
「上等だよ小娘。行きたくなったらすぐ言えよな」
こうして僕は語ることにした。
全ての月眼の魔王の、愛のカタチを。
「では愉しい愉しい観察の結果発表だ。まずは――――そうだな。前提から。いいかい、極虹の魔王。他の月眼は君と違って、君の七倍の殺戮衝動を抱えていた」
フェトラスは虹の精霊だった。与えられるはずの殺戮の資質は、七色に分散していた。
だがそれがただの光だとしたら。あるいは闇だとしたら。
殺戮の精霊・魔王。
「……そう言われると、想像以上に怖いね……」
「まぁ殺戮の資質を凌駕してこその月眼だけどさ、君とは違うんだよ。何もかもが。そして極論、虹の精霊だったとかはどうでもいい。――――僕たちにカウトリアはいなかったんだ」
ほんの刹那、黙祷のような気持ち。
「七倍の殺戮衝動。導いてくれる者はいない。当初の月眼繁殖システムは、幾多の犠牲を積み重ねてなお、成功者が出なかった」
「テグアさんが始めた物語……そして、二代目が産まれた……」
「ああ。それこそが二代目・平穏の魔王サリスだ。まぁ奇跡みたいな魔王だね」
「平穏の魔王。なんだかすごく大人しそうなイメージだけど……平穏を愛したの?」
「正確に言うと違うかな。サリスは、平穏以外を憎悪したんだ」
そう答えるとフェトラスは少しだけ身体に緊張をみなぎらせた。
「…………それって……ええと…………」
フェトラスの表情は実に読みやすい。
彼女は今「そもそも平穏ってなんだろう」という疑問から始まり、当然のように想像する。
平穏。
静かで、穏やかで、平和な。
字面はとても良い。だがその言葉の意味は凶悪だ。
平和な楽園。争いが無い世界。
つまりその楽園には、誰もいない――――。
「平穏の魔王サリスの楽園。それは『丘の上の山小屋にて、雑音の無い世界』だ。扉はアレ」
僕が指さした先にある扉。
そこにはまるで小屋のような、温かみの感じられないログハウスのような、とても寂しい絵柄が広がっていた。
干渉を拒絶するタイプの扉と言えるだろう。
「雑音の無い世界。つまり、とっても静かな楽園なんだね」
「まぁ川のせせらぎとか、鳥の鳴き声ぐらいは聞こえるよ。BGMみたいなもので生命活動しているとは言いがたいけど」
楽園の造りはシンプルで複雑だ。曖昧な世界と言い換えても良い。
そこは月眼の魔王が望んだ、都合の良い世界――――。
僕は正直に語り続ける。
「平穏の魔王サリス……危険度は第三位くらいかな? 正確にはじき出せる指標じゃないから適当だけど」
「第三位!? 予想よりも危ない所なんだね!?」
僕の願いはフェトラスによるサリスへの、ひいては全月眼への干渉だ。
嘘こそつかないけど、それ以外は割となんでもアリだ。それが僕の理だ。
さてどうやって話しを盛り上げよう。
そしてフェトラスはどんな表情で僕の発表を聞くのだろう。
そしてフェトラスはどんな決断を下すんだろう。
向かわせる楽園だけど、戦争の魔王・アークスの所か……あるいは十代目の所だな。
結婚の魔王エクイア・セッツの楽園。通称『ダーリンとのラブラブワールド』
ここは普通に生還出来る可能性が高い。
アークスの楽園は『戦場』だが、実はここも生還率は高い。
そしてアークスかエクイアと接触させて「なーんだ。意外と話し通じるじゃん」とか思わせて、徐々にハードルを上げて行くとかどうだろう。
なんだか行けそうな気がする。
題してフェトラスのレベルアップ大作戦。
うーん。そうすると月眼の紹介する順番とかも考えた方がいいかな。
発生した順番に語るのもいいけど、安全な楽園から紹介する方がいいかな?
一つずつ行かせるか? それとも先に全部説明しちゃう?
どっちにせよ興味を持たせて、いずれかの月眼と会話の一つでもさせたらこっちの勝ちだろう。なにせ月眼の魔王を観察するのはとっっっても愉しいことだからだ。
きっとフェトラスも夢中になる。
なにせ僕の存在意義なのだから。愉しいに決まってる。
テグアは別格としても、最終的には一番危険な八代目・永凍の魔王クティールの所にも行ってもらおう。うわぁ、どうなっちゃうんだろう!? 想像も出来ない! どっちが死ぬかな!?
やべぇ。愉しい。愉しいぞ。
ありがとうフェトラス。
「……ロキアスさん。いまロクでもないこと考えてるでしょう」
「いや、そんなことはないよ」
本当にありがとう。
君と友達になれて良かった。
せいぜい愉しい観察をさせてくれ。
僕はそんな事を考えながら、微笑んだ。
「絶対ロクでもないこと考えてる笑顔なんだけど」
「いやいや。君と友達になれて良かったって思ってたんだよ」
「はぁ!? ロキアスさんとお友達になるとか、絶対に嫌なんだけど!?」
「失礼だな君は」
「じゃあ聞くけど、カルンさんとはどういう関係?」
「親友だよ」
「それ最悪の回答だよ!? カルンさんに謝って!!」
「本当に失礼だな君は!? だいたい君は以前、僕と友達になってと言ってたじゃないか!」
「あの頃はロキアスさんのことよく知らなかったからね!」
「なっ……その回答こそ最低だと言わせてもらうよ!!」
笑って、怒って、愉しんで。
こうして僕の愉快な時間が始まったのであった。
さて、何個目の楽園で死ぬかな?
もちろん全クリしてもらうつもりだから、サポートはするけど。
つづきます。
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