5-26 神々との対話
ひとしきり愛を語り合うというか、いちゃいちゃ? するというか。存分に親子的コミュニケーションを取った後で、俺は「はぁ」とため息をついた。
「なんか想定外のことが重なりすぎて、すげぇ疲れた……」
フェトラスがカフィオ村を飛び出して。
演算の魔王と合流して、シリック達と再会して。
テレッサの持ち主と、変態弓使いと、ハサミ使いを倒して。
この時点のエピソードで人間離れしすぎである。なんで三人も英雄倒してんだよ。いやそもそも魔王と行動を共にする時点で人間失格と言われてもおかしくないんだが。
そんでフェトラスと再会したらめっちゃデカくなってて。
みんなが返り討ちにされて。
気がついたら変な空間に連れてこられて。
神様が実在すると教えられて。
月眼がたくさんいると知って。
ロキアスが世界の秘密を山ほど語った。
しかもそのせいで俺はセラクタルに戻ると発狂するらしい。なんてこった。
挙げ句の果てにフェトラスが月眼ロキアスと戦い初めて。
いきなり演算の魔王が現れて、戦って。
演算剣カウトリアが戻って来て。
娘が地獄から戻って来て。
演算剣カウトリア解放、なんて状態になって。
演算の魔王を……彼女の願いを踏みにじって、前に進んだ。
――――濃い過ぎるわッ!
「今日一日で事件が起こりすぎなのでは?」
[あはは]
「お前と再会してから、クッキーしか食ってねぇんだぞ……腹も減るわ……」
全力で怒って、叫んで、驚いて、恐怖したり、絶望したり、泣いたり。
しかも月眼と戦いまでした。お茶とクッキーだけでよくぞ戦えたもんだ。
[ほんと、お腹すいたねー。あとでロキアスさんにパンもらおうよ]
「お前の中であいつは何なんだ……近所の親切なおじさん扱いしてんじゃねぇよ」
[えー。だってロキアスさん変な人だけど、親切じゃん]
人って言うか魔王だけど。まぁ、いいや。
あいつは親切なだけじゃなくて、ちゃんと凶悪な魔王でもあるのだ。そりゃパンくれって言ったら普通に苦笑いしてパンぐらいくれそうだが、きちんと対価を求められるだろう。
でも、親切な面は確かにある。
俺はカウトリアの柄尻をそっと撫でて、鼻から大きく息を吐いた。
「……とりあえず、なんだ。飯のことは置いといて、これからどうするよ?」
[どうするって?]
「結局のところ俺達の悩みは解決されていない。楽園に行くか、それとも行かないのかって事なんだが」
[お父さんどう思う?]
「……いや、どうもこうも…………お前はどうしたい?」
[お父さんの思うがままに――――と、言いたいところだけど]
「ほう?」
[ちょっと斬空剣さん辺りと約束しちゃったからなぁ]
「ざん……誰それ?」
[私を助けてくれた聖遺物]
「…………はい?」
あの虚空で何があったのかを、俺はフェトラスから聞いた。
[――――というわけで。うだうだ悩むぐらいなら、いっちょ世界でも救ってみようかな、って思うんだけど……えっ。お父さん、どしたの?]
俺は思わず涙を流していた。
色々ありすぎて涙腺が弱くなってるのだろうか。いや、例え俺が鋼のハートを持っていたとしても、こんな話を聞かされて涙を流さないわけがない。
「おまっ……おま……そんな、地獄にいたとか……さらっと言うなよ……お父さん、お父さんなぁ……お前に申し訳が立たねぇよ……そんなに苦しんでたなんて……」
[あー……まぁ、カウトリアに比べたら大した時間じゃないと思うよ。だってこの子、数年ぐらいあそこにいたんでしょ?]
「カウトリアァァァ! もうほんと、一生大事にするからなぁぁぁぁ!」
よせやい、という勢いで演算剣の宝玉がほのかに点滅する。
「む。この反応。もしかしたら会話出来そうな予感。……なぁカウトリア。イエスなら一回点灯。ノーなら二回点灯。そんなこと出来るか?」
無理だった。
点滅が強くなったり弱くなったりはするのだが、意思疎通は出来無さそうだ。
「ま、いっか。……お前の気持ちぐらい分かってやれるさ」
[あ。その口癖って久々に聞いた気がする]
「そうか?」
[うん。なんていうか、いつものお父さんって感じがして私は好き]
「おーおー。可愛いこと言いやがる。この、この」
脇腹を突いてやると彼女は楽しそうに身をよじらせた。
[というわけで、どうするお父さん? 一緒に世界を救ってみる?]
「いいぞー」
もの凄く軽い感じで返事をしたのだが、フェトラスは満足げに微笑むだけだった。ちょっと調子に乗った発言だったが本気なのは間違いないので、俺は付け足すように説明した。
「お前がそうしたいのなら俺はそれを手伝うだけだ。カウトリアも戻ってきたし、存分に頼るがいい。今日からのお父さんはひと味違うぞ」
[…………お父さん、カウトリアのこと大好きだよね]
「好き。大好き。超好き」
[しっとのこころ!]
フェトラスはペシッと優しく俺の二の腕をはたいて、ケラケラと笑った。
[そんじゃ、ロキアスさんと神様に言いに行こっか。楽園いりませんって]
「納得してくれるかねぇ……」
[うん? 別に納得させる必要ってなくない?]
「と言いますと?」
[相手の事情なんて知らないよ。ただ帰るだけ。ゴリ押しする]
とぉー! と。扉を開けるみたいに、片手を前に突き出すフェトラス。
自信まんまんのご様子だが、仮にも神様相手に本気だろうか。
「ゴリ押しとか……どこで覚えたそんな言葉」
だけどフェトラスが楽しそうだから、まぁいいや。
ポン、と彼女の頭に手を置く。さらさらの黒髪の手触りが心地良い。
「お前が好きなようするといい。俺は全力でそれをサポートするだけだ」
[えへへー。でもまずはご飯たべたいね]
「ま、それもそうだな。あとでちょっとお願いしてみよう」
[うん! 大きなパンがあると嬉しいなぁ]
「そうだな。かしこまった料理より、そんぐらいが丁度良いわ」
[クッキーも美味しかったし、ロキアスさんならきっとすごいパンが――――ああっ! 忘れてた!]
本気で「やべぇ!」って顔をされたので俺も少し焦る。
「ど、どうした?」
[おっぱい大きくしないと!]
「するなぁぁぁぁぁぁ!」
俺が大きく叫ぶと、フェトラスは首を傾げて両肩をすくめた。
[なんで? お父さん、大っきなおっぱいが好きなんでしょ?]
「うるせぇ黙れ忘れろ。二度とそんなこと口にするな。そして実行するな」
[えぇ……なんでぇ……?]
「うるせぇ黙れ忘れろ。二度とそんなこと口にするな。そして絶対に実行するな!」
ちょっと厳しめに言うと、フェトラスは怪訝な表情を浮かべた。
[な、なんでそんなに強烈な反応なの……?]
「うるせぇ黙れ忘れろ。これ言うの三回目だぞ」
[……ご、ゴリ押しだ]
そうだな。俺もそう思う。
[あ、じゃあ髪は? 短いのが好きって聞いたけど]
髪。髪かぁ。
「うーん。フェトラスはずっと長い髪だったからなぁ。今更短くしても、違和感が出そうだ」
と、言ってから気づく。フェトラスに回りくどい表現をする必要性は全くないのだと。
「俺はお前の長い髪、好きだよ。綺麗だし」
[むふー]
ご満悦である。
「ま、気分転換に切りたいのなら別に止めないけどな」
[うーん。どうしよっかな。お父さんがずっと褒めててくれたから、私も自分の髪気に入ってるんだよね。……でも、何事も経験だよね。一度切ってみようかな?]
「そっか。――――ああ、どうせなら腕の良い理容師に切ってもらおうぜ?」
[りようし?]
「ハサミで髪を切る仕事をする人のことだ」
[へー! そんなお仕事があるんだ! へー! あ。でも角あるし、魔王ってバレないかな?]
「ははは。気にするな。世界を救うんだろ? そしたら正しく救世主だ。誰もお前のこと怖がらないだろ」
[おお。なるほど]
「そうとも。コソコソするのはもう終わりだ。堂々といこう。いっそ最強の魔王として世界に君臨しちまえ。目指すは世界平和だ」
[……反対する人とか、怖がる人がたくさんいそう]
「大丈夫だよ」
俺はそっと彼女の手をとって、握りしめた。
「大丈夫」
[…………ん!]
にっこりと笑う我が娘。
俺はようやくこの笑顔を取り戻せたことが実感出来て、ゆっくりと微笑んだ。
[あ。でもあんまり有名になりすぎると、二人で旅するのとか難しくなるんじゃないかな]
「特別扱いはされるかもしれんが……。でもまぁ、お前のキャラなら大丈夫だろ。いつかそのうち『あ。フェトラス様だ。ちーっす』ぐらいのポジションに収まる気がする」
マジで。
「だからあんま気にすんな。っていうかお前の存在感のスケールで隠れ忍ぶとか無理だろ」
[そうかなぁ……。ムムゥさんとも、またいつか仲良く出来るかな……?]
少しだけドキリとした。
ムムゥ。カフィオ村の木こり。フェトラスが魔王だと知る人間の一人。彼女への恐怖に侵された者。
俺は少しだけカウトリアを握りしめる力を強めて、それから笑った。
「へーきへーき。逆に謝ってくるわ。あん時はビビりすぎてごめんね☆ って」
[ムムゥさんそんなキャラじゃなくない? もっとこう……あん時のお前怖かったぞ。マーディアに近づくなよ、みたいな]
低い声でムムゥのモノマネをするフェトラス。全然似てないのがウケる。
「まぁムムゥの懐柔とか楽勝だろ。マーディアさんを味方に付ければ勝ち確だし」
大丈夫。
この子は、ちゃんとみんなから愛される優しい子だ。
――――あの村で魔族を殺したことは、忘れてはならない。この子はもう誰かを殺せる力と覚悟がある。
あの星はフェトラスにとってとても手狭なものだろう。大人しく楽園に収まっているほうが、波風は立たないのかもしれない。
だけど、俺は願う。
創られた世界だとしても、破滅が確定した世界だとしても、波瀾万丈に世界を揺るがすとしても、この子がずっと笑って過ごせますように。
二人きりの永遠の楽園?
あー。そうですね。平穏ですね。きっと楽しいでしょうね。あと一人連れて行けるっていうんなら、もっと楽しく過ごせるでしょうね。
だけど一人増えて楽しいのなら、百人増えれば楽しさ百倍じゃねーか。一万人連れて行ったら、一万倍だ。ガキでも分かる。
フェトラスがみんなを愛して、みんなから愛される世界。まさしく理想郷だ。
当然、不愉快な思いをする可能性も一万倍だが、それがどうした。どんと来い。
「世界を救って、毎日宮廷料理を食おう」
[やーん。おデブさんになっちゃう!]
にへへ、と笑って。そしてフェトラスは大げさな様子で両手を頬に当てた。
(ぷくぷくに太ったフェトラス……)
……やべぇ。想像してみたけど可愛いな。お肉ぷよぷよなフェトラス。絶対に可愛い。――――うちの娘すごいな! どんな状態でも可愛い!
「フェトラスは細いしなぁ。肉付いた感じも、ちょっと見てみたい気がする」
[本当? じゃたくさん食べようかな! そしたらおっぱいも大きくなる!]
「おい。二度と口にするなと言ったはずだが」
[おっと。これは失礼しま、ぶふっ、あははははは! お父さん超真顔ー!]
そんなこんなで扉の前に到着。
既に開いている。
「頼もーう」
[たのもーう!]
ノリノリである。二人で並んで月眼の間に入った。
ロキアスがいるかな? と思ったのだが、不在のようだ。代わりに管理精霊サラクルがパタパタと駆け寄ってきた。
「ふふふフェトラス様。ご無事でしたか」
[心配かけちゃった? ごめんね、大丈夫だよ!]
にっかりとピースサイン。
フレンドリーな月眼、というのが珍しいのだろうか、管理精霊サラクルは目を白黒させていた。
「ロキアス様が大変お疲れのご様子で楽園に戻られてしまいましたので……そもそも神様の意思に逆らってまでの空間転移。何かとてつもない事でもあったのかと……」
ロキアスの楽園。俺は彼がいるであろう扉の先を思い返した。
「……改めてお礼を言わなくちゃな」
どんな気まぐれなのかは知らないが、あいつはカウトリアを救ってくれた。彼女にとって完全無欠のハッピーエンドとはならなかったが、あのまま演算の魔王が消えてしまっていたら、俺はこんな風に笑えなかっただろう。もう一度、いいや、何度だってありがとうと伝えたい気分だ。
……しかしそれはそれとして、「やっほーロキアスくーん! あーそーぼー!」とあの中に入ることは出来ない。今度こそマジで殺される気がする。
さて。
「えーと、とりあずロキアスがいないなら……神様? もしもし神様? お話ししましょ」
そう声をかけると、天上から声が響いた。
〈……演算の魔王は、どうした〉
それは初めて聞く声だった。
(確か、不在だったとされる中立の神Dだったか)
ナチュナルに神速演算が使える俺は、あっさりと仮説を打ち立てた。
「えっと、あんたがデッドバース?」
〈その名を口にしていいのは、カミノ様、テグア様、ロキアスだけだ。Dと呼べ〉
「了解。そして質問に答えよう。演算の魔王は、ここに戻った」
演算剣カウトリアを掲げる。
「ロキアスが統合してくれた」
〈……………………そう、か〉
それきり無言。
……中立の神様は演算の魔王がお気に入りだったみたいだが、何故だろうか。
そんな事を考えていると、俺の目の前に突然「鞘」が現れた。
荘厳な一品だった。演算の魔王が纏っていた精霊服によく似た色合い。そして花をモチーフにしたような上品な模様が記されている。
〈使え〉
「……なんですかコレ」
〈演算の魔王への贈り物だ。彼女への、私からの敬意でもある。使え〉
それはものすごい固い決意が込められた命令だった。
「…………神様からのプレゼントって」
少しビビリながらも、有り難く頂戴する。抜き身のままじゃカウトリアも落ち着かないだろうしな。
サイズは当然のようにぴったり。
腰に巻きやすく、そして軽い。…………聖遺物よりレアな品だ……。
まぁそれはさておき。こんにちは神様。
「さっきはろくに会話も出来なかったが……ええと、色々確認していいかな」
〈なんだ〉
「まず……敬語使った方がいいですか?」
〈――――。〉
神様が呆れた気配を発したのが分かった。
〈好きにせよ〉
「あざっす」
…………いや、我が事ながら、流石に今の返事はどうよ。
あ、そうか。この空間では危機感みたいなのが死ぬんだった。
「まぁいいや」
話を本題に持っていくとしよう。
「えっと、俺ばっかり喋ってるけど、実は俺ってその資格が無いよな? お前等が求めてるのは俺じゃなくて、フェトラスだ。そうだろ?」
〈然り〉
Dとは違う声色。
それぞれに名前はあるんだろうが、自己紹介されてないしなぁ。
「ま、いいや」
口癖連発である。神速演算の副作用とも言えるが。
俺はそっとフェトラスの背中を押して、一歩前に出させた。
[改めまして、こんにちは神様。私の名前はフェトラス]
〈アルファだ〉
〈Bだ〉
〈Cだ〉
〈……。〉
〈Eだ〉
〈Fだ〉
〈オメガである〉
二人以外、名乗る気ねーだろ。
突っ込みたくもなったが、あんまり調子に乗るとウザがられるだろうから俺は自重することにした。
[ええと、聞きたいんだけど、あなた達にとって私ってなに?]
〈我らの宿命である〉
〈同上〉
〈歓迎すべき者だ〉
〈……。〉
〈まず実力がいかほどなのかを知りたい〉
〈そもそもこちらの要請に納得してくれるのか、と問う〉
〈別にどうでもいい〉
オメガさんやる気無いっすね。
ただ七人の話し方、そしてDが中立である、という情報からなんとなくそれぞれの立ち位置が分かる。
中立がいる、ということは、他のメンバー(?)はそれぞれ異なる価値観を持つということだ。穏健派と過激派。保守派と革新派。甘党と辛党、みたいに。
アルファとオメガだけ取り上げてもそれは顕著だ。意見が対立しているに等しい。
なるほどなるほど? なんで神様が七人もいるんだよ、と思ったが何てことはない。七人が揃うことで神たり得るということなのだろう。
ただ。
割とそういう内情はどうでもいい。神様的には、大切なことは話し合って決めるタチなんだろうが、俺達には全然関係無いのだ。
フェトラスが振り返って俺を見つめてくる。
俺は黙って片手を差し出し「ど-ぞ」というジェスチャーを見せつけた。
[えっと、そしたらオメガさんの言葉を採用させてもらうね。どうでもいいって言うなら、このまま帰らせてもらうとします。それじゃ、さようなら!]
にっこり!
「流石は俺の娘だ。完璧だな。よし、てっしゅー!」
ふははは。なんか楽しくなってきたぞ。この空間めっちゃ居心地いいな。
だけど、それこそサヨウナラだ。
ここに用は無い。
〈待て〉
[なーに?]
〈……帰るというが、どこに帰るというのだ〉
[お家に決まってるじゃん]
〈……家〉
[そうだよ。神様のくせに変な質問するんだね?]
〈フッ〉と小さく笑う声が聞こえた。短すぎてどの神なのかは分からなかったが、そこには「面白い奴だ」という意味が含まれていた。たぶんオメガさん。
〈それは許可出来ない〉
[許可、ですか]
〈セラクタルは月眼を収穫するために調整された惑星である。その恩恵を得るために我々は日々勤めてきた。君という存在は、我々が創ったのだ。故に君には被造物として、我々の意図に従ってもらう〉
それは神々しい喋り方だった。絶対的上位存在。なるほど、確かに神なのだろう。
でもウチの娘は「へらっ」と笑ってみせた。
[えっとぉ、創ったのが……花の種を植えたのがあなた達だとしても、頑張って育てたのはお父さん。そして咲き誇ったのは私自身だよ。感謝してほしいなら『ありがと!』って言うけど、従うのは義務だ、みたいなこと言われてもピンと来ないや]
〈確かにな〉
〈黙れオメガ〉
おお。オメガさんのキャラがどんどん固まっていく。いいぞ、神を崇めよと言うのならば、俺はオメガさんを崇拝しよう。よろしくマイゴッド。
〈君は、我々の意図に逆らうと?〉
[というか神様の意図ってなぁに?」
〈天外の狂気の抹殺である〉
[絶滅したんじゃなかったっけ]
〈……それは確認しようが無いことである。しばらく襲来が無いだけで、明日来るやもしれぬ〉
ビビリかよ。
[月眼が十二体もいるなら十分なんじゃないかなぁ]
〈私もそう思う〉
〈黙れオメガ〉
お、オメガさーん! いやオメガ様! 頑張れオメガ様! あんた最高だ!
〈――――では、どうすると言うのかね? こちらは永遠の楽園を約束しよう。どうだロイルよ。人間よ。永遠の命で、フェトラスと共に幸福に生きるということは、何をおいても優先すべき事であろう?〉
あ。喋っていいんですか。じゃあ喋ります。
「永遠なんて無ぇよ」
永遠とは死があるからこそ。つまり終わりがあるからこそ証明出来る概念だ。そうだろ、演算の魔王。――――俺は永遠にお前のことを忘れない。
「百兆年の百兆倍を楽園で過ごしたとしても、いつか終わりは来る。お前が言ってる『永遠』は、俺の考える『永遠』とは違う言葉だ。だから――――俺の前で易々とその言葉を口にするな」
ひゅう。神様になめた口きいちゃった。
…………テンション高いな俺。少し落ち着くか。
どうせ俺の気持ちはフェトラスが喋ってくれる。
[神様。質問です]
〈……なんだ〉
[その楽園って、今すぐ入らないとダメなんですか?]
〈どういうことだ?〉
[その楽園に住むってのも私的にはまぁまぁ魅力的なんですけど、後でいいですかね]
〈…………後?〉
[とりあえず私達はセラクタルに帰りたいんです。いいですか?]
〈その間にお前が失われることを我々は危惧する――――先ほどロキアスとの戦闘の際にデータを取ったが、特にお前は逸材のようだ。失いがたい〉
[失われるって……私が死ぬと思ってるの?]
〈左様。お主と相性の悪い聖遺物が発生するやもしれぬ〉
[え。私に勝てる人っているのかな]
〈いてたまるか〉
〈頼むから黙っててくれオメガ〉
興が乗ったのか、オメガさんから楽しそうな雰囲気が伝わってくる。そして突っ込みも少しだけ人間味がにじみ出ている。――――ははぁん。さてはこいつら、基本的に良いヤツ等だな?
〈家に帰って、何をするというのかね〉
[え。とりあえずゴロゴロする。あと唐揚げ食べる]
そういえばずっと食いたいって言ってたっけ。俺はひっそりと心のメモにそれを記した。
[そしてシリックさんに甘えたり、ザークレーさんと一緒にお絵かきとかしたいかな]
「え。あいつ絵書くの?」
[すごく上手だよ。色々教えてもらったりした]
いつの間に。
[そんなわけで、私はやりたい事と食べたい物があるので、セラクタルに帰りたいです]
〈……楽園に至れば、お前の幸福は約束されているのにか〉
[でも楽園じゃシリックさんに甘えられないし、ザークレーさんとお絵かき出来ない。それにカルンさんともお喋りしたいかな。あとはムムゥさん、マーディアさん、バリンおじいちゃん……けっこう沢山の人と、私はまだお話ししたり、一緒にご飯食べたりしたい]
〈…………〉
[そして一番重要なのは、私の幸せはお父さんの幸せだってこと]
〈なればこそ、永遠の命がある楽園は〉
フェトラスは片手を上げて神の言葉を制した。
[約束された幸せも悪くはないけどさ]
何度目だろうか。フェトラスは俺の方に振り返った。
彼女は幸せそうに笑い続ける。
[予想外の幸せは、もっと素敵じゃない?]
マジで絶対に嫁にはやらん。
『ねーカミサマ、これどう思う?』
アルファ 「あり」
B 「ありよりあり」
C 「ありよりの無し」
デッドバース 「どっちでも」
E 「無しよりのあり」
F 「無しよりの無し」
オメガ 「ないわー」
カミサマ達はそれぞれ異なった価値観を与えられています。
あまり意見が割れることは無いのですが、時々完全対立することもあります。
その際はDが判断して、多数決に決着を付けることになります。