5-14 対話の終わり
この世界には神様がいるらしい。
大英雄として歴史に名を遺したジェファルード。だがその実、彼はセラクタルの地表にある全ての物の原材料らしい。創造神、とロキアスは言っていた。
そして「セラクタルを廻す神」……それは俺のイメージ的に、普遍的な意味合いの神様に近い。人々を見守り、世界を運営する神。
大魔王テグアはその神々の手助けをしたそうだ。それは殺戮に飽いた魔王の気まぐれなのか、あるいは友情によるものなのか。
虚無の精霊がいて。【源泉】があって。魔王がいて。聖遺物があって。
それら全ては効率よく月眼を産むために改造されてしまい、今に至る、と。
ささやかな口伝にも残らない。
どんな歴史書にも載っていない。
人々が想像することも出来ない、この世界の仕組み。
そしてロキアスは言った。
それこそが【神理】だと。
[簡単に言ってしまえば、ロイルがセラクタルに戻ることは不可能だ]
「何故だ? 俺が、人間だからか?」
[まぁそうだね。人間は【神理】を得てはいけないのさ。何故なら【神理】を得た人間は、その知識を活用してソレを飛び越えてしまうからだ。僕の知っているケースだと、全ての精霊は奴隷と化して、命は人間と家畜の二種類しか存在しなくなった事もある]
思っていた理由とは少し違う。俺はてっきり、魔王とかではない普通の人間が、なんかアレな感じで移動を繰り返すのが難しいのかと思っていたのだが。
「飛び越える……具体的には? 神理ってのはそんなに危険なのか」
[危険だね。具体的に説明すると長くなるから割愛するけど……そうだね、発達した武器や戦術を用いて、聖遺物抜きで魔王を始末することが第一段階。まぁこの段階まで行ったら月眼収穫なんてほぼ無理になるわけだ。第二段階になると宇宙にまで進出する。そして【天外の狂気】やそれに準ずるナニカによって滅ぼされてしまう]
「もう天外の狂気は絶滅したんだろう?」
[たぶんね。もうずっと気配すら感じないよ。今の所は]
気がつくと俺は手の平に汗をかいていた。
なんだろう。意識出来ないけど、身体が勝手に緊張している。
[まぁ滅びるだけならまだマシさ。例え宇宙に出ようが、距離は関係無い。セラクタル由来のモノは全て【源泉】に還る。だけど、人間は行きすぎると、その【源泉】すら破壊しかねない存在に至ってしまうのさ]
ただの人間が、全ての源を破壊する、と。
「……可能なのか、そんなこと」
[僕たちで未然に防いだけど、そうなる可能性は十分にあった。――――そうだな、人間の魔王化、とでも例えようか。君たちは発展しすぎると、精霊を喰らう術を得てしまうのさ]
精霊を食う。なんだそりゃ。水や作物と同じノリで、風とか炎も食っちまうのか。
[それこそ創造神カミノが使役していたようなカミサマを創り出したり、人造の魔女を産み出したり。人間を材料に、精霊を強制的に受肉させたり。逆に精霊を改造して、人間と掛け合わせたり。そんな人を人とも思わぬ所業を繰り返し、精霊の尊厳を踏みにじり始める。そして何を目指しているのかも分からぬまま、人間は全てを食い殺そうとする。『それが可能だから』という理由とも呼べない曖昧な動機で]
好奇心は小鳥を殺す、だったか。そんな格言を聞いたことがある。
[僕たちにとって【源泉】は基盤だ。手出しさせるわけにはいかない。だからアップデートを繰り返して、僕たちは【禁忌】と【神理】を定めた。それに抵触するモノを抹殺して、システムの安定化を図った。結果は大成功。月眼の収穫は着々とその速度を上げていったってわけさ]
「月眼を造るためには、神理を持った人間が邪魔だ、と。……だから俺は、セラクタルに戻ることが出来ないのか?」
[そうだよ。君達一人一人はたいしたことなくても、蓄積された知識はやがて神に至ってしまうからね]
「別に誰に言うつもりもないんだが」
[残念ながらコレは最高峰の規制だからね。ルールはかなり厳格だ。いちいち審査したり、例外を設ける必要性がない。【神理】を得た物は自動的に発狂する。だからロイルがセラクタルに戻ることは不可能だ。戻った瞬間、君は君でなくなる]
――――もうあの星には戻れない。
そんな事実を突きつけられても、簡単には受け入れることが出来なかった。
星なんて巨大な存在をイメージしたことはない。
だから俺はこう言い換える――――もうあの場所へは戻れない。
それはつまり――――もうあいつらには、会えない?
手の平の汗は存分に俺のズボンを汚し、気がつけば身体が小さく震えていることに気がついた。
そしてそれは当然の如く、フェトラスに伝わる。
「ねぇ、ロキアスさん」
[なんだい十三番目]
「どうして、お父さんに色々説明してくれたの?」
[それをロイルが求めたからだよ]
「そのせいで、お父さんが帰れなくなるのに?」
[それは別にどうでもいいことじゃないかな? あんな養豚場みたいな星でなく、もっと素敵な楽園に君たちは行けるのだから]
「……もう一つだけ聞くね。その楽園に、シリックさん達を連れてくることは可能?」
[不可能だね。君の愛は、ロイルにしか向いていない。この月眼の間に至った切っ掛けを、君は覚えているかな?]
「きっかけ?」
[そうだよ、十三番目。君の願いは『お父さんを幸せにしたい』だろう? そして我々はそれを受諾した。突き詰められた極論。反論不可能な感情論。純粋で狂気的で絶対的な、ただ一つの愛。僕たちはそれを応援しよう。ただし、やっぱり他のモノも欲しいなんてワガママは通らない]
「どうして?」
[ロイルを幸せにするためならば、何もかも全部捨てていい。――――君は本気でそう思ったはずだ。だから君はここにいる。それとも、なにかい?」
ロキアスは昏く、そして愉しそうに笑った。
[君の愛は、その程度のものなのかな?]
それは質問だったのか。あるいは挑発だったのだろうか。
フェトラスはひどくゆっくりな速度で、その双角を再び伸ばし始めた。
「ロキアスさんのお話しはよく分かった」
[それは良かった。話した甲斐があったよ」
「お父さんの敵が、わたしの敵。お父さんの喜びが、わたしの喜び。そしてお父さんの欲しいものは――――私の欲しいもの」
双角はある程度まで伸びると、ギチ、ギチ、と苦しい音を発し始めていた。
間近でそれを聞いた俺は、双角の密度が高まっていることを悟った。
「それで、どうすればいいのかしら? とりあえずお父さんが帰りたいって言ってるから、一度帰らせてほしいのだけど」
[無理だよ? 僕が協力しないと、君たちの移動は叶わない。挑戦してもいいけどたぶんロイルの寿命が先に尽きるだろうね]
「なら協力して?」
[嫌だよ? 僕がこうやって自由に出入りを許されてるのは、カミサマ達に協力しているからだ。せっかく十三番目が収穫出来たっていうのに、わざわざ逃がしたりしたらペナルティと警戒で僕の自由が制限されちゃう」
「どうすれば協力してくれる?」
[あはっ]
ロキアスは表情を変えた。
それは、とても邪悪な色をしていた。
[さて……さてさてさて! どーしようかなぁ! どっちが愉しいかなぁ!?]
まるで本性があふれ出したかのように、彼は高笑いした。
[ロイルが発狂し、君が絶望に駆られるのを観察するか!? それとも、どうやらケンカを売られているようだから買って、君達を絶望にたたき込む方が愉しいかなぁ!? それとも君たちに協力してみるとか? いっそシステム自体に反逆して、全部の月眼を始末して、この仕組みを丸ごと全部ブチ壊してみようかなぁ!?]
時折哄笑が混じる。それはまさに発狂したかのような高速の口回しだった。
フェトラスの双角が再び「ギチリ」と音を立てる。今までよりもサイズこそ小さいが、今まで見てきたどれよりも凶悪な気配を発している。
[ああ、愉しい。どれもこれも僕をワクワクさせてくれる。だけど残念ながら選べるエンディングは一つだけだ。一番愉しそうなのを選ぶのも悪くないけど]
フッ、とロキアスは小さく嗤って狂気を仮面の下に隠した。
[それでもやっぱり、僕はこのままシステム側に協力し続けることにしよう。月眼達の様々な愛を観察することは、とても愉しいからね。どいつもこいつも理不尽の塊。理解不能な矜持を抱えて、誰も彼もが完結している。次はどんな月眼が産まれるのだろうと、僕は毎回ワクワクしている。……ついでに言うなら、いずれ出会う神に迫るためにも、戦力は多い方がいい。よって今、ここに答えを示そう]
ロキアスはその小洒落た格好を見せつけるかのように両手を広げた。
[僕は君たちに協力しない。二人で大人しく楽園に収まっててくれ]
「そう。分かった]
言葉の最後、音が変質する。それと同時にビリッと空気が振動した。
ずっと月眼を晒していたロキアス。
そして今、フェトラスも同様にその瞳を月の色へと変化させた。
[ようするに、お前はお父さんから故郷を奪ったんだな、ロキアス]
その声には明確な敵意が含まれていた。
何故だ。勝てない相手に牙を剥くなんて、無謀すぎる。
だが声をかけるのが躊躇われるぐらい、フェトラスは鬼気迫っていた。
[故郷を奪った、ねぇ……そんな執着になんの意味が? ずっと同じ場所に居続けてもしょうがないだろう。どんな生き物だって、大なり小なり新天地を求めて旅をする。新しいお家で、豊かに愛し合って暮らす方がずっと幸せだよ]
[そうかもね。でも、お前はとんでもない思い違いをしているよ、ロキアス]
[へぇ。なにかな十三番目]
[あれこれ言ってるけど、殆どどうでもいい。重要なのは、お前がお父さんから故郷を奪った……お父さんを、害したということだけ]
[あらら。まさか敵対行動と見られるとは想ってもみなかった。親切に誠実に君たちを楽園に案内していただけなのに]
[積極的に愉しんでたくせに、よく言う]
[んー。まぁ、そうだね! 今も愉しいよ!]
敵意を有した月眼フェトラスを前にして、ロキアスは余裕の表情を浮かべていた。さもありなん。ヤツは三代目の月眼。フェトラスに比べると十世代も前から存在する、歴戦の化け物。悔しいが、実際に余裕なのだろう。
だけどフェトラスは、一切臆すること無く彼に向かって一歩踏み出した。
[私はお前に勝てないだろう。たぶん殺されるだろう。実力差は如何ともしがたい。でも私にはこうするしかない。お前を叩きのめして、協力させる]
「は!?」
俺は思わず驚きの声をあげた。
(嘘だろマジかよ。さっきロキアスの部屋で死を覚悟したくせに。アレには勝てないとはっきり断言していたくせに。それでもなお、挑むというのか?)
なぜ? どうしてそこまでする?
俺の驚き声に反応したのか、フェトラスがこう呟く。
[私にとって最悪というのは、後になって『何か出来たかもしれない』って後悔することだ]
[つまり?]
[このままシリック達を見殺しにしたら、きっと私は後悔する。それはつまり――――]
ちらり、とフェトラスが俺の方を見た。
この世で究極の死の気配。月眼。殺戮の精霊にして魔王の極地。
そして月眼とは、要するに愛の力だ。そして彼女はそれを手にした。
それは一人で勝手に拾い上げたもんじゃない。
それは、俺とフェトラスでたどり着いた、一つの答えだ。
『きっと私は後悔する』
俺は自然にフェトラスの言葉を継いだ。
「フェトラスの敵は、俺の敵だ。フェトラスの喜びは、俺の喜びだ。そして――――フェトラスが後悔するっていうんなら、それは俺の後悔だ」
愛し合う二人は不完全な気持ちを掛け合わせ、完全な気持ちを目指し続ける。
言葉はいらなかった。当たり前のように俺達は通じ合って、わかり合う。
「なるほどな。フェトラスの言う通りだ。そりゃしょーがない。このまま楽園に行った所で、後悔が残るんじゃ完全無欠のハッピーエンドとは言えないよな」
ロキアスが提示する楽園は不完全だ。
そう断じると、フェトラスは嬉しそうに微笑んだ。それを見て確信する。俺とフェトラスはここに来て、本当に同じ気持ちを抱いているんだと。
それを見たロキアスは、愉快な様子で首を傾げた。
[愛以外に必要なものが、君たちにはあると?]
「俺達は基本的に欲張りなんだよ。必要じゃなくても、欲しいものはたくさんある。――――生きるためには水を飲む必要があるけど、味があった方がもっと幸せだろ?」
そう告げるとロキアスは[まぁ分からなくも無い]と同意を示した。
フェトラスは既に啖呵を切っている。ならば次は、俺の番だろう。
「つーわけで、観察の魔王ロキアス。良かったら、お前の倒し方を教えてくれ。出来ればさっきみたいに、親切に誠実に」
[は。……はっ、ははははは! いいね、いいねロイル! ただの人間が、ただの若造が! その傲慢な振る舞いは観察に値する!]
ロキアスの着ていた服が、内側からはじけ飛ぶ。ビリリと、ハラリと。下から現れたのは精霊服。その茶色い髪によく映える象牙色をしていた。
[いいよ。少しだけ遊んであげる。愉しかったら協力することも、少しだけ考えてあげるかもね]
[それは重畳。手加減する余裕とか絶対無いから、死なないでね]
[うんうん。良いとも。では見せてくれたまえ、君たちの力を]
「と言っても俺はなんも出来ないんだけどな」
大人しく壁際まで下がり、フェトラスに声をかける。
「すまん。デカいこと言ったけど、結局はお前頼りだ。情けない父を許せ」
そう言って深々と頭を下げてみせると、フェトラスは事も無げにこう答える。
[――――私の力は?]
――――――――俺の力だと、そう言ってくれるんだなお前は。
「……っとに。ありがとうな、フェトラス」
だから俺は、こう応援しよう。
「愛してるぜ」
その言葉を耳にした私の内側から、力があふれる。
ただの気分、と言ってしまえばその程度かもしれないが、それこそが私にとって絶対的なものだ。
管理精霊サラクルがお父さんのそばにいそいそと退避する姿が見えた。賢明な判断だ。私は寄り添う二人に攻撃の余波が当たらないように意識を設定した。
[さて。月眼同士の戦いというのはたまにあるけど、あまり決着がつくものでもない。何故だか分かるかな?]
ロキアスはこの期に及んでもまだ大好きな発表行為に勤しんでいる。
その余裕、どこまで吹き飛ばせるだろうか。
私は意識を尖らせ、先手を打つ。
[【連炎爆閃】!]
炎閃を連続射出。それに爆発の属性付与。本当にただの小手調べだ。
ロキアスは瞬時に迫るそれを、身体の動きだけで回避した。
[どうして決着が付かないのか。それはね、我々魔王の戦闘手段が魔法によるものだからだ。そして魔法を放つには呪文が必要で、我々クラスになると呪文から効果を予測することは容易い。こんな風にね【凍風】]
紡がれた呪文により、ロキアスから凍てつく風が吹き荒れる。私は焦ることなく【灼壁】という魔法を行使し、凍と風の両方を相殺させた。
[お見事。まぁ簡単すぎたかな。そういうわけで、基本的に我々が戦うことは不毛なんだよ。ほら次だ。【纏雷】]
ロキアスが放つ魔法は小手調べですらない。子供をあやすかのようなぬるい魔法だった。だけど、対応を誤れば即死しかねない。
纏雷。私の身体にまとわりつくように、雷属性が力を増大させていく。
私は呼吸を乱さないようにして、呪文を一つ。【否雷】。実に簡単なことだった。
[上手い上手い。では次はもう少し難易度を上げてみよう。【風迅】]
[!?]
速すぎる!
スピード特化の攻撃魔法。それは対処出来る速度ではなかった。反射的に腕をあげて、精霊服による防御を試みる。まるで竹が割れるような音がして、私の腕に衝撃が走った。
[いっ、たぁ!]
[よく防げたね。まだまだ行くよ。【魂濁】]
(精神汚染魔法!)
今度こそ慌ててカウンターの魔法を唱えるが、一秒足りない。私の唱えた【防怨】は半分ほどしか効果を発揮しなかった。思考にノイズが混じり、集中力が低下する。
[魔法による戦いだと、防戦は悪手だよ。即座につけ込まれて、詰む。……どれチャンスを一つあげよう。今から十秒ほど僕は君を観察するから、好きに攻撃してみるといい]
舐めるな、と吼えることもない。そんな時間の無駄はいらない。
【清魂】 まず精神汚染を解除し。
【透壁】 見えない壁で彼の逃げ道を塞ぐ。
【封間】 空間を封じ、続く魔法の効果を高める。
もう一つぐらい呪文を重ねたいが、どうやらそんな時間も無いらしい。私は舌打ちを隠しつつ、残されたわずかな時間で放てる最大火力魔法を宣言した。
[【爆炎連魔】ッ!]
即席の一方通行。そこにありったけの爆炎をたたき込む。一撃、二撃、三撃。繰り返す度に熱量は増大していき、鉄すら溶かす勢いで空間が燃え上がった。
これで殺せるなんて思ってない。どれぐらいのダメージを負ったのかは未知数だが、出来れば火傷の一つぐらいは負って欲しい。
そう考えていた私だったが、炎がおさまった後、その中心に立っていたロキアスは髪の毛さえ焦げていなかった。
[――――驚いた。実に良い判断だったよ]
[全然驚いてるようには見えないけど? ……まさか無傷どころか、顔色一つ変えられないなんてね]
ロキアスが魔法を使った痕跡は無い。おそらく精霊服の強度が桁違いなのだろう。
悔しさは無い。絶望もない。ただ戦闘の高揚と緊張感でめまいがする程度だ。
[いやいや、十秒間でどれほどキツい一撃が来るかと身構えてはみたけど、まさか弱体解除を優先するとは]
[当然でしょう。お前みたいな化け物を、たった十秒程度のお情けで倒せるわけないじゃない]
[本当にいい判断だ。そうだね。十全に戦い続けるためには十分な余力が無いといけない。それにしても手際が良かった。弱体解除、物理回避禁止、攻撃力集中支援……。とても素人とは思えない発想だ。攻撃魔法を連発してくるか、大魔法でも使ってくるかと思ってたんだけど]
ロキアスは[面白い]と満足げに呟いた。
[十五秒なんて設定にしてたら、危うく僕は嘘つきになるところだったよ]
[そうね。あと二秒でもあれば、もっとダメージが与えられたんでしょうけど。まぁいいわ。突破口はそこそこありそうだし]
無傷の相手に投げかける台詞ではないが、それでも私は勇猛さを示す。
[ここからはもっと本気で行くよ]
[そうかい。うん、いいだろう。じゃあコレにて魔法による戦闘の初級授業はおしまい]
[……授業、ですって?]
[そうとも。子供に弓矢で勝負を持ちかけられたのなら、まず弓の使い方を教えてあげるのが先輩としての義務だろう? 一方的に即死級の攻撃を重ねるのは品がなさ過ぎる]
三代目月眼の魔王ロキアスは、微笑みを浮かべる。
[良いモノ持ってると思うよ。でもこれ以上君に戦い方を教えてしまうと、意外性が無くなってつまらなくなってしまいそうだ]
[なに……を……]
[僕は誠実に、そしてそこそこフェアに君に応えるとしよう。なので君も、僕を愉しませてくれたまえ]
そしてロキアスは、あっさりと言った。
[じゃあ、そろそろ戦おうか]
今までのやり取りは、ただの準備運動なのだと。