管理者C
ジョーセフが【管理者】となって三年が経ちました。
今までは隣り街から、隣り街へ。
そんな風に順番で回っていたジョーセフでしたが、いつの頃からか「天の指令」に従ってルートを決めるようになっていました。
“末端管理者へ通達”
“お願いです……どうか、ミラーエイルの街の……”
「ああ、遠いからパスだな」
独り言でそう返したジョーセフは、靴磨きの仕事に戻りました。
「ん? ジョーセフさん、何か言ったかい?」
「いいや別に? ところでカイン。お前足を……いや、内臓を悪くしてないか? もしかしたら酒の飲み過ぎかもしれない」
「……な、なんで分かった? 医者にも先日怒られたばかりさ」
「靴と人を見れば分かる。靴についた傷が偏ってるんだよ。歩き方に異常がある証拠だ。そして何よりお前さんの口臭。内臓の腐ったような臭いがする。俺にまた靴を磨いてほしけりゃ、それまで禁酒してくれよな」
ジョーセフはキュッと靴を磨き上げて、男に笑いかけました。
「毎度。銅貨五枚だ」
「ふぅむ……見事な仕上がり……なおかつかかった時間は弟子の半分以下……」
「はっはっは。褒めてくれてありがとうよ。だが値引きはしないぞ?」
「これだけの仕事をして銅貨五枚とかなめてんのか。ほら、大銅貨だ。釣りはいらない」
「ありがとうございます」
チップをもらったジョーセフはニッコリと笑い、それを受け取りました。
その日の仕事を終えたジョーセフは自室に戻り、どさりとベッドに寝転がりました。
「えっと……今の俺って何ポイントぐらい持ってるんだったか……」
目を閉じて、暗闇の中に文字を思い浮かべます。
【保有ポイント 2500】
(意外と溜まったな……まぁ普段あまり使わないようにしてるんだけど)
一点使って「一日の寿命」を買った所で、数年分にしかならない。
それよりもリストに新たな項目が増える方が、ジョーセフには愉快に思えたのです。もしかしたらまだ見ぬご褒美に、自分が本当に求めるものがあるのかもしれない。そんな期待と共に、ジョーセフはポイントを溜め続けました。
次のご褒美が提示されるのは、おそらく三千点。
(少しばかり高難易度な指令が届いたら是非率先してやっていきたいものだ)
今日降りてきた指令は、確か遠い街でなにそれをしろ、というものでした。
恐らく今から目指した所で、他の【末端管理者】によって終わらされているだろう、手に入るポイントも少なそうだ……と判断してジョーセフはそれをスルーしたのでした。
いつもの習慣で、何気なしに【禁忌】の項目を開いてみます。
今までに自分が犯した【禁忌】リスト。その中には「管理者である事を明かすこと」が含まれていました。
(これ一気に五百点も減るんだよな……)
もしこれよりも先の、例えば「管理者とは何か説明すること」なんてやった日には、今の自分の持ち点では足りないかもしれない。
(マイナスとかになったらどうなるんだろう。その辺もあの魔王に聞いておけば良かったかな……)
そこまで考えても詮無きこと。考えてはいけないこと。
ジョーセフは次に向かう街はどこにしよう、と考えながら眠りにつきました。
次の街へ。
次の街へ。
予定を変更して、次の次の街へ。
靴屋と【末端管理者】を兼業していたジョーセフでしたが、相も変わらず靴屋としての名声を高めていきました。
時々は新しい店を出店するために数ヶ月滞在することもありましたが、基本的には旅人です。故に、神様の指令も順調にこなす事が出来ました。
ジョーセフの生き方は、人々から尊敬され、憧れられるものでした。
だけど――――少しずつ、ジョーセフの精神は歪んでいったのでした。
それが決壊した日のこと。
ジョーセフの保有ポイントが五〇〇〇点を超えた時の話。
その時の任務はやや高難易度。「とある街に住む女性をつけ回す、妙な男を撃退すること」
ジョーセフはまず、女性をつけ回す男を尾行しました。
女性と男性とジョーセフ。互いがバレないように距離を取って、数日。
やがて男性が、裏路地にて女性に襲いかかった瞬間、ジョーセフは剣を振るって彼を倒しました。
別に殺したわけではありません。少しだけ怪我をさせて、ジョーセフは男を自警団に突き出したのでした。
“任務達成”
その言葉と共に、ジョーセフの保有ポイントが増加し、新たなご褒美が提示されました。
ご褒美リストに現れたそれを把握した時、ジョーセフは固まってしまいました。
「あ、あの……ジョーセフ様、先ほどはありがとうございました!」
先ほど助けた女性がうっとりとジョーセフを見つめていましたが、ジョーセフの視線は虚空を眺めるだけでした。
“神様からのお手紙――――5000”
お手紙? 神様から?
神様は意思を示すのか?
返事は出せるのか? やり取りは可能なのか?
神様は実在するのか?
「あ、あの……ジョーセフ様……どうかなさいましたか?」
「あっ……ああ。いえ、大丈夫です。荒事にはあまり慣れてないので、少しぼんやりしてしまいました。少し気分が悪いので、自分はここで失礼させていただきますね」
「そんな。具合が悪いのでしたらぜひ我が家でお休みください。医者も呼びつけますし……きっと父も喜びます」
「いえ……あ、あの! 失礼します!」
ジョーセフは駆け出しました。
手紙。神様からのお手紙。五千点も払って得られる情報とは何だ。
一点で買えるものがある。それは一日分の寿命だ。
つまり神様の手紙は、五千日分の寿命と同価値を持つ。決して安くは無い。
あの日、あの時。
魔王に「それ以上先に進んではいけない」と言われた通り、自分は【管理者】や世界についての考察を止めるよう努力していた。
きっと考えても無駄だし、なにせ答え合わせが出来ないのだ。
それに加えて、ちょっと深く考察すれば【禁忌】にもガンガン引っかかる。
(だけど今回は違う――――神様からの、手紙。まさか読んだ瞬間に【禁忌】に触れるなんてことは無いはずだ。だってこれは、俺の正当な報酬なのだから)
宿に戻ったジョーセフは、別料金を払って風呂を用意してもらいました。
身を清める、と言えば聞こえはいいですが、ジョーセフは単純に疲れていたのです。
(剣を人に向けたことはあっても、怪我をさせたのは初めてだ……興奮で何が何だか分からなかったけど、やっぱり自分には向いていない……)
たっぷりと温まったジョーセフは食事を摂り、滅多に飲まない酒も口にしました。
そしてようやく自室へ。
冷めやらぬ興奮を抑えきれず、ジョーセフは立ったまま申請を出しました。
“神様からのお手紙――――5000”
彼は持っているほとんど全てのポイントを使い、それをつかみ取りました。
「――――えっ」
気がつくとジョーセフは、大きな扉の前にいました。
確かに自分は立っているのに、足下の闇は底知れず、上空の闇は果て知れず。
漆黒の中、異様に大きく真っ白な扉が一枚あるだけの空間。
「ようこそ、ジョーセフ」
「!」
扉の前の階段。そこに腰掛けていたのは、かつて出会った魔王でした。
「お前……」
「やぁ、久しぶりだね。元気だった?」
「こ、ここはどこなんだ?」
「ここかい? ここは……あー……神様に一番近い場所、かな」
「そうか……」
考察癖が始まりそうでしたが、ジョーセフは慎重に首を左右にふって、それを押しとどめました。
「えっと、神様からの手紙とやらを購入したつもりだったんだが」
「そう。そこだよ。まさかジョーセフがそれを選ぶとは思わなかった」
「え……?」
「キミを勧誘したのは僕だからね。だもんで、ちょっと介入させてもらった……よっ、と」
魔王は立ち上がって、てくてくとジョーセフに近づいてきます。
「まずはおめでとうジョーセフ。末端管理者が五千点もためるなんて、すごいことだ。普通はそこまで出来ない」
「……割と自由が利く仕事をさせてもらってるからな。気兼ねなく両立出来たんだよ」
「それにしてもほとんどご褒美をもらわずにここまで貯めたんだね。いやぁ、立派立派。僕の見立てに狂いはなかった」
「…………そうかい」
「で、そこまでご褒美の誘惑を断ち切っていたキミが、何でまた神様からの手紙だなんて胡散臭い見返りを欲したんだい?」
「それ、は……」
「先に言っておく。神様からの手紙っていうのは要するに……【上級管理者】になるための許可証だ」
「は? 【上級管理者】……だと?」
「うん。ご褒美に興味が無く、ただ神様を信奉する熱心で有能な人を勧誘するための、言ってしまえば罠だね」
罠、と魔王は言いました。
それを選ぶのは、愚かな事だと。
「色んな【管理者】がいるけど、モチベーションはそれぞれだ。ただひたすら長生きしたい人もいるし、もしかしたら高ポイントを貯めれば『不老不死』を得られるかもしれないという欲深い人もいる。他にもポイントがもったいなくて使えない人とか……さっき言った通り、神様を助けたいだけだから見返りなぞいらない、という人もいる」
魔王は手の届きそうな位置で立ち止まり、寂しげに微笑んだ。
「でもキミは、神様をあまり信じてはいなかったはずだ。なのにどうして、手紙なんて欲しがったんだい?」
「それは……」
「大丈夫だよ。この場所限定だけど……僕の権限で、今のキミは【禁忌】を恐れなくてもいい仕様にしておいた。あの日のように気兼ねなく喋るといい」
「それは本当か!?」
ジョーセフは詰め寄り、魔王の両肩を掴みました。
「い、今なら、俺は【禁忌】を受けないのか!?」
「だって今、ジョーセフのポイントほぼゼロに近いじゃん。もしうっかり【禁忌】を犯したら大変なことになるからね。そんな損失認めるわけにはいかないから……って、えぇ……? なに、もしかしてジョーセフ……」
「ああ、そうだ。俺はお前にかけられた呪いを解きたかっただけだ」
結論を口にしたジョーセフは、境目の見えない闇に跪きました。
「あの日……お前に、これ以上進んではいけないと俺は警告された……【管理者】になってからは【禁忌】の連続だった。何かを考えるだけでも【禁忌】と言われ、ふと何かを思い付けば容赦無く減点されていった……」
「…………」
「もしご褒美ポイントがゼロになったら? だとしたらご褒美の逆、つまり天罰が下ると考えるのも当然だろう……?」
「ああ、なるほど……呪いなんてかけたつもりはなかったけど、あの日の警告はキミにとって呪いだったのか」
「そうだ。俺はあの日、考えることを禁止されたんだ」
「――――そうだね。キミは放っておいたら、管理者になる前に破滅しそうだったからね。なんてことだ。僕と別れてからの数年間、キミはずっと苦しんでいたのか……」
「……だから、神様からの手紙という項目が出た瞬間、俺は久しぶりに考えてしまったんだ。そこからは【禁忌】の雨あられだ。風呂に入っている間に、俺の端数ポイントはほとんど消えちまったよ」
「だからポイントがほとんど残ってないのか……逆にそこまで連鎖的に考えてしまったら、普通は止まれないと思うんだけど……器用なことをするねジョーセフは」
「…………なぁ、もしポイントがマイナスになったら、どうなるんだ?」
「ポイントはマイナスにはならない。ゼロになるだけだ。それ以下はないよ」
「じ、じゃあゼロになったら? 天罰はないのか?」
「天罰と言えるのかどうかは分からないけど、まぁ、発狂するね」
「はっきょう」
「およそ人間的な行動はほとんど取れなくなる。もしかしたら野生動物の方がまだ建設的に生きてるんじゃないか、と思えるくらいには」
「……ははは。なんだそりゃ…………念のためもう一度確認させてくれ。ここでは、俺は【禁忌】を受けないんだな?」
「それは無い。この魔王の名に誓って」
ジョーセフは立ち上がり、涙を流しながら見返りを受け取りました。
神は魔王を肯定している。
いいや、いっそ神が魔王を作ったとも言えるだろう。では何故神は同時に魔王を滅ぼす武器を人間に与えた? そのマッチポンプは一体なんのために?
管理者がいるのはいい。目的とやらも正直よく分からない。
だけど、どうして管理者の数は限定されている? 人間の全てが管理者になると何かマズいのか? だとしたら、人間には別の役割があるのか?
そもそも、何のためにこの世界はある?
人間。魔族。魔獣。魔女。そして魔王。
人間以外は魔の者ばかりだ。
もしかして、あのセラクタルという星では「魔」の者こそが、主なのか?
神の指令は本当に簡単なものばかりだった。普通の人間でも問題なくこなせるレベルの。だとしたら、放火しろとか殺せとかいう物騒な命令は誰のために用意されているんだ? どんなヤツがそれをする? 何のために? どれぐらいのポイントを得られるんだ?
神の指令に応じていた俺は管理者だったのかもしれないが、何かを管理したなんて思ったこと一度も無いぞ。一体俺は何を管理しているっているんだ? 世界? 世界の管理だと? 教えてくれよ。貧乏人にパンを恵んでやるだけで、一体どうして世界が救われる? 人間の寿命を延ばすことが出来るほど神が有能ならば、直接パンの雨でも降らせればいいだろうに……!
ぜはぁ、ぜはぁ、とジョーセフは息を荒くしながら叫び続けました。
「す、少しは落ち着いたかいジョーセフ」
「……ははっ、この程度……まだまだ本題にすら入ってない」
「……参ったね。どうやら僕の危惧は正しかったようだ。あのまま呪わずにキミの元を去っていたら、キミはとうの昔に発狂していただろうね」
「ポイントがゼロになるから、か? どうしてポイントがゼロになると発狂する? つまり禁忌とは……発狂の種……いいや、発狂させることで情報漏洩を防いでいる、のか」
「鋭すぎる。ねぇねぇ。なんでジョーセフは靴屋なんてやってるの? その才能、もっと違う所で活かせば良かったのに……」
「……違う所で活かしていたら、俺はこんなに長生き出来なかっただろうな」
「ああ、それは確かに。もしもキミが善良な靴屋でなければ、もっと早くに殺されてただろうね」
「殺される? 誰にだ? ああ、【管理者】にか」
「そういうこと。あの世界のバランスを崩す者は、摘み取られてしまうんだよ」
魔王はパチンと指を鳴らして、純白のテーブルと椅子を用意しました。
「さて……ここまで頑張ったキミへのご褒美だ。神様から手紙を預かってるから、僕が読んであげよう」
ジョーセフは椅子に座ると、片手を差し出しました。
「別にわざわざ読み上げなくて良い。自分で読むから貸してくれ」
「そいつは出来ない相談だな」
「……何故だ?」
「キミは鋭すぎるから、情報を小出しにしないと危なっかしい」
「…………ここでは禁忌を咎められないんだろう?」
「人を殺しても罰せられない空間があるとして、キミはそこで人を殺してみたいと思うかい? 禁忌は禁忌なんだから、大人しく僕の言うことに従った方がいいと思う」
「……そうかい」
「じゃ、建前の手紙を始めようか。要約して読むけどいいよね?」
「お前に任せるよ」
「それでは始めましょう。こほん。えーっと、どうも神様です。ここまでよく頑張りました。貴方にはとてつもない才能があるようです。よって、あなたを上級管理者へと任命します。これからは以前よりも難易度の高い指令が送られてくると思いますが、頑張ってください。愛を込めて。神様より」
「…………」
「以上だよ」
「……は?」
「お手紙の内容は要約すると以上だ」
ジョーセフは怒りがこみ上げてきました。
「その程度の内容だったら、俺が読んでも問題無いと思うが」
「悪いけど検閲させてもらったよ。言ったろ? 危ない、って」
「ということは、俺は正当な報酬を受け取りきれていないということになるな」
「ふぅん?」
「俺が欲したのは上級管理者なんて立場じゃない。情報だ。俺が考えても許されるのがどこまでなのか、という線引きだ」
「なるほどね。そういう解釈か」
「だが……お前が検閲したというのなら、きっと必要なことんだという事も理解出来る。それはきっと俺のためじゃなく、有能な人材を失いたくないという理由なんだろうけど」
「あっはっは。そうかもしれないね。だけど先ほどと違う所もある。ジョーセフ。今のキミはどうなってる?」
「どうって……あ、まさか……」
ジョーセフは暗闇に文字を浮かべました。
そこには確かに【上級管理者】の肩書きが。
「おめでとう。これでキミは上級管理者だ。つまり、キミの思考を咎める禁忌は以前よりもぐっと減ったことになる」
「!」
「これでようやく話しが出来るね、ジョーセフ?」
「…………ありがとう」
ジョーセフは魔王に頭を垂れました。
その目には、歓喜の涙と、貪欲なまでの知識欲が渦巻いていました。
「上級管理者には、神様のお手紙以外でどうやったらなれるんだ?」
「やっぱり勧誘かな。目に余る才能は摘み取られるけど、中には貴重な品も混じってるからね。そこを保護されるパターンが一番王道だ」
「……俺はいつか上級管理者になれるとお前は言っていたが、この手紙を選ぶというのは予想外だったようだな?」
「予想外だよ。だって胡散臭すぎるでしょう? コレでポイントを使うのは狂信者だけだよ」
「しかし五千点も使うのは危険じゃないか? 俺みたいに、うっかり禁忌に触れでもしたら……」
「神様の手紙を欲しがるようなヤツは、狂信者であるが故に滅多に禁忌を犯さない。盲信とは何も疑わないことだ」
「そういうもんか……で、実際の所俺はどの程度まで許されているんだ? さっきの疑問には全て答えてもらえるのか?」
「それはまた別のご褒美ポイントを使ってもらうか、あるいは地道に経験を積んでもらうしかないかな……」
「頼むよ。俺とお前の仲じゃないか」
「魔王相手に友達面かい?」
「お前は俺に害意を持ってないんだろう?」
「いったいいつの話しをしているのやら」
そう言った魔王は両肩をすくめました。
「キミがさっき口にした質問の大半は、並みの禁忌を超えている。知れば確実に発狂すると思うんだけど」
「……さっきから口にしている発狂ってヤツだが、どうしてだ? なぜ理性を失うハメになる?」
「知っちゃいけないからさ。その名も【神理】」
「神の……ことわり……」
「そう。触れたら最後だ。即座に始末される。だから全力で忌避したまえ」
「…………お前は俺に、何を期待する?」
「あはっ、いいねジョーセフ。その調子だ。その通りだとも。キミは全てを識ろうとしちゃいけない。キミがどこまで知って良いのか、まさしく線引きすることが重要だ」
魔王は再びパチンと指を鳴らして、目の前に紅茶を用意しました。
「なんだよ。今回はコーヒーじゃないのか?」
「こんな真っ暗な所で真っ黒なコーヒー飲んでも味気ないよ」
確かに。ここはひたすらに無明。
ジョーセフは大きな扉を指さして「あれは一体何だ?」と問いかけました。
「あれはねぇ、保存のための容器だよ」
「中には何が入ってるんだ?」
「それこそ、この世界の目的が詰まってる」
「……俺はそれを知ってもいいのか?」
「ダメ」
「クッ……だったらなんか適当な嘘でもついて誤魔化してくれよ……気になるじゃねぇか……」
「僕は基本的に嘘をつかない。それを信条としているからね」
「何のために?」
「嘘をついたら、面白くないじゃないか」
「???」
「さて。実はこの空間に滞在出来るのには制限時間がある。キミには三つの質問を許可しよう」
「三つ……三つしかダメなのか……」
「逆に、答えられない質問……【神理】に触れてしまうような質問には答えてあげないからそのつもりで。――――それと、五回も【神理】に触れたら強制退去だ。ルールは理解したかい?」
「三つの質問に答えてもらえる。うっかり【神理】に触れたとしても四回までは許される」
「完璧な状況把握だ。それでは、どうぞ?」
こうしてジョーセフは、ご褒美を受け取ることになりました。