表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
第四章 All for the one
163/286

4-37 剥がれ落ちる理性



 轟音と共に馬車は吹き飛んだ。


 矢の雨を拡散型と呼ぶのなら、今の一撃はまるで大槌おおづちのような収束攻撃だった。


 ザークレーの安否も分からぬまま、俺は木陰の方に退避する。


「全員無事か!」


 大声を張り上げて点呼を取る。


「――――無事だ!」

「私達も大丈夫です!」


 どうやら奇跡的に生き残ったようだ。


「マジでメチャクチャだな! っていうかあいつ、いま俺達人間に向けて矢を撃ったよな!?」


「――――本気で人間と思われてないのかもしれんな!」


 声で距離を測る。どうやらザークレーは少し離れた所にいるらしい。


 俺は木々の影を縫うように走り、ひとまずシリックと演算の魔王と合流した。


「演算の様子はどうだ」


「まだ昏倒しています……」


「……起きてるわよ」


 顔色が悪い。俺は非常食というわけではないが、ポケットに隠し持っていた干し肉を演算の口に突っ込んだ。


「とりあえず食ってろ」


「このお肉、ロイルの体温を感じる」


「……演算。どうすりゃいいと思う?」


「ライアグルね。あれはテレッサとは違うタイプの変態よ。真性の変態。ほんと気持ち悪くて視界にすら入れたくない」


(お前、他の聖遺物嫌いすぎだろ……ああ、ネイトアラスだけは褒めてたか……)


 そんなどうでもいい事を頭の中から蹴っ飛ばし、俺は演算の魔王を抱き上げた。


「とりあえず樹を盾にして逃げる。もう一人が持っていたハサミ型の聖遺物の能力は不明だが……うん、とりあえず逃げるしかないな」


「ハサミ?」


 俺に抱きかかえられた演算の魔王が、弱々しく呟く。早速移動を開始しているので、その声は少し聞き取りづらかった。


「ハサミの形の聖遺物か。なんかあったなぁ……でも詳しくは知らないのよね……」


「へぇ。お前でも知らないことがあるんだな」


「たぶんザコよ。一人じゃ魔王も討てない、役立たず」


「……そんなことはないと思うがなぁ」


 しかし実際、あの魔鋏を使っていたリッテルとやらは弱そうだった。病み上がりと言っていたが、さて。


「もしかしたらそのハサミ型はサポートのためにくっついてきたのかもね。とにかく、問題はライアグルよ」


「対処法はあるか? テレッサの時みたいな、攻略の仕方」


「……思い付かないわね」


「無敵かよ」


「そうでもないわ。あれは本来、一撃で魔王を屠るのが前提で運用されるの。あるいは魔族の軍勢と戦うぐらいかしらね。放てる矢がほぼ無限とは言っても、連発は厳しいと思うんだけど……」


 演算の魔王は少しモゴモゴと口ごもっていたようだが、やがてため息をついた。


「どうやらあの担い手は特別みたいね」


「やっぱ無敵じゃねぇか」


「一人で軍隊みたいな攻撃が出来るから強いけど、その分隙もあるわ。弓使いだし接近戦には弱いんじゃないかしら」


「まず接近することが死ぬ程難しい」


 逃げ続けていると頬に一本の矢がかすめた。こちらを追って来てはいるのだろうが、まさか走りながら矢が撃てるとは。


「腕も良いな畜生! いまのはヤバかったぞ!?」


「ロイル、血が」


「かすり傷だ! 問題ねぇ!」


 そう虚勢を張りつつ、俺は必死で足を動かした。


「シリック、むしろ俺達から離れろ! 巻き添えくらうぞ!」


「で、ですが!」


「どうやら俺達全員が狙われているようだが、メインターゲットは引き続き演算だ! とりあえずザークレーと合流して、あいつの指示に従え!」


「り、了解です! ご武運を!」


 ジグザクと走り続ける。木陰に張り付き、攻撃の方向を探る。


 俺達が派手に叫び続けたせいで位置の捕捉は十全に行われているようだった。時折、するどい矢が周囲の樹に突き刺さる。


「ちくしょう、マジでどうする。このまま逃げ切れるか?」


 演算の魔王の回復は見込めない。見りゃ分かる。こいつは半日はグッタリしている事だろう。


 焦りから思考が乱れる。どうする。どうする。どうする。


 そんな熱を帯びた頭に、スッと冷たいものが触れる。それは演算の魔王の冷え切った指先だった。


「ロイル。血が……出てる……」


「かすり傷だろ?」


「ううん。少し深いみたい。血が、出てる」


「…………演算?」


「ロイルが、血を流してる……ロイルが怪我してる……」


 冷え切った演算の魔王の指先。それが俺の頬を撫でるたびに、その指先は氷のように鋭利なものへと変貌していく。


「ロイルに、怪我をさせたバカが、すぐそこにいる」


 演算の魔王は、俺の血がついた指をそっと舐めた。



「殺す」



 星空の瞳が、断罪を誓う。




 演算の魔王は俺と別行動を望んだ。


 曰く「一秒も生存を許すことが出来ない。一応ロイルは人間だから気を遣って人殺しをしないようにしてきたつもりだけど、アレは別。殺す。必ず殺す。ロイル痛かったよね。怖かったよね。もう大丈夫よ。あいつにはロイルの数億倍の恐怖を与えてみせる。たかが人間の分際で、神にも等しいロイルの血を流させた罪。そんなそそげぬあがなえぬ罪業に、報いを。一族郎党皆殺しよ。ああ、でも、捕らえて尋問して身内をあぶり出すのは無理か。だって、今すぐ殺してみせるもの。仕方が無いわね。あまりしたくは無かったけれど、天瀧弓ライアグル……おぞましき貴様の魂を粉々に砕くことによって、この昂ぶりを鎮める一滴の雫としましょう。だからロイル、一旦別行動を取りましょう」


 ヤツは喋れば喋るほど、その目の輝きを取り戻していった。


 疲労感、枯渇した魔力、だがそれらを無視するかのように、彼女の四肢には力が巡り始めていた。


「……大丈夫か、お前」


「これがワタシの存在証明よ。即ち――――ロイルの敵が、ワタシの敵」


 俺は思わずうつむいた。その台詞は、俺の娘も口にした激情だ。


「分かった。あいつは英雄で、人類の味方で、もしかしたら善人なんだろうさ。けれども俺達の敵だ」


 俺は覚悟を決めた。


 だから、俺は演算の魔王にとある提案した。






「――――――――。」


「絶対――――! ――――!?」


「―――――――――――」


「――――! …………」



 声が聞こえてくる。さきほどのロイル氏のものと、聞き慣れぬ子供の声。いや、確かザファラに魔獣と共に降臨した彼女の声は、ちょうど今ぐらいの声質だった。


 私は少しばかり悩んだが、声のする方向に天瀧弓ライアグルを向けた。


 ヤツ等は何故か逃げの一手しか選んでいない。演算の魔王の実力は計り知れないが、どうして攻撃してこないのだろうか。


「初撃で討ち取れなかったのはザークレーのせいだが……フッ、まぁよかろう。いずれにせよ結果は同じ、皆殺しだ。ヤツほどネイトアラスと波長が合う人間はいないのだろうが、所詮は暗殺型。あの一振りが脱落した所で人類の優位性は揺らがない」


 白き弓を構える。


 この近隣に銀眼がいる。なのであまり目立つ行動は避けたかったが、ここで演算の魔王を逃がすわけにはいかない。かと言って余力が無くなるほどの一撃を放つのも危険だろう。


 悩ましい所だ、と思いつつ、私は精一杯のエナジーをライアグルに込めた。既に高威力の攻撃を三度も放っている。ささやかな回復を求め、じっとりと自分自身にお預け・・・させる。そのせいか、私の高揚はどんどんと高まってくる。


 既に場所にアタリはついた。隠れている木々ごと吹き飛ばす。それほどの力をライアグルに廻す。


 そして今まさに弦から指が離れようとした瞬間に、想定外の襲撃が行われた。


「うおおおおおおお!」


 ロイル氏だ。……徒手空拳?


 攻撃の構えではない。あれはただの突貫だ。……私を組み伏せるつもりか! イヤらしいヤツめ!


 だがヤツの狙いはそれだけではない。保護されたという演算の魔王。それを逃がすための行動と見るのが自然だろう。あるいは……演算の魔王め、私とロイル氏をまとめて殺すつもりか!?


「だが、舐めてもらっては困るな!」


 舐められたいが!


「ツッ!?」


「甘いッ!」


 ライアグルは雄々しく、そして強固な弓である。私は矢を放つのではなく、相棒であるライアグル自身でロイル氏の突貫をさばいた。


「弓矢使いが近接戦闘に弱いワケがなかろう!」


「いや普通は弱いだろ!?」


「私の死地はここだ! 抱き合える程の、この距離だ! 最も重点的に鍛えるのは当然であろうッ!」


 叫びながらライアグルでロイル氏を打ち叩く。手にしっかりとした衝撃を感じ、昂ぶってしまう。いま私は、命がけだ!


 改めて観察するが、どうやらロイル氏は本気で素手のようだった。そこに違和感を覚える。


(旧式でパーツも欠けているが……王国騎士の防具だな)


 見た目からして非戦闘員ではない。殺し方と守り方を知っている、戦闘熟練者だ。


 もし彼が剣か何かを有していたら、それなりに本気で戦う必要があっただろう。


 だがまだ油断してはならない。暗器使いかもしれない。ナイフを隠し持っているかもしれない。やつらの禁忌は既に限界値に達しているだろう。気の狂った魔王崇拝者なのは間違いないが、彼の目には理性が宿っている。


(一体どのような禁忌の犯し方をすれば、ここまで綺麗に狂えるというのだ……!)


 気になる所ではあるが、それは自分が知らなくていい情報だ。


 優先順位・最高位。


 まさかあのザークレーまで取り込むとは思わなかったが、それだけで十分だ。異常性はもはや計り知れまい。天が危惧する演算の魔王の危険性は、おそらくそこに起因する。


 演算の魔王は今、必ず、ここで仕留める――――!


 私は密かにライアグルへと力を込めた。


 その間にもロイル氏はガンガンに攻めてくる。情熱的に。


 久々の近接戦闘。だがロイル氏は素手だし、こちらが負ける要素はない。


 絶対に勝てる、近接の、戦闘なのだ。


 昂ぶらないわけがない……!


 銀眼の魔王なぞ知ったことか。それはリッテルに任せる。私の任務は、神からの指令を全うすること!


 さぁ来い、演算の魔王! 位置を示せ、命を示せ、けなげに私を殺そうとしてみろ! お前が放つ呪文ごと、お前を私の矢で貫いてやる! その幼き柔肌の感触を、私に示せ!






(コイツ目がヤバすぎるぅぅぅ!)


 俺は対峙したジンラの異様な気配に少しビビった。


 交戦をしかけると、なんとジンラは弓でブッ叩いてきたのだ。まるで木刀に打たれたような鈍痛がガードした腕に響く。


(相当硬ぇな! 突きとかされたら普通に鎧を貫通しそうだ!)


 距離を取るわけにはいかない。少しでも離れたら、俺はあの白い矢に貫かれてしまうだろう。


 制圧術で何とか出来れば、と思ったがジンラは近接でも強かった。


 腕を極めることはおろか、むしろこちらが防戦に回っている。


 だがこの弓使いは、弓使いのくせに俺から距離を取ろうとはしなかった。むしろ攻守は逆転し、こちらが執拗に攻められている最中だ。


「ふはっ、ふはははは! 昂ぶる! 昂ぶるぞロイル氏!」


 さっきまであんなに冷静そうな印象だったのに、今や目は充血し、鼻息は荒く、どこぞの興奮した山賊のような顔つきになっていた。


「はははははは!」


「ちょっとマジで顔が怖い!」


 弓本体で突き殺されそうになったので、俺はやむを得ず回避行動をとった。距離が少し開く。そしてその隙を逃すまいと、ジンラは弓を構えた!


「魔王崇拝者に聖罰を!」


 やっぱり人間相手でも使えるのか!? 話しが違うぜ演算の魔王!


(ジンラとサシでやらせろ、と演算に提案したけど、まさかここまで強いとは!)


 そう簡単に行くとは思ってなかったが、まさか近接戦闘において邪魔であるはずの弓をここまで器用に振り回すなんてな。普通に剣を持っていても、倒せたかどうか……。


 ジンラが弓を放とうとする瞬間、森の気配が変わる。


「ロイルに手を出すなぁぁぁぁぁ!」


 演算の魔王が怒号をあげ、その姿をさらす。


 それはジンラにとって予想外の行動だったのだろう。俺から視線を外し、驚いたように演算の魔王の姿を見つめていた。


 まぁそりゃ驚くよな。――――魔王が、人間を護ろうとするだなんて。


 だけどもしかしたら想定内だったのかもしれない。ジンラは慌てず、騒がず、弓を演算の魔王へと向けた。


「この一撃は、濃いぞ! 喰らえ演算の魔王ッ!」


 無数の矢が、まるで冗談のように彼女へと放たれる。


「燃やし尽くせ……【炎帯】!」


 弱々しい炎が演算の魔王の前に現れる。


 それに飛び込んだ矢は、演算の魔王に届く前にことごとくが燃え落ちたようだった。


 だが、やはりまだ呪文の威力が弱い……!


「逃げて、ロイル逃げて! こいつはワタシが必ず殺すッ!」


「ふははははは! 初々しいなァ、演算の魔王! いや、もうえっちゃんと呼ぼう! その方が可愛らしいからなァ! さぁ、キュートな悲鳴を聞かせておくれ!」


「本性表したわね、このクソ変態野郎! ライアグル使うヤツはみんな・・・そう!」


「!?」


 演算の魔王の叫び声は、ジンラの表情を驚愕に染め上げた。







 今、えっちゃんは何と言った?


 みんな? みんなそう? ライアグルを使うヤツは?


 思考が固まった。今まで絶対に誰にも言わないようにしていた事を、指摘されかけた。


 思わず攻撃の手が止まる。その隙にロイル氏は「作戦失敗だ! 演算、お前も逃げろ!」と言いながらどこかへと走り去っていった。あんなゴツい男どうでもいい。


 演算の魔王が展開していた炎が消え去る。そこには、両膝をついた演算の魔王がいた。


 どうやら異常に消耗しているようだ。何故だ。何と戦ったのだ。どうしてそこまで、なんかこう、イイ感じに荒い息をついているのだ。


 それが演技でないことは明白だった。えっちゃんは、本当に弱体化している。


 そんな姿を見て、戦闘の昂ぶりがまだ鎮まってない私の好奇心がムクムクと元気になってきた。


「貴様……演算の魔王。どういうことだ。お前はもしかして、ライアグルの事を知っているのか」


「知ってるわよ……腐れ変態野郎……その汚らわしい弓矢をワタシに向けるな……!」


「はっ……ははっ……ははは……はははは! そうか、知っているのか! 何故だ! 誰にも言ってなかったのに! 言えなかったのに!」


「…………答える義理は無いわね」


「ああ、嗚呼! 尋常じゃ無いほど興奮してきたぞ! その通りだえっちゃん! 幼き魔王よ! 最高位の優先順位を持つ者よ! お前は本当に不思議だなァ! 魔獣と魔族はどうやって懐柔した? シリックを攫ってナニをした!? ザークレーとロイル氏も、どうやってお前という沼に引きずり込んだのだ!」


 心の赴くままに叫ぶと、懐かしい表情が見えた。


 嫌悪感。恐怖。正義感。無力感。絶望一歩手前の、感情のカオス。


「そんなに具合がイイのなら、是非とも一戦お相手して欲しいものだ!!」


「くぅ……マジでどうしようもない程気持ち悪い!」


「ふへはははははは! これはアレだな、テレッサにも通じるものがある! いつもいつもいつもいつも我慢してきた! ライアグルを使うために、ずっっっっと我慢してきた!」


「………………」


「私はライアグルに感謝し、そしてまた同時に呪っている! ライアグル、おお、ライアグルよ! 我が相棒よ! お前のおかげで私は真人間のフリ・・・・・・をすることが出来ている!」


「…………ロイルぅ……気持ち悪いよぅ……」


「ああ! 泣かせてしまったね! ごめんよえっちゃん! だが許してほしい! ずっとずっと秘密にしていたことが、秘密でなくなったこの瞬間! 今の私は、ライアグルと出会う前の、ただのオスに戻れている!」


 叫ぶ。なんて楽しいんだ。全裸で街を歩くとこういう気持ちになれるのかもしれない。


「これは、正直たまらんな! 国に戻ったらいっそ情報を公開してみるか!? 周囲の人間共はどんな眼で私を見るだろうなぁ!? ――――いやいやいや待て、落ち着け私。そんなことをしてはいけない。流石の私も恥ずかしくて生きていけない。一生懸命積み上げてきたクーーールなイメージを棄てるのはもったいない」


 そうとも。これはカタルシスの解放。抑圧があるからこそ、この瞬間がたまらんのだ。


 私はえっちゃんを見つめた。


「演算の魔王よ。お前は本当に意味不明だ。いっそ神に愛されているといっても過言でないくらい、お前は特別なのだろう」


「…………神が、どうしたって?」


「お前は知らないだろうが、この世界には本当に神様がいるんだよ」


「神なんてもうとっくの昔に死んでるわよ」


「ふふふ。ふふふふ。そうか。もしかしたら察しているのかもしれんが、私は元来、外道でね」


「………………」


「そんな私はある日、神に祝福されたのだ。それ以来私は忠実なる神のしもべ。人類の守護者。お前達の天敵である、英雄となった」


「………………」


「我ながら思うのだが、もしライアグルと巡り会わなかったら、私は数々の罪で普通に死刑執行されていただろう。だがそうはならなかった。私はまるで生まれ変わったように理知的で、冷静で、穏やかで、優しくなった。誰からも好かれる立派な英雄となった」


「………………」


「神はいるんだよ、えっちゃん。私こそが神の存在を証明する、作品の一つだ」


「………………」


「ああ、だけどえっちゃん。君は素敵だ。君にだけは本当の気持ちを、忘れかけていたよろこびを伝えられる。魔王とこんなにも長く会話をしたのは初めてさ。おっと、もしかしてコレもまた、君の異常性の一つなのだろうか?」


「………………」


「だけど残念だよえっちゃん。私は懐柔出来ない。何故なら私は神のしもべにして英雄。君を殺すことが私の役目だ。だからこの楽しい楽しい会話はそろそろ終わりにしよう」


「……ワタシ、あなたと会話してるつもり無いんだけど」


 演算の魔王は立ち上がった。その瞳には、強い意志が宿っていた。


「時間稼ぎをするまでもなく喋り倒してくれてありがとう。心底気持ち悪いけど、助かったわ」


「ふぅん? 最後の抵抗をしてくれるのかな? そいつはいい。目の死んだ娼婦を抱くのは全然楽しくないからな! やっぱり最高なのは」


「それ以上喋るなッ! 【炎帝】ッッ!」


 演算の魔王は最後の力を振りしぼって、炎の魔人を創り出した。


 素晴らしい。見事な造形だ。自立稼働する疑似生命体。以前戦った高位の魔王が好んで使っていた魔法によく似ている。だが、恐らく演算の魔王の得意属性は炎ではない。ライアグルに対抗するために炎を選択せざるを得なかったのだろう。それは良い手ではあるが、最善手ではない。


 すっ、と心に冷静さが戻る。私は、最後にこう叫んだ。


「役目はさておき……君は私の秘密を、本性を、真実を知ってしまった。だから殺させてもらう。それが一番確実な方法だからだ。そう、昔のように! 目撃者は殺すのが一番イイィィィィ!」


 叫びきった私は、心を戻した。


 我は英雄なりし、聖義の使者。


 神のしもべ、上位管理者なり。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「だが、舐めてもらっては困るな!」  舐められたいが! 言葉の端々から感じる変態性がなんかリアルですげぇ。俺は何を見ているんだ……… [気になる点] クッソ細かい誤字報告 私はライアグ…
2022/03/20 18:57 サットゥー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ