4-33 VS 多斬剣テレッサ
最初に反応したのは演算の魔王だった。
「 【光隊】!」
光が羅列する。夜は一瞬で明かり殺され、目がくらむ。
「なっ!」
「えっ!」
「――――!?」
「見えたッ! 上空ね!」
ヒヒィーン! と馬が荒々しく嘶く。
馬車は急停車し、俺達は身構えた。そして次の瞬間、俺に寄り添っていた温かさが消失する。
「ははっ、ははは! 明るぅい! 目視完了や! 見つけたで魔王ッ! 往生せいやぁぁぁぁ!」
声は空からこちらに迫ってくる。
見上げると、長い髪をたなびかせながら、狂気的な目をした女が降ってきていた。
「んな!?」
なんだありゃ! どう見ても正気じゃねぇ!
愕然としていると、馬車から飛び出した演算の魔王が呪文を口にした。
「 【炎帯】!」
ボッ、ボッ、ボッ! と。先ほど道を照らしていた灯りとは違う、迎撃用の炎が空中に浮かぶ。
「甘ぁぃ! とろけるでホンマ!」
そのまま落下していれば確実に燃やされていたであろう。だがその女は空中で軌道を変え、綺麗に炎を避けた。
かなり高速で突っ込んで来たはずだが、衝撃を感じさせない様子で女は地面に着地する。
その女は明かりに照らされ、神々しく輝いていた。
手には片刃の聖遺物。すらりと伸びた刀身は細く、薄く、まるで斬ることに特化したようなフォルム。
紫のかかった長髪。手にした魔剣と同じく細身の、凄惨な笑顔を浮かべた美女。
「クラティナさん……!」
その名を呼んだのはシリックだった。
クラティナ。確かその名は――――。
「あれぇ? シリック? なしてそこにおるん? 引き続き拉致られてるん? ま、どうでもええ……」
魔剣使い。ザークレー曰く、有名になるほど強き者……!
「見つけたで魔王……ああ、改めてお名前聞かせてぇな……?」
ふー! ふー! と、目を大きく見開いた女は凄惨に笑った。
「……ロイル。少し離れてて。あれを片付ける」
「……ツッ」
演算の魔王はテク、テク、テク、とゆっくり歩み寄って、精霊服をたなびかせた。
「初めまして、ではないわね。ザファラで空中戦しかけてきたバカじゃない。元気だった?」
「元気もげんき……昂ぶりすぎて、もう頭が茹で上がりそうやぁ……」
「やれやれ……さて、お名前と言われてもね。ワタシはあなたの名前を知らないし、知りたくも無い。そもそもワタシ達に名前は必要かしら? きっと呼び合うことなんて無いと思うのだけれど」
「うっとうしい理由があんねん。なぁ、えっちゃん……頼むから、教えてぇな……ウチの名は、クラティナ。クラティナ・クレイブ。あんたは?」
「……演算の魔王よ。名前は内緒」
「演算の魔王。……うん、よし。クリア」
最後の仕事が終わったかのように、クラティナは満足げにうなずいた。
「――――あとはもうアンタの命以外、何もいらん!」
本当にそれ以外はどうでもいいかのように。
本気で演算の魔王しか見えてないように。
こうして、唐突に魔王と魔剣使いの戦いが始まった。
演算の魔王が造りだした灯りのおかげで、辺り一帯は眩しいくらいだ。
そしてそれは全員の視認性……有利性を作りだし、誰もがその灯りを頼りにしている。
だが、それを造りしは演算の魔王。彼女はそこを行動基点にした。
パチン、と指を鳴らすまでもない。
いきなり辺りの灯りが全て消えた。
「!?」
「 【安視】 」
殺すべき獲物。それを見るのは自分だけでいいと、演算の魔王は闇に紛れた。戦略としては当然すぎるし、対処も完璧だ。
「しゃらくさいわァ!」
何が起きているのか分からない。だが、音が聞こえる。
空気を切り裂く剣の音。それが、複数重なって、まるで突風のように。
「ツッ!」
「ははは! 暗くてよう見えんわぁ! なんや周りにゴチャゴチャおったみたいやけど、巻き込んだら謝るわぁ!」
どのような葛藤があったのか。忌々しそうに演算の魔王は次の呪文を呟いた。
「 【明停】 」
明るさが復活。
暗闇の交差の中、演算の魔王の精霊服には腕の部分にたっぷりと血がついていた。
「演算ッ!」
たまらず声をかけたが、彼女はそれに応えない。
「おい、そこのバカ。ロイルを巻き込んだら、殺すぞ」
「ふぅん? ロイル? 誰それ?」
そう言いながらクラティナは魔剣をふりかざす。
「巻き込み事故は無くなるやろけど、攻撃が当たりやすぅい!」
「ええ、そうね。だから――――避けやすくもなる」
見事なバク転で演算の魔王はクラティナの攻撃を避けた。
「あら素早い!」
そう言いながら追撃の様子を見せるクラティナ。だが。
「――――ああ。貴方だったのね、テレッサ」
「!」
彼女は突貫の姿勢をキャンセルし、慎重に剣を構え直した。
「――――何故、テレッサのことを知っている?」
「どうでも良かったから観察してなかったけど、あなたはワタシの敵のようだからきちんと見させてもらっただけよ。魔剣。多斬剣テレッサ。なるほど、この前空を飛んでたのはそういう事か。器用な使い方をするのね?」
どういうこと? 俺は意味が分からなかったが、クラティナの表情が憎悪に染まった。
「なるほど、なるほど。これは確かに……異常事態やねぇ。ちぃと頭を冷やしたほうがえんやろか?」
「しかし、クラティナだっけ? あなたも大概ね。どれだけ……息苦しい人生を謳歌するつもりなのかしら?」
「何もかもご存じのご様子で? 聞きたいのはアンタの断末魔だけなんやけどなぁ……ふむ」
さらりと、クラティナの長い髪が肩口に垂れた。
「魔槍ミトナスを探して、このテレッサのことも知ってて、そして何よりその幼さの割には完成された様子の魔王性。――――あんた何者なん?」
「あなたなんかには、絶対に教えてあげない」
血に染まった精霊服が、黒く変色していく。
「だけど一度だけ警告をしてあげる。ワタシ達の邪魔をすると、世界が滅ぶわよ?」
「はは。ウケる」
「そう。じゃあ、仕方ないか。うーん、テレッサかぁ……面倒だなぁ……普通に強いからなぁ……」
「先手必殺ゥ!」
英雄は動いた。魔王に「考える時間」を与えることは、即ち殺されるということだからだ。
「 【爆閃】!」
炎閃よりも遅いが、でかい一撃。
爆破が連なりクラティナを殺そうとする意思を、英雄は不可解な動きで回避した。
「何回斬れば、死ぬのかな、っと!」
襲いかかる様子はまさに野生の虎。俊敏な動作で距離を詰めたクラティナだったが、同じように演算の魔王も回避行動を取った。
ここで俺は正気に戻った。
「って、ぼんやり見てる場合じゃねぇ!」
慌ててザークレーとシリックに話しかける。
「おい、あいつ何なんだ! 明らかにヤバすぎるだろ!」
「――――英雄クラティナ。以前話したと思うが、相当な実力者と聞く」
「ザファラでお世話になった人なんですが、詳しいことは私もよく……」
「あれ! あの聖遺物! あれは何だ!?」
「――――多斬剣テレッサ。上位の適合系聖遺物。察するに、一度の攻撃が複数回に分裂する剣だ」
「攻撃を複数回に? なんじゃそりゃ」
そう言いつつ、気がつく。多斬剣。その名の意味を。
一振りにて多斬。一閃は不可視の実体を産みだし、一撃で致命傷を拵える。
つまり……一回の攻撃で複数回分のダメージを与えられる聖遺物?
「なんつう武器だよ……」
「で、でも、あの動きは? どう考えても異常です」
シリックの指摘通りだ。あの英雄の動き方は、生き物のそれではない。空中で軌道を変えるなんて不可能すぎる。
「――――推測だが、おそらくテレッサを振るうと同時、その効果が彼女の肉体に作用している」
「は?」
「――――観察だ、ロイル。よく見れば分かる」
言われた通りに、二人の交戦を見守る。
演算の魔王が唱えた魔法を、クラティナが回避する。急制動というよりも、ジャンプした際にありえない方向へ曲がっていくというか、なんというか。
印象としては……攻撃をしようとすると、その剣の動きと同調するかのように、クラティナの動きがブレるのだ。
「妙な剣の動き……多斬剣……複数…………も、もしかしてあいつ、自分に攻撃をしかけてるのか?」
「――――おそらくな。剣で自分を斬りつけ、その衝撃で移動を補佐しているのだ」
「変態すぎる!」
「――――身体が斬れないのは、峰打ちの要領だからか。普段は使わない妙技なのだろう。しかし噂通りの強さだな」
呆れかえりつつ、何か出来ることは無いか探す。もちろん無い。
ザークレーの観察力の高さは、おそらくネイトアラスの攻撃力が低いことに起因する。あれは暗殺用の聖遺物なのだ。だからザークレーは、生き残るためにその力を磨いた。
だけどいくらザークレーの観察と推理が一級品だとしても、打開策は見いだせなかったようだった。彼は沈黙し、事の推移を見守る。
クラティナと演算の魔王は木々の間をすり抜けつつ、ずっと周囲をグルグル回っていた。
交差の時間はあまりにも短い。演算の魔王はクラティナの攻撃を受けず、ひたすら避けることに専念していた。
「ちょこまかちょこまか、本当に可愛らしいなぁ!」
「ツッ!」
演算の魔王は必死で回避を続けている。時折攻撃を挟むようだが、決定打になり得ていない。
確かにクラティナの機動力は異様だ。しかし、演算の魔王が大規模な魔法を連発すれば一瞬で詰め殺せそうなものだが……。
しかしそうはならなかった。
クラティナが斬り、演算の魔王が回避する。
それを何度か繰り返すうちに、両者の息が少しずつ荒々しくなっていく。
やがて二人は、開けた場所で改めて対峙した。
「ふぅん。えらい必死に避けるんやなぁ……」
「ええ。当たったら痛いもの」
「これじゃお互い、ラチがあかん。せやから提案があんねんけど」
「奇遇ね。ワタシからも提案があるの――――でも、そうね。お先にどうぞ?」
二人は嗤った。
「今から全力で斬りつけるから、受けてくれへんやろか?」
「……ふぅん。なるほど」
「あんたは何故か、テレッサの事をよぅ知っとるようやな? だったらこの提案の意味も分かるやろ」
「まぁね。ため込んだ力を全て使い果たした後、あなたはただの人間になる」
「そゆこと。――――それで、あんたの提案ってのは?」
「ああ。それね」
演算の魔王は。
酷薄に嗤った。
「もう遅い」
瞬間、辺りの空気が殺された。
「 【針螺万傷】 」
浮かび上がったのは、高速回転する土塊。
「!!」
「期を逃したわね、クラティナ。まぁ仕方が無いわ。テレッサを使う以上、その誘惑から逃げることは困難だわ」
俺は「期を逃した」という言葉で全てを察した。
演算の魔王が試みたのは対話ではない。
それは単に、フォースワードを使うための時間稼ぎ……!
俺と同様の答えに至ったのだろう。クラティナの顔が強く歪む。
「貴様ッ……! 貴様ァァァッ!」
「ワタシを斬って、気持ち良くなることだけ考えてれば良かったのに。あなたはワタシの力を認めてしまった。ワタシに全力をぶつけたくなった。解放のカタルシスを、望んでしまった」
まるで歌うように演算の魔王は語る。そしてその歌に合わせて指で指揮を執る。そしてその動きに連動するように、無数の針が空中で踊る。
「なぜ逃げ回っていたのか? 簡単よ。テレッサは強いもの。無傷で勝つのはとても難しい。……しかしながら。難しいけれど、弱点はある」
あるのか、そんなもん。
そんな疑問を覚えたのだが、俺と対照的にクラティナの表情は激変していた。もう、嗤っていない。
「そう。弱点はあなたよ、クラティナ。あなたは生粋の異常者。脳内麻薬中毒者。だから、一の快楽を百回求めるのではなく、どうしたって百の快楽を一度に受け止めたくなってしまう」
「あ――――ああああああ!」
「ワタシに全力をぶつけて、スッキリしたかった? ごめんなさい。悪いけど、あなたの気持ち悪い自慰行為に付き合うつもりはないの」
「死ね、演算の魔王――――!」
「――――生き残りたければ、打ち落としてごらんなさい?」
クラティナが飛び出した。
同時、魔法が機動を開始する。
「多斬剣秘技――――ッ、千刃!」
一振り。たったそれだけの行為で、演算の魔王が飛ばしていた回転する土塊がボタボタと、数え切れないほど地面に墜ちていく。
「ハハッ! テレッサ、今回の担い手もイキが良いわね!」
演算の魔王は指先を踊らせ、まだ空中に残存している土塊を操る。
敵を穿つために飛翔するそれ。一つや二つ当たっても致命傷にはほど遠いだろう。だがその数は百や二百ではきかない。その名の通り、万の傷を生み出す殺戮魔法。
そんな悪夢を、クラティナは懸命に打ち落とし続けた。
千刃と。何度も気迫を込めながら叫び、それに呼応した多斬剣テレッサが魔を打ち落とす。
何度も何度も何度も。
時折打ち損じた土塊がクラティナを傷つけた。先ほども言った通り、致命傷には程遠い。だがその傷は増える一方。
クラティナは徐々に弱っていき、真っ赤に充血した目で演算の魔王を睨み付けた。
「この卑怯者め……!」
「あら。心外ね。正しい攻略法だと思うのだけれど」
ふっと嗤った演算の魔王。その瞬間、土塊の動きが止まる。
「だいたい、卑怯者はそちらでしょう? 多斬剣テレッサなんて強い武器を、どれだけ周到に練り上げたのよ。過剰戦力すぎるっての……。まさかここまで食い下がるとは思わなかった。あなた頭おかしいわ。隙も全然ないし」
攻撃が止んだ。だから、クラティナは片膝をついた。もう立って居られないほどに疲弊している。
「そんな強い人間はどうすればいい? こうするしかないじゃない。即ち、正しく適切に対処する。卑怯者と呼ばれる筋合いは無いわ。……あえて卑怯な手段を提示するとすると、この辺り一帯を焼け野原にすれば勝てたかもしれないわね。でも、ワタシはそんな下品なマネするつもりがないの」
ね、ロイル? と演算の魔王はこちらに向かってウィンクを飛ばした。なんという余裕だろうか。
「まぁあなたには少しだけ同情してあげる。テレッサなんて変態に見初められたことは、不運だったとしか」
「テレッサは……私の大切な相棒よ!」
「そうね。それは否定しない。ここまで生き残れたことがその証拠よ。でも」
残酷に冷酷に、演算の魔王は終わりを告げた。
「そろそろ死ね」
土塊の回転速度が上がる。
先ほどよりも飛翔速度が、攻撃力が明らかに上昇する。
俺は反射的に「待て」と言いそうになって。
けれども、歯ぎしりと共に口を閉ざした。
そして、クラティナが叫ぶ。
「多斬剣絶技――――」
演算の魔王が、指先を振り下ろす。
残された土塊が、全てクラティナに降り注ぐ。
「――――多斬一閃!」
降り注ぐ土塊。
俺は確かに見た。
多斬剣テレッサが放った一撃。
それはまるで千人の兵士が同時に剣を振るったかのように。一ミリの隙間さえないような連なる剣閃、つまり巨大な一閃となって、演算の魔王の魔法を全てなぎ払ったのであった。
バチバチバチバチ! と。まるで雷鳴のような音が周囲に響き渡り、土塊は細かな粒子となって消え果てた。
「……すごーい。今のさえ打ち落としちゃうんだ」
「ゼ、ハッ……ゼハッ……」
今度こそ呆れ果てたかのように、演算の魔王は感嘆の声を上げた。
それと同時に、クラティナが地面にブッ倒れる。
「まさか生き残るとは思わなかった。褒めてあげるわクラティナ。あなたは凄腕よ。人類の中でも相当上位に食い込む。……ま、それでも」
演算の魔王の精霊服の色が、黒から黄色に戻っていく。
「ワタシの勝ちなんだけどね」
返事は無かった。
クラティナはヤバめの呼吸を繰り返しており、もう立ち上がる事が出来ないようだった。けれども多斬剣テレッサを握りしめる力は衰えておらず、必死でもがいていた。
「やれやれ。……ロイルお待たせ! 勝ったよ!」
こちらに振り返り、演算の魔王がパッと笑う。
俺はその笑顔にどう答えればいいのだろうか。
(こいつの本名は、なんだったっけ)
そう自問してしまう程に、彼女の戦い方は苛烈だった。
逃げて、回避して、逃げて、回避して、そして呪文を一つ唱えた。
簡単に言ってしまえば今回の戦闘はその程度だ。だが内容が泥のように濃い。
クラティナ・クレイブ。演算の魔王が下した評価「人類の中でも相当上位に食い込む」を採用するまでもない。俺から見ても異常な強さだった。特に最後の一撃は、いくら魔王とて食らってしまえば即死する程の攻撃だったろう。
それを、こんな簡単に倒してしまうなんて――――。
「あっ、演算……お前、傷は大丈夫か?」
「傷? ああ、これ」
ひら、と腕を見せた彼女。その小さくてか細い腕には、無数の裂傷がついていた。
「ツッ……痛かったろ」
「平気よ。魔王は人間より治りが速いし、傷跡も残らないと思う。だから気にしなくていいよ」
「…………」
「そんな顔しないでよロイル……ああぁ~ん! 疲れちゃった! 怖かった! ロイル、なでなでして~!」
おどけた様子で演算の魔王がこちらに倒れ込んでくる。俺はそれを受け止めて、しっかりと抱きしめた。
ややあって。
堪能しきったのか、演算の魔王は「むふー!」と鼻息を荒くしつつ、俺から離れた。
「さてさて。後始末はちゃんとしなきゃね」
「後始末?」
「あそこで転がってる異常者よ」
彼女はクラティナを親指で指しつつ、ため息をついた。
「もう力なんて残ってないでしょうけど、一応はケリをつけなきゃ」
「…………クラティナを殺す、のか?」
「うーん。それは別にどっちでもいいかな」
演算の魔王は首をかしげた。
「問題なのは、テレッサの方。あれは危険だからねー」
てくてくと俺から離れ、演算の魔王は地面に倒れ込んだ英雄に近づいていく。
「壊すかなー。それとも封印しちゃうかなー。どうしようかなー」
ぶつぶつと呟きながら、どんどん近づいていく。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「もう大丈夫だよ。力なんて残ってないはず。それにテレッサの担い手は、戦闘後には必ず腑抜けになるから」
そう言って演算の魔王は俺の方を見て、笑った。
その次の瞬間。
「ウチが腑抜けになるのは、あんたが死んだ後や」
不可解な動きでクラティナの身体が空中に跳ね上がる。
「多斬一閃ッッッ!!」
上空から降り注ぐ不可視の刃の奔流が、演算の魔王を切り刻んだ。
バラバラと、細切れの肉が、大地に降り注ぐ。