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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
第四章 All for the one
150/286

4-24 ハッピーエンドの造り方



 それは久方ぶりの大空だった。


 快晴。雲は近く、薄く、陽差しは明らかに地上のそれよりも濃い。


 だけどはしゃぐ事は出来なかった。


 イリルディッヒの魔法により風圧はかなり減殺げんさいされていて快適だったのだが、どうしても気分は晴れない。


《あまり長時間飛ぶと演算の魔王が嫉妬しそうだ。手短に済ませよう》


「……ああ。そうだな」


 最早腹の探り合いなど不要だ。必要な事だけを、抽出する。


「俺はフェトラスを追いかける」


《銀眼化し、殺戮し、暴走の果てにどこかへ飛び去った殺戮の精霊をか》


「分かってて聞いてるだろ? 俺が追うのは、俺の娘だ」


《……方法は?》


「それをずっと考えていた。だけど、完全にノープランだ。とりあえずあいつが飛び去った方向に進んでいるだけで、正直いまフェトラスが何を考えているかさえ分からない」


《…………》


「聖遺物が欲しかったよ。あいつを護るための武器が。あいつの敵を倒せる戦力が。それを探しながら、足掻き始めたばかりさ」


《…………我はお前達と初めて出会った時、語ったな。責任についてだ》


「忘れちゃいないさ。最悪の事態が訪れた時、俺とお前がそれぞれに異なる責任を果たすってやつだろ」


《正直に言おう。我は銀眼の存在を許すつもりはない。必ず滅する》


 有無を言わせない、力強い殺害予告だった。


 だからこそ理解出来る。


 それはきっと彼にとって、覚悟した事柄なのだ。絶対に曲げてはいけない、譲ってはいけない、大切な根幹。基本方針なのだ。


 別に誤解されたってイリルディッヒは気にしないだろうが、俺は少しだけ理解の意を示した。


「大丈夫だ。分かってる。それはフェトラスがどうこうって意味じゃなく、ただ『銀眼』がお前の敵だって話しなんだろ?」


《……その通りだ》


「……何故そこまで魔王を目の敵にする? 魔獣ってのはみんなそうなのか?」


《魔獣だから、ではない。我が我であるために、我が決めたことだ》


「魔王を倒すことが生きがいなのか?」


《正確には違う。魔王が理不尽に振りまく殺戮が許せないだけだ。――――少しだけ身の上話をしてやろう。我の両親はとある魔王に殺された。そして我の兄妹は別の魔王に殺された。そして、我の同胞もまた、別の魔王に殺された》


「どんだけ魔王と遭遇してるんだよ……」


《遭遇ではない。意図的に狙われたのだよ。魔王は、強大なものを食えば力を増す。食う事によって戦う力が成長するのだ》


 不意に思い出す。


 そういえば、フェトラスはカルンの一部を(知らない内に)摂取したことがある。あれのおかげで急に雑魚モンスターが近寄らなくなった。


《基本的に魔獣が魔王を狩るのは、自衛のためと言えるだろうな》


「そうか……魔王にとって、魔獣ってのは『ごちそう』なのか」


 次の瞬間、イリルディッヒは少し羽ばたきを強めた。


《言葉に気を付けろロイル。いま貴様は、我の家族を・・・・・エサ扱い・・・・・した・・


「ツッ――――すまない。そんな気はなかった」


 悪かった、と再び呟いて、俺はしっかりとイリルディッヒにしがみついた。


《……まぁよい。お前は約束を守ったようだしな》


「約束?」


《フェトラスに我の羽根を食わせなかっただろう?》


「羽根。ああ、そういえばまだ持ってるな」


 大切な物が入った袋に入れっぱなしだ。長いこと一緒に旅をしたけど、未だに新品同様の輝きを放っている。


「でもなんで食わせてないって分かるんだ?」


《もしもフェトラスが我の一部を食していたら、もっとスムーズに検知出来たはずだからだ。その分、フェトラスが強くなってしまっていただろうが》


 ひっそりと心の中で認識を改める。


 イリルディッヒの羽根は、魔王をパワーアップさせる事が可能なのか。


《実際に血肉を喰らわれるよりはマシだがな。それに今のフェトラスが喰ったところで、大して力の増加はないだろう。銀眼たるヤツは既にそのレベルを超えておる》


「ふぅん……あ、でも、じゃあ気を付けないとな。演算の魔王……に……」

《………………。》


 えっ。


「も、もしかして……」


《…………口惜しいことに、その通りだ。我とカルンはすでに演算の魔王に喰われている・・・・・・。初めて遭遇した際、戦って、結果、少々かじられてしまった》


 かじられたって。


 目に見えて大きな傷は無いようだが、喰われたのか。


《先ほど言った通り、少量だがな。ヤツはそもそも成長スピードが異常だったのだが、我とカルンを喰ったことにより更に手がつけられんようになった》


「そうか……」


《出会った頃のヤツは、今よりももっと怖ろしい気性だった。我らを喰らって成長した際、少し落ち着きを得て、だからこそ会話がようやく成立したのだ。幸か不幸か分からぬがな》


 ぐい、と身体の向きを変えてイリルディッヒが旋回する。


《……一行に話しが進まんな。どれ、もう一度演算の魔王に手を振るがいい》


 そう言うとイリルディッヒは急降下した。俺は何とか作り笑顔を浮かべて、カウトリアに手を振る。彼女は可憐の花のように笑って、子供のように飛び跳ねた。おーい、ここだよー、と。


 まだまだ遊び足りない、という表情は上手に作れただろうか。俺とイリルディッヒは再び高度を上げて、代わりにテンションを下げた。


《そろそろ本題に入ろう。今後の方針についてだったか》


「銀眼化したフェトラスを追う。そして、平穏な生活を取り戻す」


《我は銀眼を狩るぞ》


「とりあえずフェトラスに会ったら話して・・・みてくれよ。俺達は人間の街に住み込んだり、英雄と和解したことだってある」


《なんと……》


「ほら、下の馬車で寝込んでる男がいるだろ。ザークレーっていうんだが、あいつは王国騎士で、聖遺物を持った英雄で、そしてフェトラスの銀眼を目の当たりにしたこともある。というか戦ったことすらある。でも今じゃ結構仲良しだよ」


 イリルディッヒは羽ばたくのをやめて、滑空状態に移行した。


《シリックも似たようなものだとは聞いていたが……本当にそのような事が可能なのか?》


「とある英雄が使っていた言葉だが、認識齟齬、というやつらしい。見れば分かるこの世界で、あいつの事を誰しもが『殺戮の精霊』じゃなく、『ロイルの娘』として接してくれたよ。実際、角なんかもほとんど髪で隠れる程に小さくなってたしな」


《……しかし、フェトラスは銀眼なのであろう》


「……まぁ、今の所はちょっと不安定になってしまったみたいだけど。だけど、俺は必ず俺の娘を取り返す」


 イリルディッヒは黙考した。


 俺は畳みかける。


「イリルディッヒ。お前が協力してくれたら、とても嬉しい」


《………………。》


「お前だって、別に銀眼と戦いたいわけじゃないだろう? 銀眼が振りまく理不尽な殺戮が許せないというのなら、お前も俺の娘に対して理不尽に接さないでくれ」


 ここで俺は、ようやく秘密を打ち明ける。


「正直に言おう。フェトラスは俺を護るために魔族を殺した。だけど、もしも俺があの時魔族に殺されていたら、きっとあいつは世界を滅ぼしたんだと思う」


《………………。》


「そして、俺はいつか必ず死ぬ。生きてるから仕方が無い。だけど俺がいなくなった後、あいつが世界を滅ぼさないためには――――時間がいるんだよ」


《時間……》


「もしもあいつが俺だけじゃなく、この世界も愛せたのなら。美味しいご飯、綺麗な景色、感動的な出来事。この世界が素晴らしくて、存続することに価値を見いだせたのなら、あいつはお前と一緒に理不尽・・・と戦ってくれると思う」


《……戯れ言だな。度しがたい妄想だ。付き合い切れん》


「だろうな。だから、今の俺達みたいに会話が必要なんだよ」


 俺はイリルディッヒの背中に顔を埋めた。



「頼むから、時間をくれ。あいつが世界を愛するまでの猶予と機会を、俺達にくれ」



 すぐに決断出来ることではないだろう。うんともすんとも言いがたい状況だ。


 伝わったかどうか分からない。理解してもらえたとは思えない。何故ならイリルディッヒはフェトラスと会話したことがないからだ。なんなら、成長したあいつを見たことすらない。


 だから俺はイリルディッヒの返事を欲さず、次の議題に移った。



「演算の魔王についてだが、お前はどう思う?」


《……先ほど言った通り、出会った頃のやつはもっと禍々しく、怖ろしかった。だがお前と再会してからは、まるで子供のようにしか見えん》


「だろうなぁ」


《そもそも、アレは一体何なのだ? 発生したての魔王かと思いきや、お前とは古い因縁がある様子だが》


「それ言えないんだよ。なんの呪いか分からないが、口にすると頭痛が走る。お前にも覚えがあるんじゃないか?」


《ああ……確かに。命の危機すら覚える、瞬間的頭痛……あれは何なのだ? 呪文を唱えたようには思えなかったのだが》


「あいつにもよく分かってない。ただ、俺と演算の関係を語るには相当時間がかかる。だから一端それは置いておいて、今後ヤツをどう扱うか、ということを話し合いたい」


 というかこれこそが本命の相談だ。


「演算の魔王は、フェトラスのことを知っているんだよな? あくまで俺の娘として」


《魔王だとは知らないはずだ。そもそも、人間が魔王の父になるなどと、そんな発想を抱ける者なぞこの世におるまい》


「だよな。でも、俺と行動を共にするということは、いつか演算の魔王とフェトラスが出会うということでもある。その時――――なにが起きると思う?」


《――――――――単純に考えれば、演算の魔王はフェトラスを殺そうとするだろうな》


「……だよ、なぁ……」


 同じ返答を繰り返す。


 魔王同士が結託したことは歴史上無い。そもそも魔王と魔王が出会ったらどうなるか、という事自体聞いたことがない。共闘はおろか、遭遇すらしないのは、本能しくみの一環なのだろうか。


《だが別に構わんであろう。演算の魔王は確かに怖ろしいが、銀眼ほどではない。戦えばフェトラスが勝つ。それで良いではないか》


「あわよくば共倒れしてくれ、ってニュアンスにしか聞こえないぞ」


《その通りだとも。なにせ我は、今の・・フェトラスを知らぬのだから。当然のように命の敵である『銀眼』としか認識出来ぬわ》


 そう言いつつも、フェトラスと会話する気がほんの少しあると、そんなことを匂わせてくれたイリルディッヒに俺は深く感謝する。だが、それは明言されたものではない。よって礼を言うにはまだ早すぎる。……やぶ蛇を突くのは止めておこう。


「しかし、演算の魔王とフェトラスが戦う、かぁ……」


 どっちが強いのだろうか。


 そりゃ、きっとフェトラスだろう。


 だが演算の魔王は、カウトリアは俺の敵・・・ではない。


 よって、フェトラスの敵・・・・・・・でもない。



 都合のいい妄想をするのなら。


 興奮した演算の魔王をフェトラスが鎮めて、話し合って、仲良くしてくれねぇかなぁ。



 そして三人で暮らすとかどうだ? 俺はカウトリアを愛していないが、別に嫌いなわけじゃない。ちょっと……アレ・・だけど……感謝してるし、好意だってある。なんなら尊敬に値する。


 いいかもしれない。


 みんな仲良くしましょう大作戦。


 完全無欠のハッピーエンドだ。


 カウトリアとフェトラスが仲良くなってくれれば、それはとても素晴らしいことだ。


 なにせ「魔王」と「魔王」なのだ。同族だ。友達がいれば世界はもっと楽しい場所になる。


――――いいや、友達よりも、もっと良いものがある。

 


「なぁイリルディッヒ」


《なんだ》






「俺が演算の魔王と結婚するのって、どう思う?」






 イリルディッヒは無言で、もの凄い速度で急降下して馬車の元に戻った。


《すまない演算の魔王。ロイルの具合がよくないようだ。はしゃいで疲れたのかもしれん》


「なにそれ大変!! ロイル、大丈夫!? イリルディッヒ殺そうか!?」


「ば、ばっきゃろう! 俺は正気だ! あとさっきも言ったけど、俺の友達に手を出すなよ!?」


《すまないロイル。ちょっと怖いので、我は逃げる》


「あ!?」


 言葉通り、イリルディッヒは逃げ出した。


 本気で逃走した。


 あっという間に豆粒みたいに小さくなって、帰って来る気配はない。


「ど、どこに行くんだイリルディッヒー!?」


「ロイルロイルロイル! 本当に大丈夫!? 顔色は悪くないみたいだけど、何があったの!?」


「全然平気だが!? 見ろ、この元気いっぱいのポーズを!」


 オラァ! とマッスルポーズを見せつける。


「素敵! でも、普段のロイルはそんなことしない! と、とりあえず座って、落ち着いて?」


「お、おう」


 俺はすとんと地面に座り込んで、ため息をついた。



 あ~~~~~~~~。


 うん~~~~まぁ、そうだよねぇ~~~~~。


 魔王の父親、ってだけでも魔王崇拝者扱いされたことあるのに。


 別の魔王と結婚するとか提案したら、そりゃイリルディッヒも「こいつヤベぇ。狂ってるどころじゃない。近くに居たら病気が移る」と言わんばかりに逃げるよね~~~~~。



 俺はただ、フェトラスがどうすれば幸せになるか、ってことしか考えてないんだけどなぁ。




 カウトリアが慌てふためいていたので、とりあえず俺は笑ってみせた。


「すまんすまん。空の上が楽しすぎて、はしゃぎすぎた。年甲斐も無く無茶するもんじゃないな」


「本当に大丈夫? 頭痛とか、眩暈とか、何か自覚症状があったら教えて?」


「ない。本当に平気だ。イリルディッヒは悪くないから怒らないでやってくれよな」


「うん……そういえば、イリルディッヒどっかに行っちゃったね」


「お前のお仕置きが怖かったのかなぁ。戻って来ても、マジで手を出すなよ?」


「…………ロイルがそう言うなら」


 渋々、と言った感じでカウトリアが頷いてくれる。


「というかだな、お前は……出来たら、誰も殺さないでほしいんだが」


「うん?」


 カウトリアは首を傾げた。


「誰も? それはあれかしら、動物も魚も殺したらダメってこと? 何なら植物も?」


「…………別にそこまでは言ってない。生きるために他者の命が必要なのは、俺も同じだ」


「じゃあどこに線引きをするの?」


「…………ヴァベル語が扱える者とは、戦わないでほしい」


「ヴァベル語が使えない者は、殺していいの?」


 純真無垢な問いかけだった。


「ねぇロイル。どうして?・・・・・



 俺はかつて、フェトラスに同じことを言った。そしてその時は「殺さない方が、美味い飯が食える」という超絶合理的な意見で納めることが出来た。


 そして、同じ頼みを、俺はカウトリアにする。



「何故なら、そうしてくれたら、俺が嬉しいからだ」


どうして?・・・・・



 甘かった。「ロイルが嬉しいならそうするね!」という、すごく理想的な想像に溺れてしまっていた。


 俺はなんとか形勢を取り戻そうと、言葉を重ねる。


「……カルンと俺は、かつて戦ったことがある。人間と魔族だしな。でも、こうやって再会出来て俺は嬉しい。友達になれてもっと嬉しい。お前にも、そんな経験を積んで……」


「ワタシ、ロイル以外は・・・・・・いらないよ?・・・・・・



 星空の瞳が、深淵に侵食される。



「ロイルは、ワタシと同じ気持ちじゃないの?」



 聞いたことがある。昔、戦友が、トールザリア隊長が、娼婦を愛人にしてしまった時のことだ。その時、奥さんに殺されかけたらしい。


『がははは! びっくりするぐらい強かったぞ! 攻撃がノーモーションでな! しかも唐突に荒ぶったり、冷酷に殺しにきたり、泣き出したり、かと思ったら頸動脈を狙ってきたりな! 暗殺者かと思ったぞ!』


 トールザリアは笑っていたが、腕に結構な防御創が残っていた。戦友曰く『愛情ってのは裏返ると憎しみになる、ってのは聞いたことあったが、実際に体験してみるとありゃ裏返るとはまた違うな。大切なガラス細工が壊れた時に湧き上がる哀しみに近い』ということらしい。


 ちなみにトールザリアはそれから結構な愛妻家になった。なんでも『愛されてるんだなぁ、って自覚したら、こんな俺でも罪悪感がムクムクとな。それにあいつも反省したのか、改めて良いオンナになってなぁ……』なんだってこんなことを思い返すのか。


 ああ。


 走馬灯かこれ。





 一方その頃。



「見っけた?」


「ああ、間違いない。やはり後方だった。というかこれは……ザファラからあんまり遠くないような……」


「なんなんそれ!? 来た道戻るのってめっちゃ不毛やん! ええこっちゃ!」


「ムカつけて何よりだ。頼りにしているぞ」


「あー。せやね。あんたはしばらく休んどった方がええ。ご苦労さん」


「アディルナもご苦労だったな。しばし、眠っていろ」


「……あんた、そげな厄介な聖遺物をよくもまぁ大切に扱うよなぁ。なして? ドMなん?」


「俺はアディルナを盲信している。こんな俺でも役に立てるのだと、誰かに必要とされるのだと……。アディルナは俺の欲しいものをくれるんだ。だからこれは正当な取引だ。でも対等なんかじゃない。俺の血や痛みごときで誰かに『ありがとう』と言ってもらえるんだ。そう考えたら、安い消費だろう? 俺はアディルナに本当に感謝しているんだ」


「………………」


「なんだ、そんな微妙な顔して」


「可哀相やなー、て」


「……ふん」


「ああ、同情ちゃうで。あんたは何も分かっとらん」


「何がだ」


「…………あんまりしたくないんやけど、まぁええ。うちもあんたを見習って、多少は支払ったる」


「…………」


「リッテル。あなたは無能でも役立たずでもない。自分には自己犠牲しか出来ることがない、って思ってるみたいだけど、それは傲慢よ。いい? あなたのやってるそれは『献身』っていうの。ヒロイックに自己犠牲を行う人は多々いるけど、自己犠牲をやり続ける・・・・・ということは、並大抵のことじゃない」


「……だが、結局は……俺は、自分が役立たずじゃないと証明したいだけで……そんな小さなエゴが俺の全てで……」


「それ、小さくないよ。全人類が願ってることだよ。自己顕示欲を満たすとか、肯定されたいだなんて、人間として基礎中の基礎。そしてそのためにどれだけ頑張れるか、っていうことが重要なの。そしてあなたの頑張りは、常人のそれより一線を画す。……顔に傷が多いのは、そこだったら戦う時に一番不都合が生まれないからでしょう?」


「…………でも、俺はアディルナがないと……本当に役立たずで……」


「そうなの? それじゃあ、採点してあげる。このミッションが終わったら、デートしましょう。デート。アディルナ抜きで」


「は?」


「そして一人の男として、どれだけ私を楽しませられるのか。正しく評価してあげるから。ダメだったらダメっていうし、良かったら良かったって言うわ。そしてダメだった部分を改善して。そうやって繰り返して、自信を持ちなさい・・・・・・・・。あなたに一番必要なのはそこよ」


「…………」


「大丈夫。あなたは、いい男よ」


「…………」


「なっ……えーい! だいの大人が泣くなや! みっともない!」


「す……すまん……ただ……嬉しくて……」


「は……はっ、はーはーはー! こげなべっぴんに『いい男』言われて舞い上がったかー!? あんたいつか女に騙されるで!」


「違う、そうじゃなくて……お前が、魔剣テレッサ使いであるはずの、あの・・クラティナ・クレイブが……俺如きのために、口調を……」


「……その価値があると判断したまでや。悪いのは全部あんたの自己評価の低さや。微々たるモンとはいえ、うちを弱体化させた罪は重いで。償え」


「分かった。全力で償う」


「お、おう。急に自信満々になったな」


「さしあたって、今回の任務を早急に終わらせる。デートだったな。任せておけ。朴念仁と呼ばれた俺の本気をお前に見せてやる」


「お……おう……期待せんで待っとるわ……てか朴念仁呼ばわりされとる自覚があるなら、まずそこから治せや……」


「その時はお前も、テレッサを置いてくるんだよな?」


「あ? んなわけないやろ。ウチとこいつは一心同体や」


「それで正確な採点が出来るのか? だってお前はあの・・クラティナ・クレイブだろう?」


「なっ……」


「俺は全力でお前を楽しませる。だから、お前も楽しかったら楽しいと思ってほしい」


「…………ええい! 急に別人みたいになりおって! これやから童貞は!」


「否定はしない。そして俺はお前の言葉と思いやりに感動した。嬉しかった。力がみなぎってくる。だから、いつかきっと――――お前に俺の童貞を奪ってもらう」


「なぁッ――――!?」


「諦めろ。お前は童貞おれこじらせた」


「こじらせたって! 意外と正確に自己評価下せるやん!?」




「約束だ。この戦いが終わったら、俺とデートしてくれ」






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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつら(英雄二人)一方その頃で何を見せつけてんだ……
2022/03/20 11:53 サットゥー
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