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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
第四章 All for the one
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4-19 星空のリボン


 演算の魔王。

 魔獣イリルディッヒ。

 魔族カルン

 そして人間、私、シリック。


 この四名の旅路は具体的な目標、つまりロイルさんの足取りを掴んでしまったため、急速に進むことになる。


 魔槍ミトナスが覚醒するまで時間稼ぎをしつつ、どうにか演算の魔王を撃破したい私達だったけど、それは叶いそうにないらしい。何をしてもミトナスが起きないせいだ。


「ミトナスなんてもうどうでもいいから! 早くロイルを追うのよ!」

「は、はい」


 ドラガ船長が示したロイルさんの通過点。とある小さな漁港。演算の魔王があんまりにも急かすので、イリルディッヒは相当な速度でそこに到達してしまった。人間らしい方法でいけば、どれほどの日数がかかったことやら。


 ちなみに移動方法だが。私が演算の魔王を抱く形でイリルディッヒの背に乗って。カルンはなんとイリルディッヒのかぎ爪にロープを引っかけて、そこからぶら下がるという暴挙に出ていた。


「つ、辛くないんですか?」

「……以前は空を飛んでいましたからねぇ。いっそ懐かしい感覚ですし、なんなら少し楽しいからお気になさらず」


 カルンは平然と言っていたが、絶対空気抵抗とかで疲労がたまるはずだ。私は「お疲れ様です……」と彼を労う。


 今となっては、私にとってカルンは「魔族」ではなく「カルン」でしかなかった。そもそも奇妙なことに、カルンは全然魔族っぽくない。そりゃ見た目は完全に魔族だが、雰囲気というか、なんというか。感覚的に例えるならカルンは「近所の友達の親戚」ぐらいの認識に近かった。繋がりのある他人だ。



 さて。前情報通りの、小さな漁港。


 小さいということは、人目が集まりやすいということ。誰がどのように訪れたのか、住人なら把握しやすい状況。さらに、そこはミトナス=シリックが訪れた場所でもある。


 村の近くにイリルディッヒが降りて、私と演算の魔王は情報収集のために二人で村を目指す。


 そして漁港に立ち寄った瞬間に「あれ、あんたこの前も来なかったか?」と声を私は声をかけられてしまったのだった。


「ツレは違うようだが……何しに戻って来たんだ? こんなトコに」


「えー、いやー、そのー」


 ロイルの元へ急ぐのだ! としか宣言しなかった演算の魔王。よって私達は、どのように立ち振る舞うのか、いかにして情報を仕入れるのか、という話し合いを全くしていなかった。必然、口ごもってしまう。


(そもそも私、記憶が無いんだってば……)


 そんな風に狼狽えていると、演算の魔王がズイと一歩踏み出した。


「こんにちは。あの少しお尋ねしたいのですけれど、この女性によく似た人を見かけましたよね?」


「似たっていうか……え、まんまそのお嬢さんだろ」


「実はこの人、双子なんです。道を先行った姉を追いかけてるので、情報がほしいんです」


「ふ、双子? ……いや、髪型も装備も、その布に包まれた長物も、何もかも同じに見えるんだが……」


「双子です」


「お、おう」


 微笑みと共に可愛らしい“圧”をかけられた住人は頭をかいた。


「……まぁいいや」


 その台詞を聞いた瞬間に、演算の魔王の背筋がぴこんと伸びる。


「えへへへ……」


 何を思いだし笑いしとるのかこの魔王は。


「それで、聞きたい事ってのは?」


「もちろん『その人達がどこに行ったのか』です。三人で行動してませんでしたか?」


「あー。そうだな。確かそうだった。そこのお嬢さん……に良く似た人と、男と、子供の三人だ」


「どっ、どんな様子でした? その男の人」


「男の方かい? うーん。ちょっと怪我してたようだけど、元気だったよ。んでその娘さんが更に元気でなぁ。この村の飯を美味いうまいって言いながら、たらふく食っていったよ」


 住人は微笑みながらそう言った。


 しかし演算の魔王の微笑みは凍る。


「……怪我を、していた?」


 ゆらぁ、と私の方を凝視する演算の魔王。


(貴様、そんな重要な事実を隠してたのか?)


(だから、記憶が無いんですってば……)


(あ。そうか)


 アイコンタクトが秒で終了する。


「怪我って、どんな具合でした? 酷かったですか? 痛がってましたか? 困ってませんでしたか?」


「いやいや。そんな大したもんじゃなかったよ。別に直接見たわけじゃないけど、普通に動いてたし」


「ほっ……」


「それで行き先だっけか? えーとな……確か、ユシラ領・・・・を目指すとか何とか」


「あ」


 私は気がついた。


 立ち振る舞いとか、情報の集め方とか、それ以前の問題である。


 今更気がついた。


 だから脳内で思いっきり叫んだ。


(あああああああああああああ!! ダメだこれ! ダメなやつだ!!)


 なぜ思い至らなかった!!


 アホか! 私は阿呆か!!


(ドラガ船長は私の記憶が無い時に出会った人物! ならば、あの人が示したロイルさんの足取りとはつまり、ユシラ領! 私の実家! 魔王テレザムを倒した場所!)


 それ即ち『魔王討伐後に私がロイルさんと別れた場所』というに至る道筋!



 話しのどうどう巡りだ! すごろくで言う所の、スタート地点より前・・・・・・・・・に私達は戻ってしまっている!!



 なんで気がつかなかったかなぁ!?


 ドラガ船長に会って動揺したから?

 ミトナスが起きないまま、猛追が始まって焦っていたから?


 それにしたって、目先の問題ばかり考えていて本質的な事に思考が及んでいなかった! ダメだ、これは本当にダメなヤツだ!


 頭の中が「やばい」の言葉で一杯になる。


 思考速度が荒れ狂い、まず解答に至る。


『このままでは、演算の魔王が時系列のズレに気がついて、えーと、荒れ狂う』


 今はまだロイルさんを盲目的に追っていて、そのズレに気がついていないだけだ。まるでニンジンをブラ下げられた馬のように。そしてひた走り、至る場所は「スタート地点」と来たものだ。絶対怒る。ヤケクソになるかもしれない。想像出来ないような、酷いことが起きるかもしれない。


 妄想の極地で、演算の魔王は語る。



『もういいわ。ロイル以外の人間を全員殺していけば、いつか必ず巡り会えるでしょう』



(どどどどどどどうしよう!?)


 今、演算の魔王は「ユシラ領」というキーワードを得た。


 いくつかの船を乗り換える、なんてマネはしない。イリルディッヒで直行だ。


 そして知るというか、気がつくのだ。そこはまだスタート地点よりも全然前で、もっと言えばこの瞬間に「ロイルの足取りが途絶えた」ということに。


 気がつけば呼吸していなかった。


 私は急にむせて、演算の魔王の注目を集めてしまう。


「どうしたのシリック。いきなり死期を悟ったような顔して」


 例えが具体的すぎて、過呼吸になる。私は脆くも、その場で崩れ落ちてしまったのだった。




 目が覚めると、目の前にイリルディッヒがいた。


 魔獣だ。すごく大きい。すごく強い。でも……怖くないのは何でだろうなぁ。


《目覚めたか》


 すごく小声でそう問いかけられる。


《反応を示すな。もし意識が戻ったのなら、指先を少し動かせ》


 言われた通り、私は小指を折り曲げてみせた。


《よろしい。演算の魔王は近い場所にいるが、小声ならば届くまい。――――突然お前が倒れたと、ヤツはお前を運んできた。多少事情を聞いたが、お前がそうなった理由はなんだ》


「…………とんでもない事に気がつきました。私はバカです。ごめんなさい」


《要点だけ話せ》


「なんと言ったらいいのか……ええと……要するに、このままでは演算の魔王が怒り狂います」


《なっ――――結論がそれか。恐ろしいな》


 イリルディッヒは少しだけ首を動かした。違和感のないように。まるで背伸びの一環のように。


《何故そうなる?》


「いま我々が追っているロイルさんの足取りは、情報が古すぎる・・・・・・・のです。このままでは、我々が最後にいたるのは『シリックがロイルと別れた地点』。つまりスタート地点に戻ることになります」


《――――――――――――。》


「それに気がついたら、倒れました」


《我も倒れそうだ》


 感情が死んだ声でイリルディッヒはつぶやいた。


《……失望という感情は、どのような時に生まれると思う?》


「…………期待したことが成し得なかった時」


《然り。そして期待が大きければ大きいほど、失望は増大する。そしてある境界線を越えると絶望・・に変わるのだ》


 さて問おう。


 演算の魔王の期待は、どれほど大きい?


 転じてそれは、ロイルへの渇望がどれほど大きいのか、ということになる。


 そして私達は、その渇きの一端を知っている。


《……………………》

「……………………」


 長い。とても長い沈黙の後、イリルディッヒは決断を下した。


《やむを得ん……再び嘘をつくしかあるまいな》


「嘘、ですか」


《…………恐らくだが、演算の魔王はロイルを殺さない。そしてこれも推測だが、ロイルの言うことにはある程度従うはずだ》


「根拠は?」


《以前我はヤツに問うた。ロイルの周辺の環境も大切に出来るか、と。そしてヤツはそれを肯定した。ならば可能性はあるはずだ》


「………………」


《よって我は今から嘘をつく。すなわち真実を語るのだ。今からヤツにロイルの・・・・居場所を伝える・・・・・・・


「そ、それは……」


《わざわざ寝た子を起こす必要もあるまい》


「ですが、もしも演算の魔王がロイルさんを害したら……」


《犠牲になってもうに他あるまい》


 知己であるはずの、なんなら多少は好ましく思っていたはずの人間ロイルを魔獣はあっさりと見捨てた。


「なっ」


《ああ。フェトラスに……銀眼に始末してもらう、というのも良いだろう。何が起こるか分からんが、どうせこのままでは我々の目標は達成出来ない》


「ダメです……それは、ダメです……!」


《もう遅い。魔槍ミトナスが覚醒するのを待っていたが、手遅れだ》


 言葉の静止では魔獣は止まらない。


 かと言って、すがりついても無駄だ。


《ヤツがその事実に気がつく前に、畳みかける》


 待って、と。


 言えなかった。


 言っても無駄だからだ。きっとイリルディッヒは正しいからだ。悔しさのあまり、側に転がっていたミトナスを殴りつける。


(なんで……なんで起きないのよ、ミトナスのばか!)


 八つ当たりも虚しく、魔槍は何も答えない。


 そして、魔獣と魔王が言葉を交わす。


《演算の魔王》


「あら。シリックは目が覚めた? 突然死とかしてない?」


《ロイルの居場所が分かった》


「――――――――――――へぇ」


 突然、彼女のまとっていた精霊服がおぞましく稼働した。


 薄い黄色だった精霊服。ともすれば蝶のように可愛らしい雰囲気だったそれは、まるで毒草の色が混じったように濁る。


「その情報は正しい情報かしら?」


《概ね正しいはずだ。そこにいるか、あるいはヤツの一歩手前か》


「では行きましょう。すぐに」


 確認はたった一つしか行われなかった。


 そして、念押しが一つ。


「そこまで言うからには、楽しみにするわよ。もし違ってたら、ただじゃ済まさない」


 目標は達成された。


 即ち、演算の魔王から「ユシラ領」というキーワードが削除される。


「ちなみにどこなの?」


《それは我では上手く聞き出せない情報だ。シリックに聞くといい》


 突然のご指名。心臓が止まったかと思った。


 私はなんとか上半身を起こし、歯を震わせる。


『目覚めたのね?』

『どうして場所が分かったの?』

『知っていたとしたら、何故黙っていたの?』


 そんな質問はされなかった。


 目の前まで歩み寄ってきた演算の魔王が口にしたのは、ただ一言だけ。

 瞬きもせずに私の瞳をのぞき込んだ。




「ロイルはどこ?」




 私は――――恐怖に屈した。




 セストラーデから離れた場所にある、カフィオ村。


 そこでロイルさん達は暮らすと言っていた。


 何事もなければそこにいるはずだ。


 そんな情報を、私は自白した。



 死にたくなかったからじゃない。


 ただ、この演算の魔王の期待を裏切ることは、誰も幸せになれない道だ。


 もし私が勇敢であれば、戦って殺されただろう。

 もし私が正しさを追求すれば、その結果多くの人間が死んだだろう。


 私は恥知らずにも恐怖に屈した。


 だけどそれは悪い意味ではない。


 私は「誰も不幸にならない」という、極小の可能性を信じて、あえて恐怖に屈した。


 この恐怖と戦っても、何も得られないから。




 演算の魔王は何の追求もしなかった。


 ただ場所を特定し、地図でその場所を確認して、イリルディッヒに命じる。


「行くわよ」


 空腹の熊は罠にかかる。


 だが、この飢えた魔王は罠を踏み潰す勢いで進み始めたのだった。



 どうか、どうか、神様。お願いです。


 でもごめんなさい。何をお願いしたらいいのかは分かりません。


 ロイルさんとフェトラスさんの無事を? 演算の魔王が怒らないように? ミトナスが起きますように? どこか通りすがりの英雄が現れますように? 



 神様。


 どうにかしてください。




 そこから先は早かった。


 休憩なんてほとんどとらずに、イリルディッヒは空を飛ぶハメになった。


 目的地はカフィオ村。


 ロイルさんとフェトラスちゃんの安寧の地になるはずだった場所。



 だけどトラブルが一つ起きた。



《!?》


 空を飛んでいたイリルディッヒだったが、何かに驚いたように急に速度を落とした。


「なに。どうしたのイリルディッヒ」


《なん……ということだ…………》


「……?」


《…………すまない。目的地まで近いかもしれないが、少しだけ休憩を取らせてくれ》


「はぁ? 舐めてるの? あと少しなのに!」


《頼む、演算の魔王》


 答えを待たずしてイリルディッヒは降下を始めた。


「あっ、こら! 降りるな! 飛べ!」


 イリルディッヒは応答しない。やがて彼はカルンを先に地面に降ろした後、ゆっくりと大地に降り立った。


「なんなのよ! あと少しって言ってるじゃない! それぐらいも我慢出来ないの!?」


《………………もしかしたらロイルともうすぐ再会出来るわけだな》


「そうよ! なのに、なんで降りるのよ!」



《精霊服はともかく。お前自身が顔を洗ったり、髪を梳いたりして、身綺麗にした方がロイルにもっと良い印象を与えられるのではないだろうか?》


「イリルディッヒ――さてはあなた、天才ね!?」



 演算の魔王は飛ぶように水辺を探し始めた。本気で行水をするつもりなのだろう。


「ど、どうしたんですか急に」


《フェトラスの波動を感じた》


「えっ!?」


「……また誤認とかではないでしょうね?」


 怪訝な顔をしたカルンだったが、やがてイリルディッヒが少し震えている事に気がついた。


「イリルディッヒ、あなた……」


《酷い、あまりにも怖ろしい波動だ……銀眼とはここまで常軌を逸しているのか……? こんなものが存在して、この世界が保つわけがない……》


 きっと独り言、なのだろう。


 イリルディッヒはしばらく震えていたが、やがて力強く立ち上がった。


《食事を摂る。二人も英気を、死ぬ気を養え。ここから先は伝説と相まみえる覚悟をせよ》


「い、一体何が……?」


《フェトラスが銀眼を行使した。そして判ったことがある。……今のフェトラスならば、世界を滅ぼす事なぞ容易だろう》 


 その言葉の大きさの意味が理解出来ず、私は呆然とする。


 だけどカルンだけは軽いため息をつく程度の反応だった。


そうでしょうね・・・・・・・。ああ、どうやらこの先にフェトラス様がいることは間違いないようだ」


《はっきりと言っておく。場合によっては、演算の魔王を降ろした後に、我々はこの領域から退避する》


「逃げるんですか?」


《戦いにすらならん。無理だ。お前達にも理解出来るように例えるならば……この世界で最も大きな山よりも、更に巨大な獣を想像しろ》


 もちろん、そんな想像なんて出来るはずがなかった。



《様子見が出来れば幸いだ。ひとまず、演算の魔王とフェトラスを戦わせる》



「そんな! 急にどうしたっていうんですかイリルディッヒ!?」


《久方ぶりだよ。死にたくない・・・・・・と思ったのは》


 そう言うなり、イリルディッヒは野を駆けていった。それは逃走のソレではなく、捕食のために行動。栄養を摂り、意識を高め、強敵と戦うための準備だ。


 残された私とカルンは顔を見合わせる。


 久しぶりに二人きりになれた。以前ならば『フェトラスちゃんの可愛いところ百選』を語りあう所だが、そんな気分にはなれなかった。




 やがてピカピカに自身を磨き上げた演算の魔王が戻ってきた。


 改めて小綺麗な姿を見て、思う。この演算の魔王は美しい。


 最初の印象はどこかフェトラスちゃんに似ているようでもあったが、よく見れば少し身体が成長している。生き物としてはあり得ない速度で。


「あら? イリルディッヒはいないのね。まぁいいわ。彼の天才的な気遣いにワタシは大変感謝しているので、許しましょう」


 返事をする間もなく、演算の魔王が無邪気に近寄ってきた。


「ね、ね、どう? 変な所とかない? 汚れてる部分とか無いかな?」


「えっ……無いですよ。綺麗です」


「ほんと!?」


 ぱぁ、と笑顔が輝く。


「でもどうしよう。髪の毛とか大丈夫かな? ロイルはショートカットの子が好きなんだけど、オシャレのためにちょっと結んでみたりした方がいいと思う?」


「......もう少し長さが欲しい所ではありますが、ええ。リボンがあれば髪を結ぶことは出来そうですね」


「やって! やって! かわいくして!」


「……しかし、残念ながらリボンの持ち合わせはありませんので……」


 そう言うと演算の魔王は自分の精霊服の袖に手を当てた。


 そしてそれは、するりと剥がれ落ちる。剥がれ落ちた先からあっという間に再生して、精霊服は再び完全な形に戻った。


はい、リボン・・・・・・!」


 手渡されたそれは、精霊服。


 なんだそれは。そこまで便利なのか精霊服。


 受け取ってみると、確かな手触りがあった。


「はやく、はやく!」


 ものすごく嬉しそうだ。本当に、ロイルさんのことが好きで好きでたまらないという感じ。


(イリルディッヒが何を感じ取ったのかは分からないけど……この演算の魔王と、フェトラスちゃんを戦わせるってどういうことなの……?)


 分からない。



 分からないけれど、もしかしたら、私にも出来ることがあるのかもしれない。



「――――せっかくなら、このリボンの色を変えられますか? 出来れば赤か、黒がいいですね。あともう少し細く。そうしたらきっとその白髪に映えるものが出来るかもしれません」


「えっ、えっ、そんなアドバイスまでしてくれるの!? ありがとうシリック!!」


 演算の魔王が手に取ると、リボンは正しく機能を果たした。


 驚いたのはリボンの色だった。黒を基調としているが、少しだけ煌めいている。これは演算の魔王の瞳の色に近い。


「ああ、これはいいですね。私も欲しいくらいです」


 なんて感想を告げると、演算の魔王は再び袖に手を伸ばした。そして再び、それはするりと剥がれ落ちる。


「はい、お礼にあげる!」


「えッ!?」


「おそろいのリボン!」


 思わずカルンの方を見た。


(魔王が精霊服を一部といえ、譲渡してきたんですけど)

(人類史上初でしょうねぇ)



 無邪気に笑う演算の魔王が、この時だけは、とても無害な者に見えたのだった。





 やがてイリルディッヒと合流した我々は、最後の飛行に向かう。


 イリルディッヒはカフィオ村なぞ目もくれず、フェトラスの残滓を追いかけた。もはやロイルのことなぞ眼中になかった。


 カフィオ村を追い越し。けれどもその事実に誰も気がつかず。


 魔族が跳梁跋扈したことも、ロイルが重傷を負ったことも知らず。飛び続けた。




 そして、演算の魔王はイリルディッヒの背に立ち上がる。


「見つけた」


「ちょ、危ないですよ!」


「見つけた…………見つけたぁぁぁぁぁぁ!!」



 そうして、再会は果たされる。


 永遠を踏み抜いて。

 永劫を飛び越えて。

 永久を乗り越えて。


 ロイルと演算の魔王は、初めて出会ったのだった。





 

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