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我が愛しき娘、魔王  作者: 雪峰
第三章 聖義の死者
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3-25 知的生命体



 フェトラスが心配そうに俺を見上げている。


「お父さん、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。なんか一瞬頭痛がしたけど、もう何ともない」


 俺は娘を安心させるためにニコリと微笑んだ。


 実際平気だ。


 ただ、あの一瞬。俺は二つのことを知った。


 一つ。俺の中に残っていた、わずかなカウトリアとの繋がりが完全に断ち切れたということ。


 今まで感じられなかったが、カウトリアはずっと俺の近くにいたのだろう。思えば俺は魔王テレザムを討伐する際、ミトナスを通じてカウトリアと意識を通じ合わせることに成功している。それは言ってしまえば聖遺物の遠隔発動・・・・・・・・だ。無理すぎる。出来るかそんなこと。


 細すぎて、薄すぎて、儚すぎて自覚することは出来なかった。機能もしていなかった。でもさっきまで俺とカウトリアは確かに繋がっていたのだ。


――――だがその縁も完全に切れてしまったようだ。最早魔王テレザムの時のシチュエーションを再現しても、カウトリアとコンタクトを取ることは出来ないだろう。


 そして二つ目。


 カウトリアが、現世に帰って来た。


 これはもう直感に等しい。説明出来ない感覚だ。それでも何とか説明を試みるならば、犬の嗅覚に近い。旅人が村に帰ってきて、それを誰よりも早く察知する飼い犬のようだ。

 人間では感知できないレベルの気配。しかし感知出来なくとも、気配自体は生じている、的な。きっと俺が人間じゃなくて別のナニカだったら実感を得ていただろう。


 まぁ結局の所俺は人間なので「たぶん戻って来た気がする」という曖昧な印象に落ち着いてしまうのだが。


 いつかはこんな日が来るとも思っていたが、縁が切れた今となっては、俺はもうカウトリアのマスターではない。そういう意味では思い描いていた「いつか訪れる日」とは異なる。


 将来、カウトリアと巡り会う日が来たとしても、その時はきっと、新しいマスターが彼女にはいるだろう。


(しかし何が起きたんだ……まさか、あいつか? カウトリアを没収した魔女エイルリーアが何かしたのだろうか)


 分からん。


 判断材料が無い。


 ただやはりカウトリアの事は気にかかった。


 あの「刹那の地獄」で体感した、彼女の狂気を思い出す。……いや、想われるのは嬉しいんだが、重すぎる。応えきれない。だがそれはそれとして、あそこまで想ってくれた者への罪悪感のようなものが、俺を悩ませる。


 カウトリアが意思を発露するタイプの聖遺物だったら、あそこまで使い込まなかっただろうけどな。


(……新しいマスターと巡り会っても「ロイルが忘れられないから」とかいう理由で発動拒否とかしないだろうな…………)


 まぁあいつの発動条件は「気持ちの良い休日を過ごすために、平日の仕事を頑張る」みたいな考え方を持つ、というかなり緩い条件なので、発動拒否とまではいかないだろう。


 願わくば、新しいマスターの元でも元気でいてくれますように。



 そんな風に、さっきの「痛み」に関するアレコレとした考察にケリをつけて、俺は周囲を見渡した。


 ちょうどドグマイアが鍋を食べ終わったらしい。


 彼は「ふー」と気だるげなため息をついて「ごちそうさん」と器を置いた。


「…………」

「――――。」

『…………』


 さて、これからどうする? という空気が流れる。


 そして当然のように視線は俺に集まった。まぁそうなるわな、と思いつつ口を開いた。


「あー…………とりあえず、話しをしようぜ」


「――――話し、とは?」


「今後についてだよ。少なくともこのまま『はい、解散!』って言って納得出来るのか?」


 俺がパン! と手を叩くジェスチャーを見せると、ティリファが苦笑いを浮かべた。


「出来ないねぇ。でも正直、何からどこまで話したもんか、という途方も無い感じはするんだけど」


「それも含めて話さなきゃ、どうにもならんだろ。俺達は話せば分かる知的生命体だ。ならその呼び名に見合った知的な行動を取ろうぜ?」


「……そだね。んじゃとりあえず、焚き火でもしようか。せっかくお鍋で暖まった身体だ。冷ますのももったいない」


 ティリファはちらりと、先ほど王国騎士達が作成した焚き火の残骸を見た。ティリファ達に居場所を示すために作ったやつだ。


「あれは狼煙用だから、煙が大変なんだよね。悪いけど新しいの作ってくれる? 今度はちゃんとした焚き火を」


「了解しました」


 鍋を作った火は残っているが、この人数が温まるには小さすぎる。


 王国騎士は馬車の方へ走っていき、新たな焚き火セットを運んできた。そして手早く土台を作り、薪を並べていく。


 それを見たフェトラスが、騎士に声を掛けた。


「あ、わたし火を付けられるよ? 手伝おうか?」


「……よろしいのでしょうか?」


「うん。それだけ大がかりだと火を付けるの大変でしょ? わたし薪に火を付けるのは得意なんだー。たぶん一番練習した魔法だよ」


 騎士はちらりとティリファを見た。その視線は『えっと、いいんですかね。魔王が火を使うって言ってますけど本当に大丈夫なんですかね。死にませんかね。いやたぶん殺されはしないんでしょうが、大丈夫ですかね』という視線だった。


「せっかくだからお願いしたら?」


「……では、よろしくお願いします」


「うん。じゃあ魔法使うけどビックリしないでね? 【八花】」


 並べられた薪に、等間隔で八つの火がともる。


 それは小枝を燃やしながら徐々に大きくなっていき、ゆっくりと薪を燃やしていった。


「へぇ。さっきはあんなに大それた魔法を使っていたのに、こんな繊細な魔法も使えるんだ。でも実際、コレなんのための魔法?」


「え? 焚き火をする時に使う魔法だよ?」


「――――ほ、本当にそれだけのための魔法なのか?」


「うん。いきなり大きな火を使うと、お父さんに怒られるから」


「……参考までに聞きたいんだけど、どんな風に怒られるの?」


「コラ! 危ないだろ! って」


「あははは! すごい普通!」


 ティリファはケタケタと笑った。


「いや、すげーなこの親子」


 その感想に何やら皮肉めいたものを感じたので、俺は少し不安になって声をかけた。


「やっぱ変かな。実は俺、親がいないからどうやって子供に教育したらいいのか、とかその辺が全然分からないんだよ」


「大丈夫だいじょうぶ。フェトラスは良い子だよ」


「俺が育てたっていうより、勝手にあいつが良い子になったって感じなんだが」


「だったらなおさら、ロイルさんは良いパパなんだと思うよ」


「……照れるな。でもここ最近で一番嬉しい褒め言葉だ。ありがとう」


 焚き火が十分に燃え上がって、周囲が照らされる。それと同時に、上空に浮かんでいた「宙宴」という魔法の光源が消え去る。


「あれ、消えた」


「焚き火あるからいらないかな、って。わたし焚き火の明かりが好きなんだー」


 そう言いながらフェトラスは、いそいそと俺がかいたあぐらの上に座った。


「よいしょっと」


 俺はそれに合わせ、彼女が座りやすいように、少しだけ身体を後ろにそらせる。


 すると、何やら視線が集まったことに気がついた。


「…………」

「――――。」

『…………』


「な、なんだよ」


「――――いや、本当に仲が良いのだな、と」


「は? …………あ。コホン。フェトラス? いったん降りて、きちんと俺の横に座ろうな?」


「ええっ!? なんで? ここがわたしの定位置だよ!」


 彼女は両手を後ろに伸ばし、まるで腹巻きのように俺にしがみついた。絶対に離れねぇ、という気迫を感じる。


「ベストポジション!」

「いや、おま」

「まぁ今更気にしないよ。どーぞどーぞ」


 いや、俺は少し恥ずかしいんだが。


 なんてワイワイしていたら、少し離れた所にいたドグマイアはやおら立ち上がり、そのまま静かに焚き火のそばに座った。


 憔悴しょうすいしているというか、呆然としているというか。俺はそんな彼に優しく労いの言葉を投げかけた。


「……お疲れ!」


「いや、お疲れ! じゃねーよ。仕事あがりの職人か。まったく」


 ドグマイアは両肩をすくめて「やれやれ」と呟いた。そして少し真面目な顔つきになる。


「あー。それで、フェトラス……悪いんだが、そろそろパラフィックをあの冷凍封印から解放してやってほしいんだが」


「なんで?」


「寒そうだからな」


「確かに!」


 フェトラスはパチンと指をならして、それと同時に消失剣パラフィックを包んでいた氷が消失した。


「なんともまぁ、デタラメな……」


 カチャン、と地面に転がった消失剣パラフィックを、小走りで王国騎士の一名が回収する。そしてドグマイアにそれを差し出したのだが、彼はそれを受け取らなかった。


「いい。お前が持っててくれ。寒かったろうから、温めてやってくれよ」


「……よろしいのですか?」


「構わない。話し合い・・・・には不要なものだからな」


 そうドグマイアが答えた瞬間、隣りにいたシリックから緊張感が緩和したのを感じ取った。「いざとなったら即座に動く」と警戒していてくれたのだろう。


 今は人目があるから言わないけど、後でこの感謝の気持ちを伝えよう。


 ありがとうシリック。俺はお前のそういう気持ちが、本当に嬉しい。


「さて……ロイルさん。あんたさっき良いことを言っていたな?」


「む?」


「話せば分かる、知的生命体……か。なるほどな。確かにその通りだよ。ぶっちゃけ俺も混乱してる。だから……腹を割って話そうぜ」


「いいね。望むところさ」


 俺が姿勢を正す。それに合わせて、フェトラスも姿勢を正した。


「さぁばっちこい」

「こーい!」


「……ではまず、最初に聞いておかなければならないことを聞く。これは今後の会話全ての前提となり得る事だ」


 ドグマイアは唇をキッと結んだ後、重々しくこう尋ねた。


「銀眼の魔王フェトラス。お前は人類を滅ぼすつもりはあるか?」


「ないよ?」


 彼女は即答し、首をかしげた。その短い返答には「どうしてそんな事を聞くのかと」不思議がるような声色を含んでいた。


「何故だ?」



「なぜって……ドグマイアさんは、意味も無く隣りの家を燃やしたりするの?」



 フェトラスのスマートな返事に対し、ドグマイアは肩を落とした。


「お前本当に殺戮の精霊かよ……」


「そう、それ。それなんだよ。わたしは魔王だけど、殺戮の精霊っていう自覚はあんまり無いんだよね。あーでも銀眼の時はちょっと違うかな? 選択肢の一つに、そういう感じのが浮かぶ時もあった気がする。――――しないけどね?」


 そう答えた直後、ふわふわと揺れていたフェトラスの身体がピタリと静止した。


「わたしも逆に聞きたいことがあるんだけど。――――まだお父さんを殺すつもり?」


 きっと彼女は、目を閉じたまま・・・・・・・そう尋ねたのだろう。それくらい、彼女の言葉は静かで重たかった。それを向けられたドグマイアも緊張感を隠そうともせず答えた。


「腹を割って話すと決めた。俺は正直に答える……だが、その、俺の返答を聞いても、俺を殺さないでほしい」


「そう――――わかった」


「俺は、フェトラスもロイルさんも殺したくはないが……殺すべきだと考えている」


「…………そっか」


「…………」

「……ん。正直に答えてくれてありがとう」


 そうフェトラスが答えると、ドグマイアが止めていた息を吐き出す音が聞こえた。


 きっと彼女の目は黒いままだろう。


「俺はもう、お前を銀眼の魔王だとは思わない。だが当然、人間だとも思えない。だからフェトラスはフェトラスなのだと認識して話しをさせてもらう」


「うん。そっちの方がいい。というかまさしくそれが正解だと思うよ」


「そうかい。……例えるなら、フェトラスは夜空に浮かぶ星だ。隕石として墜ちてくるなら、全てを殺すだろう。だけどそれがどのくらい離れているのかは分からん。そもそも墜ちてくる気配は感じない。――――ただまぁ、もし敵対すれば凄まじい勢いでこっちに突っ込んでくるんだろうな」


「星、かぁ」


 なんとなく、みんなで夜空を見上げる。


 都合よく流れ星が見えたりはしなかったが、ドグマイアの言っていることは何となく実感出来た。隕石による被害を一度だけ見たことがあるが、ちょっとした岩ぐらいのサイズでしかなかった。だがたったそれだけの質量がもたらした被害は甚大だ。


 夜空に浮かぶ星が一つでも墜ちてくれば、まさに全てがフッ飛んでしまうんだろう。


 それはさておき、俺にも聞きたいことがある。


「じゃあ次は俺の質問だ。――――人間と魔王が共存することは可能か?」


「無理に決まってんじゃん」

「――――発禁物の絵本に登場しそうだ」

「………………」


 即答が二つ。そしてややあって、ドグマイアが呟いた。


「……ご存じの通り、前例は無いな」


 その返答に俺は苦笑いを浮かべた。


「俺はかつて、魔獣に同じ質問をしたことがある。そいつが言うには、失敗談ならある、という事だったが……」


 そして言いたくなさそうにドグマイアは小さな声で言った。


「成功という前例は無い。だが失敗談なら……わずかにある。何なら現在進行形で共存をはかる者も、いるらしい」


「マジか」


「それ本当? アタシ知らないんだけど」


「超がつくほどの機密事項だ。俺だって詳細は知らん。ただ、絶対にその場所・・・・には近づくなとも厳命されているな」


「場所だけでも教えてくれ」


「聞くな。さっきも言った通り、詳細は知らないんだ。それに――恐らくだが、既に破綻している」


 ドグマイアは手をふりながら「はぁ」とため息をついた。


「腹を割って話す、と言った俺の本気を知ってもらうためにここまで喋ったが、これ以上は頭をカチ割られても喋らない」


 それは完全な拒絶だった。


 しかし興味は尽きない。出来たら会って話してみたい。


 どーすっかなー。


 美味しい物でも・・・・・・・食べさせたら・・・・・・ポロっと喋って・・・・・・・くれないかな・・・・・・


 まーそりゃねーか。フェトラスじゃあるまいし。


 ただ少しだけ嬉しい。失敗例だらけでも、絶対に無理だと断じられても、挑んだ者は確かにいるのだ。そこに価値を見出した者たちが。



 俺はそんな感慨に浸っていたが、ロマンは取り敢えず後回しだ。頭を現実的な思考に戻す。


「そういえば『話せない』って事に繋がるんだが、俺とフェトラスのことは内密にしておいてほしい」


「というと?」


「旅がし辛くなる。それにこんな話が広まっちまったら、俺達と似たような親子にも迷惑がかかるだろ?」


 俺がそう答えると、三人の英雄はそれぞれ違う笑みを浮かべた。


「こんなこと言っても誰も信じないよ」

「――――報告書を提出すれば、医者が飛んでくるだろうな」

「見返り次第だな」


 ドグマイアの返答だけ毛色が違った。


「見返り、ときたか」


「ああ。俺は保証がほしい。フェトラスが今後も絶対に人間に危害を加えない、という保証だ」


 それは当然の要求だった。


 相手は英雄。魔王を屠る者。人間を護る者。


「――――どう思う、フェトラス?」

「うーん」


 彼女はしばらく黙って、やがて背筋を伸ばして口を開いた。


「絶対、っていうのは無理だと思う」


「――――理由を尋ねても?」


「例えばお父さんが誰かに傷つけられたら、わたしはその人を殺すよ。人間でも魔族でもモンスターでも関係無い。お父さんを傷つけるのなら、神様だって殺す」


 フェトラスはひょいと上を向いて、俺と視線を合わせた。


「こういう考え方は、ダメかな?」


 俺は返事をせず、静かに彼女を抱きしめた。


「……まぁ、ウチの娘はこんな感じだ。積極的に誰かを傷つけたりしない」


 泣きそうになった俺は、震える声を隠しながらそう言った。それに対してティリファがうんうんと頷く。


「そもそも悪意を覚えること自体が少なそうだよね。いやぁ、実に善良だ。あたしはいいと思うよ」


「ティリファ。無責任なことを口にするな」


 慌てたように制したドグマイアだったが、ティリファは淡々と答える。


「あたしだけが責任を負うなんて無理でしょ。簡単な話しだよ。誰も彼女達を傷つけなければいい。人間がフェトラスのように善良であればいい。だって彼女は無意味に人の家を燃やしたりしないんだから」


 先ほどのフェトラスの口ぶりを引用し、ティリファはニッコリと笑った。


「どうあれ、あたし達がフェトラスに何かを強要するなんて不可能だよ。あたし達は彼女の善良さのおかげで、見逃してもらえてるに過ぎないんだから」


「――――聖遺物を有した三人の英雄に戦闘を仕掛けられた魔王。これをスケールダウンさせると、強盗に命を狙われた騎士、ということになる」


 ザークレーは居心地悪そうに座っている王国騎士達に声をかけた。


「――――お前達は、強盗に『一緒に食事をしよう』と言えるか?」


 ブンブンブンと王国騎士達は首を横に振った。


「無理ですよザークレー様」

「出来ません……」

「言った所で、殺されるだけです」


「――――それを可能にするのは、圧倒的な実力差だ。そしてフェトラスは銀眼それを有している。なぁドグマイア。強大な力を持った者は傲慢に振る舞う権利がある。その権利を行使するかしないかは別だがな。……そしてフェトラスは、傲慢ではないように思えるのだが」


 話しをふられたドグマイアは軽く頷いた。


「今はな。きっと今のフェトラスなら、そこら辺の熊よりも無害だろうさ。でも未来は? さっきフェトラス自身が口にしていたが、もしもロイルさんが、その、害されてしまったら?」


 全員の視線が俺とフェトラスに集まる。


「フェトラスは、孵ってはならない破滅の卵だ」


 そのドグマイアの言葉に、フェトラスがピクンと反応する。


「今はただ、温かくてツルツルした、ただの卵。でも孵ってしまったら世界が滅ぶ……俺の不安はそういう種類のものだ」


 フェトラスの呼吸が浅くなったことが分かった。


「……死の鳥ディリア


 彼女が口にしたのは、死の鳥の名前。


 かつてカルンが見繕った卵。彼女が孵して、俺が殺した鳥の名前。

 俺と彼女が仲違いをした、雨の日。


 共通のトラウマが、静かに蘇る。


「ヒナ鳥と、それを殺したお父さん。わたしと、それを殺そうとするドグマイアさん」


「……確かに似てるな。俺は死の鳥を殺してフェトラスを護ろうとした。そしてドグマイアは……お前を殺して、世界を護ろうとしている」


「なるほど。少しだけ、ドグマイアさんの気持ちが分かったような気がする」


 すっとフェトラスは立ち上がって振り返り、黒い瞳で俺をのぞき込んだ。



「ねぇお父さん。やっぱり止めておく?・・・・・・・・・・

「馬鹿言うなこのバカ」


 即答し、彼女を胸元に引き寄せた。


「俺はお前のお父さんであることを諦めないし、やめるつもりもない」


 力強くそう宣言した。


 何が破滅の卵だクソッタレ。うちの娘はそんなんじゃねぇ。


 しっかりと抱きしめると、彼女は安心したのか少しリラックスしたようだった。けれども、パッと身体を離されてしまう。


「……どうして? わたし、魔王だよ?」


「今更そんなことが不安か? というかマジで今更だな」


「だって、わたし魔王だもん……」



 ……ん?


「わたし世界を滅ぼしちゃうかもしれないんだよ?」


 ……このヤロウ。



「それなのに、どうしてわたしのお父さんでいてくれるの?」


「おいフェトラス。半笑いになってるぞ」

「はむっ」


 フェトラスは緩まった口元を隠した。


 だが目がニコニコと笑ってる。全然隠しきれていない。


「答えろフェトラス。俺に何を言わせたい?・・・・・・・・


「え~やだ~わかんない~」


「このヤロウ。人前で何を言わせようとしてんだコンチクショウめ」


 逃げようとするフェトラスをひっ捕まえて、脇腹をくすぐる。


「んな恥ずかしいこと・・・・・・・人前で言えるか!」


「あはっ、あははは! やめて! お父さんごめん! ごめんってば!」


 ケラケラと笑うフェトラスを更に引き寄せて、小声でささやいた。


「愛してるからだよ」

「…………ん!」


 ギュッと抱きしめられた。


 そして、これ以上無いくらいの、極上の笑顔を浮かべたフェトラスは言った。


「わたしもお父さんのこと愛してるよ」


「……でかい声で言うな。恥ずかしい」


「ほんとのコトだもん!」



 皆の視線が優しい。それは本当に気恥ずかしい事だったけれど、自己紹介はいまので完全に終わったらしい。


 話せば分かってもらえる。


 フェトラスは誰かを傷つけたりはしない。

 

 そして、きっとこの英雄達は俺達のことをちゃんと内緒にしてくれると思う。


 人の口に戸は立てられないが、人の気持ちに寄り添うことは出来る。


 そして、今の所はそう信じるしかない。


 口封じ? バカ言うんじゃありませんよ。




 俺は誰も殺したく・・・・・・・・なんてない・・・・・





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話しをふられたザークレーは軽く頷いた。 そのザークレーの言葉に、フェトラスがピクンと反応する。 話の流れ的にザークレーじゃなくドグマイアかと [一言] あれ、ロイルは治ったのかな?…
2022/03/16 20:01 サットゥー
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