3-20 ――――開始、直前。
俺は黙って腰の剣を抜いた。
騎士剣。正直、型落ちも甚だしい。
現行の騎士剣を観察するに、性能は圧倒的に向こうが上だろう。
切れ味、バランス、耐久力を保ったままの軽量化。
強くて硬くて扱いやすいと、盛りだくさんだ。よくばりめ。
対してこちらが勝っているのは重さぐらい。
だがそれでいい。魔王相手ならいざ知らず、人間を相手取るのならこちらの方が殺傷力は上だ。この重みは、鎧ごとたたき切ることを可能にする。
しかし騎士剣と旧騎士剣の性能差はさておき、この人数差はいかんともしがたい。
王国騎士が三人。そして、英雄が三人。
完全に魔王を、この世における最強を相手取る布陣と言えるだろう。
(ティリファのグランバイドの能力で、ここまで飛んできたってか……無茶苦茶だな)
人間を抱えての高速移動。直線距離を駆け抜ける、どころではない。狙いをつけた場所に飛翔する聖遺物だ。
パラフィックが『消失剣』ならば、
グランバイドは『襲撃剣』だ。
俺は軽口を叩いた。
「殺しに来た、とはまた。物騒だな」
「まぁ色々あったが、結局は初志貫徹だな」
「どうやら今度は冗談じゃなさそうだが……」
なにせ全員が獲物を抜いている。
俺は喋りながら敵の様子をうかがい続けた。
「いい加減聞かせろよ。どうして俺を狙う?」
「心当たりが無い……とは言わせないぞ?」
「ねぇな」
「……うーん。そこまでスッパリ断言されると、いっそ清々しいな」
ドグマイアは頭をかきながら、しかし相変わらず表情だけは真面目だった。そんな今までとは少し様子が違う英雄サマに俺は再度問いかけた。
「頼むから教えてくれよ。俺が何か悪いことをしたか? 場合によっちゃ謝るし、何か改めなきゃいけない所があれば直すぞ?」
「自覚が無いことが一番恐ろしいな……」
消失剣パラフィックは既に鞘から解き放たれている。ドグマイアはその切っ先を俺に向けた。
「ロイルさんは将来、この世界に大いなる不利益をもたらす。だから俺の暗殺対象だ」
「おおいなるふりえき」
何を言ってるのか分からなかったので、オウム返しに俺は言葉を繰り返した。
「なんだそりゃ。誰にとっての不利益なんだ?」
「世界だ。まぁこれ以上の問答は不要。――――構えろ」
放たれた命令に反応したのは三人の王国騎士。彼らは抜いていた剣を垂直に構え、美しい挙動で剣を両手で持ち直した。
深呼吸一つ。
理由はどうあれ、目の前にいるのは敵らしい。
なら殺そう。
殺す。
殺してやる。
脳が煮えて、血液の温度が下がった。視界が広くなり、得られる情報量が跳ね上がる。
星の明るさ。踏みしめる地面のコンディション。王国騎士三人に留まらず、英雄までも含めた六名がどの順番で動くのか、その全可能性の三手先まで容易に読めるような。
それはカウトリアを使っていた時とは違う、俺という一人の人間が発揮出来る性能の極地のようだった。
(我ながらとんでもない集中力だな)
と不思議な気持ちになった。
そしてまず動いたのは、全可能性の中でも意外な人物だった。
「はいはーい。ストップストップ。一旦止めて」
それはティリファだった。
グランバイドを肩に背負い、臨戦状況とは思えない歩幅で俺達の中央に立ち塞がる。
そして彼女は俺達に背を向け、グランバイドの切っ先をドグマイアに向けた。
「なんだティリファ。まさかの謀反か」
「だからさっきも言った通り、あたしはまだ納得してないんだってば」
剣こそ構えたが戦うつもりはないらしい。彼女の口調は多少の緊張感こそ含んでいたが、声色はまだ穏やかだった。
「えっと、ごめんねロイルさん。ビックリしたよね。実はあたしもビックリしてる所なんだ」
「……ビックリっていうか、なんていうか。呆れてるって表現が近いかな。マジでお前等なんのつもりなんだ?」
「そこ。そこなんだよ。あたしも意味が分からないでいる。ねぇドグマイア。ちゃんと説明してよ。出発前にブリーフィングは受けたけど、未だに理解しかねる」
ティリファは俺達に背を向けたまま。
「フェトラスが魔王で、ロイルさんが魔王崇拝者って言われても、全く意味が分からないんだよね」
と、凄まじくとんでもない事を口にした。
「魔王、崇拝者? え、俺が?」
魔王崇拝者。それは人間でありながら魔王を崇めるという発狂の一種。ゴキブリを愛おしく思うよりもタチが悪い。誰にも理解されず、集団行動を不可能にする、精神疾患。
刃物を握り暴れる者から、薄暗い部屋で終末を待つ者まで様々だが、どうしようもなく救いがたい者達の総称でもある。
ドグマイアはため息をついた。
「あのな、ティリファ。この作戦の趣旨をちゃんと理解してるか?」
「ドグマイアこそ。あたしの性格をちゃんと理解してる?」
まるで世間話でもしているかのようなトーンだが、二人が黙ると静寂で耳が痛くなるような錯覚を覚えた。
「っていうか、ここに来る前にも言ったじゃん。ドグマイアの言ってることが意味不明すぎるから、自分で見極めるって。あたしは誰かの言いなりで戦ったりしない。戦う時は、自分の意思で戦う」
そして視界の端。立ち尽くしていたザークレーが歩みを進め、ティリファの横に並び立った。
「――――私も、だ。ドグマイア。私も未だに納得していない」
「お前もかよザークレー。マジかよ。意外と俺って信頼ねぇんだな」
「――――あんな走り書きのようなメモで信じろと言われても、やはり無理がある」
「俺はロイルさんを監視してなきゃいけなかったから、走り書きになるのも仕方ないだろうが……隙を見てメモ書くのも結構苦労したんだぞ。ついでに言うならメモだけじゃなくて口で説明もしたろ? 短い時間だったけどさ」
そうか、出発前に何かヒソヒソと話していたのはこの件についてだったのか。
ドグマイアはやれやれと頭をふって、視線を俺に定めた。
「……今の所、ロイルさんとの会話は成立してる、か。仕方ない。本当は問答無用で行きたかったんだが、メンバーが不和を起こしてたんじゃ話しにならない。よーし、よく聞けバカヤロウ共。敵の目の前でちゃんと作戦を説明してやる。ただし作戦成功の難易度が跳ね上がる危険性がある、ってことは明言しとくぞ」
視線は真っ直ぐでブレない。クソッタレ。今なら背後からの一撃でティリファかザークレーのどっちかを殺せると思ったんだが、それを許さない眼圧がヤツにはある。この場で俺がまっ先に殺さなくちゃいけないのはドグマイアらしい。
「ティリファにはロイルさん達が出発した後に説明したからアレなんだが……まぁいい。もう一回だ。最初からやろう」
(距離がありすぎる。剣を投げても殺せないだろう。どのタイミングで踏み込むべきか。どうやって殺してやろうか)
「まずはそこのフェトラスを見ろ。まだ小柄だな。フードをかぶっているな。表情は見えない。言動はどうだ? お前達は、アレが一度でも魔王に見えたか?」
「――――見えぬ。が、ネイトアラスは起動したな」
「見えないよ。でも……疑った瞬間は、確かにある」
英雄二人は素直に答えた。
「ネイトアラスに関しては説明するまでもないだろう。その聖遺物はきちんと機能したってだけだ。じゃあティリファ。お前は? お前はどのタイミングでフェトラスを疑った」
「……まぁ色々あってさ、グランバイドで吹き飛ばした際に二人を介抱した時だよ。フェトラスの頭には双角らしきものがあった」
「いいかティリファ。人間に角は生えない。常識だぞ」
「でもやっぱり魔王には見えない」
「まぁ正直に言うと、俺も見えない」
流石に俺は口を挟んだ。
「何がしたいんだよ貴様ら。ケンカ売ってんなら俺が買ってやるから、小賢しいマネすんな。イライラする。死にたいヤツは普通に来いよ」
「ロイルさん。あんた魔王フェトラスに何をした?」
「……あ?」
「尋常じゃねぇんだよ。魔王が魔王に見えなくなる魔法? そんなもんあってたまるか。一体何をどうしたらそんな極悪な存在を作れるんだよ。それとも逆か? あんたが、何かされてる側なのか?」
分かりきっていたことだが、言い逃れは出来ないらしい。
回りくどい表現は無しだ――――フェトラスが魔王だとバレている。
(皆殺しにするしかないな)
死体は喋らない。今後も俺とフェトラスが楽しく愉快に美味しい旅をするためには、こいつらを全員殺さなくちゃいけない。
まずはティリファが妥当だろう。正確な能力は不明だが、単純な攻撃力はティリファが一番高い。ザークレーは別に無視していいだろう。連鎖封印だかなんだか知らないが、こんな状況で眠くなるわけない。ドグマイアは……まぁ、所詮は正攻法で戦えない暗殺者もどきだ。勝利のイメージは難しいが、殺すだけならなんとかなる。
「まぁ、魔王フェトラスについては一旦置いておく。たぶんまだ無害だ」
「――――その根拠は?」
「有害なら、とっくにセストラーデが地図から消えてる」
「――――そうかもな」
「しかし問題なのがロイルさんだ。魔王を、殺戮の精霊を保護するサイコ野郎」
「……それが、俺を殺す理由か?」
「当たり前だろ。十分過ぎるだろ」
まぁ――――そりゃそうなんだが。
「ザークレーとティリファが丸腰で誰かと相対する。しかも前情報じゃネイトアラスが起動した、と。完全に魔王案件じゃねーか。だから俺はパラフィックを使って潜入した。そしてあの部屋に入った瞬間分かったよ、魔王がいる、と」
「…………。」
「まさしく見れば分かる、だ。俺が今まで何体の魔王を殺してきたと思ってる」
「…………。」
「だが、同時に不思議だった。なんだって魔王がこんなとこで飯食ってんだ? ってね。そして観察を続けるウチにどんどんフェトラスが魔王に見えなくなっていった」
「…………。」
「無邪気に飯食って、楽しそうにしてたよな。はっきり言って恐怖だったぜ。思えば最初から俺は今回のことを魔王案件だと思って行動したことが幸いしたな。魔王がいる、と思っていたからこそ見破れたようなものだ」
「…………。」
「魔王に見えない魔王。そして自信満々に、魔王の父を名乗る狂人がいた。どうだい? 俺の行動を少しは理解してもらえたか?」
「…………。」
「ロイルさんが魔王フェトラスに操られている可能性も捨てきれなかったんで、揺さぶるために色々やってみたもんさ。暗殺予告、敵対宣言、聖遺物の力まで見せつけた。そして俺は結論を下した。英雄に殺意を向けられても平然としていて、そんな恐怖を恐怖だと認識出来ず、まるで我が子を愛でるように魔王を保護するあんたは、俺が今まで見てきた中でも最悪の魔王崇拝者だ」
ドグマイアは「逸脱者め」と小さく舌打ちをした。
「聖遺物を欲しがってる、という点で実はロイルさんも魔王フェトラスを狩ろうとしているのかとも思った。何らかの理由で、魔槍ミトナスでは力不足なのだと。でもそうじゃなかった。あんたは魔王フェトラスを保護するために……そう、まさしく、人間と戦うために聖遺物を求めた。そうだな?」
「…………。」
「さっきから俺しか喋ってねぇな。まぁいい。続けるぞ。俺が一番ビビったのは、ロイルさん。あんたはこう言ったんだ。『俺が魔王に見えるのか?』ってね。ありゃ人生で一番ビビったよ。凄すぎるぜその感性」
「……何が不思議なんだ?」
「人間が殺戮の精霊に見えるわけねーだろうが。どんな思考回路してたら、そんな結論に至れる? 人間としてブッ壊れすぎだろ」
どんな思考。どんな思考って、そりゃ。
(殺す)
……そうかもな。異常ではあるな。
「だから俺は、あんたのことを最悪の魔王崇拝者ではあるが、同時に壊れてしまった人間なんだと思った。いつか勝手に自滅すると、そう踏んだ」
「…………。」
「どんな理由で魔王と一緒に行動しているのかは知らないが、下手に突っつくよりも、どこかで野垂れ死ぬのを待つ方が安全だと考えた。だって放っておけば絶対にくたばるだろうからな。そんな感性で生き残れるわけがない。そしてロイルさんが死ねば、魔王フェトラスに関しての認識問題も、自動的に解決される可能性が高かった」
「…………。」
「これは推測だが、魔王としての認識がズレていくのは、ロイルさんが父親を演じて、フェトラスが娘を演じているからだ。それが真に迫っているから、騙される。狂ってるどころの騒ぎじゃない。そんなことが出来る人間は、ロイルさんのように振る舞えるはずがない。発狂度合いを考えるに、言語を操ることすら不可能なはずだ」
しかし、と彼は続けた。
「神速演算のカウトリアの使い手となると、話しは変わる」
「…………。」
「永遠の一秒。その永遠の中で、お前は何を見た? 何を考えた?」
「…………。」
「積み木を崩すのとはワケが違う。あんたの壊れ方はそうじゃない。あんたは、積み木をバラバラに切り刻んで、その木クズで、本来積み木では作れないはずのものを作ってしまった」
「…………。」
「別の例え方だと、普通の人間はステーキを見て『美味そうだ』と感じるところを、あんたはカウトリアを使って『そんなことよりこの熱そうな鉄板は武器になる』って所にまで思考を及ばせてしまったんだ」
「…………。」
「魔王崇拝者にして、聖遺物の使い手だった者。そして傍らに魔王をおくもの。聖遺物である魔槍ミトナスと行動を共にするもの。吐き気がするほどの異常事態だ。だから俺は、あんたを殺すと改めて誓った」
「…………。」
「魔王フェトラスはまだ幼い。雑魚もいいとこだろう。少なくとも俺の敵じゃない。ただの駆逐対処だ。しかし『魔王に見えない魔王』という特性はあまりにも恐ろしい。その調子で王国本土にでも侵入されて、殺戮されてみろ。人類はそこで詰む」
「…………。」
「ああ、王国への侵入……思えば、別の聖遺物云々もそれが狙いなのかもな」
「…………。」
「シリックに関してはよく分からん。騙されてるのか? 操られてるのか? 今のうちに聞いておきたい。お前は英雄か? それとも魔王崇拝者か?」
「…………。」
「ふん。否定も肯定もされないあたり、お前も逸脱しちまってるらしいな。だがその表情を見る限り、ロイルさんに比べるとまだギリギリセーフっぽいが」
「…………。」
「とまぁ、そういうわけだ。街中で暴れられちゃ困るんで、とっとと追い出して、こんな郊外にてお前達の処刑をすることにした。作戦内容の説明は以上だ。質問がある馬鹿はいるか?」
「――――改め問おう。ロイル。フェトラスは……本当に魔王なのか?」
(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)
「――――ロイル?」
俺は素直な感想を口にした。
「貴様等の遺言は、長すぎる」
ドグマイアの説明を受けて、いつの間にかティリファとザークレーはこちらに向き直っていた。警戒心が見て取れる。だが警戒しても無意味だ。俺はこいつらを皆殺しにすると誓ったのだから。
頭の中が殺意で染まっている。
我ながらとんでもない集中力だ、と先ほどは思ったが何てことは無い。ここで集中しなくていつ集中するのだ、という話しだ。ここで殺さなくていつ殺すのだと。
異常性? 魔王性? 知るカそんなもの。殺すだけだ。
不意に敵が左後方に出現した。一瞬だけ視線をやると、それはシリックだった。まるで不気味なものを見るようにオレを見ている。
なんだシリック。どうした。何を考えている。どうしてオレはお前が敵に見えるんだ。
お前も殺されたいのか。
「ロイル、さん」
「…………。」
揺らいだのか。
オレに「魔王崇拝者」というラベルが貼られて、そう見えてしまったのか。
オレがフェトラスを愛おしいと思うのは、発狂しているからだと、そう認識したのか。
残念だ。
「ロイルさん、答えて。フェトラスは本当に魔王なの? あたし、まだ信じられないんだけど」
ならばなぜ貴様はその汚らわしい武器をオレ達に向けている。
その時点で貴様の命は存続を許されない。
殺す。
ただただ、殺す。
「さぁ、もう説明はいいだろう? その様子を見ろよ。人間の化けの皮が剥がれて、逸脱者の顔をしている。人間は本能を捨てちゃいけないんだ。この世界の管理者の一人として、俺は魔王フェトラスよりもロイルさん抹殺を優先する」
その言葉が合図だったように、ティリファがとザークレーは俺から距離を取り、三人の王国騎士が一歩近づき、シリックは迷った末に汚らわしい槍をドグマイア達に向けた。
「私は――――私は! 私はフェトラスちゃんを信じる! この子は何かを殺戮するような子じゃない!」
だが貴様は、オレに不信感を抱いている。そのぐらい挙動から読み取れる。無理をするな。残念だが仕方が無い。
「さぁ、ロイルさん!」
「――――ロイル!」
「ロイルさん!」
うるさい。
「みなごろしだ……貴様等全員まとめて、殺戮してやる」
目の前が■色に染まった気がした。
また一つ、鍵が揃う。
もうすぐ扉が開く。
最後の鍵はどこだ。
「はぁ…………」
ため息が聞こえた。
愛らしいため息だった。
とてもアンニュイで、すごくプリティな。
一瞬我に返る。
(…………ぬああああああ!! なにやってんだ俺!! 馬鹿か! フェトラスのこと完全に意識から外れてた!? なぜ!! なんでだよ!! 敵しか認識出来てなかった! 一体全体俺に何が起きてたんだ今!?)
ビクッと身体が痙攣して、俺は正常な自我を取り戻した。
ドグマイアがいた。英雄ではなく、もっと違う目的を持ったナニカに見える。
ザークレーがいた。苦悩に満ちた、嫌そうな、そんな表情と震える彼の腕が見えた。
ティリファがいた。迷いながらも、戦う意思が見て取れた。
シリックがいた。泣きそうな顔をしている。ごめんな、不安にさせちまって。
そして俺の横にはフェトラスがいた。
「えっと、ちょっと聞いてもらってもいいですか?」
彼女は、俺の娘は片手を上げながらそう言った。