Partner light2
大きな草原
一面の緑が太陽に光によって輝く
青々としたそれは
ついさっきまで
Partner light#2
そこが湖だったことを
誰にも信じさせない
突如として消えた蒼
突如として現れた青
それは蜃気楼か幻か
それとも
それが事実か
もうわからない
「・・・・ここは・・・ここはどこなんだ〜!!」
俺の絶叫が響き渡った。
森を抜けて、高笑い女を回避し、出たところは見たこともない青々とした草原だった。
ああ、一面の緑。ふわふわだーって、そんな場合じゃねぇ。
何でこんなところに草原?!俺の記憶ではここは湖・・・
「真珠、町への行き方わかるか?」
フルフルと首を振る真珠。てことは・・・
「森を抜けても迷子のまんま?!」
俺は絶望したね。やっとあのわけわかんねー森を抜けたってーのにまた迷子かよ、オイオイ。
前方を見渡す。
皆さん、右手に見えるのが地平線でございます、ってか〜。冗談じゃねぇ!俺はちゃっちゃと町にいきてーんだよ。誰か〜俺を助けて〜。
ここまできて俺は思った。俺ってもしかして方向音痴?
いや、そんなわけねぇ。今まで俺は一人で旅をしてきたが、道に迷った記憶なんてほとんどない。覚えてないだけかもしれねーが。
とにかく。このあたりには何か変なモノがあるのかもしれない。率直に現地の人に聞いてみよう。
「おい真珠、このあたりは方向がわからなくなる魔法でもかけてあんのか?」
「しらん」
「あっさりと答えるな・・・」
現地の人に聴いてもわからんとは・・・どーする、俺。
「・・・とりあえず、歩くか・・・」
仕方ないからほとほとと歩き出す俺、の後についてくる真珠。これからどうしよう・・・
ほとほと
ほとほとほと
ほとほとほとほとほ
ああ、夕日が綺麗だ。あれに見えるは・・・
「街だ・・・」
意外なところに街。ラッキー。
「真珠、日が暮れるまでに街に入るぞ」
そう言うが早いか俺は走り出した。真珠も後ろについてくる。
でやぁぁぁぁぁぁぁぁ
「そこの門閉るのスト−プっ」
そして猛ダッシュ!!
「入国・・・希望です」
こうして何とか野宿は免れたのであった。
街に入ると真珠はすぐに宿へ向かった。俺は・・・酒場に直行だぜい!
俺のざるっぷりを見せてやらあ。
勢いよくドアを開けて
「あーーーおまえはっ」「あーーーあなたはっ」
入ったとたん俺は叫んでしまった、と同時に向こうも叫んだ。そしてまた二人同時に。
「あのときの!」
相手を指差した直後に
「お客さん、静かにしていただけませんか?」
酒場の親父に怒られた。
そこに、その舞台の上にいた女はあんず・・・本名アンジュラル・バーミリオンだった
この前のときと違う柄の着物を同じ着方をしていた。
周りからはよった親父どものはやし立てる声が聞こえる。
あんずは固まったままだった。
俺は愛想笑いをしながら酒場を後にした。そして裏路地に入る。
「ちょっとそこのあなた!」
大きな声で呼び止められた。この時間に近所迷惑だっつーの。
「なんだよ」
「あなたは・・・あのときの・・屈辱の・・・」
言葉つながってね−ぞ、あんず。無視して立ち去ろうかな〜
「責任とってよ!」
ぽろぽろなきながらあんずはいった。そんなに悪いことしたかなあ?素直に聞いてみよう。
「俺そんな悪い事したか?」
「だって・・・だってあんなことされたの始めてだったのですもの!しかもあなた・・結構カッコいいから・・・」
最初は勢いよく、最後はちょっとにごらせながら言った。そうか俺はかっこいいのか・・・やったね。それはいいけど責任なんて何しろってんだよ。
「で、どう責任とってほしいわけ?」
「あたくしの恋人になりなさい!」
・・・何言ってんだ、この女?俺が口を開こうとしたとたん。
「いいわよね、あんなことしたのですもの」
なんか反論できねえなあ。
「それは・・わかった。でもそっちの身分を教えてもらわないとな。なぜ真珠を襲ったんだ?」
まあこれだけはきかないと大きなトラブルになりそうだぜ。一応、念のため、絶対事項で最優先事項だ。まともな答えがくるといいなあ。
「あの子は・・滅するべきですわ」
「・・・なんでだよ」
「いつもそうよ。光使いが出てくるたびに世界は混沌とするわ。もっと早めに滅するべきだったのです。だけどあの森のせいでそれもできなかったわ。誰かが連れ出してくれるのを待っていたのよ。ずっと、ずっ・・・」
「ふざけるなよ・・・。」
あんずの言葉の途中で俺は怒鳴った。
「あいつが生まれてきたのが悪いのか?人が生まれてきたことに対しておまえは文句をつけるのか?」
「だってあの子は破滅をもたらすのよ!」
「それは過去の話だろう!あいつじゃない!」
「でも!」
「でも私は破滅の女神の化身だ」
俺は振り返った。そこには街明かりに照らされた光使い、パール・レフージュがいた。
「確かに私は破壊の女神の化身だ。わかっている、わかっていて森を出た。親が残してくれた結界を出た。すべて、わかっている」
俺たちに近づきながら、一歩一歩重みのある歩みで近づきながら、しっかりとした口調淡々とで言う。すべてを悟ったものの言葉は力強く重い。誰も動かさせない気迫、何も言わせない視線。金縛りにあったような時まで固めたような藍の光。冷酷な眼差し、冷たい声。
「私の一生は私が決めるのだ。もう何者にも邪魔はさせん」
声という名の空気の振動をこれほど感じるのか?それともこれは光の振動か?もう俺にはわからない、わかれない、わかってはいけない。そこは破壊の女神のテリトリー。
「何者が来ようと私はすべてをはね返す、破壊する。私は我侭な、すべての神をおとしいれた、破壊の女神の化身だ」
深緑の女は目の前の紅い女を真っ向から見据える。
紅い女は深緑の女から視線をずらそうとするがずらせない。
しばらく何も動かない時が続いた。
深緑の女がふいに笑った。意地悪くもなく声もしない。
破壊の女神の無邪気な笑い。
すべてを破壊するかのように。
ソレガカノジョノツヨサナノカ・・・
穏やかな朝
昨日の今日なのに、何だったんだあれは。
破壊の女神の話は聞いたことがある。別名デザエアーとよばれたすべてを破壊する美しき女神。そんなものは存在しないと思っていた。実際はどうなのか俺ではわからん。
わからないことをうだうだ考えるのはおれの主義じゃない。真珠が本当に破壊の女神だったとしても、くるときはくる、なるときはなる。そのときに考えよう。お気楽どうまっしぐらだー。
「よし!」
宿の腰掛けていたベッドから勢いよく立ち上がる。
窓から外が見える。こぎれいな町並みだ。なんかふつー。何にもおかしなところはない。なのに見たときにぞっくとした。いやな予感がするぜ。
そう思いながら真珠がいるだろう食堂に降りた。
「おまえ・・いるんだ」
そこで見たものは朝食と真珠とあんずだった。って変な書き方。あんずは食いもんの方じゃね−ぞ。あの着物女だよ。
「ええ、この子を殺せないなら破壊させないだけですわ。あたくしは元から破壊を止めることが目的だったのですもの。どこまでもついていきますわ」
「うへー」
おれはあからさまにいやそうな声を出しておいた。ちょっと前までのひとりで旅してたころが懐かしいぜ。
「あんずは結構良い奴だ。いっしょにいて良い」
「・・昨日あんなことがあったばっかりなのによく『イイヤツ』なんて言えるな」
「直感だ」
真珠はそれだけ答えた。コイツは結構頑固だからな。
「しゃーねぇ、トラブルだけは起こすなよ」
それだけ言っておいた。言っても無駄な気もするが。
「とりあえずこれからどうする?なんかいやな予感がするからすぐに出るつもりなんだが」
あんずが驚いた表情で俺を見た。変なこと言ったか?
「あなたも感じましたの?この自然の中の不自然を」
「なんか文章おかしいぞ」
関係のないツッコミを入れてみたが
「私も感じた。すぐ街を出るように言おうと思ったところだ」
ああ、むなし。流されちまったよ。いじけてやろうかな〜
「ということで買い物をしてすぐにここを出るぞ」
勝手に話が進んでいたのであった。
とりあえず各自買うものの分担を決め宿から出た。
街をぶらぶら歩きながら様子を見る。やっぱり何も変わったところなんてねえ。でも何かがおかしい。それがなんなのか見極めようとしっかりと見ていく。
やっぱ、なんもおかしくねえよな。しゃあない目当てのもんは買ったし、帰るか。
そのとき俺は自分の目を疑ったね。暑くもないのに陽炎がみえた。何かがおかしい、この街は。
宿の前に戻ると二人とももういた。俺はさっきから感じていた直感ですぐに離れることを決めていた。すぐに走り出しながら言った。
「すぐに、すぐに街を出るぞ!」
「え?待ちなさい〜」
あんずが何か言っていたが俺は止まらなかった。
「説明してほしい」
真珠が冷静に言った。
「なんかいやな予感がするんだ。なにかが・・・」
俺も文章になってねえな・・・。
真珠もあんずも後ろをついてくる。
街の外はまた一面の草原。街を出てもいやな感じは続く。来た方向と逆へと走る。
「つかれた・・・やすまして・・・」
途中で体力のないあんずが休憩を要求。賛成して少しの間だけ休んだ。
日が沈むころ草原が終わり茶色の土が見えた。いやな感じも消えた。
「ここで休むぞ」
言いながら振り返る。あの草原は。
湖だった、蒼の湖。俺がここにあることを知ってた湖。
「・・・」
「どうしたんだ・・あっ・・・」
真珠も気づき、続いてあんずも。
「街は・・?」
「さあな、湖の底かほかの場所か、それとも蜃気楼だったのか。もうわかんねえぜ」
「あのままいたら死んでたかもな」
真珠が言いながら湖を眺める。
蒼い湖は半分以上沈んだ夕日によって山吹色に染まっていた。
もう知る術はない。