干支達の夢 その十三 番外編 猫 【心優しき】
干支に関するショートショートです。今回は番外編 十二支 次点の猫に関するお話です。
「という訳で、猫はねずみを見かけると、今でも彼らを追いかけ回
す様になったんだな」
「ふ~ん」
元日の昼下がり、彼は彼のまだ小さな姪っ子に、十二支にまつわ
るお話を聞かせ終えたところだった。昔神様が十二支をお決めにな
った時の、ほら、牛の背中にねずみが乗って、ゴール間近で飛び降
りて、それ故ねずみが十二支の一番最初。ねずみにレースの日にち
を騙された猫は、十二支には入れなかったという例のお話さ。
二人の傍らでは、彼の家の飼い猫トムが、気持ちよさそうに
まどろんでいる。
「でもさ、おじちゃん」
「ん? なんだい?」
姪っ子は真剣な目で、何かを言いたそうに彼を見詰めた。
ははぁ、ねずみさんってズルいねえって言うつもりなんだろうな。
無理も無い。最初に俺がこのお話を聞いた時、暫くはねずみが嫌い
になったもんなぁ。小さなこの子の心が傷つかないよう、上手くフ
ォローしておかないといけないかもなぁ。
心優しき彼がそう思った時、姪っ子が言った。
「ねずみさんっておりこうさんねぇ。それに比べてトムのご先祖さ
んたらおバカさんよねぇ。ちゃんと日にちを確認するって事もしな
かったんですもの。それに未だに恨みを持ち続けるなんて、なんて
しつこいんでしょ!」
彼女はトムを抱き上げると続けた。
「あっ、でもこのトムは別よね? だって前にネズミさんを見た時
に、この子は追っかけるどころか一歩も動かなかったんですもの。
ね? トムはもうねずみさんを許しているんだわ。そうよね?おじ
ちゃん?」
これは以前にトムが初めてねずみを見た時に、腰を抜かしてしま
った事を言ってるんだな。あの時は皆に大笑いをされてしまったん
だっけ? なあ、トム?
「う~ん、そうかもしれないなぁ」
「でしょう? だからワタシ、優しいトムもやっぱり大好き!」
こうして心優しき猫となったトムは、二人を見上げると
にゃあ~と、恥ずかしそうに小さな声で鳴くのだった。
最近の猫は、心優しき猫が多いようです。