第六話「来店です」
「ここが私のお父さんが経営してるカフェ。Free」
バス停から綾音に手を引かれて歩くこと10分。目的地のカフェに到着した。一階がカフェで二階、三階住居になっているらしい。
「さぁ、入ろう」
「う、うん」
緊張気味にカフェに入店した。
店の中は、外から見るのとは、大違い。入った正面は、10人ほど座れるカウンターに店内は、とても雰囲気がある感じで、ファミレスぐらいの広さがある。お客は、ほぼ満席で静かである。そして、奥の方は、一段上に上がるステージがありそこにグランドピアノが一つの照明に照らされていた。
「おっ。綾音。その少年は?」
カウンターでグラスを拭いている男性。
「お父さん。私が時々話してた市民会館でピアノ演奏してたのがこの人なの」
「へぇ~。君が」
綾音の父だった。少しだけヒゲが伸びている。なんだかカフェというよりバーなんじゃないかと錯覚しそうだ。
「は、初めまして」
「まぁ、楽にしていいよ。ここに座りなさい」
カウンター席に座るように促されて、真ん中の席に座った。
「何か飲む?おススメは、ケーキセットだけど」
メニュー表を見て選び。
「じゃあ、ミルクレープケーキのセットで」
「コーヒー?紅茶?」
「あ、紅茶で」
「はい。ちょっと待ってね」
いつの間にか蒼の傍から綾音が消えていた。
あちこち見ているとどうやら常連のお客と話をしている。話が終わると別の客に呼び止められてまた、話をしている。
「西沢さん人気なんだな……本当にここカフェか?」
「はい、お待たせしました」
「どうも、美味しそう」
「ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
カフェに入ってから一時間が過ぎた。お客の波は、止まらずに出て行くお客の後には、新しいお客が来店する。あまりにも店内のゆっくりとした雰囲気に蒼は、なんだかいつも以上に心が和やかになっていた。綾音は、相変わらずお客と話をしたりオーダーを受けたり、注文されたのを持っていったりしている。時々見せるその笑顔に可愛いと思ってしまう。
「どう?ここは?」
不意に綾音の父に声をかけられた。
「あ、はい。とってもいいですね。落ち着きます」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「西沢さんは、いつもお客と話してるんですか?」
「綾音かい?そうだね。常連の人と話したり私の仕事の手伝いをしたりね」
「そうなんですか……」
「ん?綾音が気になるのかい?」
「えっ!い、いいえ!」
「またまた。照れるな照れるな!」
言い返せなくなる蒼。
「……綾音から母親のことは聞いている?」
「あ、はい」
「そうか。……君には、感謝してるんだ」
「え?」
「前までは、あんな感じに人と話したりできなかったんだよ。母親が亡くなったことに凄くショックでね。いつも下を向いて元気がなかったんだよ。でも、ある日。市民会館で同い年ぐらいの子の演奏を聞いてから、元気になり始めてね。今じゃ昔以上に笑顔を見せるようになったんだよ」
「……」
「だけど、一つだけ直ってないところがあるんだ」