第三話「今日も」
朝。学校へ向かう蒼。家から10分ほど歩いてバス停でバスが来るのを待つ、その間スマホからイヤホンを通して音楽を聴く。しばらく待っていると同じ制服の生徒たちが集まって来た。音楽を聴いているため何を話しているか分からないが見た感じ、友達同士で話をして笑ってたり、手を合わせたりしているおそらく宿題を忘れたから後で見せてとかであろう。
バスが来て乗り込み一番後ろの進行方向右側に座った。窓の外を見ながら今日学校でどう過ごそうかなんて考えたりする。家の所々にまだ、桜が咲いているがいつ散るか風前の灯だ。
バスに揺られて30分。学校前のバス停で降りる。そこから学校に向かって歩く。学校前ということもあり生徒が道路を挟んで左右の歩道を歩いている。
学校が見えてきた。その校門の前で蒼が気がついた事それは。
「……居るし」
校門の前で綾音が立っていた。長めの黒髪に細身の体、外見で判断してしまうと正直、男子からの人気があってもおかしくない容姿。蒼を発見したらしく手を振っている。一回溜息をつきながら綾音の元に近づく寸前でクイッと進行方向を変える。
「っとと。待って待って」
過ぎ去ろうとした蒼の腕パシッと掴んだ。
「今日は、逃がさないよ」
昨日蒼は、綾音の誘いを断った直後その場を走って逃げていた。
「分かったから、手を離してくれ」
歩き出す蒼の右隣を歩く綾音。
「どうしても演奏してほしいの」
「あのさぁ~。なぜ僕?」
「蒼が弾くピアノの音色は、誰でも出せる音色じゃない。だから、あんな一人で寂しく弾かないでもっと多くの人に聞いてもらいたいの」
「いきなり呼び捨てかよ……僕が弾くピアノは、普通だよ。君が聞いてそう感じるだけだよ」
「そんなこと」
「僕は、一人がいいんだよ。じゃ」
蒼は、教室に入って行ってしまった。
昼休み。蒼は、屋上にいた。昼食のカレーパンを食べていた。グラウンドでは、生徒たちが遊んでいる声が聞こえる。晴天の空。風は、無風に近い。コーヒー牛乳を飲むと屋上の扉が開く音が聞こえ、誰が来たのか振り返って見るとそこに綾音がいた。
「またかぁ」
呟く蒼に綾音は、ゆっくりと近づいて来る。
「少し私と話をしない?」
綾音は、地面に座っていると蒼の横に座る。二人の距離約1メートル。コーヒー牛乳の残りを一気に飲み干す蒼。