Sランクと第一試合
今は昼休み。俺の予選は三試合目だったらしく、さっき四試合目が行われて昼休みとなった。
「本当に二日で予選全部終わるんだな」
「人間というのはせっかちな生き物ですね」
俺はルナとドライグを引き連れて会場内を歩いている。べ、別に探検とか子供っぽい理由じゃないんだからね!勘違いしないでよね!
「おおー!お前がトウドウか!」
「ん?ライオン?」
目の前にはライオンのようなたてがみと耳を持つ男が立っていた。
「あ、もしかして獣人か?」
「そうだ。お前強いんだな。俺は感心したぜ。戦うの楽しみにしてるからな?」
「そうだな、俺も楽しみにしてるよ。さっきは張り合いのない奴ばっかだったからな」
「ぎゃははは!!確かにな!!」
ライオンさん爆笑。うんうん笑顔は大事だよ?
「じゃ、俺は行くよ」
「おお、邪魔して悪かったな」
ライオンさんは謝罪してすぐ道を開けてくれた。結構いい奴だな。
「そうだ最後に聞いておきたいことがあるんだが」
「なに?」
ライオンさんは少し言葉に詰まった後、話を切り出した。
「お前達本当に人間か?」
「・・・」
俺が無言でいるとまずいと思ったのかライオンさんがあわて始めた。
「いや、そっちの二人のお嬢さんはともかくお前がな?ええっと」
「確かにこっちの二人は人じゃないけど。もしかして匂いか?」
「あ、ああ。お前からはその・・・焼き鳥のにおいがする」
いやそれは当たり前だろ、朝食ってきたし。
「食べたからな」
「いや、お前自身の匂いがしないんだ。まるでそこにいないみたいに」
「・・・そうか」
「それだけ言いたかったんだ。悪いな」
「別にいいよ。ま、お察しの通り俺は人間じゃないらしいしね」
そのまま通路を先に進み途中で振り返る。
「またな」
「お、おう」
* *
ライオンさんと会ってしゃべって飯食って予選見て帰って飯食って風呂入って夜にベットでやって寝て起きて飯食って予選見て昼食って予選見て予選が終わって帰って飯食って風呂入って寝て起きて会場にきて本戦が始まる←今ここ。
『それでは皆さん準備はいいですか?それではこれより第一試合を始めます!!』
歓声がすごい。なんというかすごいうるさい。てか第一試合って誰と誰よ。
『それでは第一試合、Sランクの冒険者、ルゼッタ・マウシスVS炎の槍傭兵団隊長、ロギス!レディーファイト!!』
あ!俺が予選のときにしゃべってたおっさんだ!!
ロギスはAランクの冒険者並の力を持っているが相手はSランク。それもSSランクがないからSランクにいるような怪物だと聞いている。よって強さはSSとみるべきだ。
それでも降参し無いのは、これが対人戦だからである。傭兵という人種は冒険者と同じで魔物とも戦うがメインは人間だ。つまり対人戦のプロフェッショナルなのである。
一方のルゼッタは何も考えていなかった。いつも通りに正確に敵を撃てばいい。それだけだった。
「嬢ちゃん別嬪さんだなあ」
「・・・」
ロギスは彼女と一度も会ったことがなかった。だから彼女が女で、氷の魔術を得意とすることしか知らなかった。彼女はきれいな銀髪を伸ばした超美人であることを知らなかった。
「しっ!」
ロギスはかなりのスピードで彼女の方に疾走した。
彼の主武器は傭兵団の名前にもなった炎の槍だ。魔力を通すと炎が燃え上がる。彼のようなあまり魔力がないものにも扱える魔槍だ。
「アイスニードル ガトリング」
対するルゼッタは得意の氷魔術の初級技アイスニードルを撃った。詠唱破棄+一秒に120発の早技である。中級以上の魔術をほとんど捨てて初級魔法を超スピードで連射する。それが彼女の生み出した対人間用戦法。
「ファイアシールド!」
対するロギスは中級魔術のファイアシールドで防ぎ、横に避けた。
彼は笑みを浮かべてはいるが内心かなり冷や汗をかいていた。これはやばい…と。
「ずいぶんと対人用の技があるんだな?」
「アイスキャノン」
「なにっ!?」
しかし彼女の戦法は時にその時の気分で変わる。はっきり言ってむちゃくちゃである。アイスキャノンは上級魔術。さすがにそのレベルの魔法を防ぐ手立てはロギスにはない。
「このっ!」
槍を一振り。それは会場の誰から見てもただの悔し紛れだった。何をしたかわかったのは4人だけ。
氷の柱とでも言うべき超エネルギーがリングに深い穴をあける。そして…
「はあっ、はあっ。あぶねえな!」
その穴の近くに怪我ひとつないロギアが立っていた。
『ど、どうやったんだあー!?ロギア選手今の攻撃をよけました!』
彼が槍を一振りしたのは悔し紛れではない。炎を起こして周りの温度をかえ、自分の位置を屈折させて見せたのだ。ぎりぎりの回避。それは彼が彼女に及ばないことを指していた。今回は運よくかわせたが次はないだろう。この時点で勝負は決まっていたのだ。
「降参だ」
『降参!ロギア選手降参です!勝者はルゼッタ・マウシス!!』




