食べ物の恨みは怖い
カオスオーガは大通りを進み続ける。あたりには逃げ惑う人々と、逃げ切れずに殺された元住人たちと勇敢に立ち向かった冒険者たちの死体。
そんな光景を作り出した元凶であるカオスオーガはこの状況に満足していた。オーガであったときから自分よりも弱いものが自分を見て逃げ出し、殺されていくのを見るのはとてつもない快感を与えてくれていた。そう、この騒ぎは全てこのカオスオーガの暇つぶし。いわゆる娯楽にすぎなかった。
逃げ惑う住人達は思っていた。何でこんなことになったのか。それは当然の疑問とも、愚かな問いとも言えるだろう。
自分達がしていたことを何一つ振り返らないことを責めることはできない。それは生きるために必要なことだったのだから。生態系という残酷な自然の一部の行為にすぎない。しかしながらそれは、自分たちがカオスオーガに襲われても文句を言えない。生きたければ返り討ちりすればいいのだから。
それができない弱者は強者に喰われる。
カオスオーガが進み続けると大きな噴水のある広場に出た。そこでカオスオーガは噴水わきに置いてあるベンチに不快な獲物を見つけた。その人間はこちらには目もくれずに焼き鳥を食べてのんびりとくつろいでいた。「やべえ、今俺すごい幸せだ」とつぶやいていたが、カオスオーガに人間の言葉など分かるはずもない。カオスオーガの頭の中にあったのは。
むかつくから殺す。
それだけだった。カオスオーガはその人間を思いっきり殴りつけた。それだけで後ろにあった噴水ごとその人間は吹き飛ばされた。ベンチの上にあった飲み物と焼き鳥も当たり前のようにぐちゃぐちゃに吹き飛ばされた。
その光景に満足したカオスオーガは歩き出した。が、足が進まない。不思議に思い振り返った彼の眼に映ったのは。顔に微笑みを浮かべて背中を鷲掴みにする。自分が吹き飛ばしたはずの人間だった。
* *
≪ソフィア視点≫
カオスオーガが学園都市に侵入するという緊急事態が起き、トライデントに出場する選手たちにも出動要請が出ていた。相手はSランクの化け物。今回の参加者の中でもトップに入るほど強いアリシアでも勝てない相手。Aランクが10人はほしいほどの強敵だった。今回のトライデントにAランク並みの強さを持っているのは8人。しかもそのうち4人はカオスオーガに全く効果のない魔法使い達。そう。カオスオーガはオーガを超えるほどの筋力に加えて魔法無効化のアビリティを持っているのだ。つまり戦えるAランクは4人絶望的だった。
「カオスオーガが大通りを進み続けています!救援を!」
「行くしかねえな。行くぞ!Cランク以上は俺についてこい!」
大声を上げたのはAランクの斧使いバビルス。その声にこたえるように雄たけびを上げ、バビルスについて行く他の冒険者たち。
「そういえば主様は大通りの噴水広場で焼き鳥を食べると言ってたな」
「え?ではあの方達は無駄骨ですか」
「ドンマイという奴だな」
「そうですね」
何ですって!?そんなセイジ様が・・・
「見に行くか」
「そうしましょう」
そう言ってルナさんとドライグさんも大通りに向かった。
「私も行きます」
「お嬢様!それはあまりにも危険です!」
アリシアが心配してくるけどそういうわけにもいかない。
「私はあの人の強さをこの目で見たいのです」
「そうですか。…では遠くからならかまいません。十分注意するように」
「ありがとう!アリシア」
アリシアの許しを得て、私たちも広場へ向かった。
私が噴水前広場が見える位置に着いた時、ちょうどカオスオーガも広場に入ってきた時だった。カオスオーガは噴水のベンチで焼き鳥を幸せそうにほうばっている人物に目を留めた。ってあの人はセイジ様じゃないですか!?ちょっと逃げてください!
「あいつ死んだな」
バルガスさんの冷酷な答えに私は恐怖を覚えた。このままじゃセイジ様が!
そう葛藤しているうちにカオスオーガがセイジ様をその剛腕で殴り飛ばした。その勢いは後ろにあった噴水をも砕いた。確実に人が死ぬ一撃。それを見てカオスオーガは満足そうに足を進めようとして、後ろを振り返った。そこには微笑みを浮かべたセイジ様が。
「何だあいつ。こわ」
バルガスさんの言うとおりだった。イケメンであるセイジ様が浮かべる笑みはとてつもなく怖かった。
「がるるがああああああ!」
それにむかついたのかカオスオーガはセイジ様を殴りつける。そして…
「あ?」
セイジ様もそれに合わせるように拳をぶつける。力と力がぶつかり合い、勝ったのはセイジ様だった。
「嘘だろ」
バルガスさんが茫然とそう言った。そう、今のはそれほどおかしいことなのだ。カオスオーガに素手で打ち勝つなんて。
セイジ様は笑みを浮かべる。
「この程度でくたばんじゃねえぞ?」
それは悪魔の笑みだった。
* *
≪誠二視点≫
「この程度でくたばるんじゃねえぞ?」
このクソオーガ、俺の焼き鳥を・・・。殺す!!
「がああああああ!!」
「うるせえ!」
雄たけびとともにパンチを繰り出して来たオーガの拳をよけ、腹に拳を叩きこむ。肋骨が数本折れる手ごたえとともに吹き飛んでいくオーガ。
「へえ、10メートルは飛んだか?いい感じだ」
今俺は《光を導くもの》を使っていない。なぜなら瞬殺してしまうからだ。こいつは絶対苦しめながら殺す。
今現在、俺が使っているスキルはスキルは特殊スキル《異種族同化》だ。クイーンアントを殺した際になぜか手に入った。その代わりにドロップ品もなかったが。
このスキルは異種族と同化できる素晴らしいスキルだ。しかし同化できるのは一匹まで。俺が同化しているのは90層のボスである「紋華青蝦蛄」だ。ちなみにもうリセットできない。
「おい。もう終わりか?」
「がる…があああ!」
「いいね」
紋華青蝦蛄はパンチの強さで有名な地球にもいる生物である。そのパンチは15センチの時点で22口径の拳銃に匹敵する。さらに、紋華青蝦蛄は体を硬い甲殻でおおわれており、鋭いとげも付いているため、尻尾による攻撃もすさまじい(誠二で言うとキック)。そして、人間よりも目がとてつもなくいい。そんな究極生物と一体化した俺は現在敵なしだ。
「簡単に死ぬなよ?」
弱者が強者に恐怖を覚える。それは立場が逆転した瞬間だった。
誠二は超のんびりしてたので気づかなかっただけで、いつもなら最初の親子が殺されたあたりで気づいています。




