終わりにしよう
(さてどうしますかね)
誠二は自分の勝利を疑っていないような態度をとったが、それはやせ我慢であった。理由は主に三つある。一つ目に、女王蟻が残りのワーカーアントを吸収し、さらに力をつけたこと。二つ目に、自分の気功がもうほとんど残っていないこと。それに伴い、紅蓮が発動できないこと。三つ目に、自分の体がもう限界に近いこと。の三つである。
「さあ行くぞ!」
「まあ、まっちゃくれねえよな」
女帝蟻
LV70
上級━6
上位スキル《女帝蟻Ⅶ》
「ははは、やべえな」
女王蟻はいや、女帝蟻は牙を伸ばして噛み付く。誠二はそれをジャンプでかわし、頭に蹴りを叩きこんだ。
「いったっ」
しかしその硬さに、逆にダメージを負ってしまう。
(くそっ!体は固すぎる!なら関節はどうだ)
久しぶりに刀を抜き、関節を狙うが。
「無駄」
「ごはぁ!」
牙で胴を薙ぎ払われ、壁まで飛ばされる。
(あばらが二三本いったなこりゃあ」
「はあ、はあ。・・・でも負けられないもんなあ」
「!?」
女帝蟻は別に攻撃を喰らったわけではない。子供たちのがんばりのおかげで、かなり有利に戦えている。しかし、彼女は今までで一番この男に恐怖を感じていた。
(なぜだ?なぜ私が恐怖を感じる必要がある。感じるのはあの男の方ではないか。なのになんであいつは)
笑ってるんだ?
彼女は完全に呑まれていた。誠二の闘気に。自然界には死にそうになって笑う物などいない。食う食われるが確定している世界で、死にかけながら笑う種族などいない。いや、いなかった。この迷宮には存在しなかった。人間という特殊な種族が。
人間はとても不思議な生き物だ。ライオンやワニに食べられるため生態系の頂点ではないと考えることができる。しかし、それは違う。人間はだれかが殺されたらその仇を別のだれかが取る種族だ。今までの自然界での生き残り方も他の生物と比べると特に変だ。それゆえ、人間は生態系のなかで特に表しにくい生物であると言える。そんないびつな生物が迷宮にはいなかった。
「終わりにしようぜ。女帝さんよぉ」
「ふん。望むところだ」
いなかったからこそ、見たことがなかったからこそ。彼女はそこで思考を停止してしまった。誠二の変化が何であるかを見逃してしまった。
「「・・・」」
もう、遅かった。
【スキル取得条件を満たしました。《強靭なる暴君》と《紅蓮Ⅴ》が究極スキル《光を導くもの》に変化しました】
彼女は人間を理解しきれていなかった。
* *
「ははは、気分がいいぜ。力が湧きあがってくる」
「なんだ?それは」
誠二は体から光を発していた。まるで光そのものになったかのように。
「じゃあな、女帝蟻さん。楽しかったぜ」
そう挨拶をしたすぐ後。一瞬で女帝蟻は誠二に殴り飛ばされていた。
「がっはああ!!」
「にゃははは!すげえなおい!光速で動けるのかよ!やばすぎんだろ!」
光速。その名の通り「光の速さ」だ。それだけの速さで殴れば威力も段違いであるし、何より目で追えない。
「くそっ。何なんだお前はああああああああ!!」
「にゃははは!言っただろ?生物部副部長様だよぉ!」
激昂した女帝蟻に高笑いで返す誠二。しかし、急に笑うのをやめ真顔になった。
「もう分かってるんだろ?俺の勝ちだよ。次で決まる」
「・・・ああ」
冷酷な頭の奥まで届くような声を聞き、彼女は冷静になった。
「もういい。殺せ。私の負けだ」
「おう。今の俺の最強の一撃で終わらせてやる」
「礼は言わんぞ」
「分かってらあ」
昔からの友達のような軽口をたたき合う。そして。
「じゃあな」
「ああ」
誠二は拳を中段に構えた。いわゆる正拳突きの構えである。
「《神の裁き》!!!」
右手から放たれた光速の拳は。《光を導くもの》の語源である太陽の力を纏ってい、女帝蟻を完全に消滅させた。
「・・・はあ。死力を尽くして戦った相手が死ぬのは、いつでも虚しいもんだねー」
それでもまだ迷宮攻略は終わっていないし、邪神とも戦ってない。
「帰るか」
そう行ってから誠二は歩き出した。自分の仲間の元へ。
次回から迷宮の外の話に移りたいと思います。




