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第一話 言霊使いと大学生

 ――言霊を知っているだろうか。

日本では古来より、声に出した言葉が現実の事象に対して何らかの影響を与えると信じられて来た。

例えば結婚式では、離婚を印象付けるような『別れる』『離れる』『終わる』――そう言った言葉を使わないよう気を使う。

或いはお見舞いでは、『再び』『度々』――そう言った言葉を使わないよう気を使う。

 これらは全て、日本に古来よりある言霊信仰に依るところが大きい。

 神永智希――彼はその『言霊』を自由に『使う』事が出来る。



*****



 五月十五日。

時刻は午後七時過ぎ。

 その頃智希は、自宅マンションへと帰宅する途中だった。

手にはコンビニのビニール袋が握られ、中には甘いパンとしょっぱいパン、赤飯握りが無造作に入っている。


「全く便利な世の中だな」


 その袋に視線を落としながら智希はそう呟いた。

つい先日まで智希は、海外の紛争地帯を転々としていた。

日本に帰ってきたのも約三年振りである。

暗闇を照らす無数の街灯もそうだが、こんなにも簡単に食料を手にすることが出来る日本と言う故郷に対して、智希は懐かしさよりも新鮮さを感じていた。


「その代わりに失ったものも少なくないんだろうが」


 夜空を見上げると雲はなく、月が煌々と輝いていた。

しかし、それだけだ。

星は数えるしか見つけられなかった。

 智希のいた地域では、食べ物も碌に手に入らない上、治安も良くなかったが、しかしそれでも夜空は常に美しい満天の星空が広がっていた。

些細なことなどどうでもよくなるような、素晴らしい光景――。


「……まあ三年もいれば見飽きたが」


 そう言って自分で何となく作ったアンニュイな雰囲気をぶち壊し、小さく嘆息した。

と、


「きゃああああ」


「……うるせえ」


 智希の後方から女性の叫び声がこだました。

人間の目は前についていて、それは智希も例外ではない。

紛争地帯で叫び声には慣れてしまった智希は面倒臭そうに振り返って様子を確認する。

一応。


「なんだ。ただのひったくりか」


 遠くでは、ひったくりに逢った瞬間転んだのか、女性が倒れていた。

そしてこちらに走って向かってくる全身黒づくめの男は、小脇に女性物のバッグを抱えていた。

 智希はそう言うと改めて前を向いて自宅を目指す。


「えええええっ!?」


「……うるせえな」


 今度は叫び声ではなく、何かに驚愕するような声が路面に反響した。

しかし智希は振り返ることなく足を進める。


「ちょ、そこの人!ひったくりを止めて!」


「…………」


「格好良いお兄さん!バッグを取り返して!」


「なるほど、俺に言っているのか」


 自信があるにも程があった。

 智希は視線だけを背後に向ける。

と、


「ん?」


 智希は女性の身なりに気が付いた。

女性の年齢は恐らく四十代後半から五十代半ば。

服装は何やら良いモノを着ているように見えた。

ひったくりが持っているバッグも、そう言えばブランド物である。


(あの女は金持ちなのか……。助ければ幾らか貰えるか?)


 下衆い考えだった。

智希は身と心を翻し、ひったくり男と向き合う。


「どけどけどけ!」


 男は必死の形相で智希の方へ走る。

体格も良く、小脇に抱えるバッグがボールならラガーマンに見えなくもない。


「ふん」


 対する智希は、背こそ一七〇センチ後半と平均より高いものの、体格はどちらかと言えばやせ形であり、ひょろっとしている。

このまま正面衝突すれば、明らかに押し負けるだろう。

しかし智希は、慌てない。

焦らない。

怯えない。

 智希の口から、言葉が紡ぎ出された――。


「――爆発」


 小さく、周囲に溶けて行きそうな声。

しかしその言葉は、目の前の光景を――変えた。


 ドオオオオンッ


 爆音が辺りに轟き、男の肉体は木端微塵に、四散した。



*****



 この世界には六種類の精霊が存在している。

それは全て、人間に由来する。

 動物やヒトが外界を感知するための太古の昔から存在する多種類の感覚機能――すなわち視覚、聴覚、触角、味覚、嗅覚。

その五種類を司るそれぞれの精霊。

 そして、ヒトが知能を持ち、歴史が始まってから出現した言語と、それを司る精霊――言霊。

 智希は、その六種類の精霊の内、言霊精霊と契約を交わしていた。

ただし、智希の使う言霊は正しい意味での言霊とは少し異なる。

智希の使う言霊の能力、それは――幻覚を視せること。

 智希が発する言葉には『力』があり、それは智希の精神力を元にする。

その精神力を糧として、精霊の力が現実世界に働き、物体や幻の現象――幻象を出現させる。

 この世界には歴史があり、長い年月が積み重なり今に至る。

しかしそれは、あくまで紙の上やデータでしか確認することが出来ない。

誰一人として、それらを全て見てきた人間は存在しない。

 世界は、あくまで個人の主観の中にしか存在しないのである。

 個人で感じる世界は、全く異なる。

他人の主観を完全に共有することは出来ないのだから、当然のことだ。

一個人が死ねば、その個人の見てきた世界が終焉を迎える。

智希が死ねば、智希の見てきた世界が終る。

 つまり、この世界に居る誰一人として客観的に世界を見ることが出来ていない。

 世界の歴史など、誰にも証明することはできない。

自分自身が見たモノ聞いたモノ感じたモノ――それが、世界なのだ。

 智希は、それを――世界を変容させることが出来る。

自分の世界を自分で作る――それが言霊精霊との契約の力。

 しかし科学が証明するように、実際には、この世界には歴史が存在し、長い年月を経て今がある。

そのため、能力で物体を現実に出したり、能力で現象を起こしたりすることは、絶対に出来ない。

出来てはいけない。

だから、智希の持つ言霊の能力は幻覚――『幻』なのだ。

 智希の精神力が強ければ強い程、揺るがなければ揺るがない程、現実に強く作用する『幻』なのである。



*****



 智希の発した言葉、いや『言霊』によって男が爆死するという幻象が起きたのである。

道路には肉片や血飛沫が一面に広がり、吐き気を催す光景が広がっていた。


「――原状回復」


 再び智希は呟くように言霊を紡ぐ。

瞬間、目も当てられない光景は何もなかったかのように消え去った。

あるのは先程のひったくり男の体だけである。


「ふむ」


 智希は道路の真ん中に倒れ伏す男に近寄り、足で小突く。

男の体が乱暴に揺れるが、目を覚ます気配はない。

どうやら気絶しているらしい。


「まあ当然か」


 男の体には幻とは言え、五感の全てに対して智希の言霊の幻象が知覚された。

視覚は爆発の光景、聴覚は轟音、嗅覚は自らの肉の焼ける臭い、触覚は爆発による痛み。

味覚は――不明だが。

ともかく、その状況で気を失わない方がどうかしている。

寧ろ気を失う程度ならまだいい。

壮絶な幻象を体験し、精神が崩壊してもおかしくはないのである。


「おえっ……あの……」


「あ?」


 智希が男の横に立っていると、ふらふらとした足取りで女性がやってきた。

ひったくり被害にあった女性である。


「ああ」


 智希はそのことを思い出すと、男の脇に落ちていたバッグをひょいと掴み取ると女性に渡す。


「どーぞ」


「あ、すみません。……あれ、血が付いてない」


「血?何のことだ?」


 上から目線な口調である。


「見なかったんですか!?この男が急に爆発して、と、飛び散る光景を!」


 しかし女性は未だ妙な興奮状況にあるようで、智希の顔に近づき捲し立てるように声を荒げる。


「さあ。何かの見間違いじゃないか?人が急に爆発して飛び散るわけないだろう。そんな事より唾を飛ばさないでくれると助かるんだが」


 相手が年上であろうが智希は一切構うことなくづけづけと、まるで家に土足で上がるがごとく文句を言う。


「そ、そう言われればそうなんですけど……」


「きっとひったくりと言う非日常的な経験をして気が動転してしまったんだろう。それと街灯の光の加減が上手う具合になんやかんや作用して爆発したように見えたんだ。そうだ、そうに違いない」


「うーん……」


「そんな事よりお怪我はありませんか?」


 適当な説明を取って付けた智希は、話をさり気なく変える。

ついで口調も変える。

もちろんこれには理由があるのだが。


「え?ええ、大丈夫です。有難うございました」


 女性はまだ興奮が抜けないようで、智希の些細な変化に気が付かない。


「いえいえ」


「それでは、私はこれで――」


 そう言って女性が体を反転させて帰ろうとすると、智希が口を開いた。


「え、お礼がしたい?いえいえそんな結構ですよ」


「はい?」


 女性が驚いた様に目を見開く。

智希の口は開きっぱなしで止まらない。


「ですから本当にただの親切心からの行動でして――いえ、そこまで言うなら仕方ありませんね。頂きましょう」


 智希は徐に懐から名刺を出して、その裏に何やら書き出した。


「ではお礼はこちらの口座にお願いいたします。明日までに」


「…………」


 女性は目と口を限界まで開けていた。

智希の幻象を目にした時よりも呆然としているようにも見えた。


「では、私はこれで」


 智希はビニール袋を片手に、再び自宅を目指した。


「……新手の詐欺?」


 女性にはそうとしか思えなかった。

そして視線を手元の名刺に落とす。

そこには銀行の口座番号が記入されていた。


「払わないわよ……」


 女性は名刺の表を見る。

そこには『神永智希』と言う名前だけが書かれていた。



*****



翌、五月十六日。

御子柴彩香はこの春から大学生となり、希望の広がる大学生活に夢を膨らませていた。

――つい数十分前までの話であるが。

 今となっては、『ああ、そんな夢も見ていたな』と遠い遠い過去の話だ。

その理由は今の状況にある。


「刃物を捨てて投降しろ!」


 自動ドアのガラスを一枚隔てた向こう側で、警官が拡声器を使って懸命にそう叫んだ。

 ガラス一枚隔てたその先には、無数の警察官とテレビカメラや一眼カメラを構えた報道陣が、彩香の全身を隈なく撮影していた。

テレビカメラは恐らく全国ネットの生中継だろう。

お昼の情報番組真っ只中の時間帯であり、しかもこういう話題が大好きであろうおばさん達の恰好のネタに違いない。

 簡潔に言えば、彩香は今、銀行強盗の人質になっていた。

それ以上でも以下でもない。

彩香の背後には銀行強盗の男。

背後とっても離れているわけではない。

むしろ至近距離だ。。

その男が彩香と密着するような体勢で、首元に腕を回し、サバイバルナイフが押しあてられている。

 その首元には冷たい感触があった。

いや、長い時間肌に触れていたため温くなりつつあった。

金属は熱伝導率が高いから仕方ないなどと彩香が考えてしまえる程の時間、ナイフは首に宛がわれていた。

そんな状況、他にも銀行内には客や行員が居るのだが、誰もが見て見ぬ振り、あるいは自分も被害者だと言わんばかりに助けようとしない。

その意思すら感じられない。

 『誰かがやってくれるだろう』と、日本人の典型的な行動ではあるが、彩香にとってはとても困った状況である。

ここがアメリカなら『俺が助ければ一躍ヒーローだぜ』とでも誰かが思って助けてくれそうなものだが。


(あーあ、もうダメだこりゃ。絶対大学の誰か観てるよ。これから運命の出会いを期待したって、出会った瞬間に『あ、前に銀行強盗に遭いませんでした?やっべー超うけるんですけど』とかって聞かれて言われるんだろうなっ!くそが!)


 彩香は心の中で自暴自棄になる。

カメラがあるため表情には出さないが。


(……もうこの男投げ飛ばすか)


 何を血迷ったのか分からないが、この銀行強盗は一人だった。

単独犯である。

現代のこの世の中、複数人で銀行強盗をしても捕まっているにも関わらず、単独で成し遂げられると思った脳を疑ってしまう。

 そして彩香は過去に柔道、空手、剣道、テコンドーなど武術の経験があった。

その全ての道において誰よりも優秀な成績を修めてきていた。

よって男一人投げ飛ばす――いや、華麗なフォームで投げ飛ばすなど、何の苦でも難しくすらもなかった。

いや、唯一の苦があるとすれば、公衆の面前――しかもテレビカメラの前で女子力を大きく下げる行為をしなければならないことくらいか。


(どうする?このまま待つか?それとも……)


 彩香は熟考する。

その脳の稼働率はリーマン予想を考える数学者の脳の稼働率にも匹敵するかもしれない。

と言ったら流石に過言ではあろうが、それ程に彩香は悩んだ。

悩むこと数分。

 悩みに悩んだ彩香が出した結論は――。


(さらば、私の青春――)


 彩香はそっと自らの青春に別れを告げた。

頭の中では『もう終わりだね』とオフコースの名曲が流れる。

この曲はどんな状況ですら感動のシーンにしてくれる素晴らしい曲だと思う。

 と、彩香が十代の内から青春を捨てる覚悟をしたその時、


「――シャッター。――凍結」


「え?」


 彩香は、突然聞こえた状況に即さない言葉に思わず声を漏らした。

 その声の主は、彩香の左側――待合席に座るひょろっとした男で、小さな――今にも空中で霧散しそうなほど小さな声で二言、そう呟いた。

彩香は目だけで辺りを見渡すが、数人居る客は皆狼狽し、行員は距離が遠く、銀行強盗の男は興奮の境地に至っていて、彩香以外には誰一人として聞こえなかったようだ。

と、その直後、


 ウィイイイイ……


 そんな機械音を立てて、銀行のガラスに影が落ちた。

それは無機質な銀色をした鉄の板――シャッターだった。

銀行の外にシャッターが下り始めていたのだ。

 彩香は『今更一体誰が』と思うが、これ以上の醜態の全国中継は精神的にきつかったため、心からありがたかった。

 そして数秒と言う短い時間でシャッターが全て落ち、自動的に銀行内に白色の照明が付いた。

すると今度は、


「うわあああああ!」


 彩香の背後に居る銀行強盗は、彩香の耳元で大きく叫んだ。

あまりにも大きな声だったため、彩香は眉間にしわを寄せながら鼓膜が破れていないかと不安になったものの、それよりも突然の悲鳴の理由に興味がわき、首元のナイフに気をつけながら振り返る。

すると、銀行強盗の四つある手足全てが、先端から凍り始めていた。


(なっ!?)


彩香の内心の驚愕を余所に、その勢いは衰えることを知らず時折ピキピキと音を立てながら今なお浸食が続いている。

 彩香は好機と書いてチャンスとばかりに銀行強盗から離れる。

強盗の腕は凍結しているため、彩香が離れても引きとめる術はない。

あっさりと安全な場所まで離れることが出来た。

ここでようやく彩香は客観的に状況を視られる立場になり、改めて周りを見渡す。

周囲の人間は皆、目の前で起こる人体の怪奇現象に目を奪われて誰一人声を出さず、誰一人動かない。

いや、声を出せない、動けないと言った方が適切かもしれなかった。

それほどまでに誰もが皆、人間が凍るという現象に目を奪われていた。

 銀行強盗にはふざけるなと言われるかもしれないが、彩香はその光景を美しいと感じてすらいた。


「がああああああああああ!」


 冷気による痛みからか再び大声で叫ぶ。

そして数秒後。

とうとう、足全体が凍結し立っていられなくなったのか、銀行強盗は尻もちをついて後ろに倒れた。

しかし尚も凍結の浸食は続いている。

銀行強盗が倒れたその瞬間、まるで金縛りが解けたかのように皆が一様に動き始めた。


「…………」


 それと同時に、銀行強盗の身体は完全に全て凍りついた。

凍っていない場所がどこにもない、氷の彫像と化していた。

このまま美術館に展示してもおかしくない出来だと、彩香は少し感心していた。

 と、


「……原状回復」


 彩香は、先程から変わらない位置に座る男がそう呟いたのを再び耳にした。

同じ、小さな声だった。

他の人は誰も聞いてもおらず、皆一様に外に出る手段を探していた。

その瞬間、


「――っ!」


 彩香は言葉を失った。

再びのあり得ない現象――シャッターが音もなく一瞬のうちに消え去り、銀行強盗を覆っていた氷も水の一滴も残さずになくなった。

 まるで夢でも見ていたかのように――。

彩香は目を擦る。

しかし状況に一切の変化はない。

今目の前で起こったことは夢ではないのだ。

先程まではあったシャッターはなく、男を包んでいた美しい氷もない。

 全てが元に、刹那の間に戻ったのだ。


「と、突入!」


 外から警官の声が聞こえた。

恐らく今が突入のチャンスと考えたのだろう。

直後、大勢の警官が銀行内になだれ込み、ぐったりとして動かない銀行強盗を取り押さえた。

その手首にはすぐに手錠が巻き付くが、彩香は別に今やらなくても、と冷静に思った。

それよりも、彩香には気になることがあった。

もちろんそれは、待合席に座る男だ。


(私が人質にされてから呟いたのは『シャッター』『凍結』『原状回復』の三つ……)


 彩香はその言葉の全てが、怪現象とも呼べる現象を起こしていることに気が付いた。

シャッターが突然、何の前触れもなく閉まり、銀行強盗の手足が凍り始め、完全に凍り男が倒れると今度はシャッターが消え、最後に男を覆っていた氷までが跡形もなく消えた。


(この男……何者よ……)


 彩香はそう思い、男に近づく。

好奇心の塊と化した彩香がゆっくりと、男の元へと歩み寄る。

と、突然男が立ちあがった。

そして何の迷いもなく真っ直ぐ自動ドアへと向かう。


「逃がすか!」


 彩香はその後ろ姿を追う。

男が自動ドアを出てそそくさと逃げるように進んでいく。

それに合わせ彩香も歩く速さを上げる。

しかし、


「あ、人質の女性が出てきました!怪我はありませんか?人質にされて――」


「犯人はどんな男でしたか?シャッターが下りた後の状況は――」


「中では一体どんなやり取りが――」


「ええ!?」


 一瞬にして、瞬く間に彩香は報道陣に取り囲まれてしまった。

蟻の這い出る隙間もないという表現がこれ以上ないと言うほど当てはまっていた。

 無数のフラッシュと質問攻めに遭い、揉みくちゃにされる彩香。


「ちょ、やめ――誰だ今マイクを鼻の穴に突っ込んできた奴!」


 結局この後報道陣の相手をしても、直後から警察の事情聴取に付き合わされて、男を追うどころか、終電すら危うくなった彩香だった。



*****



 一方で、彩香を振り切ったようにも見えるひょろっとした男――神永智希はと言えば。


「振り込み、なかったな……」


 落胆し、道を歩きながら、そう呟いた。

 智希は今日、昨日助けた女性からお礼の入金があるかどうか確認するために銀行へ寄っていたのだ。

しかし生憎の銀行強盗。

ついていないにも程があった。

既に確認を終えて、振り込みがなかったと知った智希としてはさっさと帰りたかったので、人質にされていた女性を適当に助けたのだった。

助けるために言霊を使ったのでバレないよう可能な限り声は抑えていたが、その人質女性――彩香に感づかれた智希はそそくさと銀行を後にした。

彩香は智希の妙な行動を怪しみ、尾行しようとしていたがすぐに智希が気付き、外に出た。

 外に出てしまえば取材陣に彩香が囲まれ、尾行どころではなくなるであろうことも計算に入れていたのだ。


「ま、元より大した期待をしていたわけでもない。駄目で元々だ」


 智希はそう自分を納得させる。

本来ならば無くて当然の物。

そう自分に言い聞かせる。

 そして心を入れ替えた智希は――。


「……仕事するか、暇だし」


 そう言って、智希は霞が関へと向かうため、駅へと足を向けた。

しかしその足取りは、とても重かった。

人間誰しも、仕事などしたくないのである――。



*****



 その日の夜。

ニュースでは彩香が強盗を武力によって撃退したと報じられた。

彩香の平和な青春キャンパスライフはこうして幕を閉じた。


どーも、よねたにです。

この作品で三作目になります。

未だに文章が拙く、恥ずかしいな……やめときゃよかったかな……と思いつつも投稿してしまいました。

ジャンルは一応コメディーという事にさせていただきました。

そこまで暗い物語にしないようにと言う思いもあります。

現状、大まかな流れしか考えておらず、この先自分でもどうなるのか判りません(笑)

そんな作品ではありますが、興味を持って読んでいただければ幸いと思います。

では、また。

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