童話/名前
あるところに一人の少女がいました。
その少女は人と話すことが大好きでした。
町に出掛けては、通りすがる人に
「あなたはだぁれ?」
と問いかけていました。
ある日、鏡に映った自分を見て、咄嗟に
「あなたはだぁれ?」
と言ってみました。
返事がありません。
少女は、鏡に映った自分と話がしたいと思いました。
それから毎日鏡に映る自分に
「あなたはだぁれ?」
と問いかけるようになりました。
しかし、返事がありません。
来る日も来る日も、問いかけてみますが、一度も返事をもらえませんでした。
そして1ヶ月が経ちました。
いつものように問いかけると、ようやく返事が来ました。
「あなたはだぁれ?」
返事をもらえて嬉しくなりました。
しかし、少女は困りました。
名前を聞いたのに聞き返されたからです。
「きっと名前がわからないからずっと答えられなかったのね。」
と少女は思いました。
少女は、その子を知ってる人がいないか、町に行って聞いてみることにしました。
町に着き、通りかかった人に早速聞いてみました。
「私はだぁれ?」
しかし返答は予想していたものと遥かに違いました。
「きみは自分の名前を言わなかったじゃないか。」
少女は自分の名前がわからなくなってしまいました。
少女は家に帰り、閉じこもる生活を送りました。