表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ライスか、パンか【AI作品】

掲載日:2026/01/23

ライスか、パンか。


俺は店に入る前から悩んでいた。洋食店のドアの前。足が動かない。


彼女が先に入り、振り返る。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


嘘だ。ライスかパンか。それが問題だ。人生の分岐点のような気さえする。


「早く来てよ、お腹空いたよ」


彼女は笑う。明るい笑顔。俺も笑う。だが、心は笑っていない。


俺も入る。店内は混んでいる。家族連れ、カップル、学生。みんな、悩まずに食べている。


店員が近づいてくる。


「いらっしゃいませ。お席はこちらになります」


窓際の奥の席。


彼女が座る。俺も座る。テーブルに置かれたメニューを手に取る。


開く。


ハンバーグ定食。そして……。


ライスまたはパン。


お選びください。


「何にする?」


彼女が言う。彼女はもう決めている。早い。いつも早い。


「まだ、決めてない」


「え、いつもハンバーグでしょ?」


「うん、ハンバーグは決まってる」


問題はそこではない。ライスか、パンか。


言えない。言ったら笑われる。大学生にもなって、ライスかパンかで悩んでいる。


視線をメニューに戻す。ライスまたはパン。選べない。


なぜ?


ライス。米、水、炊く、蒸気、ふっくら。粒が立つ、つやつや、もっちり、噛むと甘い、和風。


パン。小麦粉、水、練る、発酵、焼く。ふわふわ、軽い、小麦の香ばしさ、バターの香り、洋風。


どっちがいい?


ライスは夕食のイメージ。炊きたてのご飯、湯気、茶碗、味噌汁、焼き魚、漬物。家族で囲む食卓、温かい、団欒。


パンは朝食のイメージ。トーストとコーヒー、バターとジャム、目玉焼きとベーコン。明るい朝、窓から光、新聞、クラシック音楽、平和な朝。


だが、今は昼だ。ハンバーグ定食。洋風のハンバーグ。デミグラスソース。洋食。ならばパンか。


いや、待て。ハンバーグは肉だ。挽肉。肉には米が合う。日本人の俺には、ライスが合う。白米とハンバーグ。それに、デミグラスソースもご飯に合う。


ライスか、パンか。


哲学科の俺は、選択について学んだ。サルトル。「実存は本質に先立つ」。人間には、あらかじめ決められた本質などない。選択することで、自分を作る。


そして、サルトルは言った。「人間は自由の刑に処されている」。


選ばなければならない。逃げられない。


ライスを選べば、パンは消える。 パンを選べば、ライスは消える。


可能性の消滅。


店員がグラスを二つ置く。俺は手を伸ばす。無意識に。だが、頭の中はまだライスかパンかで迷っている最中だ。


「あ」


俺はグラスを倒してしまった。


「「あ」」


彼女も店員も声を上げる。店員が慌ててナプキンを持ってくる。俺も拭く。だが、もう遅い。股間が濡れている。


最悪だ。


「大丈夫?」


「トイレ、行ってくる」


「うん、じゃあ先に注文しとくね」


彼女が言う。


「あ、ちょっと待って…」


だが、もう言えない。股間が濡れている。恥ずかしい。早くトイレに行かないと。


「すぐ戻る」


俺は立ち上がる。股間を隠すように前かがみになり、トイレに向かう。


* * *


一番奥の個室に入り、鍵をかける。


便座に座る。


ズボンが乾くまで、時間がかかるだろう。


ライスか、パンか。


まだ、決まらない。


個室は静かだ。外の音が遠い。


頭の中は騒がしい。


ライスか、パンか。


俺は便座に座ったまま、ズボンの染みを見る。まだ乾いていない。


なぜ、こぼした?


集中できなかったから。ライスかパンか。それを考えていたから。


選べない。


選ぶことが怖い。


選ぶことは、片方を捨てることだ。ライスを選べば、パンは消える。パンを選べば、ライスは消える。可能性が失われる。もう、戻れない。


もっと深く考えよう。ライスとは何か。パンとは何か。


ライス。


ライスは、日本だ。米。白米。和食。


明治維新。古いものを残しながら、新しくする。天皇を残した。武士は廃止した。だが、武士道は残った。精神は残った。


西洋の技術を導入した。鉄道。電信。工場。


だが、日本は日本のまま。天皇がいる。神道がある。和食がある。米がある。


ライスは、維新だ。


再生。秩序。


いや、待て。


パン。


パンは、西洋だ。フランスだ。


マリー・アントワネット。「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」


ルソーの『告白』に出てくる別人の言葉が、いつの間にか彼女のものにされた。歴史的捏造。だが、革命のシンボルとしては機能した。真実ではなく、物語が歴史を作る。


民衆の怒り。飢餓。貧困。格差。


フランス革命。バスティーユ襲撃。民衆が立ち上がる。王政を倒す。


ギロチン。断頭台。


革命。古い秩序を壊す。破壊。新しい秩序を作る。共和制。自由、平等、友愛。だが、血が流れる。


パンは、革命だ。


破壊。自由。


キルケゴール。『死に至る病』。絶望。


「自分自身であることを欲しないこと」。あるいは、「自分自身であることを欲すること」。どちらも絶望。


俺は、どちらだ?


ライスを選びたいのか? パンを選びたいのか? それとも、選びたくないのか?


わからない。


俺は便座に座ったまま、天井を見上げる。白い天井。蛍光灯。何も答えはない。神はいない。


ライスか、パンか。


自分で決めるしかない。


ライスか、パンか。


維新か、革命か。


維新は、再生だ。古いものを残す。天皇を残した。形式を残した。だが、変えた。近代化した。


革命は、破壊だ。すべてを壊す。ゼロから作り直す。フランスは、王を殺した。貴族を殺した。血で血を洗った。だが、自由を手に入れた。


ライスは、秩序だ。


パンは、自由だ。


秩序か、自由か。


秩序を選べば、安定する。ルールがある。従えばいい。楽だ、だが窮屈だ。我慢がある。


自由を選べば、何でもできる。制約がない。だが孤独だ。自分で決めなければならない。責任がある。重い。


ライスか、パンか。


俺は、どちらを選ぶ?


ライス。維新。再生。秩序。安定。我慢。


パン。革命。破壊。自由。孤独。責任。


どちらが、俺だ?


俺は、哲学科の学生だ。考え、疑う。既存の価値観を問い直す批判的思考。それは革命に近い。思想の革命。ならば、パンか。


いや, 待て。


俺は、日本人だ。米を食べて育った。祖父母の田んぼ。夏休み。稲刈りの手伝い。新米。母が炊いたご飯。朝食。夕食。毎日。


それが、俺の根っこだ。俺の土台だ。アイデンティティ。変えられない。ならば、ライスか。


ライスか、パンか。


維新か、革命か。


再生か、破壊か。


秩序か、自由か。


俺は、どちらを選ぶ?


ライスを選べば、俺は維新家だ。既存の秩序を活かす。少しずつ変える。調和を保つ。だが、窮屈だ。我慢が多い。


パンを選べば、俺は革命家だ。既存の秩序を壊す。新しい価値を作る。自由に生きる。だが、孤独だ。責任が重い。


どちらが、俺だ?


どちらが、俺の本質だ?


いや、待て。実存は本質に先立つ。本質などない。選択が本質を作る。


ならば、今、選べ。


……ライスだ。


俺は、ライスを選ぶ。


なぜか。


わからない。だが決めた。ライス。維新。再生。秩序。


理由はない。いやある。俺は日本人だ。米を食べて育った。それが理由だ。


俺は、革命家ではない。すべてを壊す勇気はない。既存のものを活かしながら、少しずつ変えていく。それが俺に合っている。


ライスだ。


決めた。もう迷わない。


俺は立ち上がる。ズボンは、まだ少し湿っている。だが、もういい。彼女が待っている。


手を洗う。石鹸。泡。水。鏡を見る。顔色が悪い。


水で顔を洗う。冷たい。目が覚める。


ライスだ。


もう、迷わない。


* * *


店内に戻る。音が大きくなる。人の声。笑い声。食器の音。


彼女が待っている。


席が見える。窓際。彼女の背中。スマホを見ている。


もう決めたのか。彼女の性格なら、もう注文しているかもしれない。まさか俺の分も。


不安になる。


もし、彼女がパンを頼んでいたら?


だが、俺はもう決めた。ライスだ。店員に言って変更してもらおう。


席に向かう。一歩。


時間が遅くなる。


二歩。


さらに遅くなる。


三歩。


この一歩が、永遠に続く。


ライスか、パンか。維新か、革命か。再生か、破壊か。秩序か、自由か。


すべてが、この一歩に詰まっている。


すべてが、この選択にかかっている。


いや、違う。何もかかっていない。ただの昼食だ。


だが、それだけではない。俺にとっては。


四歩。五歩。六歩。


彼女の横を通る。テーブルの角を曲がる。


席に着く。


彼女が笑顔で微笑んでいる。


「遅かったね」


「ごめん」


「大丈夫?ズボン」


「うん、まあ」


テーブルを見る。


料理が来ている。


もう来ていたのか。


彼女の前に、皿がある。


ハンバーグ定食。デミグラスソース。目玉焼き。サラダ。


そして、パン。


丸い小さなパンが、二つ。


俺の前にも、皿がある。


同じハンバーグ定食。


そして、パン。


二つとも、パン。


「あなたの分も頼んでおいたよ」


彼女が笑顔で言う。


「パン。あなた、いつもパンだから」


いつも?


いや、そんなことはない。俺はライスも食べる。いや、むしろライスが多い。日本人だから。家では毎日ご飯だ。


だが、彼女は、俺がパン派だと思っている。


なぜ?


過去を思い出す。デート。洋食店。カフェ。レストラン。


俺は何を食べたきた?


パン。


サンドイッチ。トースト。パスタ。ピザ。


そういえば、彼女といるときは洋食が多い。


彼女が洋食が好きだから。イタリアン、フレンチ、カフェ、おしゃれな店。


俺が合わせていた。気づかないうちに、無意識に。「何食べたい?」「何でもいいよ」。彼女の好みに合わせる、いつも。


彼女は、俺をパン派だと思っている。だが間違っている。俺のせいだ。俺が合わせたから。俺が自分の意思を示さなかったから。


俺はライスを選んだ。


トイレで、個室で、悩んで考えて。フランス革命と明治維新。ライスとパン。維新と革命。秩序と自由。


そして決断した。


ライス。維新。再生。秩序。日本。


だが、パンが目の前にある。


革命。破壊。自由。フランス。


パンを選べばされた。


いや違う。


彼女が選んだ。俺の代わりに。善意で。俺の意思を無視して。いや、無視ではない。彼女は知らなかった。俺がライスを選んだことを。俺が悩んでいたことを。


彼女は、善意で選んだ。俺のために。「あなた、いつもパンだから」


だが、俺の意思ではない。


革命だ。


俺の秩序が壊された。俺の選択が奪われた。俺の決断が無効になった。


革命。


外部からの力。予期しない変化。不可逆。戻れない。


革命。


俺の維新は、失敗した。


「革命か」


俺は呟いた。


彼女が目を丸くした。


「はぁ?」


パンが目の前にある。


食べられるだけマシか…。


(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ