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第八話、燃えるエルリム


「南西の通りに兵を集めろ! 弓矢隊、矢をかき集め、広場のドワーフどもの背後に回れ! 商店街の兵を下げろ。役場の兵と合流させろ!」

 フロスは矢継ぎ早に指示を出した。

 声が大きい。軍を指揮する者にとって、それは大切なことだった。フロスは子供の頃から声が大きかった。迷子になっても泣き声ですぐにどこにいるのかわかったと、両親から聞いている。

 ドワーフの動きを止め、住民の避難を進め、負傷者の避難準備も進めた。ドワーフは住民を襲わない、負傷者もおそらく見逃してくれるだろう。だが武器を持つもの、戦う者には容赦はしない。あちこちで兵が殺されていた。中でもドロワーフの働きがすさまじく、前に立つ兵はことごとくやられた。先頭に立ち、兵を五十人ほど引きつれ奇声と共にハンマーを振るった。

 住民と負傷兵を逃しながら、フロスはドロワーフを倒す計画を進めていた。兵の数はこちらが上、一人突出しているドロワーフさえ倒せば、まだ勝ち目はある、そう考えていた。

 町の地形はある程度理解していた。ドロワーフを狭い路地に誘い込み、前後から挟み撃ち、建物の中にも兵を伏せさせ、包囲し殲滅しようと考えていた。

 同時に様々な報告が舞い込んでくる。逃げ出す兵も出てきた。住民の中から共に戦おうとする者も現れた。傭兵団が町の商店を襲っているという報告もあった。間違った指示も正しい指示も出している。迷っている暇は無い。指示を出し続けなければ軍は死ぬ。フロスは指示を出し続けた。

 フロスは背後から圧力を感じた。

 斧槍を持った一団が、兵の中を斬り込んでくる。兵をかためぶつけた。止まらない。逃げ場を探した。今、指揮官であるフロスがうたれればこの戦いは終わる。

 逃げようとしたが、少数のドワーフがいくつかある逃げ道をふさいでいた。一番広い道を選択し、兵に攻撃を命じた。ぶつかる。ドワーフの兵は斧と鎧兜で攻撃を受け、兵を止めた。抜くことができない。押し合いになる。逃げれない。斧槍部隊が人間の兵を切り捨てながら一直線にフロスの元に近づいてくる。フロスは剣を抜いた。声を上げ兵を鼓舞した。止まらない。目の前に来た。フロスは首をはねられた。



 指揮官を失うと、人間の軍は統率を失った。

 それでもいくつか塊になって抵抗した。そういう兵をドワーフは徹底的に潰した。後々やっかいになる、そう考えたからだ。逃げる兵は放置した。略奪を働く傭兵団は気に入らないから殺した。建物に隠れて抵抗しようとする者もいたが、ドワーフが街に火を放ち始めると、逃げた。

 エルリムの町は燃えた。





「なぜ火をつけるのだ」

 エルリム陥落の報を受け、バリイの領主であるイグリットが最初に発した言葉がそれである。

「エルバの村でも同じことをしていますが、正直よくわからないのです」

 重臣が答えた。

「一部崩れたとはいえ、エルリムの壁は頑強だ。食料や建物、エルリムの財産が大量にある。そのまま住むことだってできる。なぜ燃やすのだ」

「なにぶん、ドワーフのやることですから」

「やつら、領土にたいする野心が無いのか」

「それなら、なぜ攻めてきたのでしょうか」

「わからん、目的があるのか、それともただ単に暴れているだけなのか」

「不安をあおることが目的なのでは、あるいは、住民を避難させ、食糧不足を狙っているのでは」

 領軍の将であるリボルが言った。

「不安は確かに広がっていますが、それと同時に、村や町を焼き払ったドワーフに対する怒りの声も広がっています。避難民が各地に散っていますが、収穫を終えたばかりですから、今すぐに、食糧事情が悪くなるほどではないでしょう」

 バリイの城周辺にも避難した住人が押し寄せている。軍のテントを建てそこに収容している。各地で同様のキャンプが張られている。

「奴ら一体何をやりたいのか」

 首をかしげた。

「それよりも、今は今後の対応のことを」

「そうだったな。エルリムが抜かれたのだ。兵の犠牲はどれくらいでたのだ」

「四百ほど討ち取られました。負傷者はその倍、防衛の指揮を任せていたフロスも討ち取られました」

 リボルは唇を噛みしめた。

「そうか、フロスもか、ドワーフの方はどうだ」

「百もいっていないかと」

「倍ほどの数で、石壁がありながら、それだけの犠牲が出たか。人とドワーフ、それほどの力の差があるのか」

 イグリットはこめかみをもんだ。

「強さもありますが、ドワーフの奴らは、ミスリル合金の鎧を着けていますので、死ににくいのです。矢も魔法も効果が薄く、接近戦に持ち込むしか無く、どうしてもこちらの犠牲が増えてしまいます」

 斧を持ったドワーフに近づくな。昔から言われている格言である。

「奴らの動きはどうなっている」

「ゆっくりとですが、西に、フエナ平原近くまで軍を進めています」

「他に兵はいないのか」

「ドワーフの本拠地の山で兵の動きがあるようで、荷車や、武具など、運搬の準備を進めています」

「増えると言うことだな」

「その通りかと」

「西に進めているとすると、やはりオラム砦かサロベルかそのあたりを狙っているわけか」

「戦略的に考えれば、サロベルの町を無視して、オラム砦を攻める可能性が高いのですが、やつらのことですから、先にサロベルの町を攻め燃やしてしまうかもしれません」

「サロベルはあまり守りに適しているとはいえんな」

 サロベルは近くに湖があり、漁業が盛んではあるが、人口はそれほど多くなく、木の柵程度のものしかない。

「ですから、その前に叩いてしまわなければなりません」

「できるのか」

「私が出ます。バリイ騎兵隊の力を奴らに見せてやります。平原であれば騎馬隊の力が遺憾なく発揮できます」

「おお、そうか、行ってくれるのか、それは頼もしい」

「おまかせください」

 リボルは執務室から出て行った。

「ギャバロ、国王に援軍を要請しようと思う」

 リボルが出て行き、しばらく思案げな顔をした後、イグリットが家臣のギャバロに言った。

「よろしいのですか。国王に借りを作ることになりますが」

 バリイの領主であるイグリットには、相応の権限が与えられている。国王の臣下の中には王権の強化を図っている者もおり、なにかと口を出してきた。

「しかたあるまい。領地が無くなってしまうよりましだ。国王なら、他の領主に援軍を求めることもできる」

 王の命令が無い限り、トレビプト内の各領主は自国領以外に、勝手に軍を派遣することを禁じられている。

「リボル将軍がいますが」

「勝てると思うか」

「それは、なんとも」

 困った顔をした。

「負けてからでは遅いのだ。リボルが負ければいよいよ後が無い」

「しかし、リボル将軍にはなんと言えば」

 リボルがいた時に言えばいいのに、そんな顔をした。

「リボルには国王が心配して兵を押しつけてきたとでも言っておけばいい」

 それまで、リボルにはがんばって貰わねば、イグリットはつぶやいた。



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