第六話、エルリムの壁内、斧槍
南の壁が壊されたと聞き、指揮官であるフロスは兵とともに南に移動した。
「東はおとりか」
フロスはつぶやいた。東の門でドロワーフがハンマーで扉を叩く音がする。
ドワーフの兵が半数ほど南に移動し始めた。
残っているドワーフの兵の動きは鈍かった。人間の兵の様子を見ながら無理にのぼろうとはしなかった。ただ、ドロワーフだけは元気に扉をハンマーで叩いている。
石壁を作ったのはドワーフであると言う報告は受けていた。だからといってどうしようもなかった。石壁は信用できないからといって、石壁を使わずエルリムを守ることは不可能だった。ある程度壊されるという前提で、フロスは補修の部隊と壁の内側にも守りの部隊を用意しておいた。
フロスは東の壁の指揮を部下に任せ、やぶられた南の壁へ急いだ。
くずれた南の壁にはドワーフが屈んで通れる程度の穴があいていた。すぐ近くに大きな木があり、それを避けながら、穴から這い出た。その穴を広げようとドワーフの兵がハンマーを振るい石を削り、瓦礫をどかしていた。
崩れた石壁から入りこもうとするドワーフを、人間の兵が大盾を手に押し返そうとしていた。
ドワーフは斧を手に、斬り込んだ。人間の兵は大盾の影に隠れながら、槍で突いた。ドワーフは鎧でそれを受け止め、斧で切り返す。盾は木製で、二度三度、ドワーフが斧で切りつけると盾は壊れた。すぐに別の盾が押し返してくる。槍が四方から飛び出す。鎧で受ける。切り返す。
ドワーフの斧はミスリル合金ではなく鋼で、できている。ミスリル合金は硬度と耐久性が高くよく切れるが、何度か使うと切れ味が落ちるため、使い続けると鋼の斧との差はそれほどない。補修の効く防具とは違い、武器は消耗品であると考えているため、基本的に、ドワーフの使う武器は鋼の武器であった。
「密集して押し返せー! 奴らを中に入れるな! 奴らは女子供も町の人間を皆殺しにするぞ! 火を放ちすべてを灰にするぞ! エルリムを守るんだ!」
指揮官のフロスが兵を鼓舞した。
盾の圧力が増える。押す。盾の隙間から槍が飛び出しドワーフの体を少しずつ削り取っていく。盾ごと切られた人間の腕が転がっている。人もドワーフも死んでいる。血の臭いが吹きだまる。
ドワーフたちは押し返される。盾を切り裂いても、また別の盾が現れカバーする。なれてきたのか連携ができている。ドワーフたちにも疲労の色があった。
「斧槍隊いくぞ」
先端に槍と斧がついた長柄武器を持ったドワーフの部隊が前に出た。
先頭に立つ灰色のひげのドワーフは自身の倍ぐらいの長さがある斧槍を、盾の壁へ、高々と上げ飛び込んだ。振り下ろす。盾を切り裂き、その下の腕をも切り落とした。斧槍で突く。人間の兵の胸に突き刺さる。新たな盾の壁ができる前に、こじ開けるように何度か突きを入れる。ドワーフの王ドルフの次男、ダレムである。
斧槍を持ったドワーフ兵が盾をはがすように切りつけながら、できた隙間に斧槍を突き入れる。斧では突くという動きができないため、どうしても攻撃が少し遅れてしまうが、斧槍は盾を壊しあるいは崩し、その後、突くことができた。大盾の連携が崩れていく。
斧槍部隊を先頭に、後を続くドワーフの兵が左右に広がりながら、徐々に入り込んでいく。
「下がれ。立て直すぞ!」
フロスは兵を下げた。ドワーフは逃げる兵を何人か斬り殺したがその数はわずかだった。足が遅いため、追い打ちを掛けても逃げる人間に追いつけなかった。




