第五十九話、王の斧槍
「国軍の連中は、何を考えているのだ」
アリゾム山山岳部隊のデノタスは胸の傷を押さえ顔をしかめた。
「何度も、こちらに来ていただけるように使者を出したのですが、無用だと断るばかりです」
エンペドはあきれた表情を見せた。
「それで何で山の砦を攻めているんだ」
「燃やした砦をドワーフから取り返そうとしているみたいです」
「何でそんなことを国軍はしようとしているんだ」
「さぁ、わかりません」
「手柄を焦っているのか」
「いえ、なんというか、手柄を焦っているという感じではなかったですね。どこかのんびりとした雰囲気というか、ただ、こちらのことを警戒しているようでした」
「ドワーフじゃなくて、俺たちをか」
デノタスは驚いた表情を見せた。
「ええ、そんな気がしました」
「訳がわからんな」
デノタスは顔をしかめた。
「しかし、お頭、取り返せるなら、それはそれでいいんじゃないんですか。多少は犠牲は出るでしょうが」
マッチョムが言った。
「隊長と言え。柵や建物を焼いたとはいえ、道は一本しかなく、背後は崖だ。力づくで取り返そうとすればかなりの犠牲が出る。すぐには落ちないだろう。その間に、砦の外にいるドワーフに背後を襲われることになる。そもそもあそこは千人の兵が立てこもれるような場所じゃない」
「それは、だめですね」
「なんとかしないと、負けちまうぞ」
デノタスは傷を押さえながらいった。
国軍
ダナトリルがアリゾム山山頂を攻めていると聞き、ペックスも驚いていた。
「無理に攻めるなと言っておいたはずなのだが、人選を誤ったか」
ダナトリルは臆病な男で、このような行動を起こすとは思ってもいなかった。アリゾム山に関しては膠着状態に持ち込み、その間に牧場跡のドワーフを片付ける。ペックスはそう考えていた。
「手柄でも焦ったんですかね」
「利権か。アリゾム山の利権に欲を出したのかもしれないな」
確か名ばかりの名家で、懐事情はそれなりに厳しかったはずだ。
「派手に負けたりしたら、士気が落ちますね」
「そうだな。東側からドワーフの援軍、西のアリゾム山では国軍の敗北、追い込まれてしまうな」
「どうします。引くようにアリゾム山に早馬を飛ばしますか」
「手遅れかもしれんが、まぁ一応伝令は出しておくか、それより、問題はこちらの方だ」
三日ほど夜間以外は休み無く攻めているが、牧場跡は落ちてはいなかった。最初の頃は鎌槍の働きに翻弄されていたドワーフだったが、徐々に慣れていき、あまり効果は無くなっていた。人間の兵の犠牲はずいぶん増えていた。
「じわじわとですが追い込んでますよ。特に東側はもうすぐ崩れそうです」
牧場跡のドワーフを北と東と西から攻めていた。南は傾斜しており攻めにくいため、兵を配置していない。
「倒せそうな感じはするが、果たして倒してしまっていいのかどうか。それがわからんな」
ドワーフの王を倒した後の和平交渉の心配をしていた。
「倒せなかった場合どうなりますか」
「やがて、二万のドワーフが駆けつけてきて、我々を蹴散らし、ドワーフとドルフ王はそのまま西へ、アリゾム山へ移動し、そこに新たな国を建てることになるだろうな」
「では、倒すしかないのでは」
「そうだよな」
何度もこの話をしているが、すっきりしなかった。
牧場跡
スルガムヌは東側の壁を攻めていた。
「おら! 釣り上げろ!」
スルガムヌは鎌槍をドワーフの鎧にひっかけ、引っ張った。他にも数本、ドワーフの鎧に鎌槍が引っかかっている。ドワーフ一人に対して三人の兵が対応するそんな戦い方をしていた。
引っかけられたドワーフは、スルガムヌの鎌槍を掴み斧でたたき折る。
鎌槍を折られたスルガムヌは、おちていた槍を拾い、鎌槍を引っかけられ身動きとれないドワーフを突いた。
口ひげの辺りに刺さった。
ドワーフはひげを生やしているため兜の面にどうしても隙間ができてしまう。そこを突いた。
頬の肉を貫き歯茎に槍の刃が突き刺さる。
ドワーフは言葉にならない悲鳴を出した。
ドワーフはバランスを崩し、鎌槍に引きずられ防壁の外へ落ちた。
人間側の兵が押していた。
「行くぞ!」
防壁は厚めに作られてはいるが高さはそれほどではない。スルガムヌは兵を率い、防壁をよじ登った。
押し込みながら、味方の兵を増やしていく。
防壁に、よじ登ってくる人間の数が増え、東の壁のドワーフの守りが大きく崩れた。人間がドワーフの陣になだれ込む。
血しぶきが舞った。
人の体がいくつか飛んだ。
一人のドワーフがやった。
ミスリルの鎖帷子に年季の入ったミスリルの兜、右手には斧槍を持っている。ドワーフの王、ドルフである。刃が血に濡れている。
槍を持った人間の兵が襲いかかる。
ドルフは、槍を斧槍ではじきながら、斧槍を振るった。
腕が飛んだ。
もう一度振ると、胴が裂かれ、その後、首が飛んだ。
「皆の者、押し返すぞ!」
ドルフが叫ぶと、ドワーフの喚声が上がった。
「やべっ」
スルガムヌは兵に引くよう命じた。
ドルフの活躍で、人間の兵が防壁の上からたたき出された。
「強いとは聞いていたが、あれほどとは思いませんでしたよ」
グルミヌはドルフを見ながら言った。
「なんとか動けた。それだけだ」
ドルフは斧槍に、もたれかかりながら、肩で息をしている。
「私も手伝いたいところですが、武術の方は、からっきしでしてね」
「そういうことなら、後方でのんびり待機していた方がよかったのではないか」
「はっはっ、この戦の責任、私にもあるわけです。後方で日和見というのは、だめでしょう」
「ほう、自覚があるのだな、自分に責任があると」
ドワーフの王ドルフは人間に頭を下げ支援を要請するつもりだった。それに反対したのがグルミヌである。アリゾム山で鉱物を採掘することができれば、商人から金を借りることもできる。五年でドワーフの国を再興できる。そう言って他のドワーフを説得した。それはとても魅力的な考えではあった。
「ええ、もちろんです」
いざとなれば、自分も責任を取る。そう考えているのだろう。そういうところもやっかいなのだ。
「なぜ、そこまでする」
「新しい鉱山を開きたい。ドワーフであるならば、一度は思うことです。それだけですよ」
笑った。
人よりも長く生きるドワーフは、欲というものが刹那的なものであるということを知っている。財を蓄えることなど、ひげが白くなり成熟したドワーフにさして響くものではない。カネなど、財布がふくれて重いだけだ。だが夢は違う。ドワーフの長い生をかける価値があるものだ。鉱山に住むドワーフにとって新たな鉱山の開発は、ひどくそそられるものがあった。
「まったくやっかいな」
ドルフは水を飲み戰の指揮に戻った。




