第五十五話、ドワーフの戦士
「火が消えたのか」
フエネ平原南に向かっていた国軍の指揮官ペックスは報告を聞き、驚いた表情を見せた。
「完全に消えたというわけではありませんが、森に川ができています。油を投げ込み、火を強めていますが、水が木をなぎ倒してしまった地域もありますので、なかなか難しいかと」
モディオルからの伝令は答えた。
「ドワーフの通り道ができたというわけだな」
「水でぬかるんでいますし、倒木もありますから、すぐには無理でしょうが、そうなります」
「わかった。少し考える。時間をくれ」
伝令はペックスの営舎から出た。
「やばいなぁ」
ペックスは天を仰いだ。
「ドワーフの援軍が来るのか」
ザレクスは顔をしかめた。
「ええ、川の水をせき止め、水を燃えている森に流し込んだようです。火が一部消え、通行可能になるようです」
ベネドは言った。
「戦況がひっくり返るな」
「ええ、かなり厳しくなるかと」
最悪、二万のドワーフが来る。
「話し合いで何とかして貰いたいところだな」
「話し合いですか」
「戦いたいか」
「いやですね。ですが厳しいでしょう。国軍まで出てますからね」
「メンツがつぶれるか。もし、話し合いが成功して、休戦するとしたら、アリゾム山はどうなるんだ」
「ドワーフは、なんとしてでも領有権を主張するでしょう。他に行く場所がありませんからね。バリイ領は渡さないだろうし、おそらく国も一枚噛んでくるでしょう。まとまりますかねぇこれ」
ベネドは頭をかいた。
「難しいだろう。話し合っている最中にドワーフの援軍も来る。ドワーフの援軍とにらみ合いながらの話し合い、バリイ領も国も、大幅な譲歩を認めざるを得なくなる」
「ドワーフの一人勝ちということになりますね」
「それをわかってて、休戦を持ちかけるのか。厳しいな」
「背後に二万のドワーフがいますからね」
「そうだな、無条件でアリゾム山を渡すしかないのか。賠償金ぐらいほしいところだが、それも難しいだろうな。森は焼かれるわ、領地は取られるわ、あげくの果てに山が噴火。バリイ領、詰むんじゃないのか」
ザレクスは暗い顔をした。
「バリイ領だけの問題じゃないですよ。国軍も関わっていますからね。おそらくアリゾム山の鉱山狙いでしょうが、相当出費がかさんだはずです。ただじゃ帰れんでしょう」
「ここまで出張っておいて、ドワーフに負けて山を取られましたじゃあ。さすがに困るよな」
「とすると、援軍が森を抜け出る前にドワーフの王を倒す。バリイ領と国軍の選択肢は、そうなりますかね」
「そうなると、一体どれだけの人間が死ぬか」
「どちらも追い込まれていますからね」
「ドワーフは、王が死んだらどうなるんだ」
「王の長男が跡を継ぐことになるんじゃないですか」
ベネドは首をかしげた。ドワーフの王政についてはよく知らない。
「確か山に軟禁されていたよな」
「ええ、戦争に反対していたとか」
「じゃあ、今の王が死ねば、反戦派の長男が跡を継ぐかもしれないってわけか」
「かもしれません」
「腹心が指揮を執る可能性もあるな。王の敵を取るとか言って、戦争を続けるかもしれん」
「そうなると、泥沼ですね」
「そこの、フエネ平原北にいる王の次男はどうなる」
「当然邪魔ですね。主戦派だし」
「やらなきゃならんか」
「ええ、今のところ王の次男が降伏しそうに無さそうですから、生かしておいても意味はありません。再びあそこに集まられでも、やっかいなことになりますから、できるだけ早く殺した方がいいですね」
「そうなるよなぁ」
ザレクスは深々とため息をついた。
フエネ平原北のドワーフの陣は、包囲されていた。人間とリザードマンの兵がゆっくりと近づいていた。
矢を警戒して、ダレムとドロワーフはわずかに残った壁に身を隠していた。
ダレムは最初から、ここを守りここで死ぬと決めていた。だからこそ、兵をすりつぶすような戦いができた。ドロワーフがなぜここに残ったのか、わからないが、それを今更聞いたところで意味が無い。
怪我をして動けなくなった兵は、人間が来たら降伏をするよう命じてあるが、人間側がそれを受けるかどうかは微妙だと思っていた。
「そろそろ行くか」
人間の歩兵が盾を構え近づいてきていた。その後に大型のリザードマンの部隊、騎馬隊もいる。
「おう」
ドロワーフはハンマーを肩に担いだ。
二人が出ようとすると、怪我をして動けないはずのドワーフが何人か立ち上がっていた。
ダレムとドロワーフは顔を見合わせ笑い声を上げた。
ドワーフたちは、戦った。
ダレムとドロワーフが戦死したという報をうけたドワーフの王ドルフは、人払いをし一人営舎に籠もった。
「間に合わなかったのか」
ハイゼイツは顔を両手で覆った。
「奴らが自分で選んだ道だ。あんたのせいじゃねぇよ」
メロシカムとトンペコがいた。フエネ平原の陣を脱出した後、林の中を北上し、ハイゼイツの陣にたどり着いた。その後、ダレムとドロワーフが死んだという報を受けた。
「んで、どうするんだ。東の森の火事は一部消すことに成功したんだろう」
「ああ、だが、本隊に援軍がつくまで、しばらくかかる。人間はその前に勝負をつけようとするだろう」
「その前に、合流しようと考えているんだな」
「そうだ。今度は遅れない」
ハイゼイツは険しい顔をした。
「だが、そうは簡単にはいかないだろう。ここにいる兵は千かそこらしかいない。装備もいいとは言えない」
早く移動することを重要視していたため、軽装備の者が多かった。フエネ平原の陣に合流するだけならそれでよかったかもしれないが、国軍の参加もあり、状況が変わっている。
「それでもいくしかない。ここでじっとしていても、意味は無い」
「突っ切ったところで、フエネ平原を南下しなければならない。騎馬隊の餌食になるぜ」
背が低く、手足が短いドワーフにとって、馬上からの攻撃は苦手だった。
「ではどうしろと」
「兵を休ませろ。もうフエネ平原北に陣は無い。南下するだけの兵力も無い。なら、兵を休ませ、兵力を温存するしかない」
「なんと無力な」
ハイゼイツは歯がみした。




