第五十四話、道
ザレクスの父ジダトレは、北から来るハイゼイツ率いるドワーフの援軍相手に国軍とともに守りを固めていた。ハイゼイツの猛攻に少し押し込められていたが、何とか耐えていた。
西、アリゾム山にも国軍は兵千を送った。
ザレクスは、フエネ平原北のドワーフの陣への攻撃は、少し待つように命じられていた。
ドルフの元へ、国からの使者が来た。
ドルフは会うことにした。
前と同じような内容で、降伏を促していた。
断ると、今ならまだ助かる命がありますよと、使者はいった。
ダレムのことを言っているのだろう。
ドルフは激高し「命を惜しむドワーフの戦士などおらん!」と席を立った。
雨はやんだが、東の森周辺は、ひどい湿気と熱気だった。雨の所為で火勢は落ちたが、森はまだ燃えており、大量の煙を吹き出していた。
「煙がひどいな」
国軍の指揮官モディオルは目を細めた。風向きによって、煙が襲いかかってくる。
「モディオル様、森から水がしみ出ています」
兵が知らせてきた。
「どういうことだ」
モディオルは、兵に案内された場所に移動した。
火に焼き尽くされ、炭となり倒れた木々の奥から、大量の水がしみ出していた。
「昨日の、雨か」
首をかしげた。そこまで激しい雨ではなかった。
兵が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「大変です。森の中で川ができています」
「川だと」
焼けている森の中から、南の草原に向けて、何本か川ができていた。水は灰色に濁り、炭化した木々が流れていた。
「奴ら、水をせき止めていたのか」
昨日の雨で、森に川ができるようなことはない。考えられるとしたら、ドワーフが、どこかで川の水をせき止めておいて、雨で増水したところで堰を切り、水を森に流した。
「まずいぞ」
森は大量の煙を吹き出していた。
「なんとか、道はできそうだな」
高台から、ドワーフのガロムは森の様子を見ていた。まだ森は燃えている。だが、火が消えている場所があった。いくつかある川の水をせき止め、雨が降って増水したところで一度に堰を切った。水がどこに流れ込むか、賭のようなものであった。
「間に合ってくれればいいが」
ガロムは目を細めた。
アリゾム山山岳部隊は山の谷間に隠れるように潜んでいた。
「あー、くそ、やられちまったぜ」
デノタスは包帯を巻いた右胸を押さえながら言った。ゴキシンに刺された傷は、深く、肺にまで達していた。デノタスは意識を失い、三日ほど寝込んだ。止血はしたが身動きは取れない。
「これからどうしますか」
副指揮官のエンペドが言った。
「兵の指揮はエンペド、お前が取れ、お前が死んだら、マッチョムだ」
「わかりました」
「奴らは今何をしている」
「頭の行方を捜しています」
マッチョムが言った。
「隊長と言え、他は」
「私たちが燃やした山頂の砦を再建しているようです」
「あそこか、まぁ、今のところ放っておいてもいいだろう。他は」
「国軍の援軍が千人ほど来ているようです」
「ようやく動いたか、だが、バリイ領の兵と合わせても、千二百程度か。ドワーフは五百は、いる。うまく策を練らないと、返り討ちに遭うぞ。援軍の指揮官をここに呼んできてくれ」
「わかりました」
「山か、いやだなぁ」
ダナトリルは、のろのろと進んでいた。国軍の指揮官として千人の兵を率いアリゾム山に向かっていた。途中、スプデイルいう指揮官が率いる領軍の歩兵二百が麓にいたので、こんなとこにいても仕方がないじゃないかと、併合した。
「ダナトリル様、もう少し急いだ方がよろしいのでは」
「慌てることはないよ。山には、ドワーフの王様がいるわけでもないんだしさ、適当に攻めてるふりして、ペックス様が、ドワーフの王様をやっつけてくれるまで待てばいいんだよ」
「そういうわけには参りませんよ。我らとて手柄を立てねばなりません」
「だが、モーバブ、ペックス様は無理に攻めなくていいといっていたぞ」
「確かにそう言っていましたが、お家のためにも、ここは、やはり手柄を立てておくのがよろしいかと」
モーバブはダナトリルの家臣である。立派な家柄だが落ちぶれつつあった。
ダナトリルは、小太りな顎を撫でて。
「今更、ドワーフ倒したって手柄にはならないよ。もう戦の趨勢は決まっているんだからさ、僕らの仕事は、アリゾム山を押さえておくことだよ。ぶっちゃけ、バリイ領から、アリゾム山を奪い取っちゃうって、話。だから、無理せず、ゆっくり移動して、その間ドワーフとバリイ領の兵が、山岳部隊だっけ、つぶし合っていてくれた方が都合がいいわけよ」
「そのような話があったのですね。なんて汚い」
「そう、汚いんだよ。ドワーフと戦っている間に、自分の国の領地をかすめ取ろうって算段だ。ははっ、財布の中で小銭が転がっているようなものだね。中身はちっとも、変わらないって言うのにさ。僕らの役目は、戦後に備えてアリゾム山に拠点を作るのが仕事だよ」
「なるほど、では、その利権に少しでも関われるよう、努力いたしましょう」
「そだね」




