表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

第五十三話、警戒


 プロフェンは騎馬隊五十を率い先行していた。夜、雨が降っているため視界はきわめて悪い。東の空は、火事の所為か明るく見えたが、このあたりまで、その明かりは届いておらず、あまり速度は出せなかった。

 ドワーフを見たという場所に近づいていた。

 雷がなった。

 雷の光のおかげで、何か見えた。

 速度を落とした。

 細々としたものが散乱している。荷のようだ。

 一カ所に荷を積み上げている。その後で何かが動いた。

「止まれ! 馬を降りろ!」

 プロフェンは命じた。

 矢がかすめた。

 一人降り遅れた騎手が吹き飛んだ。石の塊が当たった。

「待ち伏せか」

 少し引く。

 箱やら板やらを集め、バリケードにしているようだ。人数はわからないがドワーフの姿が見えた。

「回りを警戒しろ!」

 プロフェンは辺りを見渡した。雨と暗闇で視界は悪く、音もあまり聞き取れなかった。

 バリケードの先を見る。雨と暗闇でなにも見えない。

 おそらくしんがりだ。

 兵を一部残して、残りの兵は、北へ移動してドワーフの援軍と合流する気だろう。

 しんがりの兵を、迂回して追いかけたいところだが、極端に視界が悪い。一方のドワーフは夜目が利く。伏兵でもいれば、こちらが全滅しかねない。

 どうする。

 ドワーフの足だ。まだ遠くまで逃げていない。仮に伏兵があったとして、騎馬隊でかければ突破することは難しくない。逃げているドワーフにまとわりついて後続の歩兵が来るまで足止めに専念すれば、勝機はある。

 手綱を握り、馬に乗ろうとした。

 西の空が光った。雷鳴。草地の中、横に広がるようにドワーフ達がこちらに近づいてきている様子が一瞬見えた。

「向かってくるのか」

 罠を疑った。

 プロフェンはさらに距離を取り、辺りを警戒しながら、歩兵の到着を待った。


 ベネドが率いる歩兵隊が到着し、バリケードまで進んだが、ドワーフはいなかった。周辺を捜索したが、ドワーフはどこにもおらず、北へ続く、濡れた足跡だけが残されていた。




 朝日が昇るころになると、雨はやんでいた。東の空には太陽と、燃え続ける森があった。

「無事に逃げのびたようだな」

 ダレムが言った。

 北の方角へ向かっていた松明が、帰って行った。逃げたドワーフの捜索をあきらめたのだろう。

 陣には身動きの取れない、けが人と、ドロワーフが残っていた。

「なぜ残ったのだ」

 ドロワーフは、ハンマーを抱え、壁を背に座っていた。

「なんとなくな」

「命令を聞かん奴だ」

「今に始まったことじゃないだろ」

「わかっているとは思うが、降伏はせんぞ」

「ああ」

 少しうれしそうな表情を浮かべた。




 牧場跡


「雨がやんでしまったな」

 ドルフは東の空を見ながら言った。

「ええ、残念なことに」

 森は、まだ燃えていた。

「今朝、鳩がきた。フエネ平原北の兵が、ハイゼイツの軍と合流した」

 通信用の鳩小屋を付近にあらかじめ、いくつか作ってある。

「はい」

「ダレムとドロワーフは怪我人と一緒に残ったそうだ」

「怪我をして動けなくなった兵を、置いていけなかったのでしょう」

「かといって、王の息子が降伏すれば士気に関わる」

「……そうですな」

「できの悪い息子で、昔っから放浪癖があった」

「陛下も似たようなもんでしたよ」

「ふん、違いない。ソロンや他の連中とずいぶん好き勝手やっていた」

「私は、その頃から陛下の尻ぬぐいをさせられていました」

「そんなこともあったような気がするな」

「ええ」

「あの子は、帰ってきてくれた」

「ええ、陛下のために、帰ってきてくれました」

「優しい子だ」

「ええ」

「人の、心配ばかりしてられんな」

「ええ、こちらはこちらで大変です」

 牧場跡の北、十キロほど先に、国軍三千五百が陣を敷いていた。その左には、リボル率いるバリイ軍がいた。

「どうしたものか」

牧場跡を改造し防備を固めているが、やはり守りにくい。

「すぐには攻めてこないでしょう」

「降伏を勧告する使者を送ってくるかな」

「おそらく」

「さっさと、参ったと言いたいね」

 そうすれば、ダレムとドロワーフを救えるかもしれない。

「それができれば苦労はしません」

「やるしかないのか」

「やるしかないですね」

「だよな」

 ドルフはため息をついた。




 フエネ平原北


「くそ」

 プロフェンは落ち込んでいた。濡れた馬を拭き飼い葉を与えた後である。

「正しい判断だったと思いますよ」

 ベネドは言った。

「怖じ気ついたのだ」

 ネルボ様の敵を討つと誓っておきながら、ドワーフが来ると、恐れたのだ。

「あの暗闇と雨です。見えないまま突っ込むのは勇気ではなく無謀です」

「だが、敵の策だった」

 追撃のチャンスを不意にしたのだ。

「ええ、そうです」

 実際のところは少数の兵士しかいなかったのだろう。雷で見えることを予測して、横に広がり攻めてきているように見せかけた。時間を稼いだあと、速やかにひいた。鮮やかな手口だとベネドは思った。

「ならば、だめではないか」

「敵の罠である可能性もありました。兵の命を預かる指揮官として、正しい判断だったと思います」

「そんなことはわかっているのだ」

 恐怖に駆られた。それが、影響していないとは言えない。

「逃げていたドワーフが反転して襲ってくる可能性もありました。騎馬隊だけでは対処できませんよ」

「それもわかっている」

 だが、あそこでいっていれば、ドワーフの足を止め、味方の歩兵を待てば、多くのドワーフを討ち取れた。

「あれを見てください」

 ベネドがあごで指した方角を見た。ザレクスがいた。

「ザレクス殿か」

「彼が何をやっているかわかりますか」

 手元の何かを見ている。少しにやついている。

「何かを見ているのだろう」

「ええ、奥様の肖像画です。わざわざ、大きいロケットを作って、その中に奥様の肖像画を入れているのです」

「そうか」

 だからなんだと、プロフェンは思った。

「今の隊長の頭の中に、戦やドワーフのことなどありません。ただ、早く帰って奥様に会いたい。それしかありません」

 ベネドは断言した。

「そう、なのか」

「ええ、生きて帰ることが重要なのです。敵を倒すことが目的ではありません。確かにあなたは相手の策に引っかかった。そのことで、あなたの気持ちが傷ついているのかもしれません。ですが、あなたは兵を生きて連れ帰った。兵を失う可能性を回避したのです。兵一人一人、それぞれに大切な人がいるのかもしれません。それはあなたの気持ちよりも大切なことではないでしょうか」

「私の気持ちか。なるほど、復讐など、ただの自己満足に過ぎないと、それに兵を巻き込むなと言いたいのか」

「ま、そんなとこですよ」

 ベネドは笑った。

 プロフェンは少し離れたところにいるザレクスを再び見た。笑みを浮かべ手元のロケットを熱心に見つめている。不安な気持ちになった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ